ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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考えていた話がどうにも長くなりすぎるんで2話に分けることにしました~

閑話回みたいなものになりますね~


歓迎会の後

夕食を食べ逃してしまい、初めて作ったウマ娘サイズのカップラーメン。

フタの宣伝文句によれば、小腹が空いたときに最適、通常サイズの3.5倍(当社比)、だそうだ。

 

カップラーメン容器の大きさは、DIYで使うペンキ缶をちょっと短くしたくらいの大きさがある。

一個300円前後するので、あまり割安感はないな。

 

何でも、学園生は普通これ一個じゃ到底足りないので、これにパンやおにぎりを合わせて食べるのが普通だとか。

 

とりあえず、今家事室で電気ポットのお湯が沸くのを待っている最中だ。

 

燃費の悪いウマ娘の身体は、一回空腹を覚え始めると、急速にそれが『飢餓』に近い状態まで移行して、動く気力も体力もなくなる。

これは経験してみると分かるけど、結構きついんだ。

ポットがようやく湯気を噴き始めた頃、何度目かの腹の虫の音が響いたと思うと、立っているのすら億劫になってきた。

 

部屋の隅に積み重ねられている座面が緑色のドーナツみたいになっているパイプ椅子を引っ張ってきて、炊事台の前に陣取る。

 

電気ポットから激しく湯気が噴き出してスイッチが跳ね上がって切れた。

すでにかやくもスープも入れて準備万端なカップラーメンにお湯を注ぐ。

この飢餓にも似た状態でカップラーメンから漂ってくる暴力的なスープの香りに囲まれて3分間待つのは拷問に近いな。

 

部屋に持ち帰るような余裕はなく、その場でズルズルと食べ始めたのだけれど・・・

 

突然家事室の入り口から、にゅっとウマ耳の頭が生えた。

 

・・・ズル・・・

 

ラーメンをすすったまま覗き込んできた寮生と目が合う。

 

「・・・誰かと思えば、今日の歓迎会の新人ちゃんか。

 いい匂い漂わせて~、こっちまで食べたくなっちゃったじゃん。」

 

ジャージ姿の彼女の手には、やっぱりカップ・・・うどんか。

赤いパッケージのお揚げの入った憎い奴だ。

さすがにがっつり食べるつもりじゃないらしく、ヒト用の標準サイズ。

 

お湯まだあるか?と訊ねながらごそごそとカップうどんの蓋を開けて横に陣取る彼女に、ちょっと足りないかも、と言いながらまだお湯の残っている電気ポットを差し出す。

 

少し水を足して電源を入れ直したポットは、すぐに蒸気を噴き出して、お湯が彼女のカップうどんに注がれた。

 

ふわりと香る和風出汁の香り。

 

・・・そして、家事室の入り口ににょきにょきと生え始めるカップラーメンの類を手に持った寮生たち。

 

二つのカップ麺の香りはこの階の小腹が空いていた連中をことごとく釣り上げてしまったらしい。

 

夕食の時間からそれほど時間も経っていないというのに、ウマ娘って言うやつはどうも食欲には弱いらしい。

 

そして始まる夜食の宴。

 

中にはレンジで調理する冷凍うどんなんかを持って来たのもいてちょっと分けて貰ったら冷凍とは思えないほどもちもちしておいしかった。

でも、おいしい代わりにちょっと割高なんだそうだ。

 

狭い家事室に、10人を超える人間が、温かいカップラーメンの類を作れば、その香りはすぐ横の階段を伝って上の階に上がる。

 

上の階でも、香りに食欲を刺激されてカップラーメンの類を持った寮生がそれぞれの階の家事室に集まってきているようで、喧騒が聞こえてきた。

 

・・・ちょっとした騒ぎを起こしちゃったかな、ここでカップラーメンにお湯いれたのまずかったですかね?と周りに聞いたら、よくあることだそうで。

 

いい匂いをさせたところで特に何か言われるような事はないけれど、やはり強い異臭がするものはご法度だとは念押しされた。

 

俺が入ってくるひと月くらい前の時期、新入生が入寮した当初は、一回は新入生が持ち込んだおかしな特産品で異臭騒ぎが起きるんだそうだ。

 

 

で、さっきから食べているカップラーメンなんだけど・・・

 

他の寮生が来ちゃったから大口でがっつくのはまずいかなと、ちょっとだけ格好をつけて頬を膨らませない程度にちょろちょろ食べていたんだけど・・・

 

いくら食べても減らない。

 

麺がスープを吸って伸びて膨らんでくるので、そのスピードに負けていると本当に減らない。

 

ウマ娘サイズの欠点だな、これ。

 

しかも、半分食べ終わった頃には同じ味で飽きてきて、余計に箸を遅くする。

 

ようやく食べきった頃には、スープが飲んでもいないのにほとんど残っていないという状態だった。

 

・・・これからは部屋に持って帰って何も気にせず食べるか、ヒト用の標準サイズを複数食べるかした方がいいのかもしれない。

 

 

 

 

そして、お風呂。

 

ほとんど肌に直接触れるような形で衣装を着こんでいたので、今日着てた肌着なんかと一緒に洗濯機に放り込む。

 

紙製の紐みたいな下着はもう他人に見せられない状態になってたので、後で部屋に持ち帰って処分だ。

 

いつもより遅い時間のせいなのか、それともちょうど空いていたのか、洗濯機待ちの寮生がいなかったのでそのまま一人分洗濯機に放り込んでお風呂へ。

 

かけ湯をして、身体を洗って汗を流してから湯に浸かるか、とカランの方へ行くと、なんだか野生児みたいなぼわっとした髪型の鹿毛の小さな寮生が、屈みながら床で何かを探し回っていた。

横を通ろうとすると、待ったをかけられる。

 

「ちょいとごめんよ。

 ちびた石鹸が手から飛んでどっか行っちまってねぇ。

 探してるんだが見つからねぇ。

 悪いが踏ん付けてすっ転ばないように足元注意してくんな。」

 

振り向いたべらんめぇ口調のその小さな寮生は、背丈に似合わぬ巨乳だった。

ロリ巨乳、ってやつか。

 

「こんだけ探しても見つからねぇたぁ、排水溝にでも行っちまったかねぇ。」

 

俺が来るまでに結構探し回っていたのだろうか、腰に手をやって背伸びをしているところを見ると、彼女は探すのを諦めたようだ。

 

一応、俺も石鹸で滑って転びました、なんてコントはごめんなので、足元を見ながら空いているカランへ向かう。

 

真ん中あたりに、椅子も桶もきれいに整頓されたカランが空いていた。

 

椅子も低めの台形のもので、俺の身体に合わないやたらと背の高い樹脂の椅子よりは座りやすそうだ。

 

シャワーでお湯をさっと撒いて、椅子にすとんと腰を下ろしたときだ。

 

「はうっ?!」

 

にゅるりと、尻に何かが入って来た感触があった。

 

びっくりして思わず立ち上がったせいで、正面の鏡に頭をぶつけるところだった。

 

椅子を見たら、保護色で隠れるように、白い椅子の座面に半分潰れた親指大の白い石鹸がそそり立っていた。

 

さっきの小さな寮生が探していた石鹸てこれか。

 

床に落ちてないはずだよ。

 

まさかこんなところに隠れ潜んで獲物を待ち構えているとは・・・

 

どっちにしろ、俺の尻に潜り込もうとした石鹸なんぞ返せるわけもなく、素知らぬ顔でそのまま備え付けのゴミ箱に放り込んだ。

 

・・・までは良かったんだけど。

 

じんじんと、尻が痛み始めたんだ。

 

知らなかったよ、固形石鹸がこんなにも粘膜に対して攻撃性が高いなんて。

 

痛みはじんじんどころか、最後には激痛だ。

 

周りにバレないよう、涙目で痛みに耐えながらずっと尻にシャワーを当て続けるとか、なんていう羞恥プレイだ。

 

今日のお風呂はいつもより長くなった。

 

 

 

 

・・・今日は、何て運の悪い日なんだろう。

 

お風呂から上がると、洗い上がった洗濯物が全滅していた。

 

洗濯機の前でリアルorz状態だ。

 

衣装の表面に描かれていた、金ラメの星の模様が剥がれて、洗濯ものどころか洗濯機の内側にまで細かい金ラメが付着して大惨事になったのだ。

 

洗濯機待ちをしていた寮生に平謝りしながら、風呂場から桶に汲んだ水を何度も運んで洗濯機の内側を掃除する羽目になった。

 

見知らぬ上級生らしい寮生がしょうがないなぁと一緒に水を汲んで手伝ってくれて助かった。

 

他の洗濯物は・・・水道で手洗いしてみたけど、繊維に絡んでしまってるのか金ラメがどうしても落ちないので、ゴミ箱行きに。

 

不幸中の幸いというか、一人で洗濯機を回していてよかった。

 

これで他の寮生の洗濯物を巻き込んでいたら、と思うとぞっとする。

 

 

パジャマを着てその足で、寮長のヒシアマさんのところに速攻で謝りに行く。

 

剥がれた金ラメだらけになった衣装の残骸を見て、ヒシアマさんは笑って許してくれた。

 

「まぁ古いものだからねぇ。

 アンタが最後に着てくれて、役目を終えたんだろうさ。

 水曜と土曜に、施設部の焼却炉に火が入るから、そこでお別れしな。」

 

「普通にゴミ出しじゃなくてなんでわざわざ焼却炉に?」

 

「ああ、アンタの所じゃやらないのかい?

 まぁ最近は気にせず捨てちまう娘も多いけどね。

 そういう長年大事にされてきたもんは、最後は火にくべて天に昇らせるのさ。

 想いのこもったものだ、ゴミと一緒にポリ袋の中、はかわいそうだろう?」

 

「ああ、供養ってことですか。」

 

「わかってるじゃないか。

 寺社仏閣でのお焚き上げ、とはいかないが、長年がんばってくれたもんだ。

 アンタの手で天に送ってやんな。」

 

「はい。」

 

トレセン学園も一応は学校なのに、まだ焼却炉が普通に稼働している、っていうのにも驚いたけれど、最後は火で天に還す、っていう風習が、まだ若いヒシアマさんの口から出てくるのは意外だった。

コンピューター技術なんかは俺のいた世界より発展しているようなのに、日本の昔ながらの風習が思いもよらないところからぽろっと出てくる。

目に見える奇跡をポンポン起こす三女神、なんていう存在があるからかもしれない。

新しいのにどこか懐かしい、あっちの世界でも日本はそんな風に言われていたけれど、ウマ娘世界はそれをもう少し極端にしたような感じがする。

 

まあ郷に入れば郷に従え、焼却炉が稼働しているときに、この衣装には天に還って貰おう。

 

 

部屋に帰ると、もう消灯まで幾許もない。

 

ダメになった洗濯物は・・・金ラメだらけになった小娘の下着なんか普通にゴミ箱に入れてもいいような気もするんだけど、見つかったらゴミを扱う出入りの業者には男性もいるから原型がわからなくなるまで切り刻めとか言われそうだしなぁ・・・

衣装と一緒に天に還って貰うか。

 

ダメになった洗濯物の入った袋を机の上に投げ出してベッドに寝転がると、消灯を待たずに眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

朝。

眩しさを感じて目が覚める。

今日は一週間に一度の休日、日曜日だ。

 

俺のいた世界と違って、ウマ娘世界は土曜が休日じゃない。

トレセン学園だけかと思ったら、世間一般の会社や学校も土曜は普通に出なければならないそうだ。

一応、お昼までの半ドン、だそうだけれど。

俺の両親も俺が生まれたあたりまでは完全週休二日制じゃなかったというから、ウマ娘世界じゃそれが続いている、ということだろうか。

 

眩しさの原因、高く昇った陽に照らされて白く輝くカーテン。

目覚ましもかけずに眠れるだけ寝たので、起きた時間はかなり遅い。

初夏の日差しは、カーテンがあっても容赦なく部屋の温度を上げてくれるので、最近は暑くて敷布団側の背中なんかが寝汗でパジャマと貼り付いてちょっと気持ちが悪い。

 

掛け布団を跳ね上げて上半身を起こすと、布団の中から独特の脂の匂いが立ち上ってくる。

革ジャンやグローブなんかの手入れに使うオイル、とはちょっと違うけれど、新品の革製品から香ってくる匂いに近い。

最初はベッドの匂いかと思ったけれど、違った。

 

尻尾の匂いだ。

毎日お風呂に入ってから寝るので汚れてはいないはずなのだけれど、ここのところ気温が上がってきて寝汗をかくようになってから、どうも尻尾から出る脂の匂いらしいということに気付いた。

悪臭じゃないけれど、おいしそうないい匂いってわけでもない。

 

これが、毎日同じ布団であおむけに寝て敷布団に尻尾をプレスしているものだから、どんどん布団に匂いが移っていく。

敷布団だけでも干せればいいのだけれど、寮の部屋には布団が干せるベランダがついていない。

とりあえずはシーツを洗濯してしのぐしかないのだけれど、布団を干したいときはどうすればいいんだろう。

 

・・・ヒシアマさんに聞くか。

 

 

ベッドから降りた途端に、ぐぅ、と腹が鳴く。

 

さすがに夕食にカップラーメンだと腹が持たないか。

今日は休日なので、寮の食堂はやっていない。

 

買い置きは・・・カップラーメンとカロリーバーくらいしかない。

さすがに連続でカップラーメンは食べたくないので、コーヒーとカロリーバーだけの朝食で済ませることにする。

コーヒーは、カフェ先輩のコーヒーじゃなく、インスタントのラテ。

かなり甘いから、少しは腹の足しになるだろう。

家事室でカップ一杯分のお湯を沸かして、スティックのインスタントラテを投入する。

カロリーバーは有名な黄色いのではなく、量だけはやたら多そうだったキングカロリーとか言う銘柄。

はちみー風味、と書いてあるけど風味であってはちみーが入っているわけじゃなさそうだ。

1本でヒトの一食分のカロリーがあるらしい。

8本入りの袋は、妙に重たい。

 

開けてみると、意外にもホワイトチョコレートでコーティングされたカロリーバーが出てきた。

へぇ、質より量かと思ったら意外とおいしそうじゃん、と齧りついたら、いきなり裏切られた。

 

・・・表面の白いコーティングはホワイトチョコじゃない、ドーナツなんかによくかかっているパウダーシュガーの油漬けだ。

更に歯ごたえが、ねっちょりとコールタールを噛んだよう。

アレだ、アメリカ人が大好きなヌガー系お菓子、ウニッカーズの歯ごたえとそっくり。

煮詰めすぎて固体になりかけた水飴と、噛むと脂が染み出てくる硬く焼きしめた甘い揚げ乾パンを交互に重ねてパウダーシュガーでコーティングしました、そんな感じの食べ物。

これをいっぺんに朝食として食べるのは無理がある。

ウマ娘としての感覚は、『甘いのはうまい』と伝えてくるのだけれど、ヒトの感覚の俺の頭は『こんなもん食い続けたら胸焼けしてひどいことになる』と警鐘を鳴らす。

飲み物に甘いラテを選んだのも失敗だったか。

甘いものを食べて、甘い飲み物で流し込む。

 

大丈夫なのかこれ、と思いながらも、空腹を感じた身体は機械的にこの砂糖と脂の塊を腹に流し込んでいく。

20分も経たないうちに、甘いラテは飲み干されてカロリーバーの空き袋が5つも転がっていて、しかも満足感を感じているのだからウマ娘の身体ってやつは本当にカロリー欲求に忠実なものだ。

 

パジャマを脱いで、ドライヤーで尻尾の脂を飛ばしてブラシを入れ、いつもの動きやすいシャツと短パンの私服に着替える。

 

今日は、ウマ娘世界に来てから怪我やら何やらでずっと乗ってやれなかったバイクのエンジンに火をいれて、見物がてらトレセン学園周辺をぐるっと走ってみるつもりだ。

ウマ娘レーン、なんてものがあるからそれには気を付けなければいけないけれど、基本交通ルールは元居た世界と変わらない。

 

バイクのキーと、雑巾を硬く絞って持ち、部屋を出る。

 

広く土が露出したダートや障害コースのすぐ脇の駐輪場に半月も放置していたんだ、きっと土ぼこりが積もって触るのも嫌って状態になっているはず。

あまりひどいようだったら、午前中は洗車だな。




「いいとこ入った!」
「激痛だよ!」
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