出張先から投稿です~
主人公がウマ娘世界に堕とされた後に実装されたイナリワンとの邂逅ですね~
実はこの話の前に書いていたのは、もうちょっと重いプールでの話でした。
けどその話はちょっと先送りにします。
休日明けて、月曜日。
朝のホームルームで、期末試験の日程が発表された。
試験は2日間で、赤点は追試。
休み時間に聞いた話だと、落第はないけれど、追試で合格点を取るまで補習&追試が延々続くらしい。
夏の合宿があるチーム所属組にとっては、追試は何としても6月中に終わらせたい代物だとか。
「一発でクリアするって考えはないの?」
クラスメイトのヤマネアラジンがなんだか追試は既定路線、みたいな話をするので、訊ねてみたら、
「追試なしで一発クリアできたことなんかありません!」
ふんす!と鼻息荒く胸を張って答えられた。
「一緒にこの難関をクリアしましょうね、今月中に。」
俺の手を取って、仲間ですからとキラキラした目を向けられる。
・・・グランマーチャン、真面目そうなのにお前も追試確定組なのか。
というか、期末試験の日程発表があってから見まわしても、クラスの中で試験なんか普段から予習復習をしていれば何でもない事でしょ!とかいいそうな優等生が見当たらない。
それどころか補習と追試が7月に食い込んで最後まで残るのは誰かとかトトカルチョが始まっている。
不本意なことに、編入生の俺もその有力候補に名が挙がっていた。
失敬な。
そりゃ、このウマ娘世界の常識は知らないし、歴史やら地理やら国語やら、似ているのに微妙に違うことが多くて合っていると思ったことが間違っていたりすることが結構あるから一発合格できる!と自信を持ってはいえないけどさ。
・・・ていうか、もしかしなくてもこのクラスって、座学落ちこぼれ気味の生徒搔き集めて基礎から教え直すためのクラスなのか・・・
後ろの席の方じゃ、ローゼンドルネンが机に突っ伏したままどんよりした雰囲気出してるし。
こいつも追試はオトモダチっぽいな。
予鈴のチャイムが鳴って、クラスメイトが自分の席に戻り始める。
1限目はスポーツ生理学だ。
数少ない、あっちの世界とあまり違わない内容かと思いきや、ヒトの身体とウマ娘の身体とで呼び方が違う部位があってこれまた混乱させられるので、覚え直さなければならないことがあってがっくりさせられた授業でもある。
この若いウマ娘の身体、若いだけあって記憶力は格段に良くなってる気はするんだけど、それと授業中眠くなるのはまた別の話なんだよなあ・・・
午前の眠い座学を終えて、食堂に向かっていると、ヴィ~!とウマホが振動した。
電話の着信だ。
発信主は、ツインターボ。
通話ボタンをタップすると、周りに聞こえるくらいのでかい音量でターボの声がスピーカーから流れてくる。
「あ!出た出た!
もしもし?
ダメノシルフィー?」
「・・・ラベノ、だ。
ラ・ベ・ノ!
ターボ?」
「うん!ターボ!
今食堂!
イナリもいたから一緒にご飯食べよー!」
ウマホで通話しながら、食堂に入ると、カウンターに並んでいる列の方から、ウマホのスピーカーから流れてくる声と同じ声が聞こえてくる。
声の主はすぐに見つかった。
青髪の小柄なウマ娘なんてそうそういないからすぐわかる。
向こうもこっちを見つけたのか、こっちを見てぶんぶん手を振ってくる。
こっちに気を取られて、列に大穴が開いているのを、ターボの後ろにいたツインテールの小さなウマ娘が押して列に戻している。
あれがターボの言うイナリワン、ていう同室の先輩かな。
ターボよりも小さいのに、タマモが言っていた「チビ巨乳」って言うのも納得の胸をしている。
髪の毛が癖っ毛気味なのか、ツインテールがポンポンのように広がって自己主張しているのもあって、一度見たら忘れられないくらいのインパクトがある。
「料理受け取ったら、席とっておいて。
テーブルで合流しよう。」
「わかった!」
ターボの元気な返事を聞いて、ウマホを切る。
食堂の料理は、定食になっている物や人気メニューなんかはカウンターそばに設置されている棚にどんどん補充されていくので、さっさと食べたい学園生はそこから取っていく。
例のニンジンが突き立った三段ハンバーグなんかは棚に並べるそばからなくなっていく人気メニューだ。
出来立てがおいしいものや、麺類とか作り置きが利かないものは、カウンターで注文して作って貰ったり大釜などからよそってもらう。
昨日の晩は素うどん5玉なんていう炭水化物と塩分だけの夕食だったので、野菜マシマシで。
山盛り野菜炒めとスープ代わりにロールキャベツ、マカロニサラダとご飯の組み合わせ。
野菜炒めとロールキャベツはカウンターで注文して、マカロニサラダとご飯はセルフサービスで自分で盛る。
野菜炒めは山盛り、というだけあって、刺身を盛るような大皿に自分の頭と同じくらいの分量。
ロールキャベツは飽きるかもしれないのでちょっと控えめに。
マカロニサラダは、普通の炒飯くらいの量。
ご飯はどんぶりに軽く山盛りくらい。
あっちの世界でよくテレビでやってたフードファイトとかで出てくるような量が、もう当たり前になってしまった。
これでも、たまに食べ終わって物足りない感があるのが困ったものだ。
自分の肩幅よりも大きいトレイに料理を載せて、ターボの青い髪を探す。
中央よりちょっと奥まった柱の陰にターボの姿を見つけたので、空いている隣の席にトレイを置いて座る。
「お待たせ、ターボ。
こちらが、同室の先輩の?」
テーブルを挟んで正面に、小さなウマ娘が腰かけている。
右耳に着けているのは狐面風の耳飾りかな?
ちょっと変わった趣味の先輩かもしれない。
澄ました顔で片目をつぶってこっちをうかがうように見ている。
「うん!イナリワン!
ターボの相棒!
イナリ、これが編入生のヤエノシルフィー!」
「ラベノだっての。
・・・あ、初めまして。
中等部2年のラベノシルフィーです。」
「なんでぃ、風呂で会った白いのじゃねーか。
高等部3年のイナリワンだ。
ま、話は食いながらしようや。
せっかくのうまい飯が冷めっちまう。」
風呂で会った、と聞いてちょっと記憶を探ってみる。
・・・ああ、あの石鹸無くしたって言ってた小さいのがそうか。
あの時は髪の毛おろしてて、なんかジャングルから飛び出してきた野生児みたいな姿だったから同一人物だと気付けなかった。
石鹸にまつわる痛い思い出はそっと記憶のゴミ箱に捨てておこう。
パン、と両手を合わせて、目の前のイナリワンがいただきますをしてどんぶり飯を掻き込み始める。
牛丼と、けんちん汁、かな。
二つのでかいどんぶりを交互に掻き込んですごい勢いで中身が無くなっていく。
ターボは定番のニンジンハンバーグ定食だ。
けど、ハンバーグの段数が2段で、ご飯もスープも器が小さい。
ターボよりも小さいイナリワンが倍くらいはありそうな量を食べているのに、ターボは随分少食らしい。
大きな紙ナプキンを胸元に挟み込んで、服が汚れないよう前掛け風にしているので、ターボも良家の出なのかと一瞬思ったけど、違った。
単純に食べ方がお子様だ。
絵にかいたようなわんぱく坊主が食事に齧りつく所作で、ソースは垂れるし、ご飯はこぼすし、口の周りは食べ始めてすぐべたべたになっていた。
紙ナプキンの前掛けが無かったら制服はどろどろに汚れていただろう。
ふと、正面のイナリワンと目が合う。
テーブルの上に積まれた紙ナプキンの束を見やって、ターボの方に顎をしゃくる。
・・・ふむ。
やれ、と。
紙ナプキンを手に取る。
「ターボ、こっち。」
「ん~。」
ターボは、紙ナプキンを構えた俺を見ると、拭かれ慣れているのか、すぐ俺の方に口先を突き出してきた。
ご飯粒とソースでべたべたになったターボの口周りを拭ってやる。
・・・いや、これ、慣れちゃダメな奴じゃないか?
甘やかしすぎなんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、タン、とトレイに空になったどんぶりが置かれる音がする。
「ごっそさん!」
イナリワンが、正面で合掌して食事の終わりを告げていた。
俺、まだ一口も料理に手を付けていないのに。
とんでもない速さだ。
目を白黒させていると、イナリワンが不敵に笑う。
「早メシ早グ・・・おっとこりゃ失敬、飯時にする話じゃねーやな。
まぁ、こちとら江戸っ子ってことでわかってくんな。
さ、お前さんも冷めないうちにさっさと食いねぇ!
その間に茶持ってきてやるよ。」
そう言ってお茶を汲みに彼女は席を立った。
食事を待たせた挙句に、食べ終わるのも一番遅いんじゃただの時間泥棒だな。
俺は、猛然と目の前の料理を掻きこみ始めた。
「・・・お前さんの歓迎会、出られなかったのは勘弁してくんな。
ちょうど遠征帰りでドタバタしてたもんでね。
気が付けば後の祭り、風呂場でばったりってわけさ。
しかし、ターボの話じゃいまいち要領得ないから知り合いに聞いてはみたが・・・
お前さんも大したタマだねぇ。
喧嘩と花火惚れた腫れたも江戸の華とは言うが、こんな一途な恋バナ抱えてトレセンに乗り込んでくるとかあたしでもシャッポを脱ぐよ。」
「・・・そのあたりの話は、忘れていただければ、と。
ほんと、勘弁してください・・・」
いつまでも祟る、たづなさんとムッタートレーナーの合作の身の上話に身もだえしながら、俺の知らないウマ娘、大先輩のイナリワンとの交流を深める。
料理は完食済み。
ターボと、イナリワンが持ってきてくれた食後のお茶をすすりながらの歓談だ。
「聞いた話だと、ヒトの走り方身に付けちまって、ウマ娘の走り方ができないって?
難儀な話だねぇ。
しかも、GIで勝つとか豪語したって言うじゃねえか。
見通しはあるのかい?」
「今はとにかく、走り方を矯正すべく、その道のスペシャリストにトレーナーになって貰って目下努力中ですね。
ただ、必ずGIレースへの挑戦はします。
今は、並のウマ娘以下ですが、必ず。」
「へぇ~。
覚悟はあるんだね。
ま、がんばんな。
あたしはもうアガリ待ちの3年だからしばらくはドリ-ムシリーズで稼いで、引退したらつつましくダンナと暮らすさ。」
「アガリ待ち、って何ですか?」
「あん?
ああ、お前さんウマ自にずっといてあまりURAのレースのこと知らないんだったね。
ウマ娘の全盛期、つまり本格化が完全に終わって、レースに出ても勝てなくなって、レースから引退するのをアガリ、って呼ぶんだ。
トウィンクルシリーズは、デビューのステージに立ってから3年が一つの区切り。
シニア期を終えて古バ扱いでトウィンクルレースに出続けても、本格化が終わって衰え始めた身体じゃ後から出てくる本格化真っ盛りの新進気鋭のウマ娘に勝ち続けるのはなかなか難しい。
シニア期までにGI含めた重賞を取って名を上げりゃ、ドリームシリーズに移籍できる。
多少能力が衰えようとも人気投票でドリームシリーズに登録しているいろいろな世代、当時の最強バと言われるウマ娘との夢の対決を行えるレースに参加できるんだ。
ドリームシリーズに移籍すれば、学園に所属しながら、学園のマネージメントから離れて、スポンサーとも、グッズ販売業者とも個別契約を行えるから収入は桁違いになる。
その代わり、人気が参加できるレースにも収入にも直結してくるからね。
ドリームシリーズでもボロ負けして、人気投票でもぱっとしなくなってレースに出るのがきつくなってきたら潮時ってことで引退。
そこまでに培った人脈を活かして、走ること以外の新しい人生を考える時期ってこった。
まぁ、中にはデビューから中等部高等部の6年を超えてなおトゥインクルシリーズで現役でいるなんて化け物もいるけどね。
ダートには、そういう化け物が多いよ。
我らが生徒会長はトゥインクルシリーズこそ抜けたけれどドリームシリーズにいまだに君臨し、連対し続ける化け物の一人だ。
卒業せずに高等部3年をいつまで続けるのか、へたをしたら3冠、7冠以上の記録を打ち立てるかもしれないね。」
「なるほど。
イナリワン先輩は、結婚時期を見計らいながらドリームシリーズのラストランをいつにするか考えている時期に来ていると。
俺のことを言えないじゃないですか、もう旦那さん候補捕まえてるとか。」
「へっ!
お前さんほど一途じゃないさ!
学園で、苦しい時も手を取り合って一緒に何もかも分かち合ってきた仲だ。
自然とそうなるもんさ。
おっと、学園には迷惑かけないぜ?
筋は通す。
きっちり引退した後に籍を入れる。
ダンナはトレーナーとしてこの学園で働き続ける。」
「・・・先輩の今のトレーナーが旦那さん候補、と?」
「・・・やらないからな?」
「ご心配なく。
俺は男には興味ないんで。」
「・・・もしかしてお前さん、あれかい?
れずびあんとかいう女同士の不毛な・・・
難儀だねぇ・・・」
「・・・違います!」
食後の茶を啜っていたターボが、ニパッと笑いながら話に割って入ってきた。
「カベノシルフィーもイナリも仲良くなった!
二人ともマブダチ!」
「ラベノだってば。
てか、マブダチとか久しぶりに聞いたな。」
ツインターボはどこからこういう語彙を仕入れてくるんだろう。
俺の年代でもなかなか使わない単語が時々出てくるんだけど。
「まぁ、お前さん、タマモやオグリとも関わりがあるんだろう?
あたしらはもうお前さんの舞台で肩を並べて戦ってやることはできないが、先輩のウマ娘として相談くらいには乗ってやれる。
ターボが懐くくらいだ、悪い奴じゃないんだろうってのはわかる。
力になれるかはわからないが、なんかあったら頼りな。」
「お気持ちはありがたく。
この先、行き詰まったら相談に乗ってください。
義理と人情の江戸っ子イナリ先輩!」
「おう、任せな!」
「ところで、ウマ娘レースのこと、とんと疎いんでイナリ先輩の戦績とかご教授いただけると嬉しいのですが。」
「か~!あたしの戦績をこの口から聞きたいって?!
とんだ羞恥プレイをご所望じゃねぇか!
ま、特別サービスだ、耳の穴かっぽじってよく聞きねぇ!
あたしは大井のダートでデビューして連戦連勝を重ね・・・」
調子に乗ったイナリ先輩の口から出てきた戦績は、やっぱり化け物だった。
ダートのほとんどの距離を総なめ、芝に転向してからは中距離長距離のGIの主要レースで1位を取っていた。
この小さな身体に、どんなパワーを秘めているのだか。
・・・しかし、考えてみれば、俺もウマ娘の身体になってからの身長は高い方じゃない。
足は太くないし、お触り魔の沖野トレーナーからも中長距離向きじゃないかと言われてる。
走りのスタイルのお手本としてはこのイナリ先輩は参考になるんじゃなかろうか。
低い身長、短い脚、軽い体重で、中長距離を走る強いウマ娘に必要な物。
今はまだ何が足りないのかさえ分からないけど、ターボのおかげでもしかしたらこれ以上にないお手本の走りをするウマ娘の協力を得られたのかもしれない。