ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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や、ちょっと作品ページのあらすじをソフトな感じに書き換えたら、今までにないペースで評価もお気に入り登録も増え始めてびっくりです~

友人からちょっとお高くていいお酒を貰ったので最近ちょっと感想欄のお返事が極力答えないはずが暴走気味になってしまっていますが~

ま、酔っぱらいのやることなのでイイデスヨネ!(酩酊中


タキオンの恩返し?

「・・・なぁタキオン、当然のように俺を共犯に巻き込むのはやめてくれないか?」

 

「共犯とは人聞きが悪いねぇ。

 有効活用だと言ったろう?」

 

タキオンが、せっせとウォーターベッドの表面に、灰色がかったうっすら透けるフィルムを貼っていく。

そのフィルム、幅が1メートルほどで、直径15センチほどのボール紙の芯に何メートルか巻いてあるのだけれど、あっちの世界と同じ値段であればこの1ロールだけで推定50万円はくだらない。

そんな高価なフィルムを、無造作にベッドの表面に貼り付けていく。

これが、タキオンの私物ならまだいい。

困ったことに、これはどうやら学園の死蔵資材らしい。

俺もその貼り込みを手伝っているのだから、もう立派な共犯者だ。

これでもかとばかりに、タキオンは、やっぱりタキオンだと思い知らされた。

 

事の始まりは、つい先ほどにさかのぼる。

 

 

 

 

「・・・準備と片付けに手間がかかる、とは聞いたけれども、納得したよ。

 ピッチ走法へのフォーム矯正に、こんな方法を使うとはね。

 ウマ娘の脚力で万が一にも足を壊さないためのウォータベッド、比較的掃除がしやすい潤滑剤としてローション。

 機材は奇抜だが、理には適っている。

 あいにく、バラエティ番組はおろか、テレビ自体を見ないものでね、ムッターというトレーナーのことは知らないのだが、よく考えられているよ。」

 

体育館のステージ上で、二人して引っ張り出してきたウォーターベッドでどういうトレーニングをするのか、実際にワイヤーにぶら下がってやって見せて説明したところ、ひとしきり笑った後にタキオンが言った言葉だ。

 

「しかし、何も愚直に用意された機材を使わなくても君ならもっと効率的な方法を編み出せそうなものだがね?」

 

「俺はウマ娘の走りの基礎を知らないからな。

 基礎を知らずに、思い付きで工夫したところで改悪するのが関の山だ。

 まずは、言われた通りに経験を積むのは基本中の基本だろう?」

 

「ほう?

 そのムッターというトレーナーは堅実ないい生徒を持ったようだね。

 じゃぁ、ウマ娘の走りの基礎を知っている私から、少々改良案を出させて貰おうか。

 このままちょっと待っていたまえ。」

 

タキオンは、ステージを降りると小走りに体育館から出て行った。

 

10分ほどしただろうか。

制服を埃まみれにして、彼女が何か筒状のものを抱えて戻ってきた。

 

「待たせたね。

 これがあれば、ローションはもういらないだろう。

 さぁ、さっさとベッドに貼ってしまおうか!」

 

1メートルほどの幅の、透けて見えるほど薄いフィルムが巻かれたシートロール。

彼女はそれを、ウォーターベッドの上に転がすと、どうやら粘着フィルムになっているらしいそれの裏紙を剥がしてベッドの端に貼り付け始めた。

 

「ぼさっと突っ立っていないで貼るのを手伝ってくれると嬉しいんだがねぇ?」

 

「ああ、すまん。」

 

ベッドの端に貼り付けられたその表面に触れて、驚いた。

ぬるりと滑るその感触には覚えがある。

 

「タキオン、これ・・・」

 

「わかるかい?

 テフロンフィルムさ。」

 

「ばっ・・・おまっ・・・」

 

思わず言葉を失った。

テフロン。

フライパンの表面加工でおなじみの、熱にも酸にもアルカリにも強く、水も油も両方弾く物質。

平滑に加工されたその表面は濡れた氷の上と同じく、ものすごく摩擦抵抗が少ない。

フライパンに使えるほど安価で便利なコーティング技術として知られているけれど、樹脂加工されたテフロンはちょっと違う。

分厚いものはともかく、こんな透けて見えるほど薄いフィルムになると、値段がドンと跳ね上がる。

さらに、テフロンは水も油も弾いてしまうので、一般的な接着剤が使えない。

粘着フィルム化した極薄のテフロンフィルムロール。

今ここで手で押さえている10センチほどの長さを使っただけで、数千円から万に手が届く値段がするはずだ。

それを、暴れるウォーターベッドの表面に、皺だらけ気泡だらけで無造作に貼り付けていくタキオン。

 

「こんな高価なものを惜しげもなく・・・本当にいいのか?」

 

「ああ、気にすることはないよ。

 私のものじゃないしねぇ。」

 

聞き捨てならないことを聞いた気がする。

 

「・・・今、なんて言った?」

 

「私のものじゃない、と言ったのさ。

 なぁに、理科準備室の隣にある倉庫に、管理もされず埃を被って放置されている資材の一つだ。

 使われずに朽ちていくよりは有効活用してやった方がいいというものだろう?」

 

一瞬でも、タキオンが身銭を切ってこんな高価なものを使ってくれたのかと思った俺が馬鹿だった。

まさかの、学園の高額資材無断使用だ。

俺は、図らずしも、タキオンの共犯者に仕立て上げられたってわけだ。

 

 

 

そして、現在に至る。

ウォーターベッドを二人がかりでひっくり返して、裏にもテフロンフィルムを貼ると、一人でベッドを引きずっても移動させることができるようになった。

とはいえ・・・

 

「新人の事務員の一か月の給料分くらい使っちまったな、テフロンフィルム・・・」

 

「そんなに気に病むことじゃないと思うがねぇ?

 どうせ死蔵されていたものだ、トレーニングに必要だったと言えばあの理事長なんか喜んで許可をくれそうなものだが。」

 

脳裏に、理事長の『承諾ッ!有効活用せよ!』とあっさり許可をくれそうな姿が浮かぶ。

実際、学園の教育カリキュラムにどういう経緯があったのかは知らないけれど、立派な理科室があるにもかかわらず、理科の授業は本当に年に数回、数えるほどしかないらしい。

それも、教科書もなく、ただひたすら投影された動画を見続けて感想文を書けというようなよくわからない理科の授業だという。

実験機材を使うなんてことはまずないそうだ。

理科準備室が希望するカフェ先輩とタキオンにあっさり貸し出されていることからも、理科が重要視されていないのがわかる。

このテフロンフィルムもタキオンの言う通り放置しておけば使われずに忘れ去られていた資材なのかもしれない。

 

「まあ使っちまったものはしょうがないか。」

 

テフロンフィルムを張り付けたベッドの上に、靴下姿で立つ。

ローションのように滑って転ぶほどではないけれど、つま先で表面を掻いてみれば十分滑る。

ローションの後片付けをしなくて済むのなら、ウォーターベッドをステージ袖に引っ張り込んで、ワイヤーを引き上げれば片付けは終了だ。

10分もかからずに撤収準備ができる。

これなら、今日寮の門限ギリギリまでトレーニングすれば昨日と同じくらいはトレーニングできるだろう。

 

「今日奪ってしまった君の時間を少しは返せたかねぇ?」

 

「ああ、これからしばらくトレーニングすることを考えればお釣りがくるよ。

 ありがとうタキオン。」

 

「そう素直に礼を言われると調子が狂うねぇ。

 今日出会ったときはあんなに警戒されていたというのに。」

 

「その警戒を多少なりとも解くことになったいきさつを俺の口から聞きたいか?」

 

「・・・藪を突ついてしまったかねぇ。

 さて、君の特殊なトレーニングは見ることができたし、ここらへんでおいとまするよ。

 シューズの件に進展があったらウマホで連絡するからね。

 ・・・もし、私の研究室に遊びに来るなら甘い茶菓子を持ってきてくれるとありがたいねぇ。」

 

タキオンが、暗に手土産持参でたまに遊びに来いと誘いをかけてきやがった。

残念ながらタキオンの脚自体を強化するような話は提供してやれなかったが、補助具としてのシューズの改良という進展があったことで、多少精神的に余裕ができたのだろうか。

 

ステージを隠す垂れ幕の隙間からひょいと飛び降りると、彼女は振り返りもせずに体育館を出て行った。

 

テフロンフィルムのロールを置いて。

 

さりげなくフィルム無断使用の責任を押し付けていくあたり、抜け目がないというか計算高いというか・・・

でも、実際に使うの俺だしな。

どうせ忘れ去られていたものだ、見つかったところでこれがなんだかわかる者は学園内にそういないだろう。

 

残された俺は、黙々とトレーニングにいそしんだのだけれど・・・

一人でするトレーニングというのは集中しているうちはいいけれど、案外寂しいものだな。

一人で作業することには慣れているつもりだったのだけれど、なんだか急に周りに誰もいないのが気になり始めて、トレーニングを中断して、ちょっとだけステージを隠すカーテンを上げて隙間を作ってしまった。

 

ステージ下の体育館で、安全教練を受けている学園生の喧騒が聞こえてくると同時に、スッと心が軽くなる。

おかしいな、こんな人恋しい、なんていう感情は、ウマ娘になる前でも感じなかったはず・・・なのに。

一人暮らしをして、一人でいるのが当たり前だった時間が長かったはずなのに。

 

急に、知り合いが増えたからなのか、それともこれがウマ娘の身体になったことが引き起こす変化なのかわからないけれど、俺はなんか孤独耐性を大幅に失ったらしい。

 

中等部一年生の安全教練をBGMにして2時間ほどのトレーニングを終えた。

 

タキオンのテフロン改造のおかげで、片付けはすぐに終わる。

 

 

バッグを抱えて寮に戻ると、玄関にヒシアマさんが待ち構えていた。

 

「遅かったねぇ?ベノシ。

 さぁ、準備は万端整っているよ!

 衣装選びに行こうじゃないか。」

 

普段のヒシアマさんとずいぶん様子が違う。

そわそわしていて、なんか今にも駆けだしそうだ。

スリッパに履き替える暇もなく、がっしりと肩を組まれて、寮の奥へ奥へと引きずり込まれる。

 

「ちょ!ヒシアマさん!汗かいてるから先に風呂に!」

「風呂よりも優先することがあるだろう?」

 

そしてそのまま、ズルズルと俺は大浴場のさらに先にある、怪しい部屋に連れ込まれてしまったんだ。

 

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