STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『闇夜の血闘 紅の魔術師VS幽血の統世王 ~Darker Than Darkness~ 』

 

 

 

【1】

 

 腕の良い職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。

 (りん)とした空間に鹿威(ししおど)しの音が響き渡る。

 その池に架けられた石橋の向こうで、

壮麗なる淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。

 

「カモン♪ ベビィ♪ ドゥーザ♪ ロコモーション♪」 

 

 皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、

母性に満ちあふれた女神のような美貌。

 (なよ)やかな体つきのスーパーモデル顔負けのスタイル。

 客観的には、とても日本人離れした長身の息子がいる

一児の母には見えない。

 

「あ!」

 

 その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは

脳裏に走った直感に想わず床の間の机の上に置かれた

写真立てへと視線を向けていた。

 その中に映った最愛の息子は口元に精悍な微笑を浮かべ、

凛々しい視線をこちらに向けている。

 

「今、承太郎ったら、学校で私のこと考えてる……♪

今……息子と心が通じ合った感覚が確かにあったわ♪」

 

 そう呟くとホリィは家事の手を一時休め、

その写真立てをまるで初恋の少女のように

胸の中へと掻き抱く。

 そこに。

 

「考えてねーよ」

 

「学校行ってないものね」

 

「残念だったな奥方」

 

 いきなり上がった三者 (?) 三様の声。

 

「きゃあああああああ!」

 

 淑女は当然の如く無防備な悲鳴を上げた。

 写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は、

不機嫌な仏頂面で自分を睨んでいる。

 

「!?」

 

 その肩には、コートのような裾の長い学生服を着た

全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。

 

「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……

が、学校はどうしたの? そ、それに、その、その人はッ!?

血、血が滴っているわ! ま、まさか、あ、あなたがやったの!?

承太郎ッ!?」

 

 その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。

 

「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……

広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」

 

「え、ええ。そうだと思うわ」

 

 確認すると承太郎は血だらけの少年を肩に担いだまま

檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。

 

「……」

 

 ホリィは、その背中を心配そうにみつめる。

 だから、目の前の少女の見上げるような視線に気づいたのはその後だった。

 

「あ、あら? な、なぁに? シャナちゃん?」

 

 幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、

何分長身のホリィからすると小さいので

どうしても子供に話しかけるような口調になってしまう。

 何よりその瞳に宿る色が、

昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。

 

「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。

学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。

あ、お昼ご飯は何が食べたい? 

何なら昨日みたいに外へ行きましょうか?

パパと承太郎も誘ってね」

 

「……」

 

 ホリィのその言葉を聞くだけ聞くと、

シャナはおもむろに口を開いた。

 

「他人の家族の事に口出しするのは、趣味じゃないんだけれど」

 

 と、まず前置きし。

 

「ホリィはこの件に関わらない方が良い。

冷たい言い方になるけど、出来る事ないと思うから。

信じられないかもしれないけど、

あの血だらけのヤツは私と承太郎を()()にきたの。

承太郎やジョセフと同じ 『能力』 を持った人間。

だから、死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。

アイツもそれで何も言わなかったんだと想うし」

 

「……」

 

 ホリィは黙って、目の前のシャナを見つめていた。

「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが、

目の前の圧倒的な存在感を持つ小柄な少女は、

どうやら彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。

 不器用だが、そのやり方が承太郎と似ていたので

想わず優しい笑みが淑女の口元に浮かんだ。

 

「ええ。解っているわ。あの子は、本当はとても優しい子だもの。

今回の事だってきっと、私には解らない『理由』が在っての事なのよ。

母親の私が信じてあげなきゃね」

 

「優しい、ね」

 

 その言葉に、何故かシャナは素直に同意出来ない。

 脳裏に、見ず知らずの女生徒のため全身血塗れになりながら

花京院と闘った先刻の姿が浮かんだ。

 苦痛に耐えながら、己の存在の力を削ぎ取っている姿も。

 血糊はトーチで消したので今愛用の学制服は新品同然になってはいるが、

その内の傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。

 

「……」

 

 押し黙るシャナの遙か向こう側から、

 

「おい」

 

凄味のある呼び声がかかる。

 

「はい?」

 

 反射的にそう答えたホリィの視線の先、

中庭に設置された花壇を挟んで振り返った承太郎が

鋭い眼光でこちら見ている。

 

「今日は、あんまり顔色がよくねーぜ。元気、か?」

 

「……ッ!」

 

 その承太郎の言葉に、ホリィはまた初恋の少女のように

顔を赤らめ、まだ持っていた胸の中の写真立てをより強く抱きしめると、

 

「イエ~~イ♪ ファイン! サンキュー!」

 

と笑顔で愛らしく手の平を広げたピースサインで応えた。

 

「フン」

 

 鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、

 

「ほらね♪」

 

と、ホリィは満面の笑顔でシャナに向き直る。

 

「まぁ、そういう事にしておくわ」

 

「我は、奥方の賢明な育て方の(たまもの)だと」

 

 短くホリィに答えると同時に、何故か胸元から上がった声に

シャナが視線を落とす。

 

「あ、いや、うむ……」

 

 心なしか少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、

天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。

 

「オイ! シャナ! モタモタしてんじゃあねー!

後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」

 

 遠くになった承太郎が再びこちらを振り向いて叫ぶ。

 

「うるさいうるさいうるさい! 誰の所為だと思ってるのッ!」

 

 シャナは承太郎に向かってそう叫び返し、

足下の床を鳴らして踏み切ると、

軽々と跳躍して中庭を飛び越えた。

 

 

 

 

 

 

 

【2】

 

 

「だめだな、これは」

 

 ジョセフは、茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。

 

「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。

おそらく、あと数日のうちに死ぬ」

 

「……」

 

「死ぬ」 という言葉に、承太郎の視線が尖った。

 

「承太郎、お前のせいではない。見ろ。この少年がなぜ?

DIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか? その理由が、 」

 

 そう言ってジョセフはいきなり花京院の茶色い前髪を右手で(まく)り上げた。

 

()()にあるッ!」

 

(ッッ!?)

 

 花京院の、額の表面に、何か、異様な「物体」が蠢いていた。

 弾ける寸前の木の実のような形をしているが、

まるで生物のように微細な脈動を繰り返している。

 その 「物体」 の触手らしき部分が、

花京院の額中央部に埋め込まれ、

一部は皮膚と癒着していた。

 

「……なんだ? この動いている、クモみてーな肉片は?」

 

 その承太郎の問いに対し、シャナの胸元のアラストールが答える。

 

「それは、彼の者の細胞からなる『(にく)()

この小僧の脳にまで達している。

この 『肉の芽』 は、その生物の精神に影響を与えるよう

脳に打ち込まれているのだ」

 

 そのアラストールの説明を、

棕櫚(シュロ)の磨き丸太の柱に背を預けたシャナが

腕組みをしながら補足する。

 

「つまり、 “コレ” はコイツを思い通りに操る『装置』なのよ。

常に脳に刺激を与え続け、

()()()()()()()()()()()()精神操作を行ってるの。

コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。

故に時間をおけばおく程効果は増大していって、

最終的には自分の命令を麻薬のように

追い求める 【奴隷】 の一丁上がりってわけ」

 

「手術で摘出すればいいんじゃねえか?」

 

「それが出来たら苦労しないわ。

コレは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。

摘出する時、ほんの僅かでも触手がブレたら、

こいつの脳はクラッシュしたまま永遠に再起動しなくなるわよ。

何より外科医は “封絶” の中じゃ動けないしね。

そこまで計算して “アイツ” はコレを生み出したのよ」

 

「アイツ?」

 

 想わぬシャナの言葉に、承太郎の瞳が(いぶか)しく尖る。

 

「 “アイツ” とは、一体ェどういう意味だ?

まるで()()()()()()()みてぇな口振りだな?

アノ男……『DIO』 のヤローによ」

 

「……ッ!」

 

 承太郎のその言葉に、シャナは俯いて言葉を閉ざす。

 

「……」

 

「……」

 

 そして舞い降りる、沈黙の(とばり)

 それをアラストールの厳粛な声が開く。 

 

「空条 承太郎よ。実は、このような事が在った……」

 

 シャナの代わりに、胸元のアラストールが静かな言葉で語り始めた。

 

「ほんの四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者、

『幽血の統世王』 と邂逅したのだ」

 

「何ッ!?」

 

 アラストールのその言葉に、承太郎が両眼を見開く。

 

(……ッッ!!)

 

 追憶の欠片(かけら)が、少女の脳裏に甦る。 

 シャナは、思い返していた。

 自分の受けた 【屈辱】 を。

 

 

 

 

 

 

 

 

【3】

 

 

 それは、ニューヨークのスラム街で

犯罪者の魂を好んで喰らう紅世の徒を討滅した帰りの事だった。

 売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながら

ジョースター邸への帰路についていたシャナの前に、

その男は何の脈絡もなくいきなり現れた。

 まるで、定められた運命であるかの如く。

 人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を(もた)れ、

両腕を組んで静かに立っていた。

 心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。

 黄金の美しい頭髪(かみ)

 透き通るような白い肌。

 男のモノとは想えない妖しい色気が、首筋に塗られた

成分の解らない香油によって増幅されている。

 華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた、

古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。

 

(!!)

 

 シャナは、すぐに解った。

 その時はもう既にジョセフと知り合っていたので

こいつが大西洋の海の底から甦った男、

『DIO』 だと。

「……」

 月影(げつえい)に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと、

その男は静かにシャナに向かって話し始めた。 

 

(ふる)き友を訪ねてこの地に来たが……まさか()と逢えるとはな……

初めまして 『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)』 ……いや……

フレイムヘイズ “炎髪灼眼の討ち手”

と、云ったほうが良いのかな……?」

 

「ッッ!?」

 

 その男を、 ()()()()()()()と想ったのはその時だった。

 男が話しかけてくるその言葉は、心が安らいだ。

 まるで魔薬のように危険な甘さが、そこには在った。

 しかし、 ()()()()()恐ろしかった。

 

「全く驚いた……

私の配下の 『スタンド使い』 を始末した魔術師が……

まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」

 

「ッッ!!」

 

 DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。

 刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、

贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変貌する。

 

「でやぁぁぁぁッッ!!」

 

「フッ」

 

 至近距離で唸りを上げながら迫る、大太刀刺突の一閃。

 ソレが、DIOの姿を刺し貫く瞬間。

 そのDIOの全身が、まるで陽炎のように揺らめいたかと想うと、

一瞬でその(からだ)が今度は蜃気楼のように左右にブレ、そこから姿を消した。

 

「……ッッ!?」

 

 眼前で起きた怪異に困惑したまま、

滑りながら道路に着地したシャナの黒衣の裾が舞い上がり、

深紅の髪が火の粉を撒く。

 

「性急な事だ……」

 

「!!」

 

 見開かれる、灼熱の双眸。

 そのシャナの 「背後」 に、いつのまにかDIOが立っていた。

 まるで異次元空間から、たったいま抜け出してきたかのように。

 或いは空間を飛び越えて、『瞬間移動』 でもしたかのように。

 

「クッ!」

 

 シャナは目の前の状況の分析しながらも、

素早く足裏のアスファルトを鋭く踏み切って

その男から距離をとる。

 鼓動が、激しい警鐘を鳴らし続けていた。

 

「こい……つ……()()()がッ!? 

今! 私の目の前にいるこの男がッ!」

 

 その男は、想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。

 だがその男の顔の裏側は、

この世のどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。

 その瞳の奥は、

この世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、

王族のように優美なその指先は、

数え切れないほどの多くの人間の

死と運命とを弄んできた。

 何年も。何年も……

 何人も。何人も……

 そしてその存在が、いま世界の歪みを増大させている。

 

「私の目の前にいる! この男がッ!」

 

「馬鹿な……」

 

 胸元で、アラストールも動揺を押し隠せないらしい。

 多くの紅世の徒、例え王であったとしても

自分の存在は、なるべく隠そうとするのが普通だ。

 自由に好き勝手に暴れ回っていれば、

すぐに自分達フレイムヘイズにその居場所を察知され、

残らず討滅されてしまうからだ。

“封絶” も 『トーチ』 も、その事を回避する為に生まれた(すべ)

 それなのに、目の前のこの男は、

自分を追っている 『天敵』 の前にあっさりとその身を現した。

 

「この者が……幽血の……統世王……!」

 

「DIOッッ!!」

 

 シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。

 燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。

 

「封・絶ッッ!!」

 

 その小さく可憐な口唇から勇ましい猛りが湧き上がると共に、

シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。

 シャナとDIOを中心にして、紅いドーム状の陽炎が形成される。

 

「 “封絶” ……因果孤立空間か。

なかなか面白い 『能力』 を持っているね?

君達 “紅世の徒” は。

ひとつ……それを私に見せてくれると、嬉しいのだが」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 穏やかな声に、心臓の凍る思いがした。

 しかし同時に、心の一部分がその声に強く惹かれ形を(とろ)かす。

 

「……!!」

 

 刹那とはいえ、心を魅入られた自分自身に凄まじい

まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。

 

(この男が! 全ての元凶! 数多くの王を下僕に()いた! 全ての根元ッ!)

 

 燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、

髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。

 

(討滅! 討滅する!!)

 

 足元のコンクリートを鋭く踏み切り、

紅い弾丸のように飛び出したシャナは

DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど

高速の袈裟斬りを繰り出した。

 周囲の空気を切り裂きながら、

星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。

 意外――。

 DIOはソレを、あっさりと右手で受け止めた。

 戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく

切り裂き、骨に食い込む。

 

「ッッ!?」

 

 驚愕。 

 全身が燃えるように猛っていても、

シャナの頭の中はクールに冷め切っていた。

 まさか()()受け取めるとは思わなかった。

当然避けるものと考えていた。

 その後の攻防の応酬の果てに

必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと

もう脳裏に数十手先の動きまで構築していたというのに、

最初の一撃で全て計算が狂った。

 速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので、

手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。 

 今まで、こんな敵はいなかった。

 どの紅世の徒の中にも。王の中にも。 

 ()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(こ、こいつバカ!? このまま刀を引き抜けばッ!)

 

 刃の切れ味で、指が根刮 (ねこそ)()げ落ちる。

 考えるのとほぼ同時に身体が動いた。

 大刀を掴んだDIOの手を支点にして、

シャナは一瞬の躊躇もなく柄を内側に素早く引き込む。

 だが刀身は動かなかった。

 まるでその場で、()()()()()()()()動きを止めていた。

 

「貧弱……」

 

 DIOのその美しい口唇に、

絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。

 貴公子の仮面に(ひび)が入り、

残虐なその本性が姿を垣間見せた。

 

「貧弱ゥゥゥゥゥゥッッ!!」

 

 いきなり、周囲一帯に白い膨大な量の水蒸気が、

暴発したボイラーのように巻き起こった。

 大太刀 “贄殿遮那” の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが、

いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。

 その腕から発せられる冷気に、周囲の全てが凍り付く。

 大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。 封絶すら凍った。

 

「こ、凍るッ!?」

 

 冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。

 

気化冷凍法(きかれいとうほう) 使用(つか)うのは実に100年振りだ。

“波紋使い” 以外に、使用することもないだろうと想っていたが」

 

 DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべて、

シャナの灼熱の双眸をみつめる。

 冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し、

熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間。

 

「ムゥンッ!」

 

 胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が、

一瞬でシャナの躰を包み込んだ。

 

 冷気で柄に張り付いた皮膚を、

アラストールが 『浄化の炎』 で解き剥がした。

 

「!」

 

 胸元のアラストールに意識がそれた

DIOの手から刀身を引き抜くと、

シャナはその手の温度が上がった部分を

足場にして背後に跳躍し

軽やかに宙返りをして距離を取った。

 

「ありがと。アラストール」

 

 水滴に濡れた手を黒衣で拭い、

同じく透明な水で濡れた大太刀を

構え直しながらシャナは言う。

 

「今のが、彼奴(きやつ)(からだ)を流れる 『幽血(ゆうけつ)』 の能力(チカラ)、その一端か。

油断するな。まだどんな能力(チカラ)を隠し持っているのか予測がつかん」

 

「解ってる」

 

 シャナは短く言うと刀身に付いた

水滴を一振りで全て叩き落とした。

 

「……クククククククク、100年間も眠っていたので忘れていたよ。

己の能力(チカラ)を存分に開放する事の出来る、この得も言われぬ充足感。

久しく戦いから離れていたので血が(たぎ)るというやつか? フフフフフ……

凍てついた私の血も、君の炎に(あぶ)られてどうやら()け始めたようだ」

 

 DIOはその悪の華と呼ぶに相応しき美貌に

邪悪な微笑を浮かべる。

 

「もっと()べてくれ。

深海の底で凍てついたこの私の心に。

君の炎を。君の熱を」

 

 そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を差し出し、

緩やかに構えを執る。

 その構えは、華麗にて美しくそして流絶な力強さを併せ持っていた。

 そしてそれに劣らぬ畏怖も。

 それは、シャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。

 否、威圧感だけならソレを上回った。

 

「さあッ! 手合わせ願おうかッッ!!」 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど

地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。

 

「!!」

 

 

 

 

 

 

「UUUUUUUURYYYYYYYYYYYY――――――――――ッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 周囲のビルのガラスに罅が走るような狂声を上げながら、

シャナの黒衣を纏った躰に向け凍った掌で()き手の連打を繰り出してくる。

 着痩せして見えるその細身の躯からは想像もつかない、

途轍もない怪力の籠もった撃ち込み。

 だが、「砕く」 事を目的とした動作ではない、

明らかに 「掴む」 事を念頭に()いた撃ち方だ。

 どこでもいいからシャナの(からだ)の一部を掴み、

先刻の冷気で全身を凍りつかせる為に。

 

「ッッくぅ!」

 

 素早く複雑な軌道を描く精密な足(さば)きで、

シャナはその躰を高速で反転させながら

DIOの暴風のような撃ち込みをなんとか(かわ)す。

 だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので

避けづらい事この上ない。

 

「クハハハハハハハハハハハハハハハハ!! 

どうした! どうしたぁぁ!! 自慢の炎は出さんのかッ! 

逃げてばかりでは永遠にこの私には勝てんぞ!!

もっと私を(たの)しませろッ!

UUUUUUUUREEEEEEYYYYYYYYYYYYY――――――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!」 

 

 更に、DIOの心理状態が微塵も読めないので

次の攻撃が全く予測出来なかった。 

 紳士然としていたかと思うと、

いきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。

 こんな異常な心理を持つタイプには、

今まで遭遇した事はない。

 

「こ、この! 誰が逃げてなんか!」 

 

 負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、

でも確かにDIOの言うとおりだった。

 しかし攻撃は出来ない。

 どんなに鋭い斬撃を放ったとしても、

この男は躊躇せずにまたソレを掴んで

そこから冷気を送り込んでくるだろう。

『浄化の炎』 があるにはあるが、同じ手が二度通用するとは想えない。

 それに次は、恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。

 しかし、今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。

 時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき、

最終的には僅かに生まれたその隙から全連撃を一斉に捻じ込まれる。

 

(それ……なら……)

 

 決意の光が灼眼に煌めく。

 ()()()()()()()()()()()()()ッ!

 

「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

 己が血を流すことを覚悟した、

鋭い猛りがシャナの裡から湧き上がる。 

 

「ッッ!!」

 

 過負荷により神経の電気伝達がショートし、

目の奥で火花が弾けた。

 だが、その甲斐はあった。

 次の瞬間。

 贄殿遮那の刀身全体が、渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。

 火炎が刀身を焼き焦がし、発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。

 すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。

 ガギュンッッ!!

 まるで鋼鉄の門扉(もんぴ)に灼熱の破城鎚(はじょうづち)でも撃ち込んだかのような、

異質で異様な斬吼と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。

 

「美しい……コレが……君の生み出す “炎” か。マジシャンズ」

 

 胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を、

先刻同様凍った掌で受け止めたDIOは、

炎に照らされた微笑で応える。

 その手の中で、冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けていた。 

 炎と氷の(くすぶ)った(もや)が、DIOの内なる火勢を更に煽る。 

 

(いけるッ!)

 

 かなり無理をしたが、シャナのやった事は功を奏した。

 受け止められはしたが、今度は冷気が躰に廻ってこない。

 これでようやく、こちらからも攻撃出来る。  

 

「おまえをッ! 討滅する!! 幽血の統世王ッッ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを鋭く射抜いた。

 湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。

 

「フッ……」

 

 DIOは、精神の高揚で牙が飛び出した

口元に笑みを浮かべると

大刀を掴んだ手を高速で振り払った。

 怪力によって飛ばされたシャナは、

空中で軽やかに体を返し着地する。

 

「やあああああああぁぁぁぁぁッッッッッてみろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

青ちょびた(ツラ)小娘(ガキ)があああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!」

 

 理性の仮面が完全に破壊され、

この世のどんな暗黒よりもドス黒い

本性を剥き出しにした邪悪の化身。

 DIOは。

 凍りついた両腕を広げ、殺戮の歓喜に身を震わせながら

シャナに向かって狂叫(さけ)んだ。

 

 

←To Be Continued……

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 





はいどうもこんにちは。
まだ『序盤』なのでDIOサマの御尊顔は拝謁出来ません。
やはりDIOサマは終盤まで()()()()()()()
ミステリアスで良いですね。

『挿絵』はようやく最近、「刀」や「アクセサリ」など
付けられるようになったので、
その内過去の「画像」を変えるかも知れません。
まぁ【絵柄の変化】というのは『ジョジョ』では
よくあるコトなので、ソコも忠実にヤっているのです( ̄ー ̄)v
ソレでは(≧▽≦)ノシ
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