ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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分割第2弾です~


ウマ娘と水泳問題

そのまま理事長は、理事長室ではなく、食堂の方に向かっていく。

どうやら食堂でたわいもない茶飲み話でも、ということのようだ。

食堂のドリンクサーバーからそれぞれ飲み物をカップに注いで、観葉植物で囲まれた職員用のテーブルに腰を落ち着けることになった。

俺が飲むのはホットのカフェラテ。

食堂では最近こればっかり飲んでいる。

 

理事長を正面にたづなさんと俺が並んで座り、飲み物を口にする。

微妙に空気が重い、というか二人とも口を開かない。

 

沈黙を破るように、気になっていたことを聞いてみる。

 

「先ほど、屋内プールのところに救急車が来ていたようですが・・・」

 

「む・・・その件か・・・

 大した事故ではない、と言いたいところだが・・・

 頭を打っているので念のため検査を受けに向かわせた。

 今回も大事には至らなかったものの、毎度毎度寿命が縮まる思いだ・・・」

 

理事長はため息をつきながら、珍しく苦々しい顔で茶をすする。

言葉にもいつものような覇気がない。

 

「今回も?」

 

「今回も、だ。」

 

「本人は陸上とは違うってわかっているつもりでも、起きるんですよ、プール事故。

 今回はプールでのトレーニング中に、隣との競争に夢中になるあまり前を見ていなかったらしく、壁に突っ込んだそうです。」

 

眉をしかめたたづなさんが事故の概要を教えてくれた。

 

「ウマ娘の筋力で競って泳いでいて壁に突っ込むって結構大怪我になりませんか?」

 

ウマ娘の筋力はヒトの5倍以上と言われている。

泳ぎがうまいウマ娘が全力で泳いだりしたら、イルカ並みの速度が出たりしないだろうか。

 

「無論、コンクリートの壁に直接頭を打ち付けるような事態にはならないよう対策はしてある。

 しかし、競り合いに熱くなるのはウマ娘の性。

 それが向上心の原動力でもあるのだからあまり押さえつけるわけにもいかない。」

 

「安全対策で、各レーンの末端にはウォーターバッグを設置してありますし、壁が近いことを注意喚起する模様を、プールの底に描いてあったりはするんですけれどね。

 あっと気付いたときにはもうぶつかっている事例が後を絶たなくて・・・

 今回みたいなウォーターバッグへの衝突はまだいいんですよ、ぶつかった瞬間にバッグから派手な水柱が立ちますから、何が起きたか一目瞭然です。

 でもそうじゃない事故もありまして。」

 

ぶつかった瞬間に派手な水柱、というと、高速道路の分岐に置いてあるクッションドラムみたいなものだろうか。

ぶつかると横方向からの衝撃を潰れながら吸収して衝撃を吸収した分の水は上方向に噴き上がる。

そんな感じのものか。

 

「競い合いに夢中になるあまり、息継ぎを我慢しすぎて水中で気絶する者も居る。

 もう少し、もう少しと我慢しているうちに、酸素不足で頭が回らなくなって、『泳ぐのをやめてその場で立って息をする』たったこれだけのことができなくなる。

 この『酸素不足で頭が回らない状態での思考』を鍛えたい、などというウマ娘もいるが、プールではやらないで欲しいものだ。

 

 知っての通り、ウマ娘はそのままでは水に浮かない。

 呼吸を確保する、という意味では上半身に付けるウマ娘用のライフジャケットや浮き具の類は大型になりがちで動作の邪魔になるためにビート板くらいしかトレーニングに使えない。

 かといって、浮き具に頼らず安全を確保しようと水深を浅くし過ぎると今度は自分の脚力でプールの底を蹴って怪我をする。

 現在、よほど背が低い者ではない限り溺れない程度の水深にしてはあるが、万が一の際、発見や救助が遅れると、と考えると冷や汗ものだ。」

 

理事長の気持ちもわかる気がする。

何せ、年齢的に言えば中高生、一番バカやって無茶やって、って言う時期だ。

ウマ娘の闘争本能を発揮したままプールでのトレーニングに熱が入りすぎて競争を始めてしまうと、周りが見えなくなってがむしゃらに泳いだ挙句いつの間にか気を失って水底に沈んでいたりするのだろう。

担当しているウマ娘がプールの底に沈んでいました、なんて報告を受ける度に、トレーナーたちはどれだけ心臓が止まるような思いをしているのだろうか。

ましてこの学園を預かる理事長、一人としてウマ娘のそういった事故は起こしたくないに違いない。

 

理事長室のような防音の密室ではないので、言葉を選んで訊ねる。

 

「『こちら』ではコンピューター技術が相当発達しているようですが、AIで要救助者を発見して知らせてくれるようなシステムは作れないのですか?」

 

「作れる。

 が、一歩間違えば命に係わるようなシステムというものは、好んで作りたがるところは少ない。

 万が一の責任が取れない、と、見積もりを依頼してもほとんどが『お断り価格』を出してくる。」

 

「トレセン学園に入学できるという時点で、親が結構な稼ぎのある家だってことで向こうも尻込みするんですよ。

 システムの不備で名家の娘が、なんてことになったら会社の存亡はおろか自分の身の安全に関わりますからね。」

 

あ~、ここでも名家か。

どうもウマ娘世界は元居た世界で言うところの財閥とか豪族みたいなのが結構幅を利かせている感じがする。

聞いている感じだと権力振りかざしての敵対者潰しとか結構あるんだろうな。

 

「技術とは関係ないところでのリスク、ですか。」

 

「うむ。

 こちらが、完璧でなくともよい、少しでも事故を減らせれば、と頭を下げてもダメだ。

 たまに引き受けると乗り込んできたものが居れば、得体のしれない詐欺まがいのペーパーカンパニーだったりで八方塞がり、というところだ。」

 

ウマ娘は水に浮かない。

ウマ娘の闘争本能の類は抑えられない。

集団でトレーニングする以上、闘争本能に火をつけないために、一人ずつ泳がせる、ってのはさすがに効率が悪すぎる。

一応既存の対策で最悪の事態は防げているものの、事故はそこそこの頻度で起きるし、発見の遅れによる溺死が一番怖い、ってところか。

ウマ娘特有の問題だな、これ。

 

俺も泳げるのかどうかわからないし、いざこの問題に直面したら死活問題にもなりかねないな。

 

身体能力がヒト以上にあると言っても、潜水艦じゃあるまいし、息継ぎもなしにずっと潜っているわけにも・・・

 

と思ったところで、頭の中の雑学倉庫に何か引っかかるものがあった。

 

潜水艦?

 

潜水艦であるがゆえに、海上の艦艇と違ってできなかったことがあったはずだ。

潜水中の通信に、なぜ電波が使えなかったか。

カチカチと、頭の中でウマ娘の溺死防止システムに関するピースが組みあがっていく。

俺単独ではこのシステムは作れないけれど、ちょっと前に話に聞いた学園生の助力が得られれば実現可能なはずだ。

 

「む?

 何を考えこんでいる?」

 

「いえ、企業に頼まなくても、学園内で何とかできるものをちょっと思いつきまして。

 学園生が自分たちの為に趣味で開発したもので、絶対の信頼が置けるものではない、というシステムにしておけば、指導者の立場の人間はそんなものに頼り切ることはできないでしょうし、うまい具合に今までの監視体制+αになるんじゃないかと。

 まあ、思い付きなんでちょっと実験してみましょう。

 

 たづなさん、厨房で水の入った鍋って借りられます?

 あと、B5サイズくらいのチャック付きのビニール袋も。」

 

「はい?

 ちょっと聞いてきますね。」

 

しばらくするとたづなさんが一抱えはありそうな寸胴鍋を抱えて持って来た。

普通、ヒトが軽々と持ち上げられるような重さじゃないんだけれど、そんな重量物を運ぶたづなさんの姿を見ても周りの学園生も厨房のスタッフも一人も驚いた様子がない。

みんなたづなさんのパワーは見慣れてるってことか。

 

「どうぞ。

 お水の入ったお鍋と、チャック付きの袋です。」

 

受け取ったチャック付きの袋に、俺のウマホを入れて密封する。

そして、画面が見えるようタッチパネルを上に向けたまま、鍋の水の中に沈めた。

 

10センチも沈めないうちに、アンテナ表示が圏外になった。

水から上げるとまたアンテナが立つ。

 

「いけそうですね。

 ウマホで使われている電波って、水の中じゃ伝わらないんです。

 より高い周波数のWiFiの電波は、もっと伝わりにくくなります。

 息継ぎの為に必ず水面上に出す頭部に防水したウマホを取り付ければ、万が一溺れてウマホごと水中に沈めば、ウマホとの通信が数秒以上途絶えます。

一定期間そのウマホのWifi電波を見失ったら警報を出す、っていうシステムを組めば、さしてお金もかけずに溺れて水中に沈んでしまったウマ娘の検知ができると思いますよ。

 Wifiの電波は見通しが良ければ50~100メートルは飛びますし、プールくらいの大きさだったら監視できるでしょう。

 泳ぐウマ娘が頭のウマホの重さを嫌がらなければ、ですけれど。」

 

それを聞いて、ぽかんとしていた理事長が、スパンと扇子を取り出して叫ぶ。

 

「・・・驚愕ッ!

 すでに身の回りにあるものだけでそのような方法が!?

 い、いやしかし、そのシステムを貴女が組めるのか?」

 

「いえ。

 でも組めそうな学園生に心当たりはあります。

 ただ、素直に引き受けてくれるかどうかはわかりませんが・・・」

 

「その学園生とは?」

 

「エアシャカール先輩ですね。

 寮の洗濯機の空きをウマホで確認できるように専用アプリを自作してくれたそうですから、彼女ならできるかと。」

 

メーカーが洗濯機の価格維持のために無意味につけたWifiによる遠隔操作機能。

それの仕様を理解して、ウマホのWifiから洗濯機の稼働状態を読みだして表示するアプリの開発能力。

ここまでできるなら、単にWifiの接続状況を確認して信号が途切れたら警報を出す、なんていうシステムは、彼女なら簡単に構築できるはずだ。

 

「即決ッ!すぐに依頼しに行くぞたづな!」

 

「待ってください理事長。

 

 エアシャカールさん、彼女ですか・・・

 私達学園の運営側から頭ごなしに頼むと、彼女の気性だと断られるかもしれません。」

 

たづなさんは、エアシャカール先輩の人となりを少なからず知っているようだった。

 

「洗濯機の件を教えてくれた隣人も、とっつきにくいけど面倒見のいい先輩、みたいな微妙に面倒くさい性格してそうな話はしてましたね。」

 

「むぅ・・・」

 

ゲームでちょろっと出てきたエアシャカールのエピソードの記憶を掘り返してみても、少なくとも素直に人の言うことを聞くような人物じゃない、っていうのはなんとなくわかる。

聞いた話からするとそんなに悪い人じゃなさそうだけれど、ちょっとひねくれていて、正攻法で正面から報酬をちらつかせてお願いしても本人が納得しないと承諾してくれなさそうな雰囲気がプンプンしている。

 

「エアシャカール先輩の交友関係からワンクッション入れて依頼できませんかね?」

 

「交友・・・

 ・・・ああ、そういえば。

 彼女、留学生のファインモーション殿下のお気に入りっぽいですね。

 どこに行くにも一緒にいるのを見かけますし。

 彼女がこれからも先、殿下の友人であり続けるなら・・・」

 

「彼女に何か誇れる実績があれば口さがない殿下の取り巻きに口実を与えずに済むはず。

 地方トレセンと交流のある他国の姉妹校などへのシステム供与、そして実際に役に立つことが証明されれば、プールでのウマ娘の不幸な事故を減らすシステムを開発したと、URAの何かしらの功労賞への推薦はできる。

 彼女のレースでの実績と合わせれば彼女を侮る者はそう居なくなる。

 エアシャカールを気に入っているらしい殿下の気を引くには十分な理由になりえる。

 承認ッ!それで行こうッ!」

 

「では、殿下に協力を要請しておきます。

 ラベノシルフィーさん、動きがあったら対応お願いしますね。」

 

「言い出しっぺですからね。

 必要なものが発生した時は提供お願いしますよ?」

 

「杞憂ッ!わたしのポケットマネーの範囲でなら何とかしようッ!

 ・・・とはいえ、金額が大きくなりそうなときは事前に相談はよろしく頼むッ!」

 

理事長にいつもの調子が戻ってきたようだ。

微妙にポケットマネーの残額を気にしているけれど、たぶんこのシステムに理事長が想像しているような金額はかからない。

 

頷いて、すっかり温くなってしまったカフェラテを飲み干す。

 

「へくしゅっ!」

 

話し込んでいるうちに、すっかり身体は冷え、くしゃみが出た。

汗を吸ってずっしりと重くなった体操服が気化熱で体温を奪い続けている。

さすがにこれ以上濡れた体操服で体を冷やし続けるのはまずい。

 

「失礼、では私はそろそろお暇します。」

 

「うむッ!」

 

「風邪をひかないように気を付けてくださいね。」

 

鍋の片づけをお願いして、ウマホを回収したら速攻で寮に帰った。

 

寮の部屋の窓を開けたら、布団乾燥機にシューズアタッチメントを付けて冷風乾燥モードでタイマーをかけトレーニングシューズを乾かす。

 

すぐさまお風呂セットと洗濯物を持って大浴場へ。

汗が煮詰まったのか脇とかお尻の割れ目がぬるぬるして気持ちが悪い。

 

ロッカーに着替えを入れて、お風呂に入る人がまだほとんどいない時間なのをいいことに、空いている洗濯機の前で服を脱いでは洗濯ネットの中に放り込んでいく。

さすがにここまで汗を吸った体操服はクリーニングに出したら回収されるまでにカビが生えるかもしれないから、洗濯機で洗濯だ。

ダートコースで脱いだ靴下は・・・ビニール袋の中に長く入れていたのが良くなかったのかよろしくないにおいを発し始めていた。

・・・どうせ一人で洗濯機占有してしまうんだし、靴下だけ洗濯ネットに入れずに洗ってしまおう。

いつもより多めの洗剤と柔軟剤を洗濯機にセットして、お風呂セットを片手に浴室へ。

かけ湯をしたら、プロテクターで擦れたところとか、汗で蒸れてなんかかぶれたところとか、いろんなところがしみた。

 

お風呂から上がって、食堂が開くのを待って夕食。

夕食を食べている最中にウマホが鳴動した。

ヒシアマさんから生徒会への訪問は明日か明後日の午後ならいつでもアポなしでOKとの連絡だ。

お礼の返信をすると、また鳴動。

こっちはウオッカだ。

オヤジさんにバイクのシートをあんこ抜きしてくれる加工屋さんを聞いてくれたらしい。

住所なんかが長いからか、オヤジさんからのメッセージをそのままコピペしたらしく、今度その友達連れて来い、って書いてあった。

加工屋さんは東京の昭島市にあるらしい。

意外と近くだ。

こちらもオヤジさんによろしくと礼の返事を出す。

 

急に運動量が増えたせいか、一通り食べ終えてもまだ足りないと胃が催促するので、ご飯をお替りしてふりかけと海苔で掻き込んだ。

 

お替りを食べ終わった頃、またウマホが鳴った。

ヒシアマさんからだけど、音声通話だ。

 

「ベノシ今部屋かい?

 お客さんだよ。」

 

「すいません、今食堂です。

 玄関まで出向けばいいですか?」

 

「ああ。

 できるだけ早く来とくれ。」

 

ぶつりと通話が切れる。

・・・食後のお茶は、今日はお預けみたいだ。




そんな危険なら水泳なんてやらせないかビート板限定に、というお話は無しでお願いしますね~
溺れやすい水に浮かないウマ娘が水に落ちたとしても生き残る術として水泳があるって感じでひとつ~

っていうか、原作の方で7.5m高飛び込み台が普通の競泳プールにある時点でもう破綻してまして~
あれが死人を出さずに存在できるにはプールの深さがとんでもないことになるんですよね~
でも水中で立っているウマ娘もいるし~
いろいろつじつま合わせに悩ましいことが多いのがウマ娘世界の水泳です~
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