ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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今回のお話には、今見てもわからない地雷が埋まってます~
それも複数~

そこにたどり着くまで何話かかるかわかりませんが~

追記:なんでかラストがプロットのままになっていたので修正しました~
大した違いはないですけどね~


居候生活の終焉

ちょっと大きめの菓子折りを抱えて、マンションの上の階にあるジムへ上がる。

ここしばらく、ダンスの練習とウォーキングバスでのトレーニングに毎日のように通っていたこのジムも、今日で最後だ。

明日、俺はトレセン学園の寮に入る。

入寮後の歓迎会で一つダンスを披露しなくてはならない、と聞いて、ダンスの練習を始めたものの、ウマ娘のパワーに振り回されてきりきり舞いしていた俺に、踊れるようになる最初の一歩を教えてくれたのがここのジムのウマ娘インストラクター、リッキーゴウさんだ。

彼女のおかげで、バランスを崩しやすい大ぶりな腕の振りもターンもあっという間にできるようになった。

感謝してもしきれない。

 

ジムに入ると、ジムの隅の方で暇つぶしにストレッチをしていたらしい彼女を見つけた。

 

「こんにちは。

 今日はお礼とお別れを言いに来ました。」

 

「んん?お別れ?」

 

ストレッチの動きを止め、彼女がこちらに向き直る。

 

「明日、こちらのマンションを出て、トレセン学園の寮に移ります。

 身体の使い方を教えて貰って、あなたのおかげで踊れるようになりました。

 本当に、ほんっとうにありがとう!」

 

腰をくの字に曲げて菓子折りを差し出す。

 

中身はこの近所の洋菓子店で売っていたプリン。

近場で済ませたようで申し訳ないけれど、そこそこ数がある消え物がこれくらいしかみつからなかった。

 

「こんなことしてくれなくてもよかったのに。

 でもありがとう、あとでみんなでいただくよ。

 そしておめでとう。

 トレセン学園でもしっかりやりなよ。」

 

リッキーゴウさんは笑って受け取ってくれた。

 

いつものように、通しでの数度のダンス練習。

踊りなれてきたと言ってもいいこのメイクデビューの曲とダンス。

もう戸惑うことも間違えることもない。

 

何度か踊り、そろそろラストダンスで締めようか、というところでリッキーゴウさんが俺の隣に立った。

 

「私もいいかい?

 君との最初で最後のコラボだ。」

 

イントロが流れ出すと、彼女もリズムを取り出す。

 

いつもは見ているだけだったのに、いつの間に覚えたんだろう。

 

大柄な体を軽やかに動かして、曲に合わせて舞う。

普段は格闘系のインストラクターをやっている彼女、さすがの身体のキレだ。

トメの動作がピタッと決まってメリハリがある。

 

たまに一緒に踊ってみんなを笑わせる彼女の同僚の小杉さんは、今日は観客側に回って彼女の見せる媚び媚びなポーズの度にヤジを飛ばしていた。

 

ラストが迫る。

踊る彼女を横目で見て思う。

リッキーゴウさんに出会えて本当に良かった。

二人して、最後の決めポーズを決めて、曲は終わった。

 

「いやー、なかなか恥ずかしいもんがあるね。

 もうこんなダンスが似合う歳じゃないって痛感したよ。」

 

途中ヤジを飛ばしてからかっていた小杉さんを彼女がドスドスと拳でどつく。

運動とは違う汗をかいたのか、しきりに首筋を撫でまわして照れまくるリッキーゴウさんはとても可愛らしかった。

 

「また、ここに来ることがあったら顔を出してね。」

「またな。」

「ありがとうございました。また!」

 

別れは、あっさりと。

これからはたづなさんのマンションに遊びに来た時くらいしか会えないだろうけど、ここで教えて貰ったことは忘れない。

また、お土産でも持って会いに来るよ。

 

 

 

 

いつものお風呂上がりのまったりタイム。

たづなさんはビール、俺はジュース。

 

美浦寮への引っ越し準備、と言っても、荷物はほとんどない。

滅多に着そうにない服なんかは、段ボールに詰めて宅配便で寮に送った。

こまごまとしたものは、ボストンバッグに詰めて、溢れたものは紙袋一つに収まった。

お風呂から上がって、お風呂セットもバッグに詰めた。

朝使うブラシだけ、バッグの上に転がしてある。

 

「今日であなたとの同居も終わりですね。」

 

腿の上に両手で挟み込むようにビール缶を支え、しんみりとした様子でたづなさんがつぶやく

 

「こっちの世界に飛ばされてきて、ものすごく濃密な時間を過ごしたように感じます。

 もし、俺がトレセン学園に現れずに山の中にでも放り出されていたらと考えると・・・

 たづなさんと理事長に助けてもらえなかったら死んでいたかもしれません。」

 

「まあ、三女神様の思惑もあるかも知れませんが・・・縁、というものなんでしょうね。

 家に待っている家族のいる生活は本当に久しぶりで、楽しかったですよ。」

 

家に誰かがいる生活が久しぶり、か。

 

「・・・たづなさんは、ご両親とは暮らさないんですか?」

 

「実家が田舎もいいところですからねぇ。

 両親はまだ元気に農牧やってるんですけど、朝から晩まで外に出たままなかなか家に帰ってきませんから。

 たまに帰省すると手伝わされますし、早く婿を貰って家を継げってうるさいんですよ。

 身体が動かなくなった!って音を上げたら逆にこっちに呼んでやります。」

 

小さく、『こっちに出てきたときはだいぶ迷惑かけちゃいましたしね・・・』とつぶやいていたのを、俺の耳は聞き逃さなかった。

農業とか畜産関係で両親に迷惑ってことは一人っ子だったんだろうか。

そう考えたときに、たづなさんが何かを言いかけて、言い淀んだ。

 

「もし、あなたが・・・」

 

そこまで言いかけて、止まる。

言葉を選んでいるのか、逡巡が見て取れる。

 

「もし、あなたが・・・ウマ娘として走る以外の道を歩みたいというなら・・・正式に私の家族になってもいいんですよ?

 私の両親なら、喜んであなたを養子に迎えてくれるでしょうし。

 その時はあなたは私の妹、ってことになりますけどね。」

 

『ウマ娘として走る以外の道』

つまり俺がトレセン学園を去る、ってことだ。

 

彼女は、寄る辺のない俺に、トレセン学園がダメなら逃げ道を用意する、と言っていた。

しかも、代理母なんていう成人までの時限的な関係ではなく、生涯の義理の姉妹として。

 

「妹になったら、両親にこき使われますけどね。

 それでもいいなら、こういう道もある、ってことだけ覚えておいてください。」

 

くぴり、と彼女はビールを煽る。

養子縁組なんて重要そうな提案の割にずいぶん扱いが軽い気がする。

 

「・・・そんなに簡単に、俺に養子縁組の話をしちゃっていいんですか?

 公的に見たら俺の出自なんて怪しい以外の何物でもないですよ?」

 

何せ、俺の戸籍は記載されているものがほとんど空欄という代物だ。

公式的には孤児。

身の上話の度に、信じてもらえるかわからない三女神様の話なんかしようものなら怪しさ三倍増しだ。

よほどのことがない限り信用なんかとは程遠い存在、それが基本的な俺の立場だ。

ほいほい養子にしますなんて言われるような上等な者じゃない。

 

「簡単、というほど簡単な話でもないんですけどね。

 私みたいに家業を放り出して上京しちゃう親不孝なウマ娘がいると、養子が欲しいっていう家はそこそこありますし。」

 

養子が欲しい家がある?

俺の世界では家を継ぐなんて言う概念がもう廃れてしまっていて、養子自体が珍しい状態だったからちょっと驚いた。

養子が普通だったのは、俺の親の世代までだ。

ウマ娘世界には未だに養子の需要があるってことか。

 

「以前、ウマ娘の孤児が多いっていう話はしましたよね。

 ひねくれてしまった孤児も多いと。

 養子にするにしても、養子にする側のお眼鏡にかなう子ってどれだけいると思います?」

 

「・・・」

 

「そういうことですよ。

 あなたはいい子です。」

 

参ったね。

こう正面切って言われると何も言い返せないや。

 

「中身はおっさんなんだけどなあ・・・」

 

ぼやいてみせるも、返す刀で切って捨てられた。

 

「最近、だいぶ女の子っぽくなってきた気がしますけどね。

 言葉遣いもぶっきらぼうさが抜けてきましたし。」

 

不意打ちを喰らって俺は死んだ。

自分がおっさんだったのを意識した後に女の子っぽくなってきたとか言われたら・・・

一気に血が上って熱を持ったウマ耳を押さえて転げまわる。

 

悶え苦しむ俺を酒の肴に、たづなさんは微笑みながらビールを空けていた。

ひとしきり転げまわって俺が落ち着くと、たづなさんが新しいビールを開けながら続ける。

 

「・・・私たちウマ娘にとって大事なのは、家族や仲間関係。

 血縁なんて大した意味はありません。

 一度結んだ縁の方が大事です。」

 

「そういうものですか。」

 

「そういうものです。」

 

馬から引き継いだ群れ意識みたいなものなのかな。

馬の魂を引き継いでいない俺にはこういう本能的な感覚はよくわからない。

 

「明日、寮に入ったその時から、あなたはトレセン学園の一生徒。

 私は学園理事長秘書のたづなです。

 公の場でおかあさん扱いは困りますけど、家族なのは変わりません。

 困ったことがあったら、一人で抱え込まずに相談してくださいね。」

 

たづなさんは、このウマ娘世界で一人ぼっちの俺に、繰り返し、『帰る場所はあるんですよ』って言ってくれてるように思える。

 

たづなさんとの最後の夜。

ベッドの中で、どちらからともなく、指先と指先が触れる。

その晩は、たづなさんと手をつないで眠りについた。

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