ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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とりあえず上げますよ~

頭文字Dの紙コップに水も結構トンデモ訓練でしたがいかがですかね~

次回はまたちょっと先で~


奇抜なトレーニングにもほどがある

「機材はステージの中央に運んでくれ。

 そこが今日からしばらくお前のトレーニング場所だ。」

 

ステージ中央に、ウォーターベッドとローション?

 

「・・・まさかとは思うけど、お笑いのトレーニングじゃないよな?

 そりゃあんたの事務所に籍は置かせてもらったけどさ。

 さすがに芸人修行をしろってなら考えさせてもらうよ?」

 

最初にムッタートレーナーと顔合わせした時に、俺のトレーニング中に撮影した映像の利用やら、何かまずい事態に陥った時、芸能活動だとごまかす隠れ蓑にできるやらで、たづなさん監修の元、俺は彼の芸能事務所に所属していることにはなっている。

事務所には所属するだけで「俺は何もしない」のが基本的な条件だ。

けれど、いざ蓋を開けてみれば今日のトンデモ悲恋話だ。

正直な話、このムッターという男の頭の中から、何が飛び出してくるかわからない。

 

「そこは信用しろよ。

 俺は『ウマ娘の走り』に関しちゃ、何よりも真摯なつもりだ。

 この機材だって、お前の脚を痛めずにトレーニングするには必要なんだ。

 まぁ、やってみればわかる。」

 

ステージの階段を上がり、運んできた機材を下ろす。

 

「俺はもう一往復してくるから、ステージ裏手の非常口出たところの水道に、そのホース繋いで引っ張ってきてくれ。」

 

トレーナーは車に追加の機材を取りに、俺はステージの裾からちょっと行ったところにある非常口までホースリールを抱えてホースを繋ぎに。

蛇口にホースを繋いだら、猫が毛玉にじゃれるようにリールを回してホースを引っ張り出していく。

ホースの先端をもってステージまで引きずってくると、トレーナーはアルミの脚立に持って来たブルーシートをかけて壁を作っていた。

ブルーシートの端を、ウォーターベッドの下に挟み込むようにしてベッドを設置する。

 

「すまんが、水を出してきてくれ。

 俺が合図したら止めてくれ。」

 

「はいよ~。」

 

指示通りに、水を出してしばらく待ち、合図とともに止める。

 

戻ってみると、ステージの中央に、表面が真っ平らな艶々のウォーターベッドが出現していた。

ベッドの、短辺の片側に、ブルーシートの壁がある。

ベッドの下の潜り込んでいるブルーシートとの隙間には、ボロ布の塊が詰め込まれていた。

そして、そのベッドの真上から垂れ下がる、例のワイヤー。

 

タパタパと水音がするな、と思えば、トレーナーが持って来たでかいバケツの中の水に、ローションの元になるらしい白い粉を注ぎ込んで引っ掻き回している。

時々トレーナーが手を持ち上げると、作りかけのローションはとろりと滴りはするものの、トレーナーの手にまとわりついてなかなか落ちず、結構な粘性を見せていた。

 

「よし、こんなもんだろ。」

 

手にまとわりつくローションをベッドの上に振り払うように叩きつけ、さっき持って来たのであろうボロ布の塊で腕をぬぐっていた。

 

「さて、トレーニングの説明をしようか。

 やることは簡単だ。

 お前に、『ウマ娘のピッチ走法』のフォームを叩きこむ。

 あのワイヤーにぶら下がって、脚のつま先でベッドの表面をひたすら撫でるだけの簡単なトレーニングだ。

 脚を蹴り出したら、すぐにベッドの表面につま先を付けて、その表面をトレースするんだ。

 一旦つま先をベッドに付けたら、蹴り終わるまで、離しても、ベッドを揺らすような深い蹴り込みも厳禁。

 OK?」

 

「要するにワイヤーからぶら下がったまま、走るパントマイムみたいなこと続ければいいのか?」

 

「まぁそんなもんだ。

 ウマ娘のピッチ走法ってのはな、スタートダッシュと加速の基本だ。

 腿上げ足踏み運動ってあるだろ?」

 

トレーナーがその場で腿上げ足踏みを披露してみせる。

 

「この動きのまま、身体に前傾を付けて地面につま先を食い込ませて走るのが基本形だ。

 ヒトの走りのように、膝を大きく前に出さない。

 言ってみれば、身体を前傾させて片足ジャンプを延々繰り返すようなもんだ。

 違いは、ジャンプは上に飛ぶもんだが、これは水平に飛ぶんだ。

 ま、やりながらの方がわかりやすいな。

 ジャージは汚れるから脱げ。

 あ、靴下は爪でベッドに穴空くと困るから悪いが履いたままにしてくれ。

 脱いだらハーネスを付けてくれ。」

 

確かに、言葉で説明を聞いただけだといまひとつピンと来ない。

言われるままにジャージを脱いで、靴下を履いたままハーネスを付ける。

ブルマ姿だと、ハーネスは粗い化繊のベルトなので、肌が出ている脚の付け根に直接擦れてちょっと痛い。

股ずれみたいにならないだろうなこれ。

 

ローションの飛び散ったつるつるのベッドの上に乗ると、とろとろとローションが足元に流れてきて靴下を濡らす。

濡れた靴下っていやな感触だな、と思った瞬間、転びそうになった。

思った以上に滑る!

 

トレーナーは自分だけしっかりと靴下を脱いで、裾をめくってすね毛の生えた生足を晒しながらベッドの上に乗ってきた。

トレーナーが一歩足を踏み出すその揺れだけで、足元がぬるぬる滑って非常に危うい。

ここで転んだら体操服ブルマでぬるぬるにまみれるろくでもない絵面になってしまう。

ぶら下がっているワイヤーに掴まって身体を支えていても、なお滑るのだからローション恐るべし。

 

かろうじて二人とも転ばず、無事背中の金具に、吊り下げワイヤーのカラビナを装着してもらうことが出来た。

これでとりあえず転ぶことはない。

危うい足取りで、トレーナーがベッドの上から降りて、滑って転んだ。

TVのお笑い番組でやっていたローション相撲とか、大げさだろうと思ってみていたものだけれど、この滑り様なら納得だ。

 

「ちょっと体勢を調節するから手足の力を抜いてぶら下がっていてくれ。」

 

アクションワイヤーを調節しに、トレーナーがステージ袖に消える。

 

だら~んと手脚を死体のようにぶら下がるに任せていると、ワイヤーが動いて、前傾姿勢で固定された。

思っていたよりもかなり角度が深い。

 

「両脚を抱えて体育座りの格好してくれ!」

 

両脚を抱えて、丸くなる。

結構低い位置で高さが固定された。

戻って来たトレーナーが、指示を出す。

 

「そのままで、腿上げ足踏み運動だ。

 ゆっくりな。」

 

ぱよん、ぱよんと脚がウォーターベッドを蹴る。

ちょっとばかり、胸とお腹のハーネスの締め付けが苦しいけれど、我慢できないほどじゃない。

 

「今、ウォーターベッド表面を蹴ってしまっているだろう?

 それを慣れてないお前が全力で普通の地面でやると、勢いのついた脚を地面に叩きつけるに等しい動作だ、よくて足首捻挫、悪けりゃ骨折だ。

 子供の頃の、体重の軽い時期に身に着けるべきことを、今のお前のウマ娘パワーでやったら脚が耐えられない。

 だからこんなもんが必要なんだ。」

 

脚は、腕の3倍のパワーがあるって言うもんな。

ヒトでさえ、全力パンチで硬いものを殴れば骨折したり捻挫したりする。

それをウマ娘の脚力で、地面という質量無限大の相手に、全力キックかまそうもんなら脚も折れるか。

 

「足首は引きつけて直角に保て。

 その状態で、脚を蹴り出し始めて、つま先にベッドの表面を感じたら、そのままベッドの表面をつま先でトレースしろ。

 つま先でベッドを沈みこませてしまえば、身体は前ではなく上に浮き上がる。

 つま先が離れてしまえば、推進力にならない。

 脚の関節がしようとする円運動を、水平方向の直線運動に変えるのが目的だ。

 まずはゆっくりでいい。

 脚の力を推進力だけに変えるフォームを身体に叩き込むんだ。」

 

トレーナーが指導しながら、さっき作ったローションをダバダバとベッド上に流し込む。

脚を動かすと、ローションでつま先が淀みなくベッドの表面を滑っていく。

俺が脚を蹴り出す度に、後ろにローションの飛沫が飛ぶ。

その飛沫を、ブルーシートの壁が受け止めて、ボロ布に染みこむ。

なるほど、車にこういう機材が積まれていたっていうことは、今日ここに来る前からこういうトレーニングをするよう、最初から予定していたのか。

 

「このトレーニングも記録を撮るぞ。」

 

トレーナーが、ステージ袖からトラックに設置していたビデオカメラを真横からの俺のフォームが写るように設置した。

 

それはいいんだけれど・・・カメラの向こうに見える、安全教練に参加している中等部1年生たちが、こっちを見てひそひそ話をしているのが目に入る。

・・・ああ、そりゃそうだよね。

 

体育館の、ステージという目立つ場所の上で、水音立てながらよくわからないことをしているウマ娘。

加えて、さっきはオペラオーが叫びながら空飛んでいたし。

少なくとも、傍から見ればまじめにトレーニングしてるようには見えないのは確実だ。

 

「・・・トレーナー、せめてステージの前のカーテン閉めてくれない?

 晒し者になってるんだけど。」

 

マットへの飛び込み待ちをしながらこっちへ痛い視線を送っている1年生たちを見ろ、と顎で指し示す。

けれど、どうもこの辺の感覚が芸能人というのはずれているのか、トレーナーはさほど気にした様子を見せない。

 

「こんなの、レース場での人の視線に耐えるいい訓練に・・・

 わかった、耳を伏せるな。」

 

俺の怒りに反応して勝手に伏せたウマ耳に、意外とあっさりトレーナーはステージのカーテンを下ろしてくれた。

・・・意外と便利だな、ウマ耳。

 

分厚いカーテンが下りてくると、体育館に響いていた安全教練の喧騒が遮断されて、静寂と言ってもいい世界が現れる。

これで、何も気にすることなく、トレーニングできる。

 

このトレーニングは、フォームを叩き込むもの、というだけあって、結構繊細だ。

 

ローションで滑りやすくなっているとはいえ、つま先が少しでもベッドに食い込めば、身体の向きがよじれる。

蹴り脚の振る方向が内股や外股になっていると、左右に揺れる。

リズムよく、前後にだけ揺れるようにしろ、とトレーナーは言うのだけれど、なかなかに難しい。

 

それでも、この若く運動神経に優れた身体と脳は、この動きを覚え始めてくれたらしい。

2時間程ぶっ通しでぬるぬると脚を動かしていたら、疲れ切った後半には意識しなくてもベッド表面のつま先トレースがある程度形になっていた。

 

「よし、まぁ今日はこんなもんだろ。

 これをしばらく続けて、ある程度身についたと判断出来たら次のステップに進もう。

 どうだ、少しは信用してくれる気になったか?」

 

トレーナーが滑らないように足元にボロ布をしこたま敷いて、ワイヤーを外してくれる。

ローションを吸い込んだ靴下が気持ち悪いので速攻で脱いだ。

脚の皮膚がふやけてふにゃふにゃだ。

 

「ああ、機材はアレだったけれど、よく考えて準備したもんだってのはわかったよ。

 疑って悪かった。」

 

「わかってくれりゃいいんだ。

 

 で、すまないが明日から俺は収録だからいない。

 実はもう出なきゃまずい時間でな。

 時間が空いたら顔を出すが、しばらくは自主練だ。

 慣れたと思ったら脚の回転一段上げろ。

 

 体育館で教練やってる教官に話付けておいたから、午後になったらすぐ体育館に来てワイヤーに繋いで貰え。

 足はつくから最悪自分でもできなくはないだろ?

 じゃ、すまんが、後片付けは頼むな!」

 

言い終わるや否や、ダッシュで駆け去るトレーナー。

超速で体育館から姿を消した。

 

「え、片付けってこれ一人で?

 ちょっ!

 逃げ足速っ!」

 

残されたのは、ローションまみれのウォーターベッドと、大量のローションを吸い込んだボロ布の山と、俺。

でも、やるしかないんだよな・・・

自分の為のトレーニングの後始末もできないのか、と言われたくないし。

 

拭いて絞ってまた拭いて。

うまいことローションで床が汚れていたおかげで、ウォーターベッドを引きずってステージ袖に移動させられたのは助かった。

水を全部抜いてなんてやってたらどれだけ時間がかかったことか。

大量のボロ布は捨てるわけにもいかないので、空けたバケツで適当に水洗いして、絞って干したよ、体育館のキャットウォークの手すりに。

急いで絞ったら、最初の1枚、絞った途端にネジ切れた。

雑巾絞りの力加減は、軽めに、キュッキュッ!でいいのね。

こういう力加減も、本当は子供のうちに学ぶものなんだろうな。

 

あらかた後始末が終わったのは、夕方4時。

 

急いで寮に戻って、財布と買い物袋を抱えて、府中の街へ。

着替えている暇なんかないから、体操服の上にジャージを着ただけだ。

 

まだアスファルト道路は走っちゃダメ、と言われているので、もどかしい思いをしながらできる限りの速足でイマムラと100円ショップを回る。

パジャマは、合うサイズのものが数がなかったので2着しか買えなかった。

髪ゴムとか、何かと使えそうなマジックテープの荷造りバンドなんかを適当に買って、急いで寮に帰って来た。

門限には間に合ったけれど、結構ギリギリだな。

平日、遅くまでトレーニングしてる学園生なんか、本当に寮に帰ってご飯風呂寝る、の生活だ。

 

無事部屋に帰り付いたのは良かったんだけれど・・・

 

俺が部屋のドアを開ける音を聞きつけてすぐに、生暖かい目をした隣人二人が、突撃してきたんだ。

 

「人は見かけによらないって言うけどさ~まさかあんな物語を隠していたなんてね~」

 

「ね、追いかけてる自警隊のヒトって、一目惚れしちゃうほどカッコよかったの?

 子供の頃ってことは今そのヒトおじさんでしょ?

 歳の差なんて関係ないってか!

 一途だね!」

 

ドアを開けた途端、抱き着いてきてもみくちゃにされながら、もう歯が浮くようなシンデレラストーリー予想をその後の食事でも風呂でもお構いなしに延々と聞かされて、ゴリゴリと精神力を削られた。

 

週末には、この話が広がった状態で、歓迎会に出るんだよな・・・

目が覚めたら全部夢でした、って平穏な日々が戻ってこないかな・・・

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