ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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えーと、のちの話につながるダメ押し的閑話です~

前回のフクキタル登場も本来なかった話だったので、もう少し掘っておこう、というのもありますが~

フリの押すなよの回数は多いほど良いというので~(白目


スープカレーパーティ

理科準備室。

 

相変わらず薄暗い部屋に、タキオンの実験器具が妖しげな光を放つ中、カフェ先輩が淹れてくれたコーヒーをお供に料理が届くのを待つ。

フクキタル先輩がパステルカラーのフード付きパーカーにキュロットパンツというラフな格好で帰ってきて、さっきから弾丸トークが止まらない。

 

「おおおお!

 ではあなたの世界にも寺社仏閣があって、お守りや破魔矢、お札にお祓いなどの儀式も存在すると!

 

 ならば、にゃーさん!

 招き猫はありますかっ!?」

 

「ありますよ。

 商売繁盛の福を招くとして歴史あるお店にはよく置いてあります。」

 

「世界を超えて幸運を招くとはっ!

 やはりにゃーさんこそが最強の幸運グッズ!」

 

目をキラキラさせて感涙にむせぶフクキタル先輩の、にゃーさんとやらの数々のご利益の話を聞いていると、廊下の方からガラガラと台車を転がすような音が聞こえてきた。

 

コンコン、と扉を叩く音がする。

 

カフェ先輩が扉を開けると、配達の人が料理を届けに来たらしい。

 

「こちらにお願いします。」

 

案内されて、配達の人が入って来る。

運送関係なら大パワーのウマ娘かな、と思ったら、普通のヒトのおにーさんだ。

 

スープカレーだから大きな器にラップでもされてくるのかと思えば、なんかラップで蓋をされた寸胴鍋を持って来たよ。

その後に、ご飯の入った旅館なんかでよく見るおひつと、盛り付け用の深い皿やスプーンやフォークの入ったカトラリーケース。

料理人がいないだけで、出張料理サービスとあまり変わらないものが一式、どんどん運び込まれてくる。

 

配達人が伝票を渡してカフェ先輩が財布を取り出したので、慌てて割って入る。

 

「お世話になったのでここは私が!」

 

「後輩におごらせるわけにはいかないわ・・・」

 

「コーヒー豆も頂いていますし、貰ってばかりでは・・・」

 

「あれは私が好きでしているのだもの・・・」

 

支払いをさせて貰おうとするけれど、なかなか、カフェ先輩が退いてくれない。

俺とカフェ先輩が支払いですったもんだしているときに、フクキタル先輩は我関せずといった体で、鼻歌を歌いながらテーブルセッティングをしていた。

 

「じゃぁ、今度カフェ先輩が気に入ったコーヒーのブレンドを見つけたとき、また分けてください。

 それの前払いってことで。」

 

「わかりました、今日はごちそうになります。

 でも・・・あまり貸し借りを意識されるとそれはそれで寂しいですよ?」

 

うっ、それを言われると・・・ちょっとカフェ先輩との距離感を見誤ったのかもしれない。

何だろう、あっちの世界の人付き合いよりも一旦仲間と認識されると急激に距離が近づく気がするな。

ウマ娘同士の気安さ、みたいなものがあるんだろうか。

 

「準備は万端です!

 いつでも食べられますよ!」

 

空気を読まずに、鼻息も荒くフクキタル先輩が準備ができたことを宣言する。

ようやく支払いの権利を得た俺は、伝票を貰って支払いを済ませた。

配送含めて8000円ちょっと。

見た感じ、料理屋で頼んだ時よりも、3人前鍋ごと、ってことで、普通のウマ娘サイズよりさらに量が多そうだ。

配送料考えなければ割安なんじゃないだろうか。

 

「夕方に鍋とか回収しに来ますんで目に付くところに出しておいてください。」

 

まいど~、という挨拶を残して配達の人が去る。

 

ソファーの前の長テーブルにはどこから持って来たのか、白いテーブルクロスが敷かれ、真ん中にデン、と天ぷらの盛り合わせが。

それぞれの席の前には深いスープカレー用の皿とご飯用の皿が、料理が盛られるのを待っている。

フクキタル先輩が床に置かれた寸胴鍋のラップを剥がすと、スパイシーなスープカレーの香りがあたりに広がった。

バジルと玉ねぎらしいものが浮いた澄んだオレンジ色のスープの中に、チキンレッグや細長く4分割されたニンジン、カリフラワー。

ヤングコーンに焼きナスやウズラのゆで卵らしいものも見える。

フクキタル先輩の頼んだてんぷらはてんぷらで、天つゆで食べるのではなく、このスープカレーにトッピングするように具材が選ばれたのか、薄切りのカボチャや獅子唐、サツマイモに・・・これはゴーヤか?そういったカレーに合いそうな具材が揃っていた。

ご飯は、黄色いけれど、さすがにサフランじゃないな、ターメリックライスだ。

ほんのりとバターの香りもする。

 

「さ、いただきましょう!」

 

「フク、今日のご飯は彼女が奢ってくれるそうよ。」

 

「ごちそうさまですっ!」

 

何のためらいも葛藤もなく、フクキタル先輩はおごりを受け入れてくれた。

このくらいあっさり受け入れてもらえるとうれしいな。

 

よーく煮込まれたチキンレッグを一本ずつ、その周りに彩りのいい野菜を配置して盛っていく。

それを受け取ったフクキタル先輩が、さらに天ぷらを載せ、カフェ先輩がターメリックライスを配膳する。

 

「それでは・・・」

 

「「「いただきます!」」」

 

「(ぱくり)

 おおおお!

 これでもう今日の幸運は約束されました!

 お腹に幸運が満ちていきますっ!」

 

「・・・これは・・・あとを引くおいしさですね。」

 

スプーンに載せたターメリックライスをスープに沈めて、食べる。

玉ねぎの甘みとコンソメの利いたスープに、ご飯がほどけていく。

スパイシーだけど、口の中にひりつくような辛さが残らない。

スープの味わいだけが残る。

チキンレッグは、フォークで刺しただけでホロホロと崩れるほど柔らかい。

短時間で用意できるものじゃないから下ごしらえして冷凍でもしておいたのだろうか。

それとも、圧力鍋で調理したのか。

スープが肉の奥の奥まで染みていて噛み締めるごとにうまみが出てくる。

人参も、大きく長くカットされているのがうれしい。

噛む度にニンジンから甘さが染み出てくる。

フクキタル先輩が天ぷらを一緒に頼んだ時は、カフェ先輩ともども妙な組み合わせをすると思ったけれど、スープカレーと野菜の天ぷらってこんなに合うんだな。

ただ揚げた野菜と違って、衣がスープを吸って後入れトッピングなのに最初からこのために作られたんじゃないかってくらい合う。

 

「商店街の隠れた名店なんです。

 小さなお店をおばさんとその息子さんが切り盛りしてるんですけど、本当に作れない料理が無いんじゃないかってくらいなんでも作れて・・・

 しかもこの味に、お手頃なお値段で・・・近場でいいお店が無い時はここで作れるか聞いてみるといいですよ。」

 

辛さをそれほど感じない、のは舌だけなのか、3人ともじんわりと額に汗がにじんできていた。

ポケットからハンカチを出して滴りそうになる汗をぬぐいながら食べる。

 

寸胴鍋の中には、まだまだ量がある。

あと2回くらいお替りしても大丈夫だろう。

ターメリックライスがちょっと心もとないかな。

突然、フクキタル先輩が背を反らせて悶えた。

 

「おうっふ!

 辛い!

 当たりを引いてしまいましたっ!」

 

「・・・獅子唐ですか。

 たまにすごく辛いのありますよね・・・

 私のは辛くなかったですよ?」

 

フクキタル先輩の天ぷらの獅子唐が激辛だったらしい。

涙目になりながらスプーンでスープを掬って口の中の辛さを洗い流している。

 

「辛いものにはフクキタル、ですか。

 ・・・ぐぁっ!」

 

フクキタル先輩の当たりを引いた姿を尻目に齧った獅子唐の天ぷらから、辛みというより痛みに近い何かが口いっぱいに広がる。

 

スープ、じゃ間に合わない。

目に付いたコーヒーを湛えたカップを掴んで一気に流し込む。

 

「ややっ!

 大当たりですね!」

 

俺が獅子唐の大当たりを引いたのを見てフクキタル先輩が仲間、とばかりに満面の笑みを浮かべている。

えふえふと咳き込む俺を見てカフェ先輩が冷たく冷えた水を冷蔵庫から出して来てくれた。

受け取った水を口の中で転がしてまだ痛む舌を冷やす。

 

「フクの占いは当たるのはいいんですけれど、おまけも良く当たるんですよね・・・」

 

「心外な!

 人生万事塞翁が馬、大吉の運勢がやってくるのならばこんな些細なことなど気にすることでもありませんっ!

 さ、カフェさんもぜひ大当たりを!」

 

「あっ!」

 

フクキタル先輩が菜箸でつまんだ獅子唐の天ぷらの最後の一個を、カフェ先輩のスープカレーの中に投入する。

天ぷらの衣の隙間から覗いた艶々のきれいな緑色をした獅子唐が『俺こそ最強だ』とばかりに何ともいえない妖気を放っているように見えた。

 

カフェ先輩が無言で獅子唐をフォークで突き刺して、フクキタル先輩のスープカレーの中に移そうとするのを、フクキタル先輩がクロスさせた菜箸で受け止める。

 

「・・・!」

 

「ぐぬぬぬ!」

 

一進一退の攻防の果てに、獅子唐の天ぷらはフォークからポロリと落ちた。

 

「「あっ!」」

 

ひゅん、とどこからか小皿が飛んできて、床に落ちる寸前だった獅子唐の天ぷらをキャッチする。

獅子唐の天ぷらを載せた小皿はそのまま寸胴鍋の近くに着地すると、寸胴鍋からニンジンやヤングコーンなんかがふわふわと空中を浮いて取り出されて小皿の上に乗った。

 

「ごめんなさい、あなたも食べたかったのね。

 食べてもいいですよ、どうぞ。」

 

ススス・・・と小皿が滑って、物陰に隠れる。

お茶をねだったり、料理を食べたがったり、食い意地が張ってそうなところはやはりお友達はウマ娘なのだろうか。

 

「・・・カフェさんの『お友達』ですか。

 いつもながら面妖ですねぇ。」

 

「?

 フクキタル先輩にも見えないんですか?」

 

「見えませんね。

 幽霊の類ではないようなのですが・・・」

 

と、フクキタル先輩が話を続けようとしたとき、小皿が隠れた物陰からガシャンと何かが割れる音がした。

ドスンバタンと何かが暴れるような音が聞こえて、盛大に埃が舞い上がり、物陰を作っていた棚が揺れる。

 

「・・・大当たりだったのね・・・」

 

パタパタとカフェ先輩がまた冷蔵庫に冷えた水を汲みに行った。

 

彼女が手にしたコップが、差し出す前に取り上げられるように空中に浮いて傾けられる。

水は・・・減りもしなければこぼれもしなかった。

でも、何かが、水を飲んでいるように、コップの中の水が揺れる。

 

「カフェ先輩のお友達って、普通にもの食べられるんですね。」

 

「いえ、食べている仕草だけで食べ物そのものが無くなることはないんです。

 時々気まぐれに食べるものを欲しがるのでこうしてわけてあげるんですが・・・

 好き嫌いがあるので味はわかるのでしょうけど・・・

 フクにも見えないとか、温泉で溺れるとか、私にもよくわかりません・・・」

 

「この世は、何もかも理解できるものばかりではありませんっ!

 これはそういうもの!

 それでいいじゃありませんか!」

 

両手を掲げて、あるがままを受け入れましょう!と叫ぶフクキタル先輩。

 

うん、まぁ俺もそういう謎生物みたいなもんだからそうしてくれると助かる。

 

カフェ先輩がコップを片しに行ったタイミングで、フクキタル先輩が袖を引っ張って、俺にこそっと耳打ちした。

 

「・・・どうやってカフェさんのお友達を手懐けたんですか?

 普通だったら、あなた、お友達にギッタンギタンにやられてると思いますが・・・」

 

「ギッタンギタンって、なんで私が・・・」

 

そう答えると、フクキタル先輩が、テーブルの上のカップに目をやる。

 

さっきまでコーヒーの入っていたカップ。

獅子唐にやられて、中のコーヒーは俺が全部飲み干した。

 

その殻のカップの縁に残る、淡いリップの跡。

 

「あっ!」

 

カフェ先輩のカップを取り違えて、飲み干してしまっていたらしい。

 

「これも内緒でしょうから口にはしませんがあなた、元は・・・」

 

フクキタル先輩の唇が、声は出さないものの『お・と・こ』とはっきり形にした。

 

神がホイホイ奇跡を起こすわ、見えないのに物理干渉してくるお友達はいるわ、魂の色から性別まで当ててくる霊能力持ったウマ娘はいるわ・・・

これだからウマ娘世界ってやつは・・・

 

「・・・ですよね?

 普通ならお友達がカフェさんに近寄る不埒な輩と激高して・・・いだだだ!

 やめてくださいっ!

 ウマ娘の腕力でアイアンクローはっ!

 こめかみがっ!額がっ!

 わ゛れ゛て゛し゛ま゛いま゛す~!」

 

悪戯っぽくニヨニヨ笑いをするフ・ク・キ・タ・ルに、なぜかこうしなければいけない気がしてその顔面をがっしり鷲掴みにした。

・・・まあ俺の大して大きく無い手ではこめかみをかろうじて掴めるかどうかというところなんだけれどそこは有り余る腕力で指先を食い込ませる。

トレセン学園に入ることが決まっていなかった頃はまだしも、曲がりなりにも女子高、しかも寮はトレーナーすら入れない男子禁制の場所で、元男です、なんて吹聴されたらトラブルの元にしかならない。

余計な口は、封じておこう。

 

「フクキタル先輩、口は禍の元、私のプライバシーはお口にチャック、いいですね?」

 

「ほんぎゃ~!

 チャック、チャックしますから!」

 

一応言質はとったということで、手を放す。

 

フクキタル先輩は痛みに悶えていたはずなのに、口元がだらしなく開いてなんというか、こう・・・あれだ、アヘ顔決まっててきしょい。

 

「・・・いつの間にか二人ともずいぶん仲良くなったんですね・・・」

 

手をタオルで拭いながらやって来たカフェ先輩が隣に座る。

 

「いえ、さっき獅子唐にやられたときに、カフェ先輩のコーヒー間違えて飲んでしまったのをからかわれまして・・・

 その、ごめんなさい。」

 

「・・・謝られるようなことじゃないと思うのですけれど・・・

 冷めてしまわないうちに残りを片付けましょう。」

 

皿が空になったらお替りをめいめいでよそって食べる。

 

3杯目になるとターメリックライスが冷めてきてしまったのと、スープカレーの大きな具はあらかた食べてしまったのもあって、お茶漬けのように直接ターメリックライスに粉々になった具の溶け込んだスープをかけて締めにする。

 

俺にアイアンクローを喰らったフクキタル先輩は、幸運が足りていませんでした! と寸胴鍋に残ったスープをあらかた平らげて、お腹をぽんぽこりんにしていた。

 

「「「ごちそうさまでした。」」」

 

きれいに空になった寸胴鍋の中に、皿を積み重ねて入れて廊下に出しておく。

 

食後のコーヒーをいただきながら改めて二人にお礼を言う。

 

「この後はどうしますか?」

 

「門限前に、一回街まで出て、生徒会へのお礼を買いに行こうかと。」

 

「そういえばそんな慣例もありましたね・・・

 会長は、リンゴが好きだそうですよ。

 特にふじ、っていう品種が。」

 

「生徒会は近寄りがたい、とは言っても、人の出入りは多いですから、数があるものが喜ばれる気がしますっ!」

 

ふむ、いい情報を貰った。

喜ばれるものを贈るに越したことはない。

 

フクキタル先輩は毎週恒例の古物商巡りに、カフェ先輩はしばらく読書をしてお腹がこなれたら新しく手に入れたコーヒーの生豆の焙煎とテイスティングをするそうなので、お食事会は解散となった。

 

ふぅ、お腹が熱い。

 

はて?

何か前にもこんなことがあったような?

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