ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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まいど、感想、誤字脱字報告ありがとうございます~
前回は誤字特にひどかったですね~
すいません~

今回はメインストーリー絡みの話ですが、プロット案からだいぶかけ離れた構成に大修正してあります~
最初に書いたのが、あまりにもつまらなかったので~


トレーニングの邪魔になるものは没収です!

バイクのある職員駐輪場へ行くついでに、ヒシアマさんに布団の干し方を尋ねようかと寮長室に寄ったら、寮長室のドアにホワイトボードがかかっていた。

 

『外出中

 急用は携帯までXXX-XXXX-XXXX』

 

ヒシアマさんはおでかけのようだった。

 

そりゃそうか。

寮長と言っても休みなしに働き続けられるわけじゃない。

寮生が多く外出していなくなる休日が一番休みを取りやすいに決まってる。

 

布団の干し方は、別段今すぐ聞かなければならないってことでもないし、明日でもいいだろう。

休暇中にひっきりなしに仕事の電話がかかってくる鬱陶しさは俺も身に染みてわかってる。

ヒシアマさんの静かな休暇のためにわずかながら協力しよう。

 

玄関の脇は、外出する寮生が置いていったスリッパ入りの袋だらけだ。

普段は通学するバッグに入れて持って行くけれど、私服で外出する時はさすがにスリッパ持参というわけにもいかないから、自分のスリッパとわかるように袋に名前やら部屋番号やらを書いて、玄関脇に置いていくものらしい。

1000人近くいるという寮生全員が外出しているわけじゃないだろうけれど、玄関のかなりの面積がこのスリッパ袋で覆いつくされている。

こうしている間にも、私服姿の寮生が靴を履いてスリッパ袋を置いて外に出かけて行った。

 

スリッパ用の棚も置こうと思えば置けるのだろうけれど、そうすると足の踏み場が無くなってしまう。

一番初期の段階ではここ美浦寮も棟数がもっと少なくて、扉のついたロッカー式の下駄箱なんかも置けていたのかもしれないけれど、増築を重ねて、出入り口が基本この玄関一つ、という管理方式だと1000人分はさすがに無理なので今の方式になったんだろうな。

 

俺も、スリッパを袋に入れて隅っこに並べて置いて、寮の外に出た。

 

 

 

駐輪場につくと、案の定俺の赤いバイクCPZ900Rは土ぼこりまみれだった。

 

メーターの表面に積もった土ぼこりで、メーターの数字が読めない。

さすがに、ここまで積もっていると、硬く絞った雑巾なんかじゃ追いつかないし、こすれば傷がつきかねないので、やはり洗車した方が良さそうだ。

 

駐輪場の付近を捜して回ると、駐輪場の隅っこに簡易的な流し台と水道があったのでそれを拝借することにする。

石でできた四角い柱に、安っぽい蛇口が生えているあれだ。

 

ムッタートレーナーが体育館に置いていったホースリールを持ってくれば、楽に洗車はできるだろう。

 

とりあえずホースリールを持ってきて、水道に繋ぐ。

ハンドル周りと、シート周りに軽く水をかけながら雑巾で撫でるように土ぼこりを流す。

バイクの押し歩きで身体に触れそうなところを、ざっと絞った雑巾で拭く。

 

バイクのすぐ近くに自転車や原付は置いてないけれど、それでも水しぶきが飛ぶかもしれないので、もう少し離れたところまで押して行ってそこで洗わないとな。

 

最低限押し歩ける状態になった愛車にキーを差し込んでハンドルロックを外す。

そしてそのままキーをONに。

 

メーター下にあるインジケーターに赤と緑のランプが灯り、スターターボタンを押せばエンジンがかけられる状態になる、はずだった。

 

インジケーターに、光が灯らない。

 

キーをOFFに戻してもう一度ONにしても、うんともすんとも言わない。

 

「バッテリーあがりかよ・・・」

 

半月放置したくらいじゃ、バッテリーがあがるはずはないのだけれど・・・現実は無情だ。

 

困ったことに、ウマ娘世界に堕ちてきたときはこのバイクと着の身着のまま、バイクを整備するための機材はまるまるあっちの世界のアパートの中だ。

自分でバッテリーを充電することができない。

そして、このバイクを買った店がウマ娘世界にないのが大問題だ。

バイク屋っていうのは基本的に他の店で買ったバイクの整備を嫌がる。

こういう出どころのしれないバイクの整備を引き受けてくれるお店を探すだけで一苦労だ。

 

かといって、滅多に使わない高価なバッテリー充電器を買って、整備のための工具を買って、それでもだめだったら新品のバッテリーを買って・・・と考えると、どう転んでも数万円レベルの出費になるのが簡単に予想できて俺は頭を抱えた。

 

どっちみち、今日バイクで周辺探索をしよう、っていう計画は今この時点で潰えた。

 

ジャバジャバと無駄に出続ける水を止めに水道まで行き、水を止めて振り向くと、どうしたことか。

バッテリーが上がっていたはずのバイクのテールライトが赤々と点灯している。

 

一時的な接触不良か何かだったのかと、急いでキーをOFFにしにバイクの下に戻る。

エンジンがかかっていないと、ヘッドライトやテールライトが馬鹿みたいに電気を食うので本当にバッテリーが上がってしまう。

 

メーター下のインジケーターの見慣れた赤と緑の光が見えてきて、あと一歩でバイクに触れられる、という距離まで近づいたところで、点灯していたインジケーターやテールライトが一斉に消えた。

 

触ってもいないのに動作が不安定とか、故障だとしたら一番嫌な故障の仕方だ。

 

バッテリーは生きている、ということがわかったので、接触不良を起こしそうなスイッチ類をONOFFしてみたり、コンコン叩いてみたり。

しばらくバイクの周りをぐるぐる回りながらいろいろ手を尽くしてみたけれど、バイクは沈黙したままだ。

 

いよいよ修理を引き受けてくれる店を探さなければならないかとげんなりしながら、洗車だけ終わらせてしまうかとまた水道の栓を開けにバイクのそばを離れると、カッチ、カッチと背後から聞き慣れたウィンカーリレーの音がし始めた。

 

さっき弄り回したときにウィンカーのスイッチを入れたままだったらしい。

それが、当たり前のように点滅を繰り返している。

 

おいおいおい、と踵を返して近寄ると、バイクはまたすべてのライトを消して沈黙した。

 

・・・バイクにからかわれているような錯覚に陥る。

 

ふと思い立って、バイクを見つめたまま後ろ向きにバイクから離れる。

 

バイクに触れられるギリギリの距離を超えたとき、またバイクのランプ類が一斉に点灯し始めた。

 

そこから一歩でも近づくと消える。

 

結界でもあるんじゃないかと思えるくらい、バイクから一定の距離を境界線に、バイクのライト類が点いたり消えたりする。

 

まるっきりオカルト現象だ。

 

でもなあ・・・そのオカルト現象の代表格が、俺、ラベノシルフィーって言うウマ娘だ。

俺と一緒にウマ娘世界に堕ちてきて、このバイクもこの世界の似たバイクに改変されているのもある意味一緒だ。

あの駄女神、バイクも持ち込めるようにしてくれるとは言っていたけれど、『無事に』とは一言も言ってないし。

 

何せ、バイクは別名アイアンホース、鉄の馬だ。

ウマ娘世界に持ち込まれたバイクに魂が宿っていて、半月も放置したせいで拗ねている、みたいな話になっていてもおかしくない。

 

しばらく悩んだ末に、カフェ先輩がこの手の心霊現象に詳しいのではないかと思いついた。

あの『お友達』と長年連れ添っているんだ、こういう怪奇現象には俺より断然詳しいはずだ。

 

せっかくの休日にカフェ先輩の手を煩わせてしまうのは申し訳ないけれど、平日に私用で時間取らせるのはもっとまずそうだしな。

手が空いていてくれるといいけれど・・・と祈りながらウマホで初めてカフェ先輩に電話をかける。

 

 

コールすること数回で、カフェ先輩の落ち着いた喋り声がウマホから聞こえてきた。

 

「マンハッタンカフェです・・・

 休日に連絡をくれるって、お出かけのお誘いですか?」

 

「えと、ちょっと困ったことになりまして。

 カフェ先輩、心霊現象とか詳しかったりします?」

 

「・・・そこそこは。

 何か不可思議な現象に会いましたか?」

 

「ええ。

 バイクを持っているんですが、久しぶりに動かそうとしたら、近寄るとバイクが沈黙するっていう妙な現象に出くわしまして。

 故障とは思えませんが、その手のことを相談できそうなのがカフェ先輩しか思い浮かばなかったものでご相談を。」

 

数瞬の沈黙の後、電話の向こうからバタバタと慌ただしい音とともに張り詰めた声のカフェ先輩の声が聞こえてくる。

 

「・・・そのオートバイに触れないようまず離れてください。

 今どこですか?

 すぐ向かいます!」

 

学園の職員駐輪場だと伝えると、10分ほどして、小脇に小さなバッグを抱えた、黒いパンツルックのカフェ先輩が走ってきた。

半袖のレース飾りのついた白いシャツに黒いサスペンダーが映えてとても凛々しい。

 

「無事ですかっ!」

 

バイクからちょっと離れた縁石に腰を下ろして待っていた俺とバイクの間に割り込むようにして足を止め、埃まみれのバイクを睨む。

カフェ先輩は、俺の身体が無事では済まないような事態を考えてすっ飛んできてくれたらしい。

 

「バイクの電源が入ったり切れたりするだけなんで何かが飛んできたりとかそういうことはありませんよ。」

 

バイクがまともに動かない、というだけで他に害はないので、のほほんとした口調で彼女に答えると、幾分か彼女の身体から緊張が抜けた様だった。

 

「・・・悪いものが取り憑いた時というのは、自分の存在をアピールしようと悪戯を仕掛けてくることが多いんです・・・」

 

カフェ先輩はそう答えると、俺とは違う方向の空中に向かって彼女は小さな声でつぶやいた。

 

「・・・お願い、できるかしら・・・」

 

瞬間、バイクに残っていた土ぼこりと付着した水滴が、爆ぜるように全部吹き飛んだ。

微かに、バイクが揺れはしたけれど、他に何も起こらない。

 

「え?

 悪いものはいないけど触れられ・・・ない?

 あの白いのの最初と同じ?」

 

彼女がつぶやくと同時に、俺のほっぺたが両側から押し潰されてぐにぐにと強制的に百面相させられる。

『お友達』か。

最初、『お友達』は俺に触れられなかった。

何故かカフェ先輩と再会したときには、触れられるようになっていたけれど。

 

「・・・あのオートバイ、あなたの世界から?」

 

「ええ。」

 

それを聞いたカフェ先輩は宙を見据えて何か考え込んでいたけれど、ウマホを取り出して電話をかけ始めた。

 

「怪異の類ではないかもしれません・・・

 もう一人、この手のことに詳しい同級生がいます。

 

 ・・・今日、彼女、いるかしら。」

 

カフェ先輩が、電話で同級生とやらを呼び出してしばし。

 

「・・・来たわ・・・」

 

その相手がやってきたらしい。

 

栗毛、というよりは鮮やかなオレンジ色の癖のあるショートヘアのウマ娘。

そして私服・・・だと思うのだけれど、白い巫女服に緋袴を着込んで右手には祓い串を、左手にはなぜか水晶玉を持って土煙を上げながら走ってくる。

彼女はカフェ先輩の前でビタッと止まると癖のあるやかましい声で叫びはじめた。

 

「呼ばれて飛び出てマチカネフクキタルですっ!

 カフェさんっ!

 神霊の御業かもしれない摩訶不思議なことが起こっているのはここですかっ?!

 

 ややっ!こちらのお方はっ!

 

 今日の占いに出ていましたっ!

 

 本来交わることの無い縁が結ばれるだろうと!

 

 感じます!

 その身体を満たすウマ娘に似て異なる魂!

 あなた、流れビ・・・もがっ!」

 

カフェ先輩が素早くフクキタルの口を押さえて低い声で言い含める。

 

「フクキタル、何でもかんでも勢いのまま口にするのはやめて。

 彼女は、流れ人だということを喧伝したくはないの。」

 

フクキタルが、口を塞がれたままこくこくと頷く。

カフェ先輩の手が、ようやくフクキタルの口元から離れた。

 

「ぷはぁ~、失礼しましたっ!

 改めまして、マチカネフクキタルですっ!

 噂の編入生の方ですね?」

 

「噂はともかく、編入生のラベノシルフィーです。

 フクキタル先輩、でいいんですかね?」

 

「そうですね、カフェさんと同期ですから、あなたの先輩になりますっ!

 あなたがカフェさんと一緒にいると言うことは、やはりそういうことなんでしょうか?」

 

「ええ、三女神様絡みの怪奇現象の類ならフクの方が詳しいかもしれないと思って。

 ちょっと見て貰えませんか?」

 

「任せてください!

 ・・・と言いたいところですが・・・まずは何が起きているのか教えて貰えませんか?」

 

「ええと、このバイクなんだけど・・・」

 

先ほどまでの現象を、ウィンカーを点けて実際に再現してみせる。

二人がバイクのそばにいても何も変わらないけれど、俺が近づくとバイクがぴたりと沈黙する。

 

「摩訶不思議ですねぇ・・・ラベノシルフィーさん、バイクの近くに立っていてくれませんか?」

 

「フク、危険はないのね?」

 

少し警戒した声でカフェ先輩が訊ねる。

 

「こちらに来る前の占いでは、凶兆は出ていませんっ!」

 

「ならいいんだけれど。」

 

食い下がることなく引くあたり、彼女はフクキタル先輩に信頼を寄せてはいるようだ。

俺はバイクの傍らに立った。

 

フクキタル先輩が、祓い串を腰に差すと、ちょっと離れたところから水晶玉越しに俺とバイクを眺めながら空中に空いた手を躍らせて何か唱え始めた。

 

「ふんにゃか~・・・はんにゃか~・・・全てを見通す偉大なるシラオキ様・・・何が起きているのかお教えくだされ~・・・ふんぎゃろ~・・・はんぎゃろ~・・・」

 

本当にふんぎゃろとか言うんだ、とか思いながら眺めていると、一瞬ボゥ、とフクキタル先輩の目に青い炎が宿ったように見えた。

 

「キェェェイ!

 でましたっ!

 【誓約を果たせ、さすれば戻る】とのお告げですっ!」

 

「えっと、それはどういう?」

 

「ラベノシルフィーさん、最近何か神に誓って、とか、誓いを立てたりしましたか?」

 

考えるまでもない。

 

「神に誓って、というのは無いですね。

 三女神にもてあそばれている感が強くてアレに誓うなんてとてもとても・・・」

 

「・・・三女神様をアレ呼ばわりとか罰が当たっても知りませんよ?

 まぁ・・・神様は気まぐれ、とは言いますが・・・

 ・・・シラオキ様が『誓約』とお告げを下されたあたり、あなたの誓いが関係していることは間違いありませんっ!

 知らず知らずのうちに、誓いを立てていたのではありませんか?

 あなたの人生に関わる宣言とか・・・」

 

「人生に関わる宣言ねぇ・・・

 タマモ先輩とオグリ先輩が卒業するまでに併走できるくらい走れるようになってみせる、と言ったことか・・・

 GIのステージに立つ、ってのは俺から言い出した事じゃないし・・・ってオイ、マジか・・・」

 

『GIのステージに立つ』と口にした瞬間に、一瞬だけバイクのインジケーターが光った。

 

「・・・それみたいですね。

 神様が、誓約を交わす際に、大事なものを取り上げる、というのは神話によくあるパターンですし。

 取り上げられたものは、誓約が果たされるか、もしくは履行不能になった時に返ってくると思います。

 あなたの場合は、GIのステージに立った時点か、もしくは志半ばでGIのステージに立てなくなった時点、トレセン学園を去る時、というところでしょうか。

 あ、安易な道を選ぶと、大抵ろくなことにならないので誓約を果たすべく努力はした方がいいですよ?」

 

・・・頭痛がしてきた。

GIのステージに立つ、なんてのは、俺が抱える問題を全て解決して、ウマ娘として走れるようになった更にその先にある、まだ見えてすらいない高い山の頂だ。

正直な話、そこに至れるという確証が一切持てない、夢みたいな話でしかない。

それを果たすまで、俺は相棒に乗れないって言うのか?

 

「つまり、俺は神に誓ったわけでもないのに、誓約交わしたことにされて、大事なバイクを召し上げられた、ってことか。

 ・・・ハァ・・・。

 三女神にもてあそばれている、っていうのはこういうことなんですよ・・・」

 

ため息しか出ない。

相棒のバイクは壊れたわけでもなく、GIレースなんていうクソ高いハードルへの挑戦を終えるまではおあずけ、ってわけだ。

 

「三女神様に目をかけられる、っていうのも良し悪しなのね・・・

 元気を出して。」

 

「ま、まぁまぁ、原因はわかったのでいいじゃないですか!

 お告げを下されたシラオキ様に感謝を!

 シラオキ様ありがとうございます!

 りぴーとあふたーみー!」

 

同じ神でも、シラオキ様に罪はない。

むしろ協力してくれたからここは素直に感謝しておくべきか。

 

「・・・シラオキ様ありがとうございます。

 

 カフェ先輩、フクキタル先輩、貴重な休日の時間を使わせてしまってすみません。」

 

「お役に立てたなら何よりですっ!!

 これを機にシラオキ様の偉大さをもっと知って貰えれば!」

 

「私はあまり役に立てなかったわ・・・」

 

「いえ、カフェ先輩がフクキタル先輩を呼んでくれなければ何もわかりませんでしたよ。」

 

ちょっとシュンとするカフェ先輩を慰めていると、早くもグゥ、とお腹が鳴った。

あれだけ甘いものを詰め込んだのに、カロリーバーだけじゃやっぱり持たないか。

 

「そういえばお腹が空く頃ですか・・・

 今日はタキオンさんもいませんし、あちらでご飯などいかがですか?」

 

カフェ先輩が、校舎の方に視線をやる。

あちら、というのは二人の根城にしている理科準備室のことだろう。

 

「おお!

 お昼は何にしようかと占おうと思っていたところです!

 よろしいのですか?!」

 

「そういえばフクは私のコレクション部屋に招いたことはなかったわね・・・

 大して面白いものがあるわけでもないけれど・・・」

 

「いえいえ!

 ややっ!

 何かビビっときました!

 今日はスープカレーと天ぷらがラッキーご飯ですっ!

 間違いありません!」

 

「・・・また妙な取り合わせをリクエストしてくれるわね・・・

 ラベノ・・・ベノシちゃんは、食べたいものはありますか?」

 

「カフェ先輩が作るんですか?」

 

「まさか。

 リクエストに応えて大抵のものは作ってくれるお店が近くの商店街にあるので、そこに宅配を頼むんです・・・

 味は保証しますよ?」

 

フクキタル先輩が、スープカレー、などと言ったものだから、カレーが食べたくなってしまった。

 

「そういうお店なら料理は統一した方が早く来そうですね、私もスープカレーにしましょうか。」

 

「私もそうしようかしら・・・

 じゃ、頼んでおくから二人ともあとで理科準備室に来てください・・・」

 

カフェ先輩はくるっと踵を返して校舎の方に歩き出す。

 

「了解しました!

 着替えてきますね!」

 

慌ただしく駆け去るフクキタル先輩。

 

うん、純白の巫女服にスープカレーが飛び散ったらそりゃ大惨事だもんな。

 

おれも、バイクを片付けて、カフェ先輩の待つ理科準備室に向かわないと。

 

 

 

 

バイクは、カフェ先輩のお友達が土ぼこりも水滴もきれいさっぱり吹き飛ばしてくれたおかげで洗車した後のようにピカピカだ。

 

これから先、へたをしたらトレセン学園を卒業するまで、こいつに乗ることはできないらしい。

気が付くと、自然と手がタンクを撫でていた。

 

「・・・バイクカバー、買わないとな。」

 

こいつをここで寝かせることがほぼ決定、とはいえ、そのまま放置していたんじゃまた土ぼこりだらけになってしまう。

カバーくらいはかけてやりたい。

 

車体を立ててサイドスタンドを外し、元あった駐輪場の屋根の下に押していく。

ハンドルロックをかけてキーを抜く。

 

ホースリールを巻いて、それを片付けに体育館へ向かいながら考える。

 

なんで三女神が俺からバイクを取り上げたのか。

 

 

・・・逃げ道を、塞ぐためなんだろうな。

 

 

フクキタル先輩の言う誓約の件で、あの駄女神ゴドが俺をどうしたいのか、なんとなく見えてきた。

ウマ娘世界の理に従って、悲劇で終わった俺の世界の馬、ラベノシルフィーの運命を覆してみせろ、ってことなんだと思う。

 

俺をトレセン学園に放り込んで、レースに出るように仕向け、GIレースで勝て、と誘導されている。

 

なら、ラベノシルフィーが故障したレースは、きっと初夏に行われるGIレースのうちのどれかだ。

 

ウマ娘、というコンテンツでは、ウマ娘となった名馬が悲劇的な結末を覆すIFの世界を描いていた。

この世界が、それに準拠したものなら・・・俺は運命のレースを走り、レース中の故障という悲劇を覆すか、故障してなお復活してみせなければならない。

 

 あっちの世界の馬の運命を背負って生まれてきたウマ娘は、自然とその運命をなぞる。

 

しかし、俺はラベノシルフィーというウマ娘の身体に、全く異なるただのヒトの魂が入り込んだものだ。

 

運命の拘束力が、その分弱いんだろう。

 

そう考えると、三女神の他に例を見ないレベルだという過干渉にも納得がいく。

 

本来ならば、ラベノシルフィーはこの世界の誰かの子として生まれ、彼女の持つ能力と運命の導きで、この身体はトレセン学園に入り、順調にレースを重ね、とあるGIレースに出場して故障するはずだった。

そして、もしかしたら復活してハッピーエンドを迎えるのが本来のストーリーだったのかもしれない。

 

それが、ラベノシルフィーという馬の魂はこれ以上の転生を拒んで消えてしまった。

代わりに、俺をラベノシルフィーというウマ娘に作り替えてウマ娘世界に捻じ込んでみれば、三女神がこれでもかと誘導してやらないと、ラベノシルフィーの運命から脱線していこうとする。

 

何故俺がラベノシルフィーの運命をなぞらないといけないのかは三女神にしかわからない都合があるんだろうけれど、あの駄女神ゴドは俺がバイクに乗ると、その運命からの脱線が修正できない程大きくなる可能性があると踏んだに違いない。

 

結局、神の手のひらの上で踊らなければならないのは変わらないのだけれど、逆に俺はある程度適当に過ごしていても、運命から逸脱しそうになれば神からの干渉という修正が入るわけだ。

 

文字通り神に見放されない限り、運命のGIレースには無理やり立たされるし、立てるよう鍛え上げられる。

 

そういうことなんじゃないだろうか。

 

もしかして、GIレースに出ることを目指して頑張ってさえいれば、意外と好き勝手しても構わないのか?

 

馬としてのラベノシルフィーは、俺が見たレースで終わった。

 

でも、その運命のレースをウマ娘として乗り越えれば・・・三女神は目的を達して干渉しなくなり、俺は自由な余生を送れる?

 

何せ、コンプレックスの元だった足の遅さはこの身体になって克服し、女性になってはいるけれど、とんでもなく若返っている。

あっちの世界と違って、ウマ娘世界ではレース中に重大な故障を発生しても命を失うわけじゃない。

走れなくなってしまったとしても、元ヒトの俺はそれで人生を悲観して衰弱するようなこともない。

車椅子生活になってもしぶとく生きるだろう。

そして運命から逸脱しがち、ってことは、その故障が確実に発生するかも怪しい。

もしかしたら、そのGIレースに出て、五体満足で普通にその後の生活を続けられる可能性もある。

 

その考えに至って、急に目の前が開けた気がした。

 

ホースリールを体育館のステージ袖に押し込み、同じ場所に転がっているウォーターベッドを眺める。

 

これを使った練習をまじめにこなしていれば、たぶん俺はウマ娘の走り方というのを身に着けられるんだろう。

この世界の神が、俺を導いているんだから。

 

ホースリールを体育館において、俺は駐輪場に戻ってきた。

 

「絶対また乗ってやるからな。」

 

パンパン、とシートをはたいて長年の相棒に声をかける。

こっちが、俺の本当の誓約だ。

 

グゥ、とこのタイミングで腹の虫が鳴く。

 

何とも締まらないな、と思いながら、俺はカフェ先輩の待つ理科準備室に向かった。

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