ろぶらぶ! 作:グラードン
帰宅後、俺はベッドに寝転がりながらに、彼女とのやり取りを思い出していた。
あのあと、彼女はそのまま駆けていった。当然俺も追いかけられるはずはなく、渋々帰路についたのである。
『ヒロインに
その姫宮の言葉を、俺は思い出していた。それは、俺の夢見ていた
……そんな考えをしていても、思い返すは彼女の異常とすら言える可愛らしさだった。
この感情が異能力によるものであることは間違いない。それも、俺が彼女の能力を
――能力『強奪』。
触れた相手の異能力を一日の間、己のものとすることができる能力。
今朝、姫宮とぶつかった俺は、そのときに能力を奪ってしまったがために彼女に対して過剰なまでに意識してしまったのだろう。
……『ヒロイン』とはいったい何を指すのだろうか?物語に出てくる女性のことであるならば、彼女に対して俺が抱くこの感情は何なのだろうか?
思考が行き詰まった俺は息を吐き出す。そんな時だった、俺のスマホから着信音が流れ出したのは。着信相手の表示を見た俺はため息を付きながらその電話に出る。
「……どうしたんだ。会川」
「いやぁ~?そろそろ思い悩んだ挙げ句にわけが分からなくなって考えるのをやめた頃じゃないかと思ってね?」
……こいつ、本当は異能力者にじゃないのか?会川がこうやって電話をかけてくるのは初めてのことではなかったが、いつも何か行き詰まったところに電話をかけてくるのである。
底のしれない友人を訝しみつつも俺は彼女に問いかけた。
「会川、『ヒロイン』っていうのは何だと思う?」
「いつにもまして唐突だね。何だっていうもはまた哲学的な話だ。何が有ったんだい?まさか
「待て、会川。今なんといった?」
「え?
「えぇい!違うわ!それより会川。姫宮が何故うちの高校に来たか知っているか?」
「それよりって……まぁ、いいか。でも姫宮ちゃんについてはあんまり詳しく知らないよ?前の学校に居づらくなったから転校してきたらしいけど……」
「いや、それだけで大丈夫だ。大体の疑問は解けたぞ」
「え?何言ってんの?頭いかれt……」
まだなにか話しているらしいが俺は通話を無理やり切った。そんなことよりも、俺の予想が正しいならば明日からは荒れることになる。悪い予感が背筋をなぞるのを、俺は感じていた。
――――――
――――――――
――――――――――
その予感が当たっていたことは次の日の昼に分かった。学校のカリスマが姫宮の元へやってきたのだ。転校生を見に来たらしい。
体育館裏へと連れて行かれる彼女は明らかに失望したような目をしていた。
帰ってきた彼女はやはりうんざりした顔で、しかし、他のクラスメイトたち、特に女子は頻りに話を聞こうと彼女を問い詰める。
――彼女の転校2日目に起きたその波乱は会川が仲立ちをし、次の授業が始まるまで続いたのだった。
――――――――――――――――――
そのまた翌日のことである。
姫宮の顔はやはり疲れ切っていた。
姫宮の顔色を見ることもなく、他の女子生徒から彼女に向けられる嫉妬の視線を鑑みることもなく、だ。
女生徒らは見るだけで終わるわけもなく、姫宮は孤立していく。
それでも求愛する
見過ごすことのできなかった俺は会川に頼んで姫宮のことを呼び出すことにしたのだった。
――――――
――――――――
――――――――――
放課後、俺は姫宮と会っていた。隣には会川をおいている。
「来てもらってすまないな、姫宮。会川もわざわざすまない」
「構わないヨ、賦色クン?君がわざわざ呼び出したんだ。なんとかしようとしたんでしょ?梓チャンのこと」
そう言って面白そうなものを見るような顔で問いかける会川とそれを聞いて不審がる姫宮、そんな中で俺は姫宮に語りかけた。
「まずは、先日は本当に済まなかった。焦って無理に呼び止めようとした俺の責任だ。しかし、それとは別に現状を解決する手段として話を聞いてほしい」
そういって彼女を伺えば疑っている雰囲気は漂うもののひとまずは聞いてくれそうだった。
「まず、俺の異能力は『強奪』という。触った相手の能力を一日の間奪うことのできる力だ。おそらく、お前が転校初日に何事もなく過ごせたのはそのせいだろう。一応確認したいんだが、お前の能力は『ヒロイン化』でいいのか?」
「……えぇ、私は恋愛漫画みたいな展開に巻き込まれたり、洗脳みたいに感情の起伏が激しくなる。そんなモノよ」
そういう彼女は自分の能力に辟易していることが目に見えるほどで、心底恨んでいるようだった。
「そうか、じゃあ改めて提案なんだが俺がお前の能力を奪うってのはどうだろうか?罪滅ぼしというわけではないが、能力で苦しんでいる人間がいるというのであれば協力したい」
……そう。俺がするつもりだった提案はこれである。俺ならば姫宮が悩むその能力を一時的にではあるが取っ払うことができる。そんな考えでの提案だった。
「もしも、一昨日のように生活できるなら、それに越したことはないです。ですが、正直なところ私はあなたを信頼することがまだできないんです」
姫宮が語る。
「一昨日の事故は別に関係ないんです。ただ、私は少なくとも男性からの厚意を受け取りたくないんです。恩を着せようなんて言うつもりがないのはわかっているんですが、どうしても男性というだけで私はあなたを信用できない」
……つまるところ、俺は見誤っていたのだった。いや、そもそも見極められるはずもなかったのだ。彼女の過去、『ヒロイン』としての人生が如何に辛いものであるのかを俺は知ることはできなかったのだ。
その時だった。
「ン~~、賦色クン。チョットどっか行ってて欲しいカナ。」
不意ではあったが会川の助け手は願ってもないものだった。自分という男がいる限り、彼女にいい思いはさせないだろう。そう思った俺は会川に了承の意を返し出ていった。
――――――――――
賦色が去った教室で会川は姫宮に語りかける。
「ウ~ン、梓チャンはやっぱり男の子からナニカされるってこと自体が嫌んだネ。ワタシも無理強いするつもりはないケド、少なくとも女の子とどうこうなれるような性根を持ってる子じゃないヨ?賦色クンは。陰キャだしネ」
「……すみません。それでも、一度考えさせてください」
姫宮は、絞り出すようにそうつぶやいた。
「(ア~これはチョットばかしキズが深そうだナ)コッチこそゴメンネ。無理に変な提案しちゃっテ。まぁ、賦色クンはデリカシーのない陰キャだからサ。大目に見てあげてヨ」
「……どうして、彼は私にあそこまでしてくれるんですか?」
姫宮がそう問いかける。会川は少し考える素振りをしたあとに
「彼が変なトコでお節介でバカだからっていうのもあると思うケド、梓チャンにも言ってたようにキミが他でもない
……と、そう答えたのだった。
――――――――
やはり、会川であっても姫宮の説得はできなかったらしい。教室のドアが開けられ、姫宮は
「すみません。」
と、その一言のみを残して去っていった。
「……マァ、今回は残念でしたっテことで納得していいんじゃないノ?賦色クン。ワタシもあのコをそれなりに気ぃ使ってあげるからサ」
「……あぁ」
会川のその慰めを聞き流しつつも、俺のなかでは姫宮のことを思いやってやれなかったということがただ重くのしかかっていた。
――――――
――――――――
――――――――――
……それでも次の日はやってくる。
やはり姫宮は孤立していた。当然だろう、学校中の人気者たちが彼女を見にやってくるのだから。その目が迷惑だと雄弁に語っているのを知ってか知らずか
会川が抑えるもののそれでも声にならない不満は止まることを知らない。男子たちは雰囲気こそ感じ取っているが傍観を決め込んでいる。
聞き耳を立てて見れば会川が広めたのであろう彼女の異能力についての声。冷静に考えれば、その気持ちが異能力によるものなのだと理性を取り戻していたかもしれない、仕方ないことだと諦めがついたかもしれない。しかし、偽物であってもその熱に浮かされた彼ら彼女らは聞く耳を持たなかった。
「辛気くせえ面してんじゃねぇよ賦色。いつもの図々しさはどうした?」
「いつも図々しいのはお前だよ、勝樹。俺は今どうしようもない現実っていうのに打ちひしがれているんだ」
「何が“どうしようもない現実”だよ。好きな女子にイケメンが集ってるから失恋中ですってか?頭大丈夫か?お前。お姫さまが転校してきてから明らかにおかしいぞ。能力者見つけたときの興奮した感じでもねぇし、そんなに気にかかってんなら声かけりゃいいのによ」
「誰も彼もがお前みたいに遠慮がないわけじゃないんだよ。特に、姫宮については事情が事情なんだよ。あとなんだ?お姫さまって」
「あんだけイケメンにモテモテだからな。あと、そのイケメンたちがそう呼んでるらしいぜ?きめぇよな」
「今回ばかりはその一言にも同意だ」
「あぁ?オレはいつも正しいことしか行ってねぇよ。まぁ、お前がどう思ってるかは知らねぇけど、なんかあったら手ぇ貸すくらいでいいんじゃねぇの?」
「それができれば苦労はしないんだがな……」
どうしようもない、というより、下手に関わらないのが最善策だということ。無力さに歯噛みする。彼女は、姫宮は何を思っているのだろうか?
――――――
――――――――
――――――――――
週の終わりになった。わずか一週間でも、彼女の周りは、この学校は大きく変わった。しかし、今日の朝は彼女のことを表立って悪く言うものはいなかった。
会川に聞けば取り巻きの一人が女生徒の姫宮への態度に見かねて声を荒げたのだという。カースト上位を敵に回したくない女生徒らは少なくとも目に見える範囲ではその鳴りを鎮めたという話だった。
それも彼女の能力だろう。状況が多少マシになったように見えても、姫宮の顔色は良くはならなかった。
――イヤミな女子に絡まれるヒロインを白馬に乗る王子のように助ける。
それはまさしく、ヒロインと主役のあり方で、彼女の能力。その一端であることは明らかな以上、彼女のうんざりした様な顔も当然だろう。
漫画ならばこれでヒロインは守られる。しかし現実は違う。それを知ったのは会川からの警告だった。
「ヤバいかも。ワタシじゃあ止められないくらいストレス溜まってるネ。男子たちに見つからないようにイジメるくらい日常茶飯事だからネ。あのコの能力、想像以上にタチがわるいヨ」
昨日彼女を守ったかに見えた行動は逆に彼女の首を締めることになったらしい。女生徒らを止めるための手段など存在せず、そして危機は訪れてしまったのだ。
――――――
――――――――
――――――――――
それは放課後のことだった。夕方遅い帰り道。
学校では会川がなんとか収めたようで、明日からは休日に入ると、そう何処か余裕を感じていたときだった。
薄暗い路地裏、そこでは数人の女生徒と、ガラの悪そうな男が姫宮を囲むように立っていたのだった。