ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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昔は椿油でウェットな艶の髪の女の人って結構いましたけど、今は髪型の流行りも全く違うせいかあまり見かけませんね~
割烹とか旅館の女将くらいでしょうか~


湯上りのひと時

そろそろ上がろうか、ということになって、入り口近くのシャワーで温めのお湯を浴びてざっと身体を流す。

ゲムパちゃんはほとんど水を浴びているらしい。

時々冷たい飛沫が飛んでくる。

 

お湯を吸ってずっしり重くなった尻尾を、根元からタオルでしごいて水気を切る。

もうだいぶ手慣れた作業だ。

水気を切った尻尾は細くなって、太いゴボウとか自然薯みたいになってる。

 

 

身体から足元まで水気を拭きとってタオルを身体に巻いていると、ゲムパちゃんはすでに脱衣所の冷水器に飛びついてゴクゴクと水を飲んでいた。

 

「ぷはぁ!生き返る~!」

 

・・・そのセリフはいけない、身体が勝手にビールを求めて生唾が口に湧き出して来てしまう。

ああ、これからの寮生活、ずっと何年もビール無しで生殺し生活か・・・

俺は冷水器を譲ってくれたゲムパちゃんの後に続いて、大してうまくもない水道水を喉に流し込んだ。

 

タオルを巻いたままで、洗濯機を見に行く。

 

「まだかかりそうだね~。」

 

洗濯機は、まだ回っていた。

残り時間の表示を見れば、洗濯終了まであと30分程度。

髪や尻尾を乾かしていれば、そのくらいすぐ経つだろう。

 

後ろをちょっと覗くと、相変わらずドレッサーは満席状態。

壁際のドライヤーはそこそこ空きがある。

 

「アップルサンデーさん、ドレッサー待ちます?」

 

「ううん。

 いつも壁際のドライヤーで済ませちゃってるよ~。

 ベノシちゃんドレッサー派?」

 

「いや、特にこだわりは無いんだけど髪の長い娘がみんな使ってるから使わないとおかしいのかな、って。」

 

「ん~、髪の見栄えをすごく気にする子で一人で手入れするなら必須かも~。

 ちょっといいトリートメントとかヘアオイルとか、髪の量のある子が適当につけるとまだらになって目立つのよね。

 一緒に髪の手入れしあえるお風呂仲間がいるなら見てもらえるからドレッサー使わなくてもいいと思うよ~。

 私なんか、特に外出するわけでもない日はそこまで念入りに髪のお手入れしないし。」

 

「じゃ、壁際でいっか。

 悪いけど二人とも、チェックお願いね?」

 

「「オッケー!」」

 

3人並んで席を確保し、各々ドライヤーで髪を乾かし始める。

 

アップルサンデーさんは、髪が肩に届くかどうかってところなので、片手で髪の束を持ち上げては手櫛で梳きながら風を通している。

もともと癖っ毛だからか、髪の毛を伸ばしはするもののまっすぐにはならない。

乾くそばからぴょこぴょこと毛が跳ね始めてる。

 

ゲムパちゃんは手櫛で、ふわっと髪を持ち上げては風を通して時々癖をつけるように撫でつけている。

湿って塊になっていた髪がすぐにサラサラになって、入浴前のきれいなボブカットに戻っていく。

さすがにまだブラシを通していないから、ところどころ毛が跳ねているのはご愛敬ってところかな。

 

俺が丸めていた髪を解いて、トリートメントを噴いてブラシを通しているうちに、ゲムパちゃんはだいたい乾いてしまったようだ。

彼女はドライヤーを止めて、入念にウマ耳の毛並をしごいて整えると、くるっと身体の向きを俺の方に変えた。

 

「はい、ベノシちゃん後ろ向けてー。」

 

ひょいとブラシを取り上げられる。

 

頭頂部から、サクサクとブラシを手束に刺しては梳き伸ばされていく。

 

俺はというと完全に手持ち無沙汰だ。

 

「あ、ベノシちゃん、頭のてっぺんに傷あるよ?」

 

「ほんとだ、ちょっと血が出てる!ティッシュティッシュ!」

 

棚の上の備え付けのティッシュで頭のてっぺんを押さえると、確かにちょっぴり血がついている。

壁の鏡に映してみたら、ああ、これ笹針刺さった痕だ。

風呂でふやけた傷を、ブラシでひっかいてしまったんだろうか。

 

「ああ、大した傷じゃないから気にしないで。

 たぶんちょっと引っ掻いちゃっただけ。」

 

トンチキな格好の変態笹針師に拉致されて、全身針ねずみにされてトドメに脳天に一撃喰らったときはどうなるかと思ったけれど、彼女の笹針がなかったらこんな穏やかな生活も送れなかったな。

そう言う意味では、一目で俺の状態を見抜いて適切?かどうかはわからないけど治療を施してくれた彼女には感謝するべきなんだろう。

なにせ、あの後たづなさんの億ションに世話になったんだ、力加減が効かないままあちこち破壊して回ってったらと思うと冷や汗が出る。

 

ゲムパちゃんがブラシが血で汚れていないか気にしていたので、ブラシを返してもらって身体に巻いたタオルにブラシをこすりつける。

特に汚れもなかったので、そのまま後ろ髪のブラッシングを続けてもらう。

 

「じゃ、ドライヤーあてるよ~」

 

いつの間にか、自分の髪を乾かし終えて右手に回ったアップルサンデーさんがドライヤー片手に俺の髪を手に取っていた。

ゲムパちゃんは左から。

二人に挟まれて、両側からドライヤーをあてられる。

 

前髪から側頭部へ。

長い髪を持ち上げて、後頭部から髪の末端へ。

髪から水気がなくなると、途端にサラサラと音がするんじゃないかって言うくらい髪が軽くなってわずかなドライヤーの風にすらそよぐ。

二人がかりだから、乾くのも早い。

10分もかからずに、髪は乾いて最後のブラッシングまで終わった。

枝毛もなく、完璧な仕上がりだ。

 

「ありがと~!

 なんか全部やらせちゃったね、ごめんね。」

 

「ううん。

 こんなきれいで長い髪触るの久しぶりだったからいじってて楽しかったよ~。」

 

「じゃー尻尾にうつりますか。」

 

鏡にお尻を向けて、尻尾の手入れ用のオイルを化粧箱から引っ張り出す。

引っ越しの時にたづなさんがくれた椿油だ。

尻尾の毛が濡れた状態で、ちょっとだけつけてブラシで塗り伸ばしすと自然できれいな艶が出るらしい。

 

無造作に椿油の瓶の封を切って、棚に潰した化粧箱と一緒に乗せたら、アップルサンデーさんが目を真ん丸にして驚いていた。

 

「ちょっ・・・それ、大島椿の特選・・・ベノシちゃんいつもそんなの使ってんの?!」

 

「え?いや、引っ越しの時のもらい物だけど、何?これ高いの?」

 

「たぶん、それ一本で諭吉さん飛んでくよ?」

 

「えええ?!」

 

たづなさんが何気なく持たせてくれた椿油は、結構な高級品だったらしい。

ゲムパちゃんはあまり興味がないらしく、へ~、とちょっと目をやったきり、自分の尻尾のブラシかけを続けていた。

 

椿油の瓶の蓋を開けると、ビンに小さな穴が開いているだけで、スプレーがついているわけでもなく、どう塗り広げるのがいいのかいまいちよくわからない。

 

「・・・アップルサンデーさん、これちょっとだけつけて塗り伸ばしてね、って言われてるんだけど、どう塗ればいいの?

 手で塗り広げればいいのかな?」

 

「使ったことは無いんだ?

 ちょっと待っててね。」

 

アップルサンデーさんが、浴場の方に行って、手の平にちょっと水を湛えて戻って来た。

 

「この水に一振り椿油入れて。」

 

言われた通り、手の平に溜まっている水に、瓶を一振りして少量の椿油を浮かせる。

 

「尻尾に塗るからね~」

 

後ろに回ったアップルサンデーさんが、尻尾の付け根のあたりにぽたぽたとその水と椿油を垂らしたかと思うと、ぬるり、と尻尾をしごき出した。

尻尾の根元から、毛先まで、尻尾を掴んだ彼女の手が撫でていく。

そこまではまだちょっとくすぐったいかな、で我慢できた。

毛先まで行くと、今度は指先を、爪を立てるようにして尻尾に潜り込ませて梳いていく。

ぞわぞわした感触が腰から脳天に突き抜ける。

 

「待って!待って!それダメ!」

 

慌てて彼女の手の中から尻尾を取り戻す。

 

これ、アレだ。

他人に肘とか膝とかに指先5本で同時に撫でられるとぞわってくるやつの尻尾版。

頭にメタルシャワーの尻尾版。

自分でやるならたぶん大丈夫だけど、他人にやらせちゃダメなやつ。

 

「まだ塗り切ってないよ~?」

 

「いや、くすぐったくてダメ。

 自分でやるから!」

 

尻尾ブラシを取り出して、毛束の奥まで塗り広げながらじゅっ、じゅっと出てくる水気を毛先の方に押し出していく。

アップルサンデーさんは、まだ未練があるのか、手の平を見ながら、残っているらしい手の平の椿油を自分の尻尾に擦りつけ始めた。

 

「使ってみたいなら、使っていいよ、その椿油。

 教えて貰わないと使い方わかんなかったし。

 お礼替わりってことで。」

 

「いいの?

 じゃ、お言葉に甘えて~。」

 

彼女はいそいそとまた手のひらに水を汲みに行った。

 

二人して、無言で尻尾に椿油を馴染ませる作業が続く。

そろそろ、毛先までなじませたかな、というところで、タオルで尻尾を握って水分を絞り出し、ドライヤーをあてる。

椿油独特のさわやかな香気が立ち上る。

尻尾を乾かすのは髪の毛と比べて楽だ。

尻尾の毛を広げて、ただドライヤーの風を当てていればそれ程毛並の癖とかを気にする必要は無いし。

 

ただ、この椿油、乾かしてみたら、ちょっとアレなことになった。

主に、アップルサンデーさんの尻尾が。

 

濡れ艶、とでもいうんだろうか。

しっとりした濡れ髪のような艶が出て、アップルサンデーさんの黒髪だと、髪の毛と尻尾で艶がまるで違って見える。

尻尾だけ妙な色気が出てしまっている。

俺の方は、白い毛のせいか、艶自体が白さに溶け込んであまり差が目立たない。

アップルサンデーさんは、うれしいような困ったような妙な顔をしていた。

 

「・・・髪にも使う?」

 

「いや、いいよ。

 一日だけのことだし。

 でも、ウェットヘアはありかな~。

 今度試してみるね。

 ありがと~。」

 

アップルサンデーさん、尻尾だけ濡れたような艶が出てしまったのは誤算だったけれど、新たなおしゃれのラインナップに加えることはできたようだ。

 

尻尾も乾かし終わったので、それぞれ着替えて洗濯物を取り出しに行く。

二人とも、パジャマ姿だ。

パジャマを買い忘れた俺は、薄手の短パンにぶかっとしたハーフシャツ。

一緒に洗濯をした寮生は姿が見えなかったので、彼女の洗濯ネットをかごに入れて洗濯機の上の棚に乗せておく。

ドラム式の全自動洗濯乾燥機はコインランドリーで毛布を洗うのに使ったことはあるけれど、普通の洗濯物は初めてだったのだけれども、洗い上りは微妙。

皺だらけだ。

皺ひとつないパリッとした洗い上りが欲しいシャツなんかはちょっときついな。

 

そう言えば、お風呂で使った濡れたタオル、絞ってはあるけれどどうしたらいいんだろう。

 

「ねぇ、お風呂で使ったタオルってどうしてるの?

 またここで洗うの?」

 

「あ~、そりゃ知らないよね~。

 寮の階段上がったところに、古い洗濯機置いてある部屋あったでしょ?」

 

「うん、洗濯機とか冷蔵庫とかある家事室のこと?」

 

「そう。

 あの洗濯機で洗って、部屋のタオル干しに干しておくの。」

 

「服とか日常的に部屋干しするのはやめた方がいいよ。

 干すもの多くなると部屋にカビ生えやすくなるらしいから。」

 

「梅雨時の洗濯物、ランドリーの洗濯機空かなくて、3日分とかため込んでいるときにカビ生えて全滅したことあるからね~。」

 

アップルサンデーさんが苦笑いする。

 

梅雨時、普通にタオル部屋干ししてるだけでもタオルに黒いカビがいっぱい生えてダメになることあるもんな。

まして毎日のトレーニングで汗吸ってる洗濯物じゃ・・・

最近の洗剤や柔軟剤は、抗菌仕様のものが増えているから部屋干しでも臭くなったりカビ生えたりってあまりしないらしいから、街に出たときは抗菌仕様の洗剤買ってこよう。

 

大浴場を出て、家事室でまた洗濯ネットにタオルを入れて一緒に洗濯する。

洗剤はまたもアップルサンデーさんの手持ちにお世話になる。

 

「ここにあるご自由にお使いください、って言う洗剤とか柔軟剤あるでしょ?

 これ、だいたい匂いがきつく残るから苦手だったら使わない方がいいよ~?」

 

「買ってハズレだったら、みんなここに置いてくの。

 新製品の墓場だよね。」

 

道理で何種類も置いてあるわけだ。

 

「洗い上がるまでちょっとかかるけどどうする?

 私たちの部屋でちょっとおしゃべりしてく?」

 

「あ、ごめん。

 明日登校初日だからちょっと準備があって。」

 

「あ、そっか、ごめんね、気付かなくて。」

 

たづなさんが飲み過ぎないうちに相談をしないとな。

 

「じゃ、タオルとかは洗い終わったらここのフックにぶら下げておくから、あとで取りに来て。」

 

言われて見上げてみると、ちょっと高い位置に洗濯ロープが張ってあって、S字型のフックがいくつも引っかかっていた。

 

「じゃ、また明日!」

「時間があったら一緒にご飯しようね!」

「うん、今日はありがとう!またね!」

 

 

友達同士の挨拶をして別れる。

20年ぶりくらいだろうか。

こんな学生同士の付き合いをしたのは。

なんだか急に、自分が中高生だったころに戻ったような、そんな感じがした。

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