ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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ちょっと興が乗ったのでざっくりアップです~
前回と引き続き、推敲が甘いかもしれませんのであとで気づいたら修正するかもしれません~


踏み出した入学への一歩

ジムから帰ってきて、昼ご飯を食べた後、ひたすらウマホでメイクデビュー動画を見てセンターの動きを真似する。

さすがに部屋の中でドタバタ走り回れないので、ほとんどその場で足踏み&盆踊り状態だ。

困ったことに、この若いウマ娘の身体は頭も若返っているのか、結構な早さで振り付けを吸収してしまう。

夕方には、細かい部分はともかく、序盤の1/3くらいはかろうじて踊れるようになってしまった。

 

何時間もウマホで動画を流しながら踊っていて、なんかいい匂いがするな、と思ったときには遅かった。

たづなさんがいつの間にか背後で踊っている俺を眺めていたのだ。

くるっとターンを決めてピースサインを出そうとして、部屋の入り口の壁際にそっと佇むたづなさんと目が合った。

ピースサインを出したまま、たづなさんに背を向けて、固まる。

 

「・・・かわいかったですよ?」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

首元に一気に血が上るのがわかる。

 

その場で小さく足踏み状態の後ろ姿とはいえ、ステップかまして人差し指立ててキャルルン笑顔を振りまいていた姿をじっと眺められていたこの羞恥!

そりゃ、そりゃぁ今はウマ娘だけどさぁ!

中身のメンタルはおっさんのままなわけですよ!

母親が、踊りを踊ってるのが似合う年頃の娘を褒めてくれたのとはまた違う感情が沸き起こるわけですよ!

 

 

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・

 

 

余りの羞恥心に頭を抱えてうずくまる俺をよそに、ウマホは無情にも動画の続きを流し続けた。

 

 

 

 

「何も声もかけずにじっと眺めてることないじゃないですか!」

 

たづなさんの買ってきてくれたご飯を掻き込みながら文句を言う。

 

「だって、声を掛けたら踊るのやめちゃうでしょう?

 でも、昨日まであんなにふらふらしていたのに、一日でこんなに上達するとは思いませんでした。」

 

なぜか満足げな顔ですましてご飯を食べ続けるたづなさん。

 

「ジムで、いいインストラクターの方と出会えまして。

 見てすぐアドバイスしてくれて瞬く間に欠点をなくしてくれたんですよ。」

 

「アドバイス一つですぐに治ったんですか?」

 

「遠心力に頼りすぎてる部分を、自分の筋力で動かして、行き過ぎない様トメの動作を入れる、って言う話を、具体的な身体の動かし方含めて教えて貰ったら、ふらつかなくなりました。」

 

それを聞いたたづなさんはちょっと何か考えていたが、何か決めたようだ。

 

「ラベノシルフィーさん、明日、トレセン学園に来てもらってもよろしいですか?」

 

 

 

 

・・・翌日。

トレセン学園の登校時間が終わったあたりを狙って、トレセンジャージを入れた紙袋を持って学園に向かう。

脚慣らしの為に徒歩だ。

てくてくと1時間くらいかけて学園にたどり着いた。

 

校門前について、ウマホでたづなさんに着きましたと連絡を入れると、たづなさんがすぐに迎えに来てくれた。

渡された来賓プレートをぶら下げて校内に入ると、すぐに空き教室の一つに案内される。

渡されたのは筆記用具。

 

何をするかって?

テストだよ。

 

「もうちょっと先にしようかと思っていましたが、意外と順応性がありそうなので予定を早めます。

 明日は、あなたがどのくらいの学力なのかと、入学するウマ娘が全員受ける適性検査をしましょう。

 脚が治って走れるようになったら、今予定しているトレーナー候補の方と引き合わせます。」

 

昨日の晩たづなさんに言われたことだ。

 

学力テスト、と聞いて、ちょっと焦った。

さすがに中高生あたりの勉強なんて忘れて久しい。

おまけに、このウマ娘世界とあっちの世界は似てはいても歴史も地理も違う。

ウマ娘社会が抱えている問題なんかは、この数日間で見ただけでもあっちの世界とは根本的に異なる。

一応ここは日本らしいが、首都が同じなのか、都道府県が同じなのか、今の首相は?と聞かれて、自信をもって答えられるものが何もない。

 

あっちでやっていた仕事柄、英語の読み書きはそこそこできるし、一部の数学と物理化学に関しては強い。

パソコンのプログラミングとかもそこそこできる。

でもそれだけだ。

一般常識がごっそり欠けている。

 

とりあえずウマホでざっくりと1時間漬けくらいはしてみたけれど、まあボロボロな結果に終わるだろう。

入学試験じゃないですから気楽にやってください、とは言われたものの、やはり恥ずかしい点を晒すのはな~

 

ウマホを預けて、「じゃあ始めてください。」の合図をしたら、たづなさんは出て行ってしまった。

終わりの時間になったらまた来るそうだ。

 

問題は、選択問題ではなく完全な筆記式。

ごまかしも、サイコロの運に頼ることもできない。

 

パラパラとめくると、論説問題らしき広い回答欄まである。

 

チクショー!やってやらあ!

 

・・・・・

 

・・・

 

 

 

・・・終わった。

両方の意味で。

やっぱり、常識問題は空欄を量産してしまった。

数学はあったけど、理系の問題はなかった。

数学と英語くらいじゃないかな、多少点数取れそうなの。

国語は馬の字を間違えるとヤバゲな臭いがぷんぷんしていたので、そこだけは何とか。

ことわざ問題はもう勉強し直さないとダメなレベルで穴埋め問題ですら予想がつかない。

尻尾の滝登りってなんだよ・・・

社会関係は現首相の名前とかが出てくるのは山が当たったけれど、今日の年月日を答えよ、とか、救急車を呼ぶ際の電話番号とか、んん?と思うようなものもあった。

・・・救急車を呼ぶ番号はさすがに山張ってなかったからあっちの世界のまんま119って書いたよ。

合ってんのかな。

 

食料が高騰して予算内で食料が買いそろえられなかった時、この問題を解決する方法についてあなたの考えを述べよ、って言う論説問題さあ・・・これ今トレセンが直面してる問題なんじゃないよね?!

ちょっとトレセンの財政事情心配になって来たんだけど。

 

 

お昼は、たづなさんが学食のランチを教室まで持ってきてくれた。

あれだよあれ。

人参一本丸ごとぶっ刺さった2段ハンバーグ定食。

特上になると3段になるらしい。

はい、とてもおいしゅうございました。

 

 

 

 

午後は、教室から移動して、守衛ボックスみたいなのがぽつんと置いてある部屋へ。

ジャージに着替えてから、ヘッドギアみたいなのを付けて、その守衛ボックスの中に入ると、扉を閉められた。

 

設置されたスピーカーから声がする。

 

「その中で5分ほどリラックスして過ごしてください。時間が経てば出られます。」

 

音も何もなく、しーんとした狭苦て薄暗い空間に閉じ込められてただ時間が経つのを待つだけ。

壁に寄りかかって、ボケーっとしていたら、突然真っ白だった壁が目玉のような模様に変わって、大音量のワーッという歓声が流れた。

さすがにちょっとびっくりしたけれど、すぐ模様も音も消えてドアが開いた。

 

「お疲れさまでした。」

 

ヘッドギアを外されて、部屋を後にする。

 

「一応、今日やることはこれだけですけれど、見学していきますか?それとも帰ります?」

 

「うーん、ダンスレッスンて見学できます?」

 

とりあえず、当面の課題はこれだ。

実際に指導されてる姿を見学できれば、気を付けないといけないポイントとかわかるかもしれないし、大恥をかく確率が減らせる。

 

「もちろんできますよ。案内しますね。」

 

案内された場所は、低いけれどちゃんとステージまで用意してある結構広いホール。

学園生らしきウマ娘は誰もおらず、指導教官らしきウマ娘が、暇そうに機材の整理をしていた。

誰も練習していなかったか、ダメなら帰ろうかなと思ったら、指導教官と一緒にたづなさんがやってきた。

 

「今時期この時間にここを使う学生はいないらしいので、指導教官が体験レッスンしてくれることになりました。

 頑張ってくださいね♪」

 

「ちょ?!」

 

「独学で昨日から始めたばかりなんだって?

 どうせ入学するなら早いに越したことはない!

 他の生徒が来るまで指導しよう!

 メイクデビューのセンターだな!

 任せろ!」

 

こちらの答えを待つことなく、指導教官がステージ下のコントローラーに飛びついてステージのライト類に灯が入り、巨大な液晶にステージが映し出される。

 

「ステージのセンターに赤い円が表示されているからそこに立て!

 赤い円が移動したらその中に入るように立ちまわれ!」

 

「ほら、せっかくの機会ですよ?」

 

俺の困惑をよそに、聞き慣れた曲が流れ始めた。

ポン、と肩を押されて、よたよたと足を進めるごとにステージが近づいてくる。

 

「できるところまででいい!

 恥ずかしさを捨てて声を張り上げて歌え!

 もうイントロ終わるぞ!」

 

ステージに脚をかける。

 

赤い丸に入ると、ライトが眩しくて目の前は真っ白けで何も見えなかった。

イントロが終わる。

これはカラオケだ。

でっかいカラオケ。

自分に言い聞かせて、歌いだす。

 

「響けファンファーレ~

 届け ゴールまで~・・・・」

 

かつての自分じゃない、少女の声が紡ぎ出すそれは、意外とはっきりとホールに響き渡った。


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