出来たら一言だけで良いので感想お願いします。
~プロローグ
何時の世だって幸福と不幸は隣り合わせだ。
今日ある幸せが明日まで在るとは限らない。
現実は脆い。
まるで………それは
ああ、なんて………儚い。
あの日まで俺は、幸せは永遠に続くのだと思っていた。
そう信じて疑わなかった。
――――刀は心だ
撃鉄と共に火花が散る。
――――心が荒れていれば、荒々しい刃になり
熱気が工房を包む。
――――心が揺れていれば、鈍らになる
頬を汗が伝うのすら粗末ごとで、只ひたすら撃鉄を落とす。
――――お前は刀に何を乗せる、シオン
甲高い金属音が響き渡り、すべての工程を完了する。
熱を持つ刀を見て、ま、こんなものかな、と一人呟く。
幼い頃に二、三度見た親父の刀の鍛錬は、どこか言い様が無い魅力があって、俺も将来は立派な刀鍛冶になりたいと思った。
しかし、それ以来親父は刀を作ることを止めた。
包丁や草刈り用の鎌、鍬など実用的な日常品しか作らなくなった。
だからと言って、どうしてとは口にしなかった。
刀を作るときの親父が、とても悲痛そうな顔だったから。
だから幼いながらも、どれだけ綺麗でも刀は生き物を“殺す”道具なんだと理解していた。
それでも諦めきれず、只ひたすら鉄を打つ。
親父は何も言わなかった。
俺が刀を打つ時は必ず傍にいた。
それでも何も言わなかった。
只一言、お前は俺の様になるな、とだけ何時も残す。
きっとそれが正しいんだ、だからこれは俺の為だけにしか作らない、そう決めた。
俺が物心つく頃、御袋は既に亡くなっていた。
朝早く起きて、御袋の写真に挨拶を交わす。
寂しいとは思わない。
会ったことも無い俺よりも御袋を思っていたのは親父だった筈だから。
だから親父の前では泣かなかった。
泣くことなんて許されない。
それに、それ以上に親父との生活は楽しくて、そう思うことは少なかった。
そうなるように親父が頑張っていたから、ということは解っていた。
だから親父と居られれば、それで良かった。
俺達が住んでいるのは山の麓の工房を兼ねた小さなログハウスだった。
店頭ではない為商品は街まで下りて発注を受ける、または直で商談をすることになる。
だから、その日が何処かおかしいことが直ぐに解った。
我が
親父は、何故か俺に商談は俺一人でやるから好きな様にしてろ、と言い俺をログハウスから追い出した。
商談は何時も二人で行っていたし、何より俺一人に鍛冶をさせるということが無かった親父が酷く焦った様な様だった事が印象的で、何処か腑に落ちないながらも工房で包丁の打つ準備を整え始めた。
石釜に火を入れ、玉鋼を温め始めたときだった。
外から炸裂音が響いてきた。
乾いた音が耳に届いた時、初めて銃声だと悟った。
自分で打った完璧とは程遠い出来損ないの刀を刀掛けから取り、ログハウスに走った。
表の戸を開けた時、目に映ったのは血溜りだった。
木製のカウンターには鮮血が飛び散り、その下に親父は横たわっていた。
近くにいた男達は皆呆れ顔で親父を見ている。
「ったく、さっさと渡さないからこうなるんだぜ?俺達『赤い星座』が落ちぶれたアンタの“刀”を使ってやるってんだから、返答は『はい』だろうがよぉ!」
「おい、簡単に殺すな。死体の処理どうするつもりだ」
「燃やしとけば何もなくなるっしょ?」
男達は口々に言い、笑い始める。
だがそんな言葉すら頭に入ってこない。
親父が………殺された?
殺された―――――
そこでハンドガンタイプの導力銃 を手にした恐らくシオンの父親を撃っただろう男が扉の前に立ち尽くす少年を見つける。
そして同時に少年が手にしている刀も視界に収めた。
「お、やっぱ持ってたじゃん。あ~あ、このオッサン死んだの無駄骨じゃね?」
からからと笑いながら、少年に近づいていく。
少年を見据えた男は少年の額に導力銃 を突きつけ言う。
「おい。死にたくなかったらその刀と隠してる刀全部よこしな」
だが少年は、………、とボソッと口を動かす。
「あ?何だって?」
耳を少年に傾ける。
しかし、次の瞬間男の首が宙を舞った。
「生まれて初めて“人を殺して良い”と思った、って言ったんだよ」
圧倒的だった。
僅か九歳の少年に残った男達は翻弄される。
狭い空間だというのに早すぎて捉えられない。
少年は鍛冶職人として育てられたが、父親は刀の扱い方を教えていた。
実際、手解きを受けたのは重心の移動の仕方や足運びの仕方等初歩だけだったが、それを上手く繁栄し男達に襲い掛かる。
日々の鍛冶作業で、自分より重いハンマーで鉄を打つ力仕事をこなしてきた少年にとって刀を扱うことに支障は無かった。
腕を斬りおとし、腹を裂き、脳天に突き刺し、胴を真っ二つにする。
凡そ数十秒でログハウスの床は赤一色の血の海とかし、肉塊が無惨に転がっていた。
少年は血で全身をグッショリと濡らしているが、一言も口を開かない。
表情が見えない少年は、ふと思い出したように父の亡骸に近づいていく。
そこで気付いた。
少年の父は、まだ僅かに息をしていることに。
「親父っ!!」
シオンの目に光が戻り、父に駆け寄る。
親父が生きていた―――――それだけが彼にとって唯一の救いであった。
「しっかりしろ!今すぐ医者を呼んでくるから!」
シオンは立ち上がり外に走ろうとして、父に腕を掴まれた。
「……いい。テメェの……傷………ぐらい………自分で解る。……俺はァ……もう助からねェ」
「何言ってやがる糞爺っ!!すぐに呼んできてやるから黙って―――」
「シオンっ!!……良いか、よく聞け………。おまェの……母ちゃん………の事だ」
「?!御袋の………?」
あまりの突拍子も無いことに、シオンは口を噤む。
「……そう……だ……。…俺はァ……お前の……母ちゃんを………殺した」
えっ―――――――
“殺した”?
―――――誰が?/親父が。
―――――誰を?/御袋を。
「何を言って………」
「お前が………生まれて……すぐの事………だ。お前が生まれる前………俺はァ……リベー……ル…ってとこで……刀鍛冶を………してたんだ。お前が生まれる……って事で、お前の母……ちゃんと………話し合……って刀鍛冶を………“人殺しの道具”を作ることを止めたんだ」
過去を語る父の言葉に、停止しかけた思考を戻し、シオンは聞き入る。
「だが………周り……が放っといて………くれなかった。……その頃には……俺の名は………世界一の……剣の……職人として……知れ渡っていた。………リベールの軍……から離れた事で……俺に……“刀”を作らせようと……わんさか……人が追って来た。………次第に逃げ切れなくなって……追い詰められた時……おまェを……守る一心で………お前の母ちゃんの命で……“魔剣”を生成した」
「魔……剣………?」
「俺の……祖先から………伝わる……秘奥の……技術だ。……本来なら……玉鋼と……自分の“生気”を使ってやるんだが………玉鋼が無けりゃ……それと同じ……元素を……含む生き物なら……代用が出来る。だから……」
だから迷わずお前の母を使ったのだ、と父は涙ながらに語る。
「御袋は……最後に何て?」
「『私の分までお前を幸せにしてくれ』……そう言ってた」
―――――っ!!
言葉が出ない。
何も。
「なァ……シオン。……今……幸せか?」
それは救いを求めているような声で、だから答えなくては、と。
伝えなくては、とそう思った。
「当たり前だろっ!!生まれてきてっ!俺は親父と御袋の息子でっ!親父に会えてっ!今まで色んなことがあって!それが、幸福でなかった筈がないだろォっ!!」
誰かが言った。
人の幸福は誰かの不幸で出来ている。
ああ、本当だ。
この身は母の苦痛で出来ている。
この幸福は父の苦悩で出来ている。
―――――なんて、救われない
俺が存在していた生で、親父は己の犯した罪に苛まれ続けていた。
―――――なんて、哀しい
劫火に焼かれるかの如く逃げ場の無い地獄を彷徨い続ける。
―――――なんて、不幸だ
少年の言葉に、父は最期に笑みを浮かべ―――――
「……よかった………」
―――――眠るように力尽きた。
まるで今までとても幸福だったかの様な笑顔で。
窓から差し込む夕日が霞む様な笑顔で。
少年は叫ぶ。
言葉にならない声で叫び続ける。
声がしわがれても、血に塗れていても、そんな事すら気にならない。
すべてがどうでも良くて。
すべてが憎くて。
それを何処にぶつければ良いのか、と。
泣き叫ぶ。
大粒の涙を流す。
それでも骸は立ち上がらない。
最愛の父は、もうこの世に居ない。
非情な現実が少年を打ちのめす。
骸しかないその惨劇の中で。
ただただ、亡き父を呼び続ける。
そして、父の刀を欲した“赤い星座”が、猟兵が憎い、何時しかそう思うようになった。
理不尽だと言われても構わない。
そうだ、これはただの八つ当たりだ。
逆恨みだ。
でも、それでも、父と母を犠牲にした俺の幸福が、あんな奴らに奪われた事が、酷く、酷く憎かった。
行き場の無い憎悪を、憤怒を、只一つの敵―――――“猟兵”に向ける。
何時しか決めた、己の打つ刀は己の為だけに打とう。
ならば、この刀は今より復讐の刃だ。
己の刀は、猟兵を殺す為だけに、打とう、使おう。
―――――でも、最後に一振りだけ―――――最高の一振りを父に捧げよう。
夜通しで鍛え上げた刀は今までの中で最高の一振りだった。
父の亡骸を外に運び出したシオンは、亡骸を燃やた。
遺骨と母の写真を土に納めた後、平らな石に字を刻み、そこに刀を突き立てた。
その後、工房とログハウスに火を放った。
黒い外装を羽織り、鞘に刀を収め、少年はその地を後にした。
その日より、シオン・ルーシフォンは表の世から姿を消した。
翌日、火の手が上がったことにより街の自警団が火事が収まった跡地に来ていた。
そこに住んでいるだろう親子を探して、そして見つけた。
刀の突き立てられた石碑を。
そこにはこう記されていた。
『我が生涯にて最高の一振りを、最愛なる父カイル・ルーシフォンに捧げる』
自警団は事の詳細すら解らぬが、亡人の冥福を祈り、黙祷を捧げた。
そして、その場所を立ち入り禁止にしたと言う。
最初から重い話ですいません。
どうしても書きたい展開にするには必要でした。
ていうか、最初から主人公人格が卓越しすぎてないかと反省してます。
ま、なにはともはれ、初回投稿終了。
次回をお楽しみに。