ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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2022/7/29
改稿
文体を40話前後の書き方に統一しました。


理事長室の攻防

トレセン学園理事長室。

学園の運営をつかさどる事務員が詰める中央の棟の最奥。

職員が歩き回る廊下からも隔離されたかのように静かな場所に、理事長室はあった。

 

コツコツと大理石の床に靴音だけが響く中、重厚な理事長室の扉が見えてくる。

 

ヒシアマゾンが、その扉をノックしようとしたところで、その分厚い扉を貫通してまで苛立ちに満ちた声が聞こえてきた。

 

「だ~か~ら~!ゴルシちゃんはやってねーって言ってんだろ!」

 

『『ゴールドシップか・・・』』

 

図らずも、ヒシアマゾンとラベノシルフィーの心の声がハモる。

 

ヒシアマゾンはゴールドシップの奇行の直接の被害者として、ラベノシルフィはゲーム内のハチャメチャキャラとしてだが、ゴールドシップと言えば何かをやらかす奴、という意識において一致していた。

 

中に問題児の彼女がいる、というだけでヒシアマゾンは頭が痛いが、中に入らなければ始まらない。

 

彼女は意を決してドアをノックした。

 

「ヒシアマゾンです。

 ラベノシルフィーさんを連れてまいりました。」

 

一呼吸おいて、ドアが開いた。

 

「どうぞ。」

 

秘書のたづなさんが入室を促す。

 

ヒシアマゾンに続いて理事長室に入ると、そこは理事長室ならざる怒気に満ちていた。

 

怒気の出どころは鹿毛ボブのウマ娘、エアグルーヴ。

トレセン学園生徒会の副会長でもあり引き締め役の苦労人。

 

その彼女が腕を組んですさまじい怒気を放ちながら、苛立ち抗弁する大柄な葦毛のウマ娘、ゴールドシップを見据えていた。

 

 

 

「お身体の具合はいかがですか、ラベノシルフィーさん。」

 

全身緑色の、まるで昭和のエレベーターガールのような装いの女性が、柔らかくおっとりした口調で訊ねかけてくる。

トレセン学園理事長秘書駿川たづな。

ゲーム内では理事長に代わり実務を担当し、ガチャの扉を開け、時には逃げ去るウマ娘を追いかけて捕まえと、八面六臂の活躍をする学園の影の実力者、とラベノシルフィーは認識している。

 

それが、あろうことか、目の前で生きて動き、自分に声をかけていることに、ラベノシルフィーは感動を覚えた。

 

「はい、大事ありません。

 助けていただいて手当までしていただいたようで、ありがとうございます。」

 

ぺこりと頭を下げ、礼を言う。

うむうむ、と帽子の上に猫を乗せ、扇子を手にした少女が、部屋の中央に据えられた執務机から叫ぶ。

 

「重畳ッ!

 無事で何より!

 私が当トレセン学園理事長秋川やよいだッ!」

 

ばっと開かれた扇子に『安堵』の文字が踊る。

 

どう見てもせいぜい高校生にしか見えない彼女だが、秘書のたづなのサポートと豊富な個人資産の元、立派に学園を切り盛りする理事長、だったはずだ。

 

理事長室の中には、ラベノシルフィー、理事長のやよいと秘書のたづな、ゴールドシップと生徒会副会長のエアグルーヴ、そしてラベノシルフィーの案内をしてきたヒシアマゾンと、6人が一堂に会していた。

 

 

----------------------

 

 

「ラベノシルフィーさん、こちらをお返しします。

 失礼ですが、身元確認のために中身を改めさせていただきました。

 勝手なことをしましてお詫び申し上げます。

 足りないものがないかご確認ください。」

 

秘書のたづなさんから差し出されたのは、俺の財布とスマホだった。

いつもズボンのポケットに突っ込んで持ち歩いているものだ。

履いていたヘビーオンスのジーンズは、ちょっとしたことでは破けないくらい生地が厚くて丈夫なものだったのに、保健室で見たそれはもはやズボン原形をとどめていないほどに裂けて破れ、ぼろきれと化していた。

よく財布とスマホが無事だったもんだ。

 

「いえ、見られて困るものもありませんし。

 ・・・こちらのテーブルをお借りしても?」

 

「どうぞ。」

 

応接用のソファーの前にあるテーブルを借りて、財布の中身を広げて確認する。

ここで確認しておかないと、あとになってあれがないこれがないと言ったところで取り合ってもらえない、って言うのもあるけれど、何より確認して相手を安心させるって言う意味合いもある。

さっさと目の前で確認して見せるが吉だ。

 

紙幣はだいたいいつも3万円前後入れてある。

 

ざっと見た限り、中に入っている紙幣の額は減ったりはしていないように思える。

ただ、取り出した紙幣に妙な違和感を覚えた。

 

千円紙幣の肖像画に、ウマ耳が生えている。

パーマなのか、そういう結い方なのか、髪型が段々団子でまるで国民的アニメのサ〇エさんのよう。

肖像画にはノグチヒデ号と表記されていた。

一万円札は、見覚えのある一万円札そのものだった。

 

その他にも、5円玉の稲の意匠が葉っぱ付きの人参だったりしたけれど、財布に入っていた金額に不審なところはなかった。

 

財布に入っていたカード類は、キャッシュカードが3枚にクレジットカードが3枚、免許証に保険証。

その他会員カードやポイントカードが数枚。

 

全てに記載されている『ラベノシルフィー』名義に何か引っかかるものを感じはするものの、ほとんどが見慣れたものだ。

ただ、よく見ると、銀行名やクレジットカード会社のブランドが四井駒友銀行とかJRAとか、微妙に変わっているものがある。

そう言えば、ゲームのウマ娘では何かにつけ『ウマ』推しの名称が多かったっけ、となんとなく納得した。

しかし、この俺のウマ娘の身体、どう見ても未成年なんだけれど、クレジットカードはどういう扱いになっているのだろう?

未成年だと普通単独では作れないんじゃないだろうか?

 

免許証と保険証を見ると、俺は200X年生まれってことになっていた。

ウマ娘世界も同じ西暦を使っているなら、俺は今15歳、ってことだ。

運転免許を取れる年齢じゃない。

それなのに、免許証には大型自動二輪と普通免許に印がついている。

なんで?と思いながら免許証をひっくりかえしたら裏面に公安委員会のハンコと一緒になんかウマ自特別許可XXXXXX号とか記載があった。

保険証も保険証で、親の扶養家族に交付されるものじゃなく、どこかの企業連合の社会保険のものだ。

俺は15歳にして自活している、という扱いになっているらしい。

 

これがおもちゃの免許証や保険証にすり替わっていたら、三女神像を叩き壊しに行きたいところだけれど、あのゴドとか言う自称女神は『手にしているものの持ち込み』に関する仕事はちゃんとしてくれたらしい。

 

しかし、一つだけ、使えそうにないものが見つかった。

あっちの世界で最後に購入した、単勝の『勝ち馬投票券』。

それは、100円の金額以外は何も印刷されていない無意味な紙切れになっていた。

 

スマホは、充電切れなのか故障なのかはわからないが、電源が入らなかった。

そして、何か微妙に形が違う気がする。

 

電源が入らない以上、スマホで確認できることは今はない。

 

「・・・過不足ありません。確かに受領しました。」

 

「はい。

 それでは、お呼びした本題に入りたいと思います。」

 

たづなさんがエアグルーヴへ視線を送り促す。

こくりと頷いたエアグルーヴが話し始めた。

 

「初めまして。

 私はエアグルーヴという。

 当学園の副生徒会長を務めている。

 このたわけに見覚えはないか?

 君はこのたわけの悪ふざけに巻き込まれた可能性がある。」

 

たわけ、と顎で指した先には、ふてくされたように胡坐を組んで座り込んでいるゴールドシップがいた。

 

「だ~か~ら~!濡れ衣だって言ってんだろ!

 アタシはコイツと面識ねーし、コイツもアタシを知らねー!

 だいたいゴルシちゃんがなんで学園生でもない一般人を巻き込むとか思ってんだよ!」

 

エアグルーヴの怒気が膨れ上がり、今にも噛みつきそうな般若の様相で叫ぶ。

 

「貴様の日ごろの所業が悪すぎるのだ!

 胸に手を当てて考えてみろ!

 三女神像に大穴開けて他人を突っ込むなど貴様以外の誰がやるか!」

 

「三女神様にそんな罰当たりなことこのゴルシちゃんがするわけねーだろ!

 三女神様の生誕祭には毎年ちゃんとチーズとチョコレートとオリーブオイルを頭からかけてやってるんだぜ!」

 

「それがいたずらだと言うのだ!」

 

ギャンギャンと噛み合わない不毛な言い争いが続く。

 

どうやらゴールドシップが俺を女神像に埋め込んだ容疑者として疑われているらしいことはわかった。

けれど、俺は気づいたらあの状態で、あれをやらかしたのは自称女神のちんちくりんの幼児、ゴドだ。

ゴールドシップじゃない。

 

俺はどこか他人事のような気分で、二人の言い争いを眺めていた。

エアグルーヴは会社のヒステリーなお局様と姿がダブるなーとか、ゴルシは良くぶれずに真っ向からふざけたことばかり言えるものだな、とか。

あの怒気バリバリのエアグルーブに対して、ひょうひょうと噛み合わない会話を続けられるのだから肝っ玉の太さは相当なものだ。

 

「ラベノシルフィー、と言ったか。

 どうなのだ?

 このたわけに見憶えは?」

 

「見憶え、と言われれば、ゴールドシップさんのことは知ってはいますが・・・」

 

俺の言葉に、ゴールドシップが何だと?!と驚愕と絶望の表情をまぜこぜにした顔で目を剥く。

 

「今回の件とは無関係かと。

 少なくとも、ゴールドシップさんに何かされた覚えはありません。

 ゴールドシップさん、エアグルーヴさん、ご迷惑おかけしました。」

 

ぺこりと頭を下げる。

 

「ほらみろ!ベロちゃん貸し一つだかんな!」

「ベロちゃんと呼ぶなたわけが!

 理事長、被害者であろう彼女が関与を否定した。

 お手数をかけた。

 失礼する。」

 

勝ち誇るゴルシに忌々し気なエアグルーヴ。

エアグルーヴがゴールドシップをせっつくようにして、彼女らは連れ立って理事長室を辞した。

 

「アタシも失礼するよ。

 お大事にな、ベノシ。」

「ベノシ?!」

 

ヒシアマさんの去り際に、変なあだ名をつけられてしまった。

 

「ふむ。ゴールドシップのいつもの悪癖に巻き込まれたのではないとすると・・・」

「心当たりはありませんか?ラベノシルフィーさん。」

「あるにはあるんですが・・・」

 

ウマ娘世界の住人であるあなた方の信仰する三女神の一人に、異世界からウマ娘にされて送り込まれました、なんていう荒唐無稽な話をしたところで信じてもらえるのだろうか・・・

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