ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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ちょっと間が空きました~

地名やノルちゃんの名前には深い意味はないですよ~


お風呂女子会

「で、ベノシちゃんはどこの出身~?」

 

はい、見知らぬ人が集まって打ち解け合おう、なんて話の場じゃ、その話題出ますよね~。

 

ただ今、三人で大浴場で歓談中。

ゲムパちゃんは熱いお湯の小さい湯舟、俺は温い湯の大きな湯舟に浸かり、アップルサンデーさんは今日はシャワーだけにする~と言って尻尾を例のバンドで腰に縛り付けて湯舟の縁に座って足だけを温い湯舟につけていた。

こんなところでも使うんだ、尻尾バンド。

なんでも、お風呂場の床に尻尾を垂らしたままにしていると、流れてくるお湯の湯垢なんかを尻尾の毛が拾ってえらいことになるらしい。

そうなるとまた洗い直さなければならないので水を吸って重い尻尾はこうやって腰に括り付けておくそうだ。

 

俺とゲムパちゃんは、尻尾はお湯の中で広がるに任せている。

お風呂が混んでいるときは踏まれたりするので尻尾バンドで腰に縛り付けておくか、髪ゴムみたいなもので二つ折りにして短い棒になるようにまとめておくのがいいらしいけど、今は空いているし三人で湯舟の隅っこに固まっているので踏まれることもないだろう。

 

で、まあ、出身地の話が出てきてしまったわけなんだけど、どうしたものかちょっと悩み中だ。

 

三女神の一人にウマ娘にされてこの世界に落とされました、なんて話は、俺がウマ娘世界に現れたときの騒動に巻き込んでしまった理事長やたづなさんはともかく、会ったばかりの二人にするような話じゃない。

そんな話をしたら、間違いなく厨二病を患っている頭のおかしな娘認定されてしまう。

せっかく話せるお隣さんができたのに、痛い子認定は避けたい。

 

どう話したものかとぐるぐると頭を巡らせてみたものの、この場を切り抜ける妙案は出てこなかった。

今までアップルサンデーさんの突っ込みを抑えてくれていたゲムパちゃんまでがなぜか出身地話には乗り気らしく、自分から出身地を話し出す始末だ。

 

「私、静岡!

 工場と畑しかないとこだけどね。」

 

「私はね~岐阜。

 地元じゃちょっと大きい元武家の家だよ~。」

 

あっという間に、二人に先に自己紹介されて退路を断たれてしまった。

答えを期待するまなざしが痛い。

 

その場しのぎで変な嘘をついても、きっとそのうちぼろが出る。

嘘って言うのはつき通すためには結構な記憶力とつじつま合わせの能力がいる。

これから長いお付き合いになりそうな相手にそのうちバレてしまうような嘘をつくくらいなら、いっそのこと本当のことを混ぜてしまおう。

 

「・・・私は、生まれは千葉かな。」

 

あっちの世界で生まれ育った場所をそのまま口にする。

 

「千葉?房総半島の方?それとも小金が原のあたり?」

 

アップルサンデーさんの口から『小金が原』なんて単語が出てきてちょっとびっくりした。

小金が原は、俺の生まれ育った土地の古い古い呼び名だ。

小中学校の時に地元の歴史で習った覚えがある。

 

「何?小金が原って。」

 

「千葉の内陸部で、昔からウマ娘の特に多い地域、かな~。

 なんか地域的にウマ娘が生まれやすいらしいよ?

 千葉だと南房総と小金が原が有名、って聞いてるけど~。」

 

あっちの世界だと、南房総は比較的近代に牧場が多く開かれた場所だし、小金が原は確か江戸時代あたりには侍用の乗馬の産地・放牧地として有名だった場所のはずだ。

どっちも、馬の産地といっていい。

 

住んでいた時はあまり気にしていなかったけれど、思い起こせば、地元のあちこちに馬を祀った神社や寺があった気がする。

あの自称女神にウマ娘世界へ送られる直前まで、馬とは全く関わりがなかったと思っていたのに、言われてみれば俺はかつての馬の名産地出身だった、ってことか。

 

「どうしたの?きょとんとして。」

 

「・・・いや、千葉って言っただけで詳しい地域まで当てられちゃうとは思わなかったから・・・」

 

「へへ~♪

 で、どっち?」

 

「小金が原の方。」

 

「ビンゴ~!いえ~い!」

 

「いえ~い!」

 

二人して、ハイタッチならぬロータッチ。

 

「でも小金が原出身だったら、去年辞めちゃったノルちゃんと知り合いだったりしない~?

 セイコーノルデン、鹿毛で耳の長い娘だったんだけど。」

 

「ごめん、その娘のことは知らないや。

 生まれってだけでそこに長くいたわけじゃないから・・・」

 

「そっか~。

 ベノシちゃんの向かいの部屋にいたんだけどね。

 去年の秋に同室の娘が辞めるのにつられるみたいに辞めちゃってさ~。

 同じ地元の娘だから会えてたら仲良くなれたかもしれないのにね~。」

 

う~ん、あっちの世界での地元の話をしたら、こっちの世界の地元のウマ娘が、ギリギリすれ違いでそばにいたかもしれないとか・・・

出会っていたら、同じ地元の話なのに話が食い違ってお互いどこの話をしているんだ?なんてことになっていたかもしれないな。

危ない危ない。

 

お向さんになるはずだった学園生がすでに退学してしまった後だということに若干もやもやしたものを感じはしたものの、今この時に限っては、出会わずに済んでよかったという安堵感の方が大きかった。

そうか、俺の部屋の向かいはその娘が出て行っちゃったから空き部屋なのか・・・

 

「私なんかさ~、本格化遅かったから、デビューするまでは、って思って学園にしがみついてたけど、彼女みたいに本格化してから負けが続いちゃうとやっぱ考えちゃうよね~」

 

本格化、という話がちょくちょく出てきているけれど、第二次性徴期、みたいなものかな。

急激に大人の身体に成長していく時期、ってことなんだろう。

 

「本格化してからは負け続けるってあまりないの?」

 

「そんなことないよ~。

 ただ、ここにいる娘たちって、基本地元じゃ負けなし、みたいな娘が多いからね~。」

 

「うん、今まで才能だけで勝つのが当たり前だった、みたいな娘は、ちょっと努力すれば結果がついてくると思ってるからさ。

 そのちょっとの努力のあと、負け続けるとすぐ心折れちゃうんだよね。

 そういう娘でも誉めるのがうまいトレーナーについた娘はいいんだけど、放任主義っぽかったり、叱咤激励だけの熱血トレーナーについちゃうとメンタルが持たないみたいでみんな辞めちゃった・・・」

 

そうして辞めていったクラスメイトがゲムパちゃんの周りにもいたのか、彼女はちょっとしゅんとしていた。

 

「ま~、色々いるよ。

 プライド高すぎて早々に自滅する子もいれば、負け続けても重賞一個取れば私の勝ち!って全盛期過ぎても走ってる高等部の先輩もいるし。

 モチベーションなんて人それぞれだから。

 

 ・・・私なんか、本格化遅かったからさ、回りがどんどん成長して突き放されて、友達の成長度合いを見せつけられれる度に、私も本格化さえ来れば同じようになれる!って信じてひたすら練習に没頭して全力で現実から目を逸らしてたね~。」

 

「・・・一緒の部屋になった当初、サンちゃん虚無ってたもんね。」

 

ゲムパちゃんが目尻を真横に引っ張って、何とも言えない糸目を作って見せる。

考えたら負け、って必死に耐えていたんだろうな、アップルサンデーさん。

 

「でも、本格化始まるとさ、今までコンマ1秒単位でうろうろしてたタイムが、同じ練習しててもガンって縮むの!

 これが私のタイム?!ってびっくりするくらい!

 ついていけなかったチームメイトについていけるようになったりさ。

 世界が変わるよ、マジで。

 デビュー戦、出るか?ってトレーナーに言われたときはうれしかったな~。」

 

「そうそう、聞いてよ!

 私たち、同部屋だってわかってるはずなのに、バカトレーナーのせいで同じデビュー戦走らされたんだよ!」

 

「あれはムカついたよね~!あんたに負けたのはもっとムカついたけど!」

 

「まだ根に持ってるし!

 もうデビューしたんだからいいじゃん!」

 

ぎゃいぎゃいと、自分らの担当に対する愚痴があとからあとから湧いてくる。

彼女らのトレーナーたちはベテランに足を踏み込みかけた男性トレーナーなのだそうだけれど、抱えている担当の数とその激務に追われて、彼女らのデビュー戦が同じレースに出走登録されていたのを直前まで気づかなかったそうだ。

過去に何があったのかは知らないけれど、慣例的にデビュー戦は寮の同室同士を同じレースにしないよう配慮がなされる、はずだったのが、彼女らの場合それがすっぽり忘れ去られて同じレースにエントリーされていたらしい。

スペシャルウィークのウィニングライブ立ちんぼ事件といい、トレセン中央のトレーナーは高給取りのエリートという話がどうも疑わしく思えてくる。

 

結局、デビュー戦は二人とも他のウマ娘に勝ちを掻っ攫われて、その後の未勝利戦で春デビューを果たしたものの、担当トレーナーを「バカトレーナー」呼ばわりするくらいだ、相当頭に来たんだろうな。

けれど、二人の学年が1年違うのにほぼタメ口でやたら仲が良さそうなのは、逆にデビュー戦のトラブルで怒りの矛先がトレーナーに向いて意気投合したせいかもしれない。

世の中、何が幸いするかわからないね。

 

「ま~、私らのトレーナー、お互い10人近くの担当抱えてるから忙しいのはわかるんだけどさ~。

 時々専属のトレーナーいる娘見るとうらやましくなるよね~。」

 

「うん、やっぱ専属トレーナーって、その子だけを見てるしね。

 担当の娘一人に自分の全力を捧げて、全てを犠牲にしてでも勝たせる、って、あの熱意を向けられたら燃えるよね!

 まぁ私たちじゃ専属のトレーナーなんて夢のまた夢なんだけど。」

 

「二人のトレーナーは違うの?」

 

「「ぜんっぜん違うよ!」」

 

声を揃えて即座に否定された。

 

まあ複数のウマ娘を一人で担当するんだ、一人一人にそれ程力を割けないのも仕方のないことかもしれない。

そう考えると、ゲームのように、一人のウマ娘に惚れ込んで全てを投げうって育て上げる、みたいな専属トレーナーは希少なのかもしれないな。

 

「私のチームは短距離とマイラーだけ集まってる感じ。」

 

「私のチームは長めのマイルと中距離かな~。

 似たような練習をみんなでやって、時々模擬レースやって個々に指導が入る、みたいな~。」

 

「まぁ普段は決められた練習に個別メニューだからそんなにトレーナーの手かからないってのもあるけど、レースが多い時期になると、もうトレーナー、ポカミスだらけで自分でスケジュール管理しないと何起きるかわかんないよね。」

 

「うちのチームは最近、トレーナーにべったり引っ付いてる先輩がいるよ~?

 文句言いながら嬉々としてトレーナーの補佐してる。

 時々トレーナー寮にも押しかけてるみたいだし、怪しいよね~。

 あれはくっついちゃうかも。」

 

「あ、サンちゃんところもいるんだ、世話女房みたいな先輩。」

 

「正直あのトレーナーと?ないわ~って思うんだけどね、まぁ蓼食う虫も好き好き、って言うし・・・」

 

うん、聞いた感じ、ベテラントレーナーに足を踏み込みかけてるって、少なくともアラサー、中等部高等部の年齢の娘じゃおじさん趣味の変り者じゃない限り興味も持たないよね普通。

まして、仕事のキャパ越えててんてこ舞いしてる状態を常に見せつけられてるんじゃ、頼れる感じがまるでしなさそうだし。

 

「二人とも、しっかりした男性が好みってこと?」

 

「ん~、しっかりしているに越したことは無いんだけれど、ちゃんと私一人に目を向けてくれないと。

 大事なデビュー戦のこと忘れちゃう程度の愛情だとちょっとね~」

 

「やっぱ、お父さんと比べちゃうしね。」

 

うんうん、と二人して頷く。

 

「お父さんて、鬱陶しい存在、って思ってるんじゃないの?」

 

廊下で、かのルドルフ会長を撃沈せしめた『お父さんみたいに~』からすると、思春期特有のお父さん嫌い入っているのかと思ったけど、そうでもないらしい。

 

 

「口うるさいとことかはね~。」

 

「でもさ、私ら子供の頃に一回は暴れたりしてお父さんに大怪我させてるから。

 それでも俺の娘だって育ててくれたの考えるとね。」

 

「うん。

 昨日まで一緒に遊んでたウマ娘の友達が、次の日突然いなくなったりしてさ。

 あとで、ウマ娘育てきれなくなったとかで一家離散とか、育児に絶望して父親が失踪とか聞いて、その時はわからなかったんだけど・・・

 物事の判断がつくようになってからさ、自分がパパに大怪我させたとき、もしかしたら私も捨てられてこうなってたのかも、って理解して、パパいなくならないでってギャン泣きしたよね~。

 あの時パパはお前は死ぬまでずっと俺の娘だって、ずっと撫でてくれてたっけ。

 怖かったよね。

 一時期はウマ娘の力とかなければいいのにって思ったもん。

 ヒトとしてもさ、家族としてウマ娘と一緒に暮らすって、理屈じゃなくて覚悟がいるよね。」

 

「まぁ、ウマ娘ってヒトより力強いから怖がる人は結構いるしね。

 けど、私たちが耳伏せて怒ってても、お父さんみたいにひるまずに正面からちゃんと話を聞いてくれるヒトじゃないと、お互い対等な立場でもの言えないじゃん?

 そういう意味じゃ、この学園にいるヒトってトレーナー含めて全員、正面からぶつかれる相手ではあるんだけどさ。」

 

「共働きで食べるのに困らないくらいに稼げて、身体が頑丈で、ウマ娘とまともに向き合って話ができる、って考えるとトレーナーって優良物件じゃない?って高等部の先輩は言うんだけどさ~。

 今のトレーナーって優良物件だと思う?」

 

「・・・ないね。」

 

「だよね~。」

 

ちょっとダメすぎるトレーナーとくっつきそうな先輩がいるらしいけれど、二人とも自分のトレーナーに興味はないみたいだ。

 

話を聞く限り、二人とも中等部にして、意外とシビアにヒトとの関係を見ていた。

そっか、ウマ娘ってヒトと似た姿をしているけれど、中身は猛獣と変わらない、って見方もあるんだな。

自分達みたいな猛獣がたまに怒っても、それを受け止めてなお一緒に生きていく覚悟があるか問うところまで達観している。

その覚悟を、最初に見せてくれるのがお父さんなわけだ。

 

逆に、その覚悟無しにウマ娘の子供ができて、自分の娘を育てきれない!なんて捨ててお父さんが逃げちゃったら、そりゃウマ娘の孤児ってグレるね、確かに。

 

ある意味すごいとは思う。

ウマ娘世界のウマ娘のお父さんてみんなムツ〇ロウさん並の覚悟決めてウマ娘の嫁貰ったり子供育てたりしてるってことだ。

 

同年代の気安さからか、ウマ娘のお父さん事情とか聞いちゃったけれど、俺にはこういうウマ娘家庭でのバックグランドストーリーが全くない。

ウマ娘ならではのヒトとの違いで悩んだことも、苦しんだこともない。

子供の頃のあるある話なんか話題に上がったら頓珍漢なことしか言えないだろう。

 

それらしい経歴をでっち上げようにも、ウマ娘の子供時代を知っていて相談できるウマ娘なんて一人しかいない。

お風呂から上がったらSNSで寝る前にたづなさんに泣きつくか。

助けてたづなえも~ん!

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