自分の中で元総理銃撃事件て結構キてしまう出来事だったらしく、冷静さを失っていたのでちょっとお休みさせていただきました~
活動報告通り、主人公の名前も変更しました~
ここから先、入寮してようやく序章終了って感じですかね~
こんな長い序章があってたまるか!みたいな話ではありますが~
「届きましたよ~♪」
なんだかウキウキな様子で、ちょっとした大きさの段ボールを抱えたたづなさんが帰って来た。
・・・段ボールはビールではないようだ。
ドサッ、とリビングで下ろされたそれはそこそこ重量のありそうな音を立てた。
「開けてみてください。」
仕事着を脱ぎながらたづなさんが言う。
え?俺?
俺のなのこれ?
一瞬先日頼んだバイクウェアかとも思ったけれど、わざわざたづなさんが持って帰ってくるはずがない。
寮に届けるように助言してくれたのはたづなさんなのだから。
いぶかしみながら箱を開けると、薄い和紙で包まれた薄紫色のものが透けて見える。
・・・制服だ。
トレセン学園の制服が、箱の中に詰められていた。
夏服の上下セットが4着。
冬服の上下セットが2着。
ジャージの上下が4着。
体操服の上が4着。
スクール水着が1着。
制服作るための採寸した覚えは全然ないんだけれど、どれも誂えたようにぴったりだ。
身体に服を当てて大きさを確認していると、たづなさんに
「そうしていると普通の女の子みたいですね。」
と笑顔を向けられた。
っぐ、そう言われると、一瞬おっさん思考での恥ずかしさが首をもたげるのだけれど、もう今更だ、と開き直りで押し潰す。
全身女性の衣服を身に着けている上、身体が完全に女だしな・・・
ちなみに今は、部屋着用に買ったショートのTシャツを突っかけて、下は探検家が穿くような裾まくりの入ったショートパンツだ。
着てみせて下さい、とたづなさんが言うので、夏服を1セット開封して着替えてみる。
制服のスカートのファスナーを開けてウェストを広げてみたら、スカートの胴回り部分、飾り帯の下がゴムだこれ。
うまい具合に食べ過ぎぽんぽこりんお腹でもビリっといかないようになってる。
後ろのリボンは尻尾穴隠しとこのゴム部分のプリーツ隠してるのか、うまくできてるな。
アプリでは表に出てこない妙な工夫をスカートに見た。
ウマ娘用の服の尻尾穴に尻尾を通すのも、もうお手の物。
毛の部分だけを二つ折りにして通してしまえばあとは広げて毛先を手櫛で梳いて揃えるだけ。
上着はちょっとタイトでファスナーを締めるのに手間取ったけど、まあ毎日着てれば慣れるだろう。
ニーソを上まで上げて、高さを揃える。
立って、肩越しに後ろ周りが変に寄ったりしていないかチェック。
うん、こんなもんだろ。
「マ子にも衣装ですね。
よく似合ってますよ。」
?!
笑われた?!と一瞬混乱したけれど、ああ、そうだ、ウマ娘世界では同じことわざでも意味が違うんだった。
昨日から始めたこっちの常識の勉強の中にあった。
あれは誉め言葉だ。
ウマの耳に念仏があからさまな嫌がらせのことを意味したり、バ脚を露すが能ある鷹は爪を隠すと同義だったりと、あっちの世界のことわざと同じだと思って使うと話が通じないどころかトラブルを起こしかねない。
顔に出なかったかな、と冷や汗を流しつつ、ありがとうございますとだけ返す。
それはそうと、この段ボールの中身は、ちょっと足りない。
「靴と体操服の下がないみたいですけど・・・」
この段ボールの中にはその2点が入っていない。
「靴は試しに履いてみた方がいいですよ?
学園生活の中で結構指定靴で走るなんてことはよくありますから。
体操着の下は、短パンとブルマがあるんですけれど・・・
穿いてみて合わないとものすごくむずむずするんです。
両方、購買で試着してから買った方がいいですよ?」
靴はともかく、体操服の履き心地にそんなに差があるものなのかね?
ブルマって、昔の女の子用の体操着だっけ?
あっちの世界では俺が小中学校の頃はもう男女とも同じ短パンだった。
某アニメの再放送のヒロインの名前で聞いたり、アレな18禁サイトでちらっと見かけたことはあっても実物は見たことがない。
ウマ娘アプリで出てきたのを見ても、どんなものなんだかピンとこないんだよな。
ちょっとパンクとかサイバー入った若い娘が着る革とか艶々化繊のホットパンツみたいなものだろうか。
そんなんだとなんだか蒸れて暑そうだ。
まだ見ぬブルマの考察をしていたら、フラッシュが光って、写真を撮られた。
はい、とたづなさんに俺の全身が表示されたウマホを向けられる。
写っている姿を見る限り、お腹に手を回して首傾げてるかわいいお嬢様、ってとこだな。
今まで男として生きてきて、カッコいいとも言われなければモテたこともないのでいまだに自分がこんなに容姿の整ったウマ娘になっているのが信じられないっちゃ信じられない。
ソファーにかけてまじまじとウマホに写る自分の姿を眺めていたら、一瞬、身体が以前の男の身体とダブって見えて噴き出しかけた。
いや、ホント勘弁して、俺の脳みそ。
この男の時の意識、ってやつが浮上してくる度に、自分が女装している変態、みたいな思いにとらわれてどうしようもなくむず痒い。
周りの人は完全に女性として、ウマ娘として扱ってくれているのに、自分だけが置かれた状況に身悶えするとか。
って言っても、三十余年の男としての人生を1週間程度で変えるのはなかなか難しいのはわかっているんだけれどね・・・
「・・・スカートを履いたときは、脚にも気を付けましょうね?」
ぼそっと注意されたんだけれど、何を注意されたのか最初わからなかった。
あっと気付いて、無意識に立てていた片脚を戻して膝を閉じる。
きっと正面のたづなさんからはスカートの中身が丸見えだったんだろう。
これもだ。
男の時みたいに、脚の行儀ってやつに無頓着ではスカート姿で生活できない。
幸いにして、この身体は男の身体と違ってガニ股の癖がついていないから内股でひざをくっつける座り方でもそんなに辛くはないんだけど、やっぱり気を抜くと脚はちょっと開いてしまう。
意識してないと片膝立てたり胡坐かいたり、男性陣はウホッ!と鼻の下を伸ばすいいネタかもしれないけど、自分がその対象になるのはなんかちょっと嫌だな。
これが、ロングスカートタイプの制服だったら、下に裾をまくり込んだジャージを履くという田舎の中高生の荒業が使えたのだけれど、この制服はスカートの丈が短くてそれができない。
体操着の下を買ったらそれを下に履けば多少はスカートのガードが緩くても許されるのでは無かろうか。
何とかこの女性としての作法から逃れる術はないのか考える俺のすぐ隣に、たづなさんがぺったりくっつくように座ってきて、正面にウマホを掲げた。
「一緒に、一枚撮りましょう。
もっとくっついて。
笑ってください!」
カシャリ
ウマ耳同士が触れ合うように、互いに肩を寄せ合って笑いかける、姉妹のような写真。
その周りに積み上げられた、開封されていないトレセン学園の服。
学校への入学を控えた子供がいる家庭で、よくありそうな風景。
そんな写真が撮れた。
参ったな。
その写真一枚で、脚の行儀だとかスカートのガードだとか考え込んでいたのが、みんなくだらないことだと思わされてしまった。
仮初の母娘。
ただ三女神に面倒を押し付けられただけのはずの彼女が、会って間もない俺を家族として扱ってくれている。
本当の母娘、とはいかないけれど、たった1週間程で仲のいい親戚のおねーちゃん、くらいには思えてきている。
そしてそれが、その関係がとても心地いい。
そんな同居生活ももうすぐ終わりか。
寮ではどんな生活が待っているんだろう。