ウマ娘世界が地獄でも、住めば都です。   作:ジョンゲスト

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分割第三弾です~



シャカール先輩とファイン殿下来襲

食堂から玄関に出向くと、中等部の門限に間に合わせようと駆け込んでくる学園生以外、人を待っているような様子のウマ娘はいなかった。

寮長室かな?

 

コンコン

 

寮長室の扉をノックする。

 

「ラベノシルフィーです。」

 

入んな~と声がしたので扉を開けると、制服姿の鹿毛のウマ娘が奥からトテテテ~と小走りに出てきた。

一見ショートカットに見えたけど、頭の後ろにお団子にして髪をまとめている。

珍しいことに両耳に赤と緑のクローバーみたいな耳飾りを付けている。

色白でクリっとした目が愛嬌を感じさせるお姉さん風味のウマ娘だ。

 

「わ、ベノシってキミかな?

 初めまして!私ファインモーション!」

 

目の前に立ったと思いきや、自己紹介しながら彼女の両手に右手を取られて握手された。

 

ファインモーションの背後から、ギザ歯を覗かせながらせんべいを齧ってのっそりと顔を覗かせたのは、黒鹿毛後ろ髪だけ一部ロングとか言う特徴的な髪型をした仏頂面の眉ピアスのウマ娘。

こっちは顔だけは知っている。

ウマ娘のゲームを始めたときに、初めて出たSSRカードの主がこのエアシャカールだ。

残念ながら俺があっちの世界で彼女の実装を見ることはなかったけれど。

・・・思っていたほど狂気をはらんだ感じも無いし怖くもないな。

しかし、この二人がいきなり押しかけてくるとは、理事長とたづなさんに話してから数時間だ、たづなさん話が早すぎるだろう。

 

「お前かァ、ファインにろくでもねェこと吹き込みやがった元凶は。

 邪魔したな、寮長さんよ。

 ほら、ファイン、コイツの部屋に行くぞ。」

 

なんかいかついシールだらけの黒いノートパソコンを抱えて、シャカール先輩が殿下の腰を叩いて促す。

 

もう!とかぷりぷりわかりやすく頬っぺたを膨らませながら二人ともついてくるようだったので、部屋の奥で寝転がりながらテレビだか動画だかを見ているらしいヒシアマさんに礼の声をかけてから二人を部屋まで案内することになった。

 

 

 

 

「どうぞ。」

 

家事室で淹れてきた、残り少ないマンハッタンカフェスペシャルを空いているベッドに腰かけた二人に提供する。

 

「わぁ、いい香り。」

 

何事もいいところを見つけて声に出して褒める教育をされているのか、コーヒーの香りを嗅いだ殿下からお褒めの言葉を頂いた。

ファイン殿下は初対面でも心が和らいでほっこりするな。

 

対して、シャカール先輩は、なんでこんなコーヒーが出てくるんだと言わんばかりに目を白黒させながらズズズっとコーヒーを啜ってはまたコーヒーの入った紙コップを眺めている。

 

「えーと、初めまして。

 ラベノシルフィーです。

 ちょっと前に編入してきました中等部2年です。」

 

「ファインモーションだよ。

 シャカールと同じ、高等部1年。

 ファイン先輩、って呼んでくれると嬉しいかな。」

 

「エアシャカールだ。

 ・・・砂糖は無ェのか?」

 

「・・・すいません。」

 

「チッ。」

 

もともと俺はコーヒーにミルクは入れても砂糖は入れない派なので砂糖は買っていないのだ。

微笑みながら音もたてずにコーヒーに口を付けるファイン先輩が、紙コップを膝の上に降ろしてから話を切り出す。

 

「ファイン先輩が、学園から話を受けて、シャカール先輩と一緒にここにいらした、ってことでよろしいですかね?」

 

「ええ。

 シャカールが前に寮の洗濯機の空きを表示するアプリを作ったのを見て、学園のウマ娘の安全のためにシャカールのプログラミング能力を貸してもらるか親しい私から聞いて貰えないかって。

 なんか完成すればプールで溺れかけたウマ娘をすぐに発見できるようになる低コストの素晴らしいシステムになります、って言われたんですけれど・・・

 私が聞いてもよくわからないからシャカールと一緒に詳しい話を聞きに行きます、って言ったら美浦寮のラベノシルフィーって言う生徒が発案者だから詳細はそっちで聞いてください、って。」

 

「そうでしたか、お二方にはご足労いただきまして、恐縮です。

 実はプールに今日救急車が来ていましてね・・・」

 

今日学園の食堂で話したプール事故と、その防止システムの開発を事実上企業が受けてくれない状況を話す。

 

「・・・開発は可能だが、万が一の事故の責任は負いたくねェ、ってか。

 その万が一の可能性を潰し切るのがプロの仕事ってやつじゃねェのか?」

 

「まあ、そうはいっても、0.0001%でも可能性があればそれは必ず起きる、っていうのが確率の世界ですし。」

 

「違ェねェ。」

 

「大金をかけて作ったシステムは、期待されて使用者が頼ってしまい、人の目による監視が緩くなります。

 そこを逆手にとって、学園生である先輩が趣味で開発したシステムなら、監視する側も頼り切るわけにはいかず、それでいてシステムに信頼性が思った以上にあったら・・・」

 

「なるほどな。

 監視体制が人手から機械に置き替わるんじゃなく、人手プラス機械になる、ってわけか。」

 

「学園生に万が一があっちゃいけない家の出が多すぎるってのも問題ではありますけどね。」

 

シャカール先輩がちらりとファイン先輩に目をやる。

金を払って開発したシステムで、万が一がこの『殿下』の身にでも起ころうものなら・・・

その影響と責任追及は留まるところを知らないだろう。

とはいえ、今の人任せの危機管理は、まだ死亡事故が起こっていないだけ、ともいえる。

人間は必ずミスを起こす、完璧な人間などいないと考えると、二重のチェックはあるに越したことはない。

 

「で、プールの話を聞いているうちに、先輩なら完璧に作れそうなシステムを思いつきまして。」

 

「・・・詳しく話せ。」

 

 

 

水の中を、Wifiの電波は透過できない。

それを利用すれば水没ウマ娘を検知できる、という話をざっくりとし終わって、シャカール先輩が頭を掻きながらやれやれと言った様子で呟いた。

 

「・・・盲点だな。

 オレも今のテクノロジーで水没したウマ娘を検知しろ、なんて言われたら、動画のリアルタイム処理で動きのなくなった水着なンかの色を検知することを真っ先に考えちまう。

 人体検知に使えるセンサーは、テクノロジーは何だ?ってな。

 それがお前のアイデアときたら・・・

 つまり、あれか。

 ウマホのWifiで1秒おきくらいにサーバーと通信させて、一定時間通信が無かったらそのウマホのIDで警報を鳴らせばいいンだな?」

 

「ええ。

 頭に乗せたウマホが水中に沈んだままになればその間通信は途絶えますからね。」

 

「ウマホの通信性能にばらつきがあっても、通信途絶がトリガーなら誤作動しても警報が鳴るだけ、か。

 フェイルセーフとしては不備がねェ。

 Wifi付きのノートPCがありゃ、1日もありゃ実証実験まではいけンな。

 いや、万が一個人のウマホ使っててウマホが浸水して壊れちまうと泣く奴が出るか?

 防水がチャック袋のみってのも信頼性に欠けンな。

 待てよ?

 ウマホじゃなくてもWifi機能さえついてりゃワンチップマイコンモジュール使ってMACが取れれば個体識別はできんンな・・・

 小規模店舗向けの電子ペーパー値札でWifi使ったのがあった気がすンな・・・」

 

ブツブツと、シャカール先輩が俺にもよくわからないことを呟き始める。

俺はプログラミングやマイコン関連は本当に上辺だけしかわからないのでその開発とかになるとさっぱりだ。

だからそれがわかりそうなシャカール先輩の名前を挙げたのだけれど。

 

「ねぇ、シャカールは何を言ってるの?」

 

「実現する方法について深い考察の海に沈んでいったみたいですね・・・

 私もコンピューター関連のディープな部分はわからないので・・・」

 

ふぅん・・・とわかったのかわからないのかあいまいなつぶやきをしながら、ファイン殿下が口を俺の耳元に寄せて囁く。

 

「(・・・ところで、これが使い物になるようだったら、シャカールに何らかの功労賞が下りるかも知れないってホント?)」

「(理事長が、成功のあかつきにはURAに推薦する、って言ってましたよ。)」

「(そうなったら、シャカールを堂々とアイルランドに連れて行っても・・・ふふっ・・・ふふふふふ・・・)」

 

何か背中によからぬ闇を背負いながら不気味な笑い方をし始めたファイン殿下に若干引きながら、シャカール先輩の復帰を待つ。

 

「・・・これなら、イケるな。

 おい、機材は提供して貰えるンだろうな?

 さすがに自腹切ってまで協力はできねェぞ?」

 

「ああ、それは大丈夫です。

 常識的な範囲だったら理事長が出してくれるって言ってましたので。」

 

「なンだと?

 理事長が絡んでるとか、お前何モンだ?」

 

「いえ、ちょっと特殊な編入の仕方をしたもので、理事長やたづなさんに何かとお世話になったんですよ。

 その絡みで、たまたま。

 たまたまです。」

 

「ホントかァ?

 なんかウマくハメられてる気がするんだが・・・」

 

一編入生が、理事長やたづなさんと妙な接点を持っていることに気付かれたらしい。

シャカール先輩がいぶかしんでいる。

 

「シャカール、私もプールでのトレーニングはします。

 そこに、シャカールの作ったシステムがあって、見守っていてくれると嬉しいんだけどなぁ・・・」

 

ファイン先輩がシャカール先輩を墜としに行っておられる。

ファイン先輩に上目遣いでじっと見つめられて、シャカール先輩は一瞬苦虫を噛み潰したような表情を見せたけど・・・結局墜ちた。

 

「・・・チッ!

 しょうがねェな。

 ファイン殿下の身の安全には代えられねェ。

 暇を見つけてプロトタイプは作ってやる。

 ただし、オレも運用の結果には責任は負わねェからな?

 そこははっきりしとけ!」

 

「なんだかんだ言って、頼られると手を差し伸べずにはいられない。

 そんなところが好きよ、シャカール。」

 

「・・・勘違いすんじゃねェ!

 オレはオレ自身のトレーニングの安全性を高められる可能性に投資しただけだ!

 オイ、コラ!

 厄介事を持ち込んできた後輩!

 貸し一つだかンな!

 帰るぞファイン!」

 

「はいはい。」

 

パチッとウィンクをして見せて、ファイン先輩は憤って見せるシャカール先輩を堂々となだめながら俺の部屋から出て行った。

ファイン先輩が、こっちを振り返りながら、ひらひらと手を振って別れの挨拶をしてくれる。

ツンツンだけど根はお人よしのシャカール先輩に、ほわほわとしながらも計算高いファイン先輩。

これはこれでいいコンビなんじゃなかろうか。

 

しかし、今日はいろいろ起こり過ぎだ。

密度が濃すぎる一日で疲れた。

 

ぼふっとベッドにダイブしたら急激に眠気がやってきた。

眠気に抗えず、部屋の電気も消せないまま、その日は深い眠りに落ちた。




シャカールのファインモーションの呼び方は
・ちょっとからかいの意味が混じる時は殿下
・普段はファイン
にしました~
ヒシアマさんの呼び方はヒシアマゾン先輩とかヒシアマ先輩とかだとなんかぶっきらぼうさが抜けてしまうので寮長さん呼ばわりに~
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