感想で、自作フォントの使い方教えていただいてありがとうございます~
とはいえ、直し始めるとえらい時間かかるので、また何かやらなきゃいけない直しが発生した時についででできるようだったらチャレンジしてみますね~
トレセン学園理事長室。
日中は常時、理事長である秋川やよいとその秘書である駿川たづなの詰める執務室でもある。
いつもなら、終業時間とともに率先して帰宅する理事長が、今日は珍しく残業を決めていた。
秘書のたづなの姿はない。
コンコン、と扉がノックされる。
「入れッ!」
失礼します、と入室してきたのは、学園内のチームでもトップを争う2つ、リギルとスピカのトレーナーである通称おハナさんと沖野の二人だった。
挨拶もそこそこに、理事長室の隣にある応接兼会議室に通される。
盗聴・盗撮対策が施されたその部屋は完全な密室であり内部の情報が外に漏れることはない。
VIPや職員でもここに通されることはまれだ。
ここに通されるということは、何か内密の話がある、と言われているようなものだ。
二人は僅かに緊張した。
扉が閉じられ、鍵がかけられる音がして、理事長が戻ってきた。
その小さな体を上座のソファーに降ろす。
「照覧ッ!まずはこれを見てもらおう!」
ソファーに座った三人の目の前の白壁に、プロジェクターによる映像が映し出される。
全身を樹脂のプロテクターで固めた一人のウマ娘がターフに立っている。
そのウマ娘は、走ろうとしては転び、走り出しても全くスピードに乗り切れず足をもつれさせ、終いには飛び跳ねるような珍妙な走法で走り始めたところで、映像は終わった。
「質問ッ!彼女をどう思うッ!?」
顎を撫で、天井を眺め、後ろ頭をガリガリと掻いてなお沖野は言葉を濁す。
「どうって、いや、これは・・・」
「理事長、何ですかこのウマ娘は。
このめちゃくちゃな動き、動物にでも育てられたのですか?
それとも新手のお笑いのパフォーマーか何かですか?」
辛辣な言葉を投げかけるのはおハナさん。
無理もない。
長年走ることに特化したウマ娘を見続けてきた目には、あれは到底走る姿には映らないからだ。
出来の悪いVRゲームのアバターの方がまだましな動きをする。
理事長が、二人にこの映像を見せた意味が分からない。
「回答ッ!やんごとなき理由により我が校に入学させることになったウマ娘だッ!」
うそでしょ・・・と敬語も忘れておハナさんが絶句する。
「入学?このウマ娘を?この時期に?
いや、あの白い長髪と尻尾・・・」
映像の中の、プロテクターの隙間からなびく髪と尻尾に、沖野は覚えがあった。
「へぇ、あの時の娘か。
トモはレースに耐えるだけの良いものを持っていたと思うが・・・」
「知ってるの?
って、あなたまたやったの?
そのうち捕まるわよ?」
「いや違う!
脱臼で運ばれてきたのをちょっと手当てしただけだ!」
沖野の悪癖がまた出たのか、とおハナさんは呆れかえる。
見知らぬウマ娘の、走りそうに発達しているトモ、つまりは尻を見つけると我を忘れて触診に走ってしまうという悪癖を彼は持っていた。
困ったことに、その触診はハズレを知らないと言われるほど的確なのだ。
そして不思議なことに彼に臀部を触られて彼を蹴るウマ娘はいても、彼が警察のお世話になったことはこれまで一度もない。
ウマ娘に蹴られてもピンピンしていることといい、トレセン七不思議の二つを彼の伝説が占めている。
それはさておき、あれは1週間ほど前だったか。
なぜかは知らないがズタボロになった彼女が保健室に運び込まれて、股関節を脱臼しているらしい、というので沖野は急遽応急処置に駆り出された覚えがある。
その際に、やむを得ず彼女のトモに触れる機会があっただけだ。
決していつものようにふらふらと彼女のトモに触りに行ったわけではない。
「本当に?」
「誓ってホント!」
話が脱線して進まない。
黙って成り行きを見守っていた理事長がペシリ、と扇子を手に打ち付けて音を立て、二人を黙らせる。
「まあ、じゃれ合いはそこまでにせよ。
再度問おう。どうか?」
間髪を入れずおハナさんが答える。
「どうもこうも、論外です。」
「・・・ふぅ。
残念ながら同感ですね。
彼女をレースに出せるようにしろ、と言われたら、手取り足取り付きっきりにならないと無理です。
チームを抱えた俺もおハナさんも、そんな余裕はないですね。
身体はできてるので、惜しい、とは思いますが。」
トレセン中央のトレーナーは、全国選りすぐりの脚の速いウマ娘達を、さらに上の段階に引き上げる手助けをするのが仕事だ。
決して、走ることすら知らないようなウマ娘の形をした別の動物に、走るという芸を教える仕事ではない。
とてもではないが、今の映像に出てきた彼女を並のウマ娘にまで引き上げろなんて言う無茶な要求は引き受けられるものではなかった。
「・・・ふむ。
では、付きっきりで彼女を指導するとしたら、まず何を指導する?」
誘導するかのような質問に、今度は沖野が間髪を入れずに答える。
「・・・無理ですよ?」
「仮に、だ。」
言外に、嫌だと言ってもやれ、ということではないらしい。
ともあれ、彼のトレーナーとしての答えには、淀みがない。
「まずは、フォーム改造ですね。
ウマ娘の走り方って奴の基本を考えなくてもできるようになるまでみっちり叩き込みます。」
「そうね。
距離適性だとか脚質だとかはその後ね。」
競走バどころか、ウマ娘としての基本が成っていない、ということだ。
GIバを何人も手掛けた二人にして、手に余る、と言っているのだ。
「新人トレーナーには無理だと思いますよ?
いや、新人トレーナーに変な癖がついて使い物にならなくなるかもしれない。
そのくらい、異質な指導になるでしょう。」
おハナさんは、もうすでに彼女に興味がない。
私が彼女に関わることはない、とこれ以上口を開くつもりは無いようだった。
「ふむ、そうか。
いや、手間を取らせた。
この件は内密で頼む。」
頷いて、失礼します、とのあいさつを残して二人は退室した。
シンとした誰もいない夜の理事長室で、しばし考える。
「・・・お笑い、か。」
パシリ、と一瞬で扇子を閉じると、理事長は自らどこかへと電話を掛けた。