ろぶらぶ! 作:グラードン
頬に紅葉
眼の前には顔を真っ赤にして瞳を潤わせながらこちらを睨むひとりの少女。
こんなものは端から求めてなどいなかったのに……どうしてこうなったんだ?俺は今日の出来事を思い出していた。
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俺、
古来より一定数の人々が常人ならざる力、異能力を持って生まれてくる。安土桃山時代の戦国武将らはその能力で持って天下を争いあったというのは小学生でさえ知っている常識だろう。
空を自在に飛びまわり
鮮やかな炎を自由自在に操り
一言で人の心を思うがままにする
そんなまさに一騎当千という言葉のよく似合う過去の偉人たち、歴史に名を残す偉人たちのおよそ8割はなんらかの能力者であったという。
そう!つまり異能力とは夢と希望、そして野心に満ち溢れた奇跡というわけだ!!」
「でたよ、賦色の厨二病。異能力に夢見過ぎだっての」
そう言ったのは友人である異能力者、
「お前にはロマンってものがないのか?勝樹。数少ない異能力者だというのに、誇らなくてどうする?」
「なにが“数少ない”だ。クラスに数人いる程度のレア度でごちゃごちゃ煩いんだよ」
――痛いところを突かれた、というのはこのことだろう。そう、現代の異能力者の割合は左利きと同レベル!知らんやつから「能力者?へー、珍しいね。」と言われる程度なのだ!
――しかし!
「しかし!俺は諦めないぞ!歴史の教科書に名を載せ、後世のやつらに音読させて見せるのだ!」
「目標が小学生並みなんだよアホが。ロクでもないこと言ってる暇があったら勉強でもしとけや。どーせ今日の単語テストも詰め込みするつもりなんだろ?」
「あー!嫌なこと思い出させやがって、いいんだよ、合格点はとれてんだから!お前は俺のオカンかyっておっと」
駄弁りながら歩いていた俺は注意がそれていたのだろうか?十字路に差し掛かっていたこと、そしてそこから人が迫ってきていることに気付かず、その人影とぶつかってしまった。
その場に尻餅をついた人影、それは一人の少女だった。うちの高校の制服を着ており、その姿は可憐。周囲には花が舞い散り、暗闇の中に注ぐ一筋の光を思い浮かべさせるその少女に俺はその瞬間に新たな恋が、人生が始まったのだと確信しt……
「……っていやいやおかしいだろ」
明らかにおかしい考えが頭の中を埋め尽くしている。これだとまるで少女漫画の最初のワンシーンじゃないか。俺は気を取り直して転んだ少女を気にかけようとした。しかし――
「ぶつかってしまって申し訳ありませんが今は少々急いでおりまして、すみませんがお詫びは次の機会に、失礼します」
名も知らぬ少女は素早く立ち上がるとこちらと目を合わせることもなくそう言って駆けていった。しばらく混乱していると
「おい、何呆けてるんだ。そりゃ確かにあの塩対応は意外だがそんなに大したことじゃないだろ?」
そう勝樹がいった。あまりにも衝撃的な体験をしたような気分でいまだ現実に戻れていなかった俺はなんとか気を取り戻すと、何だったんだあの女は、というムカつきとともに高校への道を進んだ。
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最後尾の窓際、そこが俺の定位置だ。前の席に
「お前まださっきの女子のこと引きずってんのかよ。いい加減見苦しいぞ?少女漫画見てぇな恋がしたいってタイプでもないだろうに」
「それはわかってるんだが、なんとなく引っかかるんだよな。別に何処かで会ったことがあるわけでもないだろうに、俺自身どうしてあんなに気になってるのかが分からん」
そう話していると後ろから変に陽気な声が迫ってきた。
「おっはよ〜う。いっつも以上に辛気臭い顔してるねぇ賦色クン」
声の主こそは
「話を聞いていればどうやら君が女の子に夢中になっているみたいじゃないか。いやぁ~~珍しいこともあるものだ。……で、顔は?声は?どうせ君はヘタレだから名前も聞けてないんだろ?面白そうだからワタシが一肌脱いであげようじゃないか」
そう、この女、ありとあらゆることに興味本位で首を突っ込みかき回して帰っていくという厄介な趣味をもっていて、しかもその本性をつつみ隠さず外に出しているというのに人脈と情報網は蟻一匹逃さないほどの綿密さなのである。
「お前みたいなのに人が集まっているのはやなりおかしい。誰かが催眠術でも使っているにきまってる」
「現実を見ろよ賦色クン。人望の差というんだよこ·れ·は。まぁ、それはともかく賦色クンの恋心よりも大切なウワサが今日はあるんだよ。聞きたいだろ?」
「オイ、恋心なんかじゃあないが、それ以上に俺のことを蔑ろにしすぎてないか!?」
「まぁまぁ、細かいことを気にする男は嫌われるゾ?タダでさえ奇人変人としてしか認識されてないんだから。そ·れ·に、何も全く関係ない話でもないしね。勝樹クンだって暇してるんだから」
ひょうひょうと抜かしおる。
「そうだな。そろそろ辛気臭い顔も見飽きたところだ。一つ話題を変えてくれよ」
「フッフ〜ン。じゃあ、教えてあげよう。優等生のワタシだから知ってることなんだがね?今日から――
――――――転校生がくるらしいよ」
丁度その時予鈴が鳴り響いた。思ったよりも話し込んでしまっていたらしい。
「まぁ、アオハル目指して頑張りなよ。せいぜい応援してあげるから。」
そういって茶那は自分の席へと戻っていった。それからしばらくして担任が教室へと入ってきた。ウワサで少しざわついている教室内でも、いつもどおりのホームルールを始める。それも中頃に差し掛かった頃にその話が出た。
「はい、それじゃあ、知ってるやつもちらほらいるみたいだが今日からの転校生を紹介する。入ってきてくれ」
担任はそう廊下へと声をかけた。
そこにいたであろう人物は緊張した様子もなく教室の中へと入ってきた。腰まで届かないほどの太陽のような金髪。その毛先はほんのりとピンクに色づいておりその溢れんばかりの明るい雰囲気と可愛らしさを体現している。パッチリと開いたその眼差しは確かな芯を持っていることをひしひしと感じさせる。鼻筋はスッキリと通っており潤いのあるその唇、ほんのりと色づいた頬、そのすべてが美しく、その姿はまるで天s……
「……いや、だからおかしいだろ。」
やはり、明らかに何かが変だ。俺はたった今教室へと踏み込んだ少女と今朝ぶつかってしまった少女が同一人物であることを認識しながらその異常さをはっきりと理解する。
――そう。明らかに
……確信した……確信した、のだが……
「おい、アイツお前が今朝ぶつかったヤツだろ?まぁ、可愛いは可愛いがそんなに惚けるほどかよ?厨二病だけじゃなく恋愛脳まで始まったのか?終わってんな。」
「おい、勝樹、お前にはアレが普通に見えるのか?」
「あ?まぁ、言い方は悪ぃかもしれねぇけど、こう、凄まじいカリスマとかそう言うのはねぇだろ。周りの奴らを見てみろよ。そう大した反応はしてねぇじゃねぇか」
たしかに、クラスのいつもはうるさい男子らも、可愛いものに目がない女子たちも転校生という物珍しさこそあるものの少女に過剰な反応というものはしていない。唯一、茶那だけは愉快そうにニヤついているが、それはいつものことだろう。なんの判断基準にもならない。
やはり、何かがおかしい。俺の感覚は他の奴らと、少なくとも勝樹とはそう差がないはずだ。一体この感覚の差は何なのだろうか?考えが深まる前に彼女は話し始めた。
「……始めまして。〇〇高校から転校してきました。
まばらな拍手が教室内に響く、やはり、大した反応は起こっていない。担任は俺の席のすぐ近くをひとまずの彼女……姫宮の席として指定した。その後もつつがなく担任の話は進み、何事もなくホームルームは終わった。
――しかし、姫宮が後ろの席へと歩いていく途中、その瞳が、驚いたように見開かれていたふうに見えたのは俺の気の所為だったのだろうか?
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面倒見のいい茶那に姫宮は無事、クラスへと溶け込めているように見える。転校生にありがちな質問ぜめをされている彼女は回答に苦心している様子はない。しかし、姫宮本人はやはりどこか不思議そうな顔をしていたのである。
「おい、賦色、流石にそこまで見つめ続けるのは気持ち悪いのがすぎると思うぞ?」
そう勝樹に言われるまで、彼女を目で追っていたことさえ気づかなかった自分のことも不思議に感じた。やはり、何かがあるのだろう。
俺の予想が正しいならばきっと彼女は能力者だ。そう思いながらも俺は彼女へと近づき、話しかけることができないでいた。
そうこうしている間にもその日の学校は最後の授業を終え、放課後になってしまった。それでもずっと心のどこかのモヤモヤは消えない。姫宮が教室を出ていくのを見かけた俺は勝樹の声を振り払い彼女を追いかけた。
幸いにも彼女は遠くには行っておらず、追いかけることができた。職員室へと続くその道はこの時間帯だと人通りが少ない。例にもれずその日も辺りに人の影はなく俺は彼女を呼び止めることができた。
「まて!転校生!」
そう声をかければ彼女は俺の方へと振り向いた。やはり可愛い。頭におかしな考えが浮かぶ前にさらに彼女へと声を投げかける。
「お前、能力者だろ!?」
彼女は焦った様子もなく返した。
「ええ。いつもなら、きっともっとひどいことになってた。今日は何もなかったけれど」
その答えを聞いた瞬間、俺の中ですべてのピースが揃ったように感じた。
「お前の能力は他人からの好感度を操る能力ってわけだ」
「……少し、違うわね。私は『ヒロイン』に
そう話す彼女はどこか寂しそうな、悲しそうな、そんな顔をしていた。
「……ごめんなさい。変な話をしてしまったわね。私は今から職員室に用事があるから失礼するわ。あと、今朝はぶつかってごめんなさい。ああいうときはあの対応が一番マシなの」
そう言って踵を返し去ろうとする彼女を俺はとっさに留めようとした。なんの言葉も思い浮かばない俺はただ彼女の方へと駆け出した。そんな思いつきのままの行動が上手くいくわけはなかった。彼女の肩を掴みこちらに振り向かせようとした俺はバランスを崩し、そのまま彼女の方へ――
「ウッ……ッタタ……すまない。無事か?転校生……」
なんとか彼女の下敷きとしてクッションになることに成功し、彼女へとそう問いかけた俺の手には柔らかい感触がある。俺は悪い予感をヒシヒシと感じた。手をやれば彼女の肩の下……胸元へと手をおいていた俺はその予感が的中したことを察する。
現状を把握しつつある姫宮。その顔は最初こそ衝撃を耐えるように目をつむり、歯を食いしばっていたが、その頬は次第に赤く染まっていき、瞳は潤んでいく。
……やってしまった。そう俺は彼女に対する罪悪感をいだきながらこちらを打たんとするその手を視界の端に捉えた。