ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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学校の先生の当たり外れってひどいですよね~
私は高校の時ひどい先生に当たって数学めちゃくちゃ嫌いになりました~

さて、いろいろ仕込んできた主人公の公的な経歴の伏線回収を始めますが読者さんたちを納得させられるかどうか~


理事長室で作られるナニカ

・・・国語教師は魔法使いか何かなのかだろうか。

 

寒くもなく暑くもないポカポカ陽気に、淡々と教科書を読み上げる抑揚の少ないぼそぼそと喋る声はあっという間に俺の瞼を重くし、時折チョークでカツカツと黒板を叩く音が更に俺の思考力を奪っていく。

ノートは、板書を写そうとして途中からミミズがのたくったように読めない何かになり、気が付くと写していた文章が消されていた時点で、写すこと自体を諦めた。

目の焦点はすでに合わず、寝ていると思われないように目を見開いて、眠気に負けて頭が落ちないよう支えているのだけで精いっぱいだ。

 

そこに、このウマ娘世界特有の似ているが意味の違う熟語やことわざが眠りかけた俺の脳を違和感で叩き起こし、また国語教師の眠りの呪文が延々と続くという、拷問のような時間が1時間以上も続いた。

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴って、気が抜けた途端、ふっと意識を失った。

僅か10分の休み時間、俺は席に座ったまま突っ伏してずっと寝ていたらしい。

休み時間の間誰も起こしてくれず、次の英語の授業でやって来た英語教師に揺さぶって起こされるという失態を演じてしまった。

 

目を覚ました俺の前にいた英語教師は、まだ20代だろうと思われるちょっと長めのボブカットのヒトの女性だ。

怒っているわけではなさそうだったけれど、編入生で初っ端から寝ているふてぶてしい奴、と目を付けられたのか、授業開始早々小手調べとばかりに口語での問答に付き合わされた。

 

道端に爺さんが苦しそうにうずくまっている、という設定で、俺が爺さんに話しかける体で会話をしなさい、ということなので、あっちの世界のネトゲでネイティブから教えて貰った単語を駆使して、腹が痛いという老人に、大丈夫だ、気のせいだ、達者でな、と立ち去るまでを演じたら、そんな小汚い英語をどこで習ったのか、と呆れられた。

いや、腹の痛い老人を世話できそうな単語なんて知らないし。

映画バリに、衛生兵!とでも叫べばよかったのだろうか?

 

この一連の問答は、俺に食って掛かって来たあの黒いクラスメイトに刺さったらしい。

ひっくり返りそうになって派手にガタンと音を立てたと思ったら、しばらく席の後ろの方から、グフッとか思い出し笑いをする声がしていた。

 

トレセン学園の英語の授業は、会話重視らしく、文法をしつこく指導しない。

俺のさっきの会話も、ぶっきらぼうで小汚いがアリです、と言われた。

ただ、使ってはいけない単語などには気を付けるように、と釘は刺されたけれど。

とにかく、下手糞でもいいから相手に意思を伝える努力をしなさい、という会話重視、実践重視の授業だ。

そして、何か間違えても、頭から否定せずに、褒めてから、こっちの表現の方がいいですよ、とやんわり誘導してくれる。

教え方のうまい英語教師だ。

 

国語の時と違って、英語は頻繁に指されて答えさせられるので、緊張感があっていい。

他のクラスメイトも、ちょっとした間違いから結構面白い小話に発展したりしていたので英語の授業は飽きなかった。

国語と比べれば、変にあっちの世界と意味の異なる熟語やことわざがほとんど出てこないのでその辺も楽と言えば楽だ。

 

あっという間に授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

午前中の座学の授業はこれで終わりだ。

 

マーチャンに一緒にお昼ご飯を、と誘われたけれど、呼び出されているのでまた明日、とごめんねして理事長室に向かう。

 

学園生のいる中央棟とは打って変わって静かな事務棟の廊下を通り抜けて、理事長室をノックする。

たづなさんが、どうぞ、と扉を開けてくれたので中に入ると、中央のソファーに彼がいた。

 

「よう!

 来たな、まあ座れ。」

 

ポンポン、と自分の隣を叩いてみせたのは、俺のトレーナーを引き受けてくれたムッター氏だ。

今日は背広姿じゃない。

ニズモのロゴの入った青いジャージを着こんで、いかにもトレーナーです、って雰囲気を漂わせている。

 

「・・モゴモゴ・・・祝賀ッ!ラベノシルフィー、学園への入学を歓迎するッ!」

 

先にお弁当を広げていたのか、扇子で口元を隠しながら理事長からお祝いの言葉を頂いた。

 

「ありがとうございます。」

 

答えながら、ムッタートレーナーの隣の、俺のものらしい弁当が用意された席に座る。

 

「どうぞ。」

 

たづなさんが、熱いお茶を淹れて俺の前に置いてくれた。

促されるままにお弁当の蓋を開けて、箸で料理をつまむ。

もう箸を簡単に折ったりはしない。

 

「食べながら聞いてください。

 あなたのウマ自での経歴を問い合わせて送って貰いました。」

 

スッと、かなり荒い印刷のなされた数枚の紙がテーブルの上に差し出される。

FAXかな?

 

経歴欄、と言っても、読める場所は最後の数行しかない。

上の方の経歴は、マジックで黒く塗りつぶされまくりで、何もわからない。

 

『20XX.4 〇特任務99号甲完遂

 同月 除隊』

 

ラベノシルフィーのウマ自での経歴で、わかるのはたったこれだけだ。

 

「難事ッ!これだけのものを送らせるのにウマ自め、散々ごねられたッ!」

 

「三女神様がどこまで考えてあなたの経歴を作ったのか計りかねますけど・・・

 あなた、ウマ自だとちょっとした英雄って扱いみたいですよ?」

 

「はい?」

 

なにかまたとんでもないキーワードが出てきた気がする。

英雄って何ですか?!

 

「この『〇特任務99号甲』ってものなんですけど、これ、実際に存在する任務じゃなくて、未成年のウマ自隊員が、世間に知られたらウマ自が叩かれかねないような危険な任務を達成した時に記録される符丁みたいなものだそうです。

 過去の例だと、まだ10歳にも満たないウマ自隊員が、鉱山の崩落事故でわずかな隙間に潜り込んで閉じ込められた鉱夫の生存確認と支援を行った際に公式にはこの『〇特任務99号甲完遂』と記載されたそうですよ。」

 

「・・・俺、そんな大それたことやってないんだけど・・・」

 

あの自称女神、いったい何してくれてんの?!

 

「渋々、でしたけど、何をなしたかは、一人のウマ娘を身を挺して助けた人命救助だ、とだけ教えて貰いました。」

 

「・・・・・」

 

なんか、ピンときた。

これ、あのクソ女神の皮肉だ。

俺は、身体ごとこの世界に叩き落されて、無駄になるはずだったこのラベノシルフィーの身体に作り替えられた。

確かに、一人のウマ娘が救われてるわ。

それが人命救助ときたか。

ただのマッチポンプじゃねぇか!

イラっと来て、危うくまた箸をへし折るところだった。

 

 

「おいおい、何耳伏せて怒ってんだよ、おっかねぇな。」

 

「あ、ごめん。」

 

未だにうまく制御しきれないウマ耳が勝手に伏せて怒りを表していたらしい。

心を静めると、突っ張って伏せていたウマ耳の筋肉がほぐれてにょ~んと立ち上がるのがわかる。

 

「まぁ、一般の人には、『〇特任務99号甲完遂』と言われても、何か仕事をやり遂げたんだ、くらいですが、ウマ自の方たちの間では、一目置かれるに値するものらしいです。

 

 で、学園側からあなたにお願いがあるんですが・・・

 ムッターさんともお話ししまして、ウマ自で何か大きな成果を上げたらしい、ってことは公表させていただけませんか?」

 

「変なことにならないならそれは構いませんけど・・・またなんで?」

 

「『〇特任務99号甲』に限ったことじゃないんですけれど、大きな成果を残して卒業するウマ自のウマ娘は、卒業時にウマ自や自警隊のコネを使って、できる限りの便宜を図って貰えるんですよ。

 ウマ自側とのすり合わせはこちらでやりますので。」

 

「言明ッ!未だウマ娘未満の能力しか持たぬ貴女が、このトレセン学園に『捻じ込まれた』理由があれば、わたしもいろいろ楽なのだッ!」

 

ああ、それはなんとなくわかる。

いくら無条件入学が可能な推薦状があっても、明らかに戦力外な俺を一流アスリート専門のトレセン中央に入学させたとなれば、いろいろ突っ込まれることも多いだろう。

けれど、断るに断れない相手からのコネを使われた、と弁明ができると、相手も結構素直に退いてくれる。

その言い訳ができるかできないかで、理事長の負担は大きく変わるはずだ。

 

「わかりました、その辺の匙加減はお任せします。

 理事長にも迷惑おかけしてますね・・・」

 

「無用ッ!これで先の懸案は無くなったッ!」

 

理事長は俄然元気になってパクパクと昼食を口にし始めた。

 

「で、午後は俺のトレーナーとしての初仕事なわけだが、飯食ったら秘書さん、コイツの授業担当になる指導教官とやらに顔合わせさして貰えるかい?」

 

「ええ、職員室に詰めていると思いますので、一緒に参りましょう。

 ラベノシルフィーさんは午後、体操服に着替えたらクラスメイトと一緒に合同教練を受けに向かってください。」

 

ん~、合同教練の指導教官にムッタートレーナーが顔合わせ?

そう言えば、今時期って新入生として入学した学園生のトレーナー探し真っただ中だから、これからトレーナー探しって難しいって言われてた気がするけど、ポッと入って来たへっぽこ編入生に専属トレーナー最初からついてるってちょっとまずくないか?

 

「なぁ、ろくに走れもしない俺に、あんたみたいな名の知れた芸能人が専属トレーナーとして編入直後から付くって、俺妬まれたりしないか?」

 

「心配すんな。

 そういうの全部まとめてぶっ飛ばすシナリオ作ってあるからよ。

 今日のところは俺に任せておけ。」

 

ムッタートレーナーに、首がもげる勢いで髪をわしゃわしゃ引っ掻き回される。

・・・ものすごい悪い大人の顔してやがる。

とてつもなく不安だ。

 

ムッタートレーナーが体育館やらプールやらの利用の仕方をたづなさんに訊いているのもちょっと気になる。

ちょっと待って、プールじゃなくて狭くて深い風呂みたいなのはないかって何訊いてるの?!

ムッタートレーナーの会話を聞いていると、いったい何をやらかそうとしているのか不安しか湧いてこない。

その後一人遅れて食べた結構お高いはずの弁当は、味も献立も記憶に残らなかった・・・

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