ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

49 / 82
ひんぬ~の園、美浦寮へようこそ~

調べてみるとネームドでグラマラスなウマ娘はほとんど栗東ですね~
ていうか、ネームドが栗東に集中し過ぎって話でもありますが~


大浴場へ

「着替えは持った?

 タオルは?

 洗濯ネットはある?」

 

「あ、洗濯ネット!

 ごめん、ちょっと待ってて!

 持ってくる!」

 

洗濯ネットはヒシアマさんに言われて買ったものの、すっかり忘れてた。

急いで部屋の中を漁って洗濯ネットを引っ張り出す。

 

日が暮れて、雨が降ってきたようだ。

パタパタと雨粒が窓を叩く音がする。

開けていた窓を閉めて、部屋から出た。

 

「おまたせ~」

 

洗濯ネット持ったよ、と二人に見えるように突き出して、三人で歩き出す。

 

「まだ洗濯機埋まってないみたいだよ~

 早く行こ!」

 

歩きながら、アップルサンデーさんがウマホの画面を見せてくる。

やたらと凝ったツタの絡んだ装飾の枠の中に丸文字で『美浦寮 ランドリー空き状況』と表示され、その下に色のついたマス目がずらっと並んでいる。

ほとんどは真っ赤だけれど、ところどころに青いマス目が散在していた。

 

青いマスが洗濯機の空きを表しているらしい。

 

「ウマホで洗濯機の空きが見られるなんてずいぶん便利なんだね。」

 

最近の白物家電業界は、基本機能なんかもう極めつくしてしまって製品単価が上げられないからって、ローエンドに近い代物にまでいらない機能を付けてくる。

たぶんこれも、洗濯機についたネットで外から家電の様子が見える、とかそういう機能を使ったものなんだろう。

ウマ娘世界の家電業界にも、そんな闇が見え隠れしていた。

 

「うん。

 なんか、私の入る前に、栗東寮の先輩がこのアプリ作ったんだって。」

 

「高等部のエアシャカール先輩ね。

 私が1年の時かな、最初は栗東寮の洗濯機だけだったんだけど、わざわざ美浦寮のも作ってくれてね~

 『嫌だっつっても、どうせ同じもン作れって言ってくンだろ?ったく、会長サマが出張ってくる前に片付けてやンよ。』って、ぶつくさ言ってたんだけど、なんか、自分から調べに来てくれたらしいよ?」

 

「怖そうな先輩だけど、いい人ぽいよね。」

 

「うん。

 言葉のガラは悪いんだけどね、面倒見はいいみたい。

 ヨーロッパからの留学生の世話焼いてずっとそばにいるらしいし、この前はターボちゃんとビコーちゃんに泣きつかれて、何かピカピカ光るの作ってあげてたし。」

 

「へ~、一見怖そうだけど面倒見が良くてすごい先輩なんだ?」

 

「うん。

 作って貰ったこのアプリで洗濯機の空きを見にいちいち行かなくて済むから大助かりだよ!」

 

俺と分野は違うけど、エアシャカールはクラフトマン、同類の匂いがする。

偏屈さも、職人のそれだ。

仲良く、とまではいかなくてもいいから知り合いにはなっておきたい気がする。

 

 

喋りながら階段を下りて、1Fの大浴場への連絡通路近くに出た。

ちょっとだけ玄関方面に向かってから連絡通路に出る。

この辺は部屋がないから1Fの住人に気を使う必要はないだろう。

 

ん?そういえばさっきのエアシャカールの言葉の中・・・

 

「そういえばさっきの話の中に出てきた会長様って、生徒会の?」

 

「うん?

 そうだよ?

 シンボリルドルフ会長。

 美浦寮にいるよ?」

 

「あんまり見かけないけどね~

 私たちと活動時間ずれてるっぽいし。」

 

「朝早くランニングに出る人はよく会うらしいけど、夜は生徒会のお仕事とかで門限より遅く帰ってくる事も多いらしいしね。

 何?会長に会いたいの?」

 

「まさか!

 わざわざ探して会いに行かなくても、歓迎会の後に生徒会に顔出ししなきゃいけないから結局会うよ。」

 

「あ~、歓迎会のお礼か~。

 ご愁傷さま。」

 

「ご愁傷さまって・・・

 生徒会ってそんなにヤバいの?」

 

「ヤバいってわけじゃないけど・・・長居しづらいよね?」

 

「うん、気を使われるのがかえって疲れるっていうか~

 お邪魔しましたー!ってさっさと退散したくなる感じ?」

 

「だって、ありえない記録を打ち立てた雲の上の人が、『どうだ最近は?』なんてたまの休日のお父さんみたいに話しかけてくるんだよ?

 しかも、イミフな難しい言葉ばっかりで何言ってるのか全然わからないし。

 時々副会長が意味ありげな目線向けて来てそうじゃない、違う!みたいに百面相してくるし。

 付き合い長い人同士じゃないとわかんないよあんなの。

 生徒会ワールドの住人以外、ずっとあの空間に居続けるのは無理!」

 

 

ゲムパちゃんが言いきった直後だ。

 

ゴッ・・・

 

後方で、壁に硬いものを打ち付けたような鈍い音がしたのを、俺のウマ耳が捉えてしまった。

 

振り返ると、頭からタオルを被った雨でずぶ濡れの寮生が、幽鬼のようにがっくりと肩を落として壁に頭をもたれかからせるようにして立ち往生していた。

とっくに門限は過ぎているのに、こんな時間に外に出ていて雨に濡れるなんてのは・・・

そしてタオルから僅かに覗く前髪の流星、そして腰まで届く豊かな鹿毛・・・

 

聞かれた相手を察して総毛立つ。

 

 

「ちょっ!何?!」

「いや~美浦寮のお風呂楽しみ♪楽しみ♪」

 

問答無用で二人の背中をぐいぐいと押して大浴場へ急ぐ。

 

うん、俺たちは気づかなかった。

他愛のない会話をしてたまたま彼女のそばを通りがかっただけだ。

出来れば彼女と大浴場で鉢合わせませんように・・・

 

 

 

 

大浴場前の框でスリッパを脱いで、棚に入れる。

重い引き戸を開いて、大浴場に入った。

 

扉を開けて入った正面には、背の高さほどの観葉植物のパキラ(あの細い幹をねじって編み込んだようなやつ)と、合皮張りの茶色い長椅子、アジアン風の籐の衝立が、部屋の中央を分割するように鎮座していた。

床には、目の細かい竹ゴザが敷いてあり、ところどころにおかれた背の高い扇風機がゆっくりと首を振って風を送っている。

天井には埋め込み式の蛍光灯照明といつ見てもこれ役にたってんのかなと疑問な薄緑色のシーリングファンが稼働中。

 

入り口からすぐの空間は、休憩室兼ドレッサールームになっているようだ。

 

長椅子には風呂上りらしい寮生がぽつぽつと座り、飲み物を飲んだり扇風機に当たっていたり。

歓談しながら思い思いに休憩していた。

 

廊下側の壁と部屋の左側の壁は長棚がついていて、長棚から上は一面の鏡張り。

棚にはずらりとドライヤーが並び、籐製の丸椅子に座って髪の毛を乾かす寮生がちらほら。

 

部屋の真ん中を仕切る籐の衝立を回ると、部屋の正面の壁には3面鏡を備えたドレッサーが15台ほど並ぶ。

長髪の寮生が、ドレッサーの前に陣取って、念入りに髪の手入れをしていた。

 

壁際に並ぶドライヤーは、乾かすのに手間のかからない短髪の寮生用、ってことらしい。

 

ドレッサーは満員状態で、数名長椅子に腰かけながら順番待ちをしているらしい寮生もいる。

改めて、『ドレッサーは混む』というヒシアマさんの言葉に納得させられた。

 

休憩室兼ドレッサールームの右側は、壁がぶち抜きになっていて、隣接するランドリールームにつながっている。

ドラム式の全自動洗濯乾燥機がコの字型に壁際を埋め尽くし、そのほとんどが稼働中だ。

バスタオルを巻いただけのウマ娘が数人、空いているらしい洗濯機を囲んで洗濯物を詰め込んでいる姿は、トレセンも女子校なんだなあ・・・と思わせられる。

ランドリールームの一角には、洗剤や飲料の自販機も設置されている。

飲料の自販機は、最新のものらしく、正面に並んだ商品をXZ軸のゴンドラが商品取り出し口まで持ってきてくれるロボットタイプだ。

ビン入りの牛乳もある。

残念ながら、財布は部屋に置いてきてしまった。

小銭くらいは持ってくるべきだったか。

 

ドレッサーの左手の入り口を通るか、ランドリールーム経由で奥に進むとやはり壁ぶち抜きのロッカールーム兼脱衣所にたどり着く。

脱衣所の中は中等部メインの早い時間帯のせいか、浴場の入り口がすぐそこにあるせいなのか知らないが、タオルとお風呂セットを抱えたまま何も隠さずにすっぽんぽんでうろついているウマ娘も多い。

 

浴場入り口の横にある水道でお風呂セットを洗う者、妙に豪華な備え付けの体組成計の横でヤムチャ死している者、冷水器から水をがぶがぶ飲んでいる者、扇風機に貼り付いてあ゛~~~とか延々声を出している小さいウマ娘なんかもいた。

 

列をなして並ぶロッカーの中から空きを確保すると、さっさと制服を脱ぐ。

頭を抜くときに感じる上着の汗臭さ。

これは明日着られないな。

制服で買い出しに行くんじゃなかった。

ちょっと後悔していると、アップルサンデーさんとゲムパちゃんがもうバスタオルを身体に巻いた姿で横に待っていた。

 

「まだ洗濯機空きがあるから洗い物投げ込んでこよ?」

 

と手に持った、下着やニーソなんかの入った洗濯ネットを掲げる。

 

「制服汗臭くなっちゃったんだけど、これも洗えるのかな?」

 

「え?制服はクリーニングじゃないと。

 ここの洗濯機しわになるから・・・」

 

「制服のクリーニングは部屋の机のどこかに、依頼票入ってると思うから、それに記入して、ハンガーにかけて寮長に渡すとクリーニングに出してくれるよ。

 寮長がいないときは、学園の購買でも受け付けてくれるけど、上がってくるまで1日かかるから、制服の数が無いなら溜め込まない方がいいよ。

 あと、制服のクリーニングはタダじゃないから注意してね。」

 

制服のクリーニングは有料か~。

体操服なんかと同じで一緒に請け負ってくれればいいのに。

しかしヒシアマさんも大変だな、クリーニングの受付まで業務に含まれているとは。

 

「制服のクリーニングも毎日ってわけにいかないから、これからの季節汗脇パッド必須だよ~?」

 

「制汗剤も。

 あ、夏場なんかはお風呂上り、ベビーパウダーがいいよね。」

 

なんだか俺の知らない女子の身嗜み文化がポコポコ出てくる。

脇汗パッドはよく知らないけれど、ベビーパウダーは子供の頃風呂から上がると親からパタパタ全身にまぶされていた気がする。

 

「あ、洗濯一緒にするけど、洗剤とか柔軟剤とか私の使っちゃうけど平気?あまり香りは強くないと思うけど・・・」

 

アップルサンデーさんが手に持った袋の中の洗剤を見せてくれる。

ボトルに入った液体洗剤と柔軟剤だ。

うん、洗濯洗剤にこだわったことがないから見せられてもさっぱりわからない!

洗濯洗剤は安さが正義、主義の俺は正直洗濯できれば何でもいい。

いつも柔軟剤入りの店で最安値の洗濯洗剤を買っていたのだ、俺は。

 

「特にこだわりないから大丈夫。

 洗剤とかって持ち回り?」

 

「ううん。

 いつも洗濯機が空いてるとは限らないし、こうやってつるんでお風呂来れない時もあるから、結構適当?」

 

「まぁ、デオドラント系の洗剤と柔軟剤は持っておいた方がいいよ。」

 

ロッカーを閉めて、さっきのウマ娘たちよろしくバスタオル姿で空いている洗濯機を取り囲んで洗濯ネットに入れた洗濯物を放り込んでいく。

隙間なく壁際に設置されたドラム式の全自動洗濯乾燥機。

各洗濯機の上には棚があって、籠が載っている。

家庭用サイズとはいえ、50台以上が並んでいる姿はちょっとそこらのコインランドリーなんかではお目にかかれないだろう。

 

ゲムパちゃんが、脱衣所から一人で洗濯ネットを抱えてきた寮生に声をかけて同じ洗濯機に彼女の洗濯ネットも放り込む。

 

「あと一人分くらいはいけそうだけど、すぐには来そうにないね。」

 

「回しちゃお。」

 

洗濯機の蓋を閉じてスタートボタンを押すと、注水が始まって洗濯機が回り出す。

 

「洗濯ありがと~!終わってたら籠に上げておくね。」

 

ゲムパちゃんが誘った寮生はお礼を言って先に浴場に駆けて行った。

 

「こんな感じで、空いてる洗濯機はできるだけ一緒に洗濯する人を誘って洗濯するの。

 止まっているのに洗濯機の中に入っている洗濯物は、そこの籠に入れて上に上げておけば、洗濯機使っても文句は言われないから。

 あと、一人でスカスカなのに洗濯機回すと非常識扱いされるからね~」

 

「入寮直後の1年なんか、そういう暗黙のルール知らないから結構ごたごたするんだ。

 (そこに、洗濯もしたこともないお嬢様が紛れ込むからもうパニックだったよ)」

 

ゲムパちゃんが小声で教えてくれる。

お嬢様方、洗濯の仕方がよくわからずに、洗濯洗剤を全部入れてしまったり、縮む素材の服をわけもわからず洗ってダメにしたりと、結構な騒ぎが毎年起きるそうだ。

お嬢様方じゃなくても、小学校卒業したての子供の集団だ、普通に何かしらやらかしまくっていてもおかしくない。

さぞかし、毎日愉快な騒ぎが起こっていたのだろう。

 

三人して並んで浴場の入口へ向かう。

浴場への引き戸を開けると、熱気と湿度の高い空気が身体を包み込む。

そして目の前には広いタイル張りの空間が現れた。

 

寮1棟、フロアの半分以上をそのまま使った浴場はまさに大浴場と呼ぶにふさわしいものだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。