ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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ようやく、編入学年が決定ですよ~
留年生?は禁句です~


迫りくる厨二

「時に、ラベノシルフィー。

 編入学年は中等部2年で良いか?」

 

編入学年に関する理事長自らの打診だ。

否定する要素も何もない。

 

「ええ、特に反対する理由もありませんが、なぜそのようなことを?」

 

理事長なら『決定ッ!中等部2年に編入するッ!』と扇子を広げてスパーンと発表するかと思ったのだけれど、わざわざこちらの意向を確認するとは。

 

「いや、芸能界入りも視野に入れるなら、たづなが以前貴女が最近流行りの厨二病キャラとやらになりかけていたと聞いたのだ。

 中等部2年ならキャラ付けにちょうど良いのではないかと・・・」

 

「ちょっと!たづなさん?!」

 

何吹き込んでくれてるんですか!と目を向けると、つい、と視線を逸らされた・・・と思いきや、真顔に戻って言われたよ。

 

「冗談です。」

「冗談だ。」

 

 

 

 

「いや、たづなからは、中等部1年に編入した方が良いのでは?と言われているのだがな。」

「現状、身体能力、常識ともに、年齢通りの中等部3年だといくら座学が薄いと言われるトレセンでも結構きつそうですからね。」

 

あっちの世界でも専門校と言われる学校の座学は、その学校の専攻に特化していて、必須科目である語学や一般教養以外の授業内容はとてつもなく薄い。

問題は俺の得意分野の学問はトレセン学園にはほぼなく、知識として欠落しているのが薄くない授業の一般教養やスポーツ系のものだということだ。

 

ただでさえ、普通のウマ娘になるための肉体的特訓が始まるところに、幼少時から年齢相応になるまでの一般教養と経験のないスポーツ関連の知識を詰め込まなくてはならない。

たづなさんが心配するのもわかる。

 

「しかしな、私はこうも思うのだ。

 今までの異世界からの渡り人からの話を聞くに、貴女のいた世界とこの世界はウマ娘の存在以外は双子と言えるレベルで非常に似通っている。

 その似た異世界で、一通りの教育を受け、社会人として働いていた者に、中等部1年からやり直せ、というのは酷ではないかと。

 ・・・貴女はもともと、運動能力に不安があり気にしていただろう?

 その不得意だと思い込んでいたであろう分野に、わたしたちは貴女を投げ込むのだ。

 かつてひとかどの社会人であったプライドまでも砕いて、初等部卒業したてのウマ娘としてやり直せ、というのは心が折れてしまわないか気になってな。

 中等部3年と1年、たかが2年と差は僅かであろうとも、心にヒビが入ればそのわずかな評価の差が心を壊す。

 わたしはな、この学園で学ぶウマ娘に、学園を嫌いになって欲しくないのだ。

 できれば、貴女にも厳しくはあっても充実した学園生活だったと言える日々を送って貰いたい。

 望むのなら、中等部のどの学年でも良い。

 どうか?」

 

理事長の口ぶりからすれば、俺が年齢通りの学年を望むなら中等部3年を、たづなさんは中等部1年の方が安心、と。

間を取って2年を打診はしてみたが結局俺次第、って話だ。

俺がこの身体の年齢以下の評価をされて、心に傷を負わないかと気にしているのが理事長らしい。

理事長は、一見して少女だ。

URA傘下、トレーニングセンターで最も巨大な中央を統括する理事長という職に就くにしては異常ともいえるほど若い。

何をするにつけ、その外見と若さと重責の狭間で心砕けそうになった経験があるのだろう。

 

時折へっぽこな様子を見せることもあるけれど、あの空元気ともいえる口調は、自分を奮い立たせる一種の自己暗示のようなものなのかもしれないな。

 

少し考えたが、心は決まった。

 

「・・・理事長の提案通り、中等部2年で頑張ってみたいと思います。

 困った時は相談に乗ってくれますよね?」

 

「うむッ!わたしもたづなも無下にはしないと約束しよう。」

 

理事長から力強い返事をいただいた。

正直な話、理事長の提示した中等部2年をそのまま受け入れたのは、打算だ。

 

座学は、あっちの世界と基本が一緒であれば、差分を収集することに集中すればおそらくそんなに覚える量は無い。

問題はスポーツ関連の知識だけれど、これはどこまで俺の雑学が授業に含まれているかによる。

いずれにせよ、学校の試験などというものは、一夜漬けで何とかなる場合も多いし、赤点を取ったところで補習でクリアできるなら、会社で一発勝負の仕事を請け負うよりだいぶマシだ。

 

運動能力なんかは、今日出会ったトレーナーにどこまで仕込んで貰えるかで、やってみなければわからない。

 

そして、一番気になったのが今回のこの提案で理事長とたづなさんの意見が割れていて、理事長が俺もたづなさんも立てる形で譲歩して意見を曲げている点だ。

ここで理事長の妥協案である中等部2年以外を選ぶと、理事長かたづなさんどちらかのメンツを潰す。

いくら三女神の威光があって、俺を保護する気があったとしても、何かあった時にそのメンツを潰したことが小さな棘として残りかねない。

 

理事長が俺の心がわずかな評価の差で壊れてしまうと心配したように、いくら理事長とたづなさんの仲がよく見えても、わざわざ見えている棘を刺しに行くことはない。

 

こすっからく見えても、これが理事長の言う社会人をやって来た経験則なのだ。

 

「これでわたしの懸案事項は終わったな。

 たづな?」

 

「はい、それでは寮を見てもらいましょうか。

 寮長さんを呼びますね。」

 

たづなさんがウマホで寮長に呼び出しをかける。

 

「理事長室だね!

 すぐに迎えに行くよ!」

 

スピーカーモードでもないのに、たづなさんのウマホから聞いたことのある元気な声が漏れ聞こえる。

 

10分もしないうちに、寮長は姿を現した。

 

 

 

 

「2週間ぶりくらいだねぇ。

 怪我はもういいのかい?」

 

俺が、ウマ娘世界に飛ばされてきたときのことを知る数少ない学園生の一人、ヒシアマゾン。

美浦寮の寮長だ。

俺と彼女は理事長室を辞して、美浦寮へ向かっている。

と言っても、学園に隣接している寮だから大した距離は無い。

 

「おかげさまで。

 ああ、そういえばお借りしたジャージそのままでした。

 洗濯してお返しすればよろしいですか?」

 

借りたジャージは、便利使いしてほとんど借りパク状態になっていた。

さすがにそろそろ返さないとまずい。

 

「ああ、あれは保健室の備品みたいなもんだから、返せるときでいいよ。

 それより、あの時のズタボロだったウマ娘が、立派なトレセン生になったねぇ!

 アンタ、訳アリなんだろ?

 異世界からの流れ人って本当かい?」

 

「ええ、まあ。

 あまり流れ人とか吹聴しないでいただけると助かるのですが・・・」

 

「・・・そりゃ、もう無理な話だねぇ。

 生徒会はともかく、ゴールドシップが噛んじまってるから、隠そうとすれば面白がってなお広がるんじゃないかねぇ。」

 

そうだ、三女神像に俺が刺さっているなんてゴルシの仕業以外ありえないと生徒会副会長のエアグルーヴが引っ張ってきていたんだっけ。

 

・・・状況を整理してみよう。

俺は、変な時期に中等部2年に転入してきて、芸能事務所に所属していて、ゴルシが『あいつ異世界からの流れ人なんだゼ☆!』と吹聴して回り、俺は俺で話せばボロボロと常識がない言動を繰り返し、運動も学業も成績はボロボロの劣等生。

 

うん、痛い奴以外の何者でもないな・・・

 

急激に、先の理事長とたづなさんの冗談だったはずの『厨二病キャラ』が現実味を帯びてくる。

 

・・・俺は頭を抱えた。

 

「まあ、アタシから噂を広げるようなことはしないよ。

 ああ、見えてきた。

 あれがアタシの管理する美浦寮さ。」

 

校舎が途切れて見えてきた美浦寮は、なんとなく想像していた木造チックな小さな寮ではなく、欧風の4階建ての鉄筋コンクリート造りで、長くて巨大な建物だった。

しかもそれが、何棟も連なっているんだ。

思った以上のマンモス寮っぷりに、思わず俺はその場で立ち尽くしてしまったよ。

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