改稿
文体を40話前後の書き方に統一しました。
この話は若干書き直し箇所が多いです~
「三女神の一柱が、今回の騒動に関わっていると言ったら、信じて貰えますか?」
慎重に、話を切り出す。
目の前にいる二人は、少なくともこのトレセン学園の重鎮。
ゲームやアニメの中のおちゃめな姿が全てじゃないだろう。
いい大人に対して、おとぎ話のような話をして馬鹿にしているのかと怒り出す可能性も十分にある。
「・・・ふむ。」
しかし、意外なことに、理事長もたづなさんも、一笑に付すこともなく思案顔だ。
「夢でも見たのか、とは言わないんですね。」
「・・・三女神様の奇跡は、小さなものなら奇跡とは言えぬほど日常的に起こるのでな。」
理事長は、ちょっと困り顔だ。
「今回みたいな大きなものはちょっと聞いたことありませんけどね。」
反応を見る限り、ありえない話ではない、と言った様子が見て取れる。
「信じていただけるかはわかりませんが、事の経緯をお話しします。」
俺は意を決して、三女神を名乗るゴドというシルクハット燕尾服姿の幼児に、いい歳したおじさんである俺がウマ娘としてこちらの世界に落とされたことを話した。
競馬場と馬の話はぼかして。
なぜかと言えば、ウマ娘なんて存在がいる世界で、あっちの世界では経済動物として馬が飼育され消費される、しかもそれがウマ娘とリンクしているなんて話は、ことをややこしくこそすれ何も得にならない気がするからだ。
似たような世界ならなおさら、人種差別になりそうな話はしないに限る。
大まかに話をし終えたときの二人から帰って来た反応は、何ともぽわぽわしたものだ。
「なんだか、ウサギを追って穴に飛び込んだ少女の童話を思い出しますね。」
「同感ッ!何か意図的な演出を感じるッ!」
あの自称女神のゴドの服装と、穴に落ちることから不思議の国のアリスを連想したらしい。
同じ童話かどうかはわからないが、たぶん同じものだろう。
あの童話は、確か夢オチで終わったんだっけか。
へたしたら狂人扱いされるかも、と戦々恐々としていたのに、何とも拍子抜けな反応だ。
「実はですね、過去にもウマ娘のいない世界から来たというヒトはいるんです。
ウマ娘になって、というのは初耳ですけれど。
日本だと一番最後は・・・20年くらい前でしたか。
大抵の流れ人はお爺ちゃんですからもうお亡くなりになられていますが。」
「うむっ!
異世界からの流れ人はこの世界に様々な変革をもたらしてくれているのだ!
このウマホなどもそうだ!」
理事長がジュエルシールがワンポイント程度に貼られたウマホ?を取り出して掲げる。
何のことは無い、スマートフォンだ。
「あと、あなたの話を無下にできない理由なんですが・・・
あの大穴に残されたあなたの着ていた服、台座の石材と一体化してしまっているらしいんですよね。
施設部の者が、像を建てた業者が手抜き工事してゴミを埋め込んでいたのか!って勘違いして憤慨していましたから。」
あの大穴、と聞いて、途端に理事長が萎れる。
「あの大穴、施設部の者もすぐにどうこうできるものではないとさじを投げおった・・・
先代に見つかれば大目玉は必至、どうしたものか・・・」
先代というのが理事長のどういう関係に当たるのかはいまいちよくわからないが、あの穴を開けた原因は駄女神のせいだとはいえ、俺もちょっと責任を感じる。
見つからなければいい、というのであれば、方法はなくもない。
「理事長さん、小手先のごまかしでしかありませんが、あの像、そこそこ歴史ある像のようですから、老朽化で倒壊の恐れのあるヒビが見つかったと言うことにして、工事中の表示して防音幕で囲ってしまったらどうですかね?
とりあえず、事故防止ってことで突然工事が始まっても突っ込まれないと思いますし、穴が見られることもないと思いますが。」
俺の提案ともいえない提案を聞いてガバっと身を起こした理事長は電話をかけにすっ飛んでいった。
「施設部かッ!部長を出せ!今すぐにだッ!」
たづなさんの呆れたような視線が痛い。
「よくポンとそんなごまかし案が飛び出しますね。」
「中身はしがない会社勤めのおじさんですからね、仕事を楽にするための方便はスキルのうちです。」
営業や経営陣の現場無視かつ無理無茶無謀な計画に付き合うには、こういった方便で時間や予算を引っ張らないと成功の目が無いことなんてよくある。
時にはごまかしも必要だ。
電話をしていた理事長が電話口を抑えて問いかけてくる。
「確認ッ!像のそばにあるオートバイは貴女のものか?
職員駐輪場に移動してよいか?」
「はい、どうぞ移動させてください。」
他人に愛車を任せるのはちょっと思うところがあるが、全身ズタボロのこの状態じゃ、バイクを押して歩くことさえままならない。
お任せするしかないだろう。
電話を終えた理事長が、満面の笑みをたたえて戻って来た。
「安堵ッ!提案感謝する。
施設部が足場を組んでシートで隠してくれるそうだ!」
先代とやらに大目玉を喰らう心配はなくなったらしい。
それは何より、と答える前に、前触れもなく、盛大な怪音が鳴り響いた。
ぐぅぅ~~~~キュルルル・・・
俺の腹の虫だ。
開きかけた口を閉じて押し黙る。
気まずい。
「そういえばもうお昼ですね、食事にしましょうか。
理事長はいつものでかまいませんか?」
「うむッ!」
「ラベノシルフィーさんは食べられないものとかはありますか?」
「いえ。
あ、貝の類はだめかもしれません、よく当たるんです。」
「なら大丈夫です。お弁当頼みますね。」
たづなさんがウマホを操作する。
トレセン学園の食堂で食べるのではないらしい。
あの真ん中にニンジンがぶっ刺さった特大ハンバーグとかちょっと見てみたかった。
頼んだのは王子屋とかのお弁当屋さんだろうか。
それともウーガーイーツとかの宅配だろうか。
5分もしないうちに、扉がノックされてお弁当が届いた。
速い。
黒い艶々の紙容器に入ったなんか高そうな仕出し弁当。
箱はかなり大きく、金の楷書で箱に店名らしき漢字が書かれてる。
箸も、割り箸ではなく丸く面取りのされた箸が和風の化粧袋に入ったものがついてきている。
単品のが理事長、三段重ねのが俺とたづなさんの。
ソファー前のテーブルに並んだ様は圧巻の分量だ。
たづなさんが足りますか?と聞いてくるけど、俺こんなに食えません。
蓋を開けると、1段目が色とりどりのかやくで個別に味付けされた俵ご飯がぎっしり。
二段目がハンバーグ、から揚げ、エビフライ、ブロッコリー、ポテトサラダなんかが入った洋食系おかず。
三段目が肉団子、鮭、鰆、シイタケやレンコンの煮つけ、かまぼこ、きんぴらごぼう、卵焼きなんかの入った和食系おかず。
要するに幕の内弁当全部入り。
大企業の会議で昼食食べながらの会議とかで出てくるあれの超大盛版だ。
食べきれるかな、と逡巡してると、たづなさんがことり、とお茶を置いてくれた。
「では、いただこう!」
「「いただきます。」」
ボキッ!
俵ご飯を箸でわけようとして、あっさりと箸を折ってしまった。
折った箸を短い箸として使えないか握り直してみる。
無理だ。
「・・・・・」
「かわりの箸を持ってきますね。」
パタパタと小走りにたづなさんが駆けていく。
スミマセン。
いつの間にか理事長の頭の上から猫が下りてきていて、理事長の分けた弁当をにゃむにゃむ言いながら食べている。
どうぞ、と帰って来たたづなさんから新しい箸を渡されて、今度は慎重に・・・
パキッ!
これまた簡単に折れた。
スッと、新しい箸が差し出される。
ご飯が固いから駄目なんだ、と気を取り直して、今度はハンバーグから・・・
メキャッ!
あっさりと箸が折れる。
「・・・・・」
「力の加減が効きませんか。
本当にウマ娘になったばかりなんですね。」
「苦笑。珍しいものを見せてもらった。」
何でも、ウマ娘は俺くらいの年齢でも握力が300キロ前後あるのが普通らしい。
あっちの世界で男だった俺の握力は50キロ弱だ。
折れた箸を拾い上げて三本指でちょっと力をかけると、木の反発をほとんど感じることもなく変形してへし折れる。
同じ太さのチョコレートの方がまだ硬く感じるんじゃないだろうか、程度に、木の箸に手応えを感じられなかった。
たづなさんから、すぐにステンレスのフォークとスプーンを渡される。
金属製で掬って食べる類の食器なら力加減は関係ない。
しかし、たづなさん、2本目の箸の時点でもうフォークとスプーンを用意していたのか。
理事長秘書ともなると先読みが常人の一歩先を行くものだと感心しながらお弁当を頂いた。
食べてみて、最初はこの弁当の量、食べきれるのかな、と思っていたのだけれど・・・
入ってしまったのだ、全部。
お腹に。
食べても食べても、満腹感がこない。
むしろ、全部食べ終わって、あれ?これで終わり?と物足りなく思ったくらい。
中年、と言われる年齢に差し掛かっていた俺は、最近炭酸飲料やら大盛りの食品やらが食べきれなくて胃が小さくなってきたな、と感じていたものだから、この量をあっさり食べきって物足りなさまで感じることに、かつての身体と違うウマ娘の身体なんだな、と改めて実感したものだ。
そしてたづなさん。
ウマ尻尾も無いし、人間のように見えるけれど、俺と同じ大きさの弁当をぺろりと平らげて平気な顔でお茶飲んでますよね?
その帽子の中にウマ耳隠れてませんか?
じっとたづなさんを見つめていると、彼女が光輝いて見えた。
いや、冗談じゃなく、彼女の周りに光の球が舞い、彼女が光り始めたんだ!