ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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走らないウマ娘小説、ついに脱却か~?
でもレースじゃないんですねこれが~

注・主人公の名前がアベノシルフィーからラベノシルフィーに変更されています~
誤字ではありませんのでよろしくおねがいします~


いざ、ターフへ

とある日の午後。

俺はURA総合医療病院に来ていた。

私服姿のたづなさんも一緒だ。

たづなさんの頭の上のウマ耳隠しはキャスケット。

俺とお揃いで短パンにTシャツ、更に肩に袖を縛ったシャツを羽織るっていう活発系おねーさんをアピールしている。

普段はほとんど肌の露出をしないのに、今日は生腕生脚大放出だ。

手に提げたビニール地の艶々のスポーツバッグがなおさらこれからテニスでもやりますよみたいな雰囲気を醸し出している。

病院前で、だけれど。

 

ウマ娘世界のお勉強と称して、ネットサーフィンに興じていたら、突然お昼ごろ帰ってきて、病院に行きましょう、と言われたときは何かと思った。

何でも、隣のURA医療研究センターに用事があるそうだ。

 

俺は、というと、脚の経過観察。

病院は別に今日でなくても良かったんだけれど、たまには街で、外食もいいものですよ?と言われては断る理由はない。

 

これで医者の先生からOKが出れば、ようやくこの身体で走る、ってことを試せるし、入学準備も進めることができるだろう。

 

「診察が終わったら、ウマホに連絡を入れてくださいね。」

 

病院のロビーに落ち合う場所を決めて、ロータリーでたづなさんと別れた。

 

 

 

 

「やぁ、だいぶきれいになったね、その後どう?」

 

診察室に入るなり飾り気も糞もない気軽な様子で話しかけてくるちょび髭先生。

人当たりはいいんだけど、この気の利いた話題は無いんだぜはっはっはと開き直る感じは潔すぎて苦笑いしか出ないな。

 

今日はレントゲンもなく、股関節の可動域の確認とあばらの打撲の様子を見るだけだそうだ。

 

「はい、バンザイして、バンザーイ!」

 

・・・何十年ぶりだろう、こんな子ども扱いされたの。

 

バンザイをすると背後から看護師さんが服捲りますね~とあばらのあたりまでシャツをまくる。

ちょび髭先生に両手でぐっぐっとあばらを押されるけれど、呻くほどの痛みはない。

ていうか、横腹だ、指が振れるたびにくすぐったい。

 

「じゃ、次、ズボン脱いで診察台に寝て~」

 

まだあざは消え切らないか~、とつぶやく先生に、片脚を伸ばしたまま抱え上げられ、いろんな方向にぐりぐりと動かされる。

以前痛みを感じたお腹に押し付けられる状態でも痛みはない。

・・・けど、その状態で看護師さんに脚の保持をバトンタッチ。

ちょび髭先生が、お尻から腿にかけて伸び切ってる筋肉をグイっと捻った。

こう、指をね、腿とかお尻とかの筋肉と筋肉の隙間に押し込むようにして押すのよ。

 

「痛くない?これはどう?」

「特には。」

 

これを両脚繰り返した後、

 

「次はちょっと苦しいけど我慢してね。」

 

と、うつ伏せにされて片脚でエビ反り状態。

ほとんどプロレス技かけられてるに等しい。

 

これまた腿の伸び切った表側の筋肉をぐいぐい捻られる。

 

膝を曲げて、大腿骨の可動域?とかを診て、ちょび髭先生はサムズアップした。

 

「うん、変に腱が伸びたりもしていないし、もう走っていいよ。

 ただ、最初から全力はやめてな。

 ちょっとずつ、慣らしていく感じで。

 痛みが出るようなら休んでね。」

 

あばらの打撲も、脱臼も問題なし。

薬すらもういらないだろう、ってことで終了。

 

お大事にーの言葉を受けて診察室を出た。

 

まだロビーにはたづなさんの姿は見えなかったので、SNSで終わったよ~とメッセージを入れて精算の呼び出しをボケーっと待つ。

ロビー待合にあるモニターには病院の案内と診察呼び出しが表示されるだけで、TV番組も何もやっていなくて暇をつぶせるものがない。

世間話に興じる老人か、ウマホをひたすらいじり続ける若者しかいない。

うんまあこれじゃTV設置しても誰も見ないわな。

経費の無駄だ。

呼び出しがあったので支払いをしていると、たづなさんがやってきた。

 

「どうでした?」

「すぐに全力はダメだけど慣らしながら走っていいって。」

「そうですか!なら・・・」

 

悪戯っぽく彼女は笑う。

 

「すぐ走ってみたくはないですか?」

 

 

 

 

病院の隣にある、URA医療研究センター。

ここには、トレセン学園のものほど広くはないけど運動場があり、ウマ娘の走れるトラックもある。

 

たづなさんに連れられて、そのURA医療研究センターの運動場に立っている小ぎれいな小屋に入ると、そこには様々なリハビリなんかに使う器具が並んでいた。

 

「今日は特にトラック使う予定もないそうだから、自由に使っていいそうです。」

 

たづなさんが、上着を脱ぐ。

 

妙に大きなスポーツバッグを持ってきているな、と思っていたら、中から俺用のトレセンジャージと、まだ新しめの蹄鉄シューズが出てきた。

ぽいとジャージを俺に渡すと、手慣れた様子で持ってきたシューズを履き、シューズのひもをぐいぐいと締めていく。

シューズのひもを締めながら、着替えている俺に、

 

「そこにあるシューズから、合うのを選んで履いてみてください。

 爪先が窮屈じゃなく、指一本の隙間にはちょっときついくらいで選ぶといいですよ?」

 

と棚を指さす。

 

棚にずらっと並んでいる黒いシューズは、ここの備え付けらしい。

蹄鉄部分が樹脂製で、そこだけ新しい。

 

そう言えば、今履いている靴のサイズはいくつだったかな、と脱いだ靴の底を覗き込むと、22cmだった。

ちっさ!と思いながら、22cmの靴を手に取って履いてみる。

するっと入るし、これでいいかな、とひもを締め始めたら、

 

「もう一つ小さい方がよさそうですね。」

 

と、21.5cmの靴を手渡された。

 

「競走用の靴はキツキツ一歩手前くらいがちょうどいいんです。

 隙間があるまま走って中敷きと脚の裏が滑ると脚の裏の皮がペロッとめくれちゃいますよ?」

 

・・・走りの大先輩が言うことだ、ここは忠告に従っておこう。

脚の怪我が治ったら今度は脚の裏の皮が剥けて立って歩くことすらできなくなりましたとかシャレにならない。

 

シューズを小さめのものに取り換えて、履き替えていると、たづなさんが靴ひもを締め直してくれる。

想像以上にきつく締めるので、ちょっと心配になった。

 

「こんなにきつく締めるんですか?」

「ええ。

 トレセンに入学したら最初の授業でやるんですけど、ラベノシルフィーさんは中途入学で飛ばしちゃってますからね。

 靴のフィッティングをおろそかにして、脚が血まみれになってから後悔したんじゃ遅いですから。」

 

指先を、ひもに、かかととの隙間に、と差し入れて、こんなもんでしょうと太鼓判を貰う。

 

履き心地は、タイトな安全靴、って感じ。

爪先から指の付け根のあたりまで、分厚く吸収力のありそうなインソールがあってもなお感じる靴底の硬さ。

クッション性と柔軟性を重視したあっちの世界のランニングシューズとは全く異質な感触のシューズだ。

 

突然、ファサリ、と黒い毛の束が目の前に揺れる。

 

上着も、帽子も外したたづなさんが、なくしたはずの尻尾を生やしていた。

 

「まだあったんですねえ~

 これ、私がここで走っていた時に作ったものなんですよ。」

 

腰に装着したベルトから垂れ下がる、ウマ娘の尻尾を模して作られたレプリカ。

尻尾を失ったことによって平衡感覚喪失障害に陥り、斜行を繰り返すようになったたづなさんの矯正・治療訓練中に、やることはすべてやってみようと作られた補助具の一つ。

辛い思い出だったろうに、今のたづなさんにその辛さを感じさせるものはみじんもない。

過去は過去です、態度でそう語っているように思えた。

 

「どうですか?これをつけてるとちゃんとウマ娘に見えますか?」

 

帽子を取って、ウマ耳をさらけ出し、レプリカのウマ尻尾を生やしたたづなさんは、どう見てもウマ娘のおねーさんだ。

 

「かわいいウマ娘のおねーさんですよ?」

 

以前いただいた言葉をニヤニヤ笑い付きで返すと、照れ隠しにか、べしべしと肩を叩かれた。

 

「あと、念のため、ですけどね。

 邪魔だとは思いますがプロテクターを付けましょう。」

 

たづなさんに持ってこられた樹脂製のプロテクターの数々。

 

すね、ひざ、腰、胸、背中、ひじ、肩、ヘッドギア。

 

使い込まれて、擦り傷があちこちについてはいるものの、きれいにクリーニングされたそれらは今までもここで数々の患者を助けてきたんだろう。

こいつらがあるのとないのとでは、同じ転び方をしても受ける外傷に大きな差が出るのはバイクで経験済みだ。

 

それをマジックテープで各部位に固定して、さらに胴に巻いた太いベルトと、ガーターのような伸縮性のある細いひもで繋ぐ。

 

バイク用の服の上からつける後付けプロテクターよりも厳重な感じだ。

 

靴で締め付けられ、プロテクターで締め付けられ、窮屈この上ない。

 

部屋の隅っこにあった姿見に写したら、これでアサルトライフルでも持ったらどっかの近未来FPSゲームにでも出てきそうな格好だった。

対してたづなさんは、もう公園なんかでジョギングを楽しむヘルシーライフ満喫おねーさんそのままだ。

落差が酷すぎる。

 

「さあ、ウマ娘の身体での走り、初体験ですね?」

 

たづなさんに手を引かれて、俺は初めてターフというものの上に立った。

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