ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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相変わらず話の進みがカタツムリですがようやく歓迎会ですよ~

9/21 ちょっと加筆しました。


歓迎会・続くサプライズ

まだ暮れていない空に、照明でうすぼんやりと照らし出される屋外簡易ステージ。

すでにスピーカーには火が入り、軽快なPOP系のBGMが小さく流されている。

ステージ前の広場を囲むように建てられた10棟ほどのテントには、大皿山盛りになったオードブルが並び、うまそうな匂いを漂わせていた。

食堂で食事をとりながらステージのある中庭を眺める者、案内に従って外履きで中庭に現れる者。

すでに一風呂浴びてきたのか、室内着姿の寮生もちらほら見受けられた。

 

俺は、と言えば、例の片肩掛けで片足だけカットされた体操用だかローラースケートのステージ衣装だかわからないアメリカンな衣装を着て、借りたトレセンジャンパーを羽織ってステージ裏で待機中だ。

胸元にポンポンのついた小さな無線マイクをくっつけて、出番が来るのを待っている状態。

 

ステージ前の人混みが、一クラス分から二クラス分くらいの人数に増え、食堂も程よく埋まり始めたところで、スピーカーから流れていた曲が止まり、ズン、ズズン、と低音の効いた巨人の足音のようなバスドラムのリズムに変わる。

 

見知らぬスタッフのウマ娘が、そろそろ出番です、とジャンパーを脱いでスタンバイするように伝えてきた。

同時に、わらわらとバックダンサーを務めてくれる寮生たちが集まってくる。

一応、主役である俺を目立たせるためか、バックダンサーはみんな制服着用で統一されていた。

 

バックダンサーは、入学してすぐに本格化というやつが始まってデビュー戦を秋にも控えている、なんていう早熟な中等部1年の経験を積ませるとかいう名目で、すでにトレーナーがついている有望な学園生が栗東寮からも送り込まれて来ているらしい。

要するに、ステージ度胸を付けるための格好の練習台ってわけだ。

中等部1年がほとんど、ということもあって、見覚えのない娘ばっかりだ。

でも、見覚えのある娘もいる。

パイプ椅子を占拠して脚をパタパタさせている栗毛の小柄な娘はマヤノトップガン。

落ち着きなくあっちこっちを見に走り回ってそわそわしているこれまた小さい鹿毛の短髪の娘はビコーペガサスかな?

小さいと言えば、さらに小さい黒鹿毛のおかっぱの娘がいる。

ニシノフラワー、だと思う。

残念ながらガチャで引けなかったウマ娘なので、いまいち記憶があやふやで断言はできない。

少なくとも顔を知っているだけでも将来重賞を何度も勝ちに来るような才能の塊みたいなのが、ステージ度胸を付けるためだけに俺のバックダンサーをしてくれるらしい。

あっちの世界でゲームのキャラとして取り上げられているから顔を知っている、というだけで、実のところこのバックダンサーの中に将来のGIウマ娘が何人紛れ込んでるやら。

ホント、トレセン学園は魔境だよ。

 

ありがたいことに、隣室からゲムパちゃんが、クラスメイトからはヤマネアラジンちゃんがサブを買って出てくれて、両脇を固めてくれることになった。

二人とも、ダンスレッスンでよく顔を合わせるらしく、お互い顔見知りではあるらしい。

まったく観客に臆すること無く、普通にあたし右、じゃ、私は左で、とポジションを決めて緊張を見せることもなく雑談している。

デビューしてステージ慣れするとこんなもんなのか・・・

 

「失敗してもみんな身内だから練習だと思えばいいよ。」

「実技試験でも何でもないんだからおきらくごくらくてきと~にいきましょ~!」

 

緊張して固まりかけている俺に、二人にはそう声をかけてくれたものの・・・

 

ちらりとステージ前を見ると、数百人が、ちらちらとステージに視線を向けているんだ。

これがステージが始まると一斉にこっちを見る。

ステージ上でそんな多くの視線を浴びることなんて、大学の卒業式とかくらいしか経験がない俺としては、緊張で目が回りそうだ。

 

「ほら、しっかりしな!

 みんなが通る道だよ!

 バックダンス引き受けてくれた1年坊も初めて観客を前に踊るんだ、アンタが引っ張ってやらなくてどうするんだい!」

 

緊張で腰が引けている俺に、ヒシアマさんから喝が入る。

 

すっかり垂れ下がってしまった尻尾を持ち上げて無理やり振りまわされて、やめてくださいよ!とじゃれ合うと、ちょっとだけ緊張がほぐれた。

 

・・・そうだ、まだバックダンスやってくれるみんなに挨拶もしていなかった。

 

一塊になって所在無げにしているバックダンサーのみんなに向き直って、注目を集めるためにパン!と一発拍手を響かせる。

我ながら飲み会の締めみたいなおっさんくさい注目の集め方だなと苦笑するも、目論見通りみんなこっちを向いてくれた。

 

「はじめまして、かな?

 今日の歓迎会の主役、ラベノシルフィーです。

 見ず知らずの私の為にバックダンサー引き受けてくれてありがとう!

 私もこんな多くの観客の目の前で歌って踊るのは初めてだけど、歌と踊りに関しては君たちの方がちょっとだけ先輩だ。

 失敗したらフォローよろしく!

 終わったら、俺の金じゃないけど用意された料理、好きなだけ食べていってくれ!」

 

おー!と片手を上げて元気に答えてくれたのはマヤノとビコー他数名。

ぺこりと頭を下げてくれたり、こくりと頷いたりと反応は様々だったけれど、ステージ下の観客の多さに、俺と同じように緊張している者の方が多そうだ。

 

そうこうしているうちに、ステージの照明が落ちた。

スピーカーから流れる音楽が、低音の足音的なものからシンセサイザーのきらびやかなメロディーに変わる。

 

いよいよ出番だ。

スタッフに促され、ステージ横のタラップに脚をかけてステージに上がる。

中央に立つと、下から横から、一斉にスポットライトが俺を照らした。

 

眩しい。

が、ありがたい。

目がくらんだおかげで、ステージ前の観客がはっきりと視認できなくなった。

プレッシャーが減って身体からこわばりが抜ける。

BGMがフェードアウトしてチキチキと小さくエレキギターがカッティング音を奏でるだけのものに変わる。

 

「長らくお待たせしました。

 これより美浦寮編入生ラベノシルフィーの歓迎会を開催します。

 ステージにご注目ください。

 黒豹のような精悍なボディースーツに輝くは流星、ウマ娘自警隊から殴り込みをかけてきた白銀の彼女はこれからトレセン学園にどんな物語をもたらすのか・・・」

 

司会の大仰な紹介が始まる。

例の恥ずかしい自警隊員を追いかけて、の話のあたりに差し掛かると、ヒューヒュー!と観客から指笛のヤジが飛ぶ。

 

がまん、がまんだ。

 

俺は両腕を抱いて、司会の紹介が終わるまでステージ中央で仁王立ち。

一旦リリースされたアレは、一応俺の公式的な身の上話みたいになってしまっているので今更どうしようもない。

とりあえず、今日この場を乗り切れば、俺は一介の学園生になるんだ。

人のうわさも七十五日。

ライバルにもならないウマ娘のことなんかすぐに忘れられるさ。

 

「・・・それでは、話題の編入生、ラベノシルフィーさんから皆さんへご挨拶です!どうぞ!」

 

司会から主導権を渡される。

ブーン、とスピーカーの音調が変わった。

マイクが入ったんだろう。

 

「ただ今ご紹介に預かりましたラベノシルフィーです。」

 

思った以上に、落ち着いた声が出せた。

正直、今更自己紹介する内容なんかない。

噂が先行しているうえに、司会がほとんどしゃべってくれてしまっていた。

だから、もう勢いで一気にまくしたてる。

 

「もう、いろんな噂が出回っちゃってるので、それについてはとやかく言いません!

 私はまだ皆さんに追いつける脚を持っていません!

 しかし、私は!

 私の夢の為に!

 いつかGIの、

 ウィニングライブのステージに立ってみせますッ!

 皆さんと、並び立てるようにっ!

 まずは、これから踊るメイクデビューを、デビュー戦で踊ることを目指してッ!」

 

叫ぶように口上を投げ終えると同時に、打ち合わせすらろくにしていないのに、スタッフの指示で左右からバックダンサーが流れ込み、位置につく。

スタッフのこの辺の臨機応変さは、さすがに場慣れしていると感心させられる。

 

周囲の照明がゆっくりと暗くなり、ゲムパちゃんとアラジンちゃんの待つ中央に立って、二人と目を合わせると、1・2の3で歌い始めた。

 

響けファンファーレ~♪

届けゴールまで~♪

輝く未来を君と見たいから~♪

 

歌い出しと同時にすっと観客からのざわめきが途絶える。

照明が虹色に変化し始め、イントロの歌詞を歌い終わると同時にBGMがどっと流れ込んできた。

 

もうその後は、学園のダンスホールでわずかに練習したのを思い出しながら、バックダンサーとぶつからないように気を使い、サブと動きを合わせ、視線を交わし、で、歌と踊りに必死だった。

 

観客の視線なんかすっかり頭から吹っ飛びかけていた時、ステージ前の観客の中から、合わせるように歌声が流れてきた。

こっちはマイクとスピーカーでそれなりに大きな音で観客に歌声を届けているのに、たった一人の生声がステージ上にはっきりと聞こえてくる。

線の細さを感じさせない、艶のあるハイトーン。

圧倒的な声量。

ふと、その歌声が途切れたと思ったら、聞き覚えのある声で高笑いが聞こえてきた。

 

「いいね!いいね!

 ボクらは人生でたった一度しかセンターを披露する機会のないこの曲!

 君は二度、披露する機会があるんだね!

 君のトレセンデビューを祝ってこのボクが一緒に歌おうじゃないか!」

 

言い終わるや否や、彼女の歌声が、俺の歌声に合流してくる。

テイエムオペラオー・・・いや、一個上の先輩らしいからオペラオー先輩と呼んだ方がいいのかな。

姿は人混みにまぎれてしまっていて見えないけれど、栗東寮から参加を希望してきたというお客さんの一人は彼女だったか。

近々大きなレースがあると言っていて疲れているだろうに、たった一度顔を合わせただけの俺の歓迎会に参加してくれるとは律義な人なんだな。

 

そんな中、オペラオー先輩の声以外にも、小さく別の歌声が重なって聞こえることに気付いた。

観客の中で、彼女以外にも誰か一緒に歌っている学園生がいるらしい。

 

『ボクらは人生でたった一度しか披露する機会のないこの曲』

 

オペラオー先輩の言った言葉が甦る。

 

デビュー戦で勝利した時、たった一回のステージで役目を終えるこの曲。

時には、ステージでこの曲だけを披露しただけで学園を去るウマ娘もいるという。

ダンスの指導教官は言っていた。

最初に教えるこの曲だけは、まずセンターに立つことだけを教えると。

サブやバックダンスは、見よう見まねでいい、まずこの曲でセンターに立てなければ意味はないのだと。

すでにセンターに立って、過去の思い出にしている先輩もいるだろう。

何度もサブやバックを務めて悔しい思いをしている先輩も、このステージ下にはいるかもしれない。

それぞれがいろんな思いをこの曲に秘めているんだろう。

そう思うと、なんか身体が自然に動いた。

短い間奏の合間に、両手を広げて観客にアピールしながら叫んでみた。

 

「良ければ一緒に歌ってください!」

 

振り付けにない動きにサブの二人はちょっと戸惑っていたけど、意図は伝わったみたいだ。

間奏が終わると、自分のパートではない主旋律に歌い出しから二人とも声をハモらせてきた。

 

マイクを付けていないバックダンサーの方からも、ぽつぽつと歌声が重なり始める。

 

観客席側も、オペラオー先輩があまりに堂々と歌声を響かせるものだから、つられたのかだんだん一緒になって歌う人が増え始めた。

 

短い間奏が終わる度に、重なる歌声が一気に増えていく。

 

ラストのサビに入って決めポーズで終わるころには、ステージ上の俺たちの歌声よりも観客側の歌声の方が大きかったくらいだ。

わっと歓声が上がり、盛大な拍手を貰って、ステージは幕を閉じた。

 

スポットライトが落ちて、ステージ照明もゆっくりと暗くなっていく。

 

サブの二人と、バックダンサーに一礼してから、ステージ正面から飛び降りて、ちょっと離れたところでステージを向いて立った。

生徒会の祝辞を正面で受けるための段取りだ。

 

「それでは、生徒会より祝辞を頂きたいと思います。

 生徒会副か・・・え?

 ・・・・・・・

 

 失礼しました。

 

 生徒会を代表してシンボリルドルフ会長よりお言葉を頂きたいと思います。」

 

え?

エアグルーヴじゃなくて会長?

 

司会の方を見ると、ステージに上がろうとする会長に食い下がるエアグルーヴが会長に手で制されて頭を抱えているところだった。

 

ステージ袖に会長が立つと、スポットライトが点灯し彼女を追う。

 

シンボリルドルフ、というウマ娘をまじまじと見たのはこれが初めてだ。

寮の廊下で隣室の二人の愚痴に衝撃を受けてずぶぬれでうなだれていた姿は・・・まぁ気のせいだったということで。

 

スタスタとステージ中央に向かって歩いていく学園の制服を着た姿は、普通の学園生と何ら変わりない。

腰まで届く鹿毛の艶やかな髪と見事に手入れされた尻尾はそれは見事なものだけれど、ただそれだけだ。

 

が、ステージ中央まで到達し、彼女が一瞬動きを止めた後、カツッと靴音を響かせて正面を向き、顔を上げたその所作だけで、その場から音が消えた。

見開かれた目から放たれる射るような彼女の視線が、観客を威圧する。

 

まさに威風堂々、とした様相で、彼女はステージ中央に立った。

これが皇帝、と言われる所以か。

マイクを通さなくても会場の奥まで通るはっきりとした口調で、彼女は祝辞を述べ始めた。

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