2022/7/29
改稿
文体を40話前後の書き方に統一しました。
「発光ッ!?たづな、身体が光っているぞッ!?」
「えっ、ええっ?
・・・こんなおっきい子の母となれって、ちょっとっ?!」
思わぬ事態に慌てふためくたづなさんをよそに、彼女を取り巻く光は、数瞬で消えた。
「・・・よもや、先ほどの弁当にタキオンの薬物が?
いや、あれは信用できる業者のはず・・・」
この発光現象を見て、理事長は、この学園きってのあのマッドサイエンティストを疑っているようだ。
呆けていたたづなさんが、まるで錆びたロボットのようなぎこちなさで首を回し、ハイライトの消えた目をこちらに向ける。
「三女神様が・・・三女神様の託宣が・・・ラベノシルフィーさんの代理母となれと・・・」
「ぬなっ!!!」
パタッっと、理事長の扇子が床に落ちた。
復活したたづなさんが、女神の託宣について話してくれた。
ウマ娘は、幼いころにソウルネームが降りてきてウマ娘として覚醒する。
ソウルネームが降りたウマ娘の代謝は急激に活性化し、身体能力が高まると同時に食事量も極端に増える。
しかし、ウマ娘がまだ自立できない状態で、両親が亡くなってしまった場合、幼いウマ娘に残された道は餓死だ。
それを救済する為なのか、自立できない幼いウマ娘を育てることが可能で最も近しい者に『三女神の託宣』という形で代理母を任されるのだそうだ。
子供を託された代理母は、その子供が成人し独り立ちするまでの後見人となる。
託宣による代理母を蹴っても、特に神罰などが下るわけではない。
しかし、それは幼子を見殺しにしたという自責の念が一生付きまとうことになることから、無下に蹴る者はいないのだ。
こういった、三女神の起こす奇跡は、奇跡の価値っていったい何?というレベルで頻繁に起こるのがこのウマ娘世界らしい。
「通常、幼児くらいまでのウマ娘でしか起こらないって聞いていたんですが・・・
こんなことが起こるとなると、三女神様が、あなたに関わっている、というのはこれで確定ですね。」
あの自称女神が『お箸もまともに使えないんじゃ、ひとりでご飯も食べられないね。保護者を付けてあげるよ!』とか言ってる姿が目に浮かぶ。
しかし、事実でもある。
非常に悔しい。
「たづなさん・・・」
「・・・」
彼女は、中空を見つめ、考え込んでいた。
たぶん、彼女の頭の中は、起こったことが起こったことだけに、混乱の真っ最中だろう。
ほぼ会ったばかりの彼女に、女神からの託宣があったからとはいえ、当然のように俺の世話を押し付けるのはいかがなものだろうか。
とはいえ、この身一つしかない俺に彼女に報いる方法はない。
・・・いや、せめて敬意を示そうじゃないか。
「おかあさん、って呼べばいいんですかね・・・」
ブフッ・・・
理事長が噴いた。
一瞬呆気にとられたたづなさんが、地団太を踏んで怒りだす。
「私はまだおかあさんって歳じゃありません!
あなたみたいなおっきい子にお母さん呼ばわりされてたらますます結婚が遅れちゃうじゃないですか!もうっ!もうっ!」
・・・・・
・・・
・
ひとしきりぷんぷん怒ったたづなさんは、はぁ、とため息をつきながら告げた。
「いいでしょう、まぁ、あなたが成人するまでは私が面倒を見ます。
中身は大人だって言ってましたし、手はかからないでしょうしね。
た・だ・し、人前でおかあさん呼ばわりはダメです。
たづなさん、か、おねーちゃんて呼んでください。
いいですね?」
「・・・」
「いいですね?」
「・・・ハイ。」
・・・これからは彼女のことはたづなさんと呼ぼう。
「ところで、住むところはあるんですか?」
三女神の託宣があったことで、俺の置かれた状況がそのままじゃ生存に関わるかもしれないという認識になったであろうたづなさんの判断は速かった。
異世界から送り込まれた際に持ち込まれたものが、こちらの世界にローカライズされたらしいのは彼女もなんとなくわかっているらしい。
しかしそれは、ラベノシルフィーの身の回りのもの以外に適用されるのだろうか?
住処などがその最もたるものだ。
「あっちの世界での自宅の住所は東京都八王子市XXのX-X-Xなんですが・・・」
あっちの世界で住んでいたアパートの住所を告げる。
たづなさんから帰って来た答えは意外なものだった。
「・・・ハチオウジシ、っていうのは聞いたことがありませんね。」
マジか。
この世界には八王子市が無いらしい。
「そういえば、免許証や保険証の住所はどこになっていますか?
先ほどお借りした時は、ざっとしか見ていなかったもので。」
「ちょっと確認してみましょう。」
俺もさすがにぱっと目に付いたところ以外あまり良く見ていない。
財布から免許証を取り出して渡す。
「どうぞ。」
「・・・拝見しますね。
あ、これ、ウマ娘自警隊で発行された免許ですね。」
俺の免許証を表裏と確認したたづなさんがそう言い放つ。
「ウマ娘自警隊?」
「他の国だと軍隊の一種ですか。
ウマ娘なら学歴不問で試験に受かりさえすれば入れて、所属していれば任務に関わる各種運転免許等が年齢制限なしで取得できるはずです。
この免許を使うなら、覚えておいた方がいいですよ?」
自衛隊みたいなものか。
でも、それだと俺、小学校卒業してすぐそのウマ娘自警隊入ったことになるんだよな・・・
警察に職務質問されて身分証明書としてこれ出したらさらに怪しまれるとかありそうで怖い。
ちゃんとごまかせるバックグランドストーリー考えておかないと。
「住所は東京都府中市日吉町・・・
ってこれトレセン学園の敷地じゃないですか!」
「・・・文句は女神のゴドさんにお願いします。」
俺がこの住所にしたわけじゃないし。
俺とたづなさんが自称女神による免許証の住所のつじつま合わせにすったもんだしていた時だ。
理事長室のドアをノックする音がした。
コンコン・・・
「よい、私が出る。」
理事長自ら、扉を開け応対する。
やって来たのは学園の事務員らしい。
「本日の郵便物です。」
理事長に郵便物の入った書類ボックスが手渡され、事務員はすぐに立ち去った。
「今日は少ないな。」
一瞬たづなさんが理事長の方に行きかけたが、理事長が手で制した。
ぱっさぱっさと理事長が郵便物を仕分けていく。
「む?」
机の引き出しを開ける音がしたかと思うと、サクサクと封書を切り開封する音がした。
しばらくの沈黙のうち、理事長が声を上げて笑い出した。
「ははははは!
たづな!たづなよ!これは本物だ!
ここまでお膳立てされるとは、まさに女神の悪戯だ!
こんなことが立て続けに起こるものか!
見よ!これを!」
たづなさんに放り投げるように渡される、えらく古めかしい封筒。
みれば、表の郵便番号欄が3桁だ。
たづなさんがそこから取り出したのは、日に焼けて黄色くなったようなこれまた年代物の透かしの入った書状。
毛筆でミミズがのたくったような文字が数列書かれており、末尾に朱色のでかい印章。
文字は、はっきり言って達筆すぎて俺には読めない。
たづなさんは、それをじっと見た後、ほわぁ~と口から魂を吐きだすかのように脱力してソファーに埋もれた。
「なんて書いてあるんです?」
理事長がいたずらっぽくも覇気に満ちた顔でずいずいと迫ってきて告げる。
「返答ッ!当学園の創設時に100部ほど作られた、白紙推薦状だッ!
この推薦を受けたものは、当学園に無条件で入学することができるッ!
被推薦者はラベノシルフィー、貴女ッ!
この世界に現れたばかりのはずの貴女なのだッ!
まったく、どこから掘り出してきたのだこれはッ!
わたしもこれが実際に使われるのを見るのは初めてだッ!
わたしどころか、前理事長ですらこれを受け取ったことはないだろう!
面白い!実に面白い!」
トレセン学園に、ウマ娘になった、俺を?
これが、あの自称女神の言っていた「素晴らしい新たな人生」ってやつか?
あのちんちくりんはいったい何を考えてやがるんだ・・・
理事長の高笑いの続く中、まるで読めない女神の意図に、俺も思考を放棄してソファーに埋もれるに任せることにした。