2022/7/29
改稿
文体を40話前後の書き方に統一しました。
「ちょっとごめん。」
「あ、すまねえ。」
俺のバイクの周りでウロチョロしているジャージ姿のウマ娘にどいてもらう。
バイクの側面にある燃料コックを、壊さないようにそうっとそうっと捻ってOFFにする。
「あ、おい、勝手に触ると・・・」
「いいんだよ、俺のだから。」
「え・・・?」
ちょっと髪の毛が跳ね気味の鹿毛ショートのこのウマ娘、言わずと知れたカッコいいもの好き、バイク好きのウオッカだ。
職員駐輪場にはスクーターはあれど、こんな目立つ赤い大型バイクは他にないので目ざとく見つけて眺めていたんだろう。
「マジかよ?!
センパイ、俺と同い歳くらいに見えたからこれの持ち主だなんて思わなかったぜ!
CPZ900Rだろこれ!
シブいよな~!」
うん?センパイ?
ああ、そうか、ウオッカはまだ、免許がとれる年齢じゃない。
そりゃバイクに乗ってるなら年上って思うよな。
この世界がどのくらい時計の針が進んだ世界なのかわからない。
へたしたらウオッカとは同じ歳の可能性すらあるのだけれど、ここで自分でもよくわかっていない年齢なんかで問答を始めたら、しどろもどろになるのが目に見えている。
俺はウオッカの誤解したままにまかせることにした。
「先輩じゃねえよ。
ここの学園生でもない。
このジャージは借り物。」
「あ、ホントだ、来賓カード下げてら。
道理で見憶えないと思った。
アンタみたいな目立つ白毛だったら見かけたら忘れないもんな。」
俺のこの白い髪の毛、目立つのか。
しかも忘れないレベルで。
「ジャージ姿ってことは走・・・れねえよな、それじゃ。
怪我かそれ。」
今、俺の首元から顎にかけては、でかい傷パッチが貼られている。
傷を直接見たわけじゃないけれど、たぶん大きな傷があるんだろう。
「ああ、ちょっと朝にここでやっちまってな。
しばらくバイクに乗れそうにないんで燃料コック閉めに来たんだ。」
「か~!だいじょぶなのかよ?!
まートレセンに走りに来たわけじゃねぇのはわかった。
でなきゃそんなごついシューズ履いてこないもんな。」
俺の今履いている靴は、あっちの世界でバイクの乗る時にいつも履いていたライディングシューズだ。
あちこちにバイクで転んだ時に足を守るための保護用のパッドがついていて、それが出っ張ってシューズをごつく見せている。
更に暗いところでも目立つように赤白の配色と反射材が入っている。
今ウオッカが履いているようなトレーニング用のシューズとはまるで趣が異なっていた。
「アンタはトレセンに何しに?
見学ってことは転入か?」
「転入・・・あ~今はわからねえな。
検討中だ。」
「検討中か~。
転入してくるんなら後ろに乗っけてもらおうと思ったのによ~。」
トレセン学園に入る、とは断言できないんだよな。
あの自称女神と理事長のおかげで、トレセン学園に入ろうと思えば入ることはできる。
でも、自分がトレセン学園で通用するウマ娘なのかどうかなんてわからない。
そんなことより、力加減を覚えないと。
トレセン学園に入る検討なんて、その先の話だ。
そんな俺の葛藤とは別に、ウオッカの頭の中は今バイクで一杯らしい。
目をキラッキラさせながらバイクの話を熱く語っていた。
「俺も金貯めて免許取ったら自分のバイク買うぜ!
あ~はやくツーリングしてえ!
海岸沿いの道とか気持ちよさそうだよな~。」
「ああ、そりゃ気持ちいいぜ。最高だ。」
いいよな~を繰り返しながら視線をバイクから外さないウオッカ。
相当バイクに憧れているんだろう。
俺も免許取る前はカタログ眺めてこんな目をしてたはずだ。
「ちょっとまたがってみるか?」
「いいのか?!」
これだけ憧れを垂れ流しにされたら、愛車のシートをまたがらせてやるのも吝かではない。
犬みたいに尻尾をぶんぶん振ってるウオッカにハンドルを握らせる。
ウオッカは危うげなく、ハンドルを握ると片足を上げてまたがり、シートに腰を落ち着けた。
手慣れた感じの乗り方だ。
「妙に扱い慣れてんな。」
「へへっ、父ちゃんもバイク乗りだからな。
父ちゃんのバイクによくまたがってたんだ。」
サイドスタンドはそのまま、車体を垂直に立てさせる。
さすがウマ娘の筋力だ、車体が軽々と起きて危うげなく静止する。
「うお~、ちょっと足の長さが足りね~!
つま先しかつかね~!」
ウオッカのぶらぶらさせるシューズのつま先の蹄鉄がかつかつとアスファルトを突つく。
それでもふらつくこともなく安定して車体を保持している。
ブォン、ブォンとエンジン音を口真似しながら一通り堪能したのか、ウオッカは元のようにサイドスタンドをかけた状態にしてバイクを降りた。
「これ結構なビンテージだろ?
なのにスゲーきれいに乗ってるよな。」
俺のバイクはバイク屋のオヤジから最終型とは聞いてるが、それでも製造は2000年前後のはずだ、20年くらいは経ってる。
未だに人気があるのでパーツがあるから整備できているが、同年代のバイクで不人気車種はパーツがなくて修理すら効かないものも多い。
「まあ惚れ込んだバイクだからな。」
「うちの父ちゃんのバイクはなんつーかこう・・・
遠目にはきれいなんだけどよー、よく見るとあちこち油漏れてんだよな~」
「まあ古いバイクなんてのはそんなもんだ。」
ウオッカは話してて楽だ。
ウオッカの口調が男のそれに近いために、こっちも男口調を隠さずにタメで話せるって言うのもあるけれど、ウオッカ自身の純粋さが言葉の端々に出ていて全く身構える必要が無いんだよな。
そんなことを思いながら駐車場の車止めに二人して座り込んでバイク談議に花を咲かせる。
「・・・こう、一台に長く乗ってると家族みたいに思えてきてな~。
駄々こねるエンジンをなだめすかして乗ってみたり、食費削っていいエンジンオイルに変えてみたり、調子の良しあしで一喜一憂して。
もう手のかかる愛娘みたいなもんだよ。
知らない奴が勝手にまたがってたりしたらぶん殴るね!」
「うひょ~!そのシートに座らせてもらったのか!
しかし愛娘みたいなもんねぇ?
俺もそんな一台に巡り会えっかなー?」
「会える会える。
とはいえ、同じ家族でも本当の愛娘には敵わねえよ。
ウオッカの父ちゃんもバイクよりウオッカを大事にしてたろ?」
「ああ。
俺がトレセン学園入るの決まったら、酒もタバコもやめてよ~。
そこまでしなくてもって思うんだけどな。
・・・ほんと父ちゃんには頭が上がらねーよ。」
「いい父ちゃんだな。」
「ああ、自慢の父ちゃんだぜ!」
そんな風にだらだらと喋っていたら、蹄鉄をアスファルトに響かせて栗毛ツインテールのやたらとむっちりしたボディのウマ娘がウオッカを探しに来た。
ウオッカのルームメイトのダイワスカーレットか。
「あ、いた!
ちょっとウオッカ!
あんたドリンク持ってくるのにいつまでかかってんの!
何でこんなとこで油売ってんのよ!」
彼女は一気に文句を吐き出すと、ウオッカの脇にいた俺の来賓プレートを見てぺこりと頭を下げた。
「やべ!忘れてた!
わりぃ!トレーニングに戻るわ!」
「そうか、がんばれよ!
俺はラベノシルフィー。
今度会ったらバイク、エンジンかけてまたがらせてやるよ!」
「ウオッカだ!
バイクの話、絶対だぞ!約束だかんな!」
立ち上がってダスカと肩を並べて歩き始めるウオッカ。
すぐに互いを指差し合いながら言い争いを始める。
少し離れたところで、振り向きざまニカッと笑って俺に手を振るウオッカとその腰を尻尾でパシンと叩くダイワスカーレットを見て、その光景が眩しく、うらやましく感じた。
あの輪の中に加われるのなら、トレセン学園で頑張るのもいいのかもしれないな・・・