STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『戦慄の暗殺者Ⅱ ~Stairway to Hell~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 スタンド、スタープラチナに垂直の軌道で真上に投擲されたシャナは、

まるで獲物に襲いかかる隼のように双眸はただ一点のみを凝視していた。

 全身に掛かる重力を振り切る、絶息の空間疾走。 

 

『オメーは 「上」 だッッ!!』

 

 先刻の言葉。

 シャナは、 その言葉にもう一度だけ心の中で頷いた。

 

(ウン。 「下」 はおまえに任せた。

だから、 ()()()()任せて……!)

 

 屋上全域に張り巡らされたフェンスを抜けたシャナは

そこで黒衣を翻して軽やか反転、

尚も直上に向かおうとする力の矛先を換え

華麗に宙返りを打って屋上の路面に手をついて着地した。

 真新しいコンクリート、 遠間にたくさんの空調機器や大型の給水タンク。

 その、 開けた空間の先――。

 自分の3倍以上の規模と密度を誇る

巨大な “封絶” の中心部に、

長身細身の男が白い存在のオーラを靡かせながら片膝を抱え

純白の長衣を気流に揺らしながら悠然と宙に浮いていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「こんにちは。 お嬢さん」

 

 甘い耽美的微笑をその口元に浮かべ、

今目覚めたかのように気怠い瞳と口調で男はシャナに言った。

 

「初めまして、 だね。

アラストールのフレイムヘイズ “炎髪灼眼の討ち手”

私は紅世の王、 その真名 “狩人” フリアグネ。

以後御見知り於きを」

 

 フリアグネと名乗った純白スーツの美男子は、

幾重も躰に巻き付いた長衣の裾を静かに揺らしながら

屋上の路面へと軽やかに舞い降り、

相も変わらずの気怠げな表情と幻想的な雰囲気のまま、

パールグレーの頭髪を緩やかに靡かせシャナの方へと歩み寄る。

 

「……」

 

 周囲を警戒する事を忘れずに、

同じようにフリアグネへと歩み寄ったシャナが

その男の声とはまた対極の凛とした声で訊き返す。

 

「おまえが、王? 

2日前私たちにチョッカイを出してきた、

燐子達の主?」

 

「その通りだよ」

 

 純白の貴公子は悪びれもせずに

そう言って肩を竦め、そして厳かに瞳を閉じる。

 

「私の、 この世で何よりも大切な “マリアンヌ” に、

随分酷い事をしてくれたらしいね? 

全く、 どう(くび)り殺してくれようか?

この討滅の道具が……ッ!」 

 

 再び見開かれたそのパールグレーの瞳の中に、

険難な光を宿らせてフリアグネは殺気だった言葉をブツける。

 

「……ッ!」

 

 そのフリアグネに対し胸元のアラストールが、

わずかに声を低くして言葉を漏らす。

 

「フリアグネ……そしてマリアンヌか……

音に聞いた名だな……」

 

「知ってるの? アラストール?」

 

 アラストールの呟きにシャナが緊張感を崩さない口調で訊き返す。

 

「うむ。 数百年の永きに渡り、

数多のフレイムヘイズをたったの一人で討滅してきた

『フレイムヘイズ殺し専門』 の “狩人” だ。

加えて燐子創りの鬼才としてもその名は王達の間に鳴り響いている。

永続的に意志を持つ人形、 “マリアンヌ” は

彼奴(きやつ)が創造した燐子の中でも最高傑作の一つだ。

しかし、その者がまさか、彼の者の軍門に降っていたとはな」

 

 アラストールの言葉に、 フリアグネは口唇を笑みの形に曲げた。

 

「君と逢うのは初めてだね? 

荘厳なる紅世の王 “天壌の劫火” アラストール。

しかし、初対面の君に、()()()()()そう呼ばれるのは、

少々心外だな?」

 

数多(あまた)のフレイムヘイズを灰燼に帰しておきながら、

今更何を言う」

 

 アラストールとフリアグネ。

 紅世にその名を轟かせる二人の王が、

白い封絶で囲まれた学園屋上で対峙する。

 

「フッ……まぁいいさ。

最早 “狩人” の真名など、

私にとってはどうでも良い存在だ。

本来の意、 紅世の宝を集める狩猟者としての意も含めて、 ね」

 

 そう言うとフリアグネは、 純白の長衣を閃撃のように鋭く翻した。

 それだけで、 今までの気怠げな雰囲気が一気に吹き飛ぶ。

 

「貴様……それは一体どういう意味だ?」

 

 シャナの胸元から発せられるアラストールの問いに、

フリアグネは猛々しく名乗りを上げた。

 

「聞いての通りの意味さッッ!! 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!

今の私はアノ方の敵を抹殺する 『炎の暗殺者』 フリアグネ!!

身の程知らずにもアノ方を討滅しようと考える薄汚い“フレイムヘイズ”も!

そして 『幽波紋使い』 も! 一匹残らず探し出し全て残らず狩り殺すッッ!!」

 

 狂信者特有のギラギラした眼光を嫋やかな瞳に輝かせながら、

フリアグネは己の暗黒の決意をシャナとアラストールに向けて言い放った。

 

「そしてェェェッッ!! 『幽波紋使い狩り』!! フレイムヘイズ炎髪灼眼ッッ!!

貴様を斃してその真名をも頂戴し!

より完璧な 『暗殺者』 として私はアノ方に仕えよう!!

幽靈(ゆうりょう)劫炎(ごうえん)の簒奪者ッッ!!】

それがこの私の新たなる真名だッッ!!」

 

 フリアグネはそう叫んで獲物を狙う黒豹(クーガー)のような眼光でシャナを睨め付ける。

 

「やれるものならやってみろ!!」

 

 シャナは右腕を鋭く水平に薙ぎ払い、

黒衣を翻らせるとその凛々しき灼眼で

フリアグネを睨み返し勇ましき(とき)の声を上げた。

“狩られるのはおまえの方だッッ!!”

 真紅の双眸に宿る気高き光が何よりも強くそう訴えていた。

 自分の上で熱く猛るシャナとは裏腹に、

アラストールは冷静に眼前の状況を分析していた。

 

此奴(こやつ)の……()()()()()()()()()()()()……

よもや……この者も……)

 

 重い沈黙が醸し出す、 独特の雰囲気からアラストールの心情を察したのか

フリアグネはいきなりそのパールグレーの前髪をアラストールに向けて

(まく)り上げた。

 

「!」

 

 開けた額、 そこには、 ()()()()()()

 

「……」

 

 再度沈黙するアラストールに向け

フリアグネは不敵な笑みを浮かべて言う。

 

「無粋な勘繰りは止めて戴きたいものだな? アラストール?

()()()()()()()()アノ方に忠誠を誓ったのだ。

増長してアノ方に弓引くような愚か者でもなければ、

その絶大なる存在に畏怖して “逃げ出すような” 臆病者でもない」

 

 明らかに 「含み」 のある言葉で、

フリアグネはシャナではなく胸元のアラストールに告げる。

 直接的にではなく間接的に心疵(トラウマ)(えぐ)った方が、

効果は大きいというコトを熟知しての応答だった。

 

「なん、ですって……!」

 

 己の意志とは無関係に沸き上がる怒気と羞恥とを必死に抑えつけて、

シャナはフリアグネを鋭く睨み付ける。

 フリアグネはそんなシャナを無視し、

小馬鹿にするようにアラストールへ告げた。

 

「それに君は、 アノ方を幽血の統世 “王” 等と

無礼極まる呼び方をしているが、

全く以てとんでもない思い上がりだ。

まさか自分も “王” だからと言って

アノ方と 『同格』 の存在だとでも想っているのかね?

その厚顔無恥と傲慢不遜さは万死に値するよ」

 

 そう言い捨てまるで道端のつまらないものでも見るかのような

侮蔑の視線でアラストールを見下ろす。

 途轍もない憤激が、 シャナの全身を駆け巡った。

 

「キ・サ・マ!!」

 

 怒号と共に炎髪が一迅鋭く舞い上がり、

逆鱗に触れられた赤竜のように

大量の火の粉が空間を灼き焦がす。

 

「……」

 

 空間まで蠢くような途轍もない

怒りのプレッシャーを全身から放つシャナ、

それをフリアグネは再び無視して

再度アラストールに侮蔑の言葉を投げつけた。

 

「まぁ、 愚鈍な君にも名前を覚える位は出来るだろう。

次からはせいぜい 『悠血の統世神』 とでもあの方の御名を改め給え。

最大限の礼意と敬意を尽くしてな」

 

「……」

 

 きつく結ばれた可憐な口唇の中で、犬歯がギリッと軋んだ音を立てた。 

 アラストールがこのあからさまな嘲弄(ちょうろう)

眉 (?) 一つ動かす事無く梳き流したのとは逆に、

その上のシャナは今まさに噴火寸前の活火山のように怒り狂っていた。

 その強靭な意志と精神力とで何とか必死に抑えつけてはいるが、

血が滲むほど強く拳を握りしめ(俯いているためにその表情は伺えない)

きつく食いしばった細く小さな顎が憎悪の為に震えている。

 今にも戦慄の大太刀 “贄殿遮那” を黒衣の裾から抜き出し

真っ向から飛びかかりそうな危うさだった。

 ソレを実行しないのは 「まだアラストールの質問が終わっていない」

ただそれだけの理由だった。

 そうでなかったら、 こんなヤツの言葉に耳を貸す気などサラサラない。 

 かつて自分にこの上ない 『屈辱』 を与えた、

()()()の軍門に堕ちた王の戯言等に。

 

「……」

 

 アラストールは少女の様子を(つぶさ)に感じ取りながらも、

敢えて私情を抑えフリアグネに問いただす。

「多く」 とはいえ、 果たして一体どれだけの紅世の徒が

アノ男の配下に加わっているのか?

 そして、 如何なる 「理由」 から忠誠を誓っているのか?

明確に理解しておく必要があるという判断での行動だった。

 全ては、 アノ男を最後に 【討滅】 する為に。

 

「……フリアグネ。 いま一つだけ答えよ。

紅世の王足る貴様が、 何故に彼の者の僕となった?」

 

 己の挑発を意に介さず、

再び平静な声で発せられたアラストールの問いに

フリアグネは再度小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、

大袈裟に両腕広げヤレヤレと首を振った。

 

「一体何を訊くかと想えば……

これはまた答える価値の無い、

愚かな質問だな? アラストール?

“天壌の劫火” の眼力も地に堕ちたものだ」

 

「おまえの主観なんか訊いてないッッ!!

黙ってアラストールの質問に答えろ!! 消し炭にするぞッッ!!」

 

 忍耐の限界超えたシャナがアラストールの上で激高する。

 フリアグネはその様子を愉しむようにみつめると、

少女とは対照的な口調で言葉を返す。

 

「フフフッ……威勢がいいね? お嬢さん……

でも、 ()()()()()()()()()()()()()()()

今まで紅世の徒も含めて我が同胞が何人も君に討滅されたが、

「斬殺」 された者はいても “焼殺” された者は、

ただの一人もいなかったよ 」

 

「!?」

 

 驚愕に真紅の双眸が見開かれる。

 ついで燃え盛っていた怒りも僅かにその火勢を弱め

冷静な思考がシャナの中に舞い戻った。

 

「イヤ、実に残念だ。

灼炎の魔導士の華麗なる炎儀を愉しみしていたというのに、

まさかそれが “封絶” を知らない者の勘違いにしか過ぎなかったとは」

 

 フリアグネはそう言って淡い嘆息と共に長衣の裾をハタハタと振ってみせる。

 その仕草にカッとなったシャナが、 即座に怒気の籠もった声で反論する。

「勝手な、 憶測は止めておくのね……ッ!

いつ、 誰が、 炎の 『自在法』 が苦手なんて言った……!?」

 

 努めて平静を装うシャナを、フリアグネは眼を細めて真正面から見据えた。

 その射るような視線は、 一度標的にした獲物を執拗につけ狙う

“狩人” そのものだった。

 

「誰って……? ()()()()()()()

さっきから、 ()()()()()()()()()()()()()()()じゃないか?」

 

(!?)

 

 予期せぬ言葉にシャナの瞳が更に遠くなる。

 一瞬、 言っている意味が解らなかった。

 しかし、 長い戦いの日々で磨き込まれた少女の鋭敏な頭脳と経験は、

すぐさまにフリアグネの言葉を理解した。

 論理(ロジック)ではなく感覚(フィーリング)で。

 

()()()()()()()()? 

先刻から君の 『視線の動き』 を少々注意して 「観察」 していたが、

君が行っているのは私の攻撃予備動作と自分の間合いとの確認。

気の勢とソレによって生じる心の虚への集中力の収斂(しゅうれん)

後は精々目眩ましと隠し武器に対する警戒だけだ。

ソレは典型的な 「剣 闘 士(スレイヤー)」 或いは 「格 闘 士(ケンプファー)」 の瞳の動き。

もし君が炎の自在法を得意とする 「魔 導 士(ウィザード)」 なら、

()()()()()()()()()()()? 

私が何を飛ばそうが己の躰へ着弾する前に

全て焼き尽くせば良いだけなのだから。

何よりいま現在に至るまで己の 「弱点」 である

水や氷の宝具や自在法に対する “結界” 一枚すらも張っていない。

その(てい)たらくで私に 『炎 の 魔 術 師(フレイミング・ソーサレス)』 だと想え、

と云う方が無理な話だろう?」

 

(クッ!! コ、コイツ!? 一体何者!?)

 

 法王と読んでも何ら異和感のないフリアグネの、

そのあまりの洞察力の鋭さにシャナは白刃の切っ先を喉元へ

当てられたような寒気を感じた。

 淡く冷たい、 今は人形のように無機質なパールグレーの瞳が

自分の 「弱み」 を正鵠に射抜いていた。

 今まで――。

 特にここ一年ばかりの間は、 戦い慣れた “紅世の徒” はともかく

最近になってその存在を知ったばかりの

幽波紋(スタンド)使い』 相手の戦いには殆ど、

王との契約によって得た人間を遙かに超越するフレイムヘイズの身体能力と

戦慄の大太刀 “贄殿遮那” との力のゴリ押しという戦形(カタチ)で何とか勝利を重ねてきた。

幽波紋(スタンド)』 と云う驚異的な変異変則能力を持つ異能の戦闘者、

『スタンド使い』 には今までの経験で培い、

そして磨き抜いてきた戦闘のマニュアルが

全く通用しない場合が実に多かった。

 その変幻自在の異形なる能力(チカラ)の前では、

一見した戦闘総力値が相手を上回っているという事などという事は、

文字通り気休めにもならない。

 最弱が突如最強に。

 極小が突如極大に。

 そんな全く予測の付かない、 一筋の道標すらない混沌とした力場こそが

スタンド使いとの通常戦闘。

 

 更に 『スタンド使い』 相手の場合、

その戦闘力はソレ固有の能 力(スペック)に合わせた環境と使用法により、

威力はありとあらゆる状況に合わせて文字通り千変万化する。

 戦闘の黄金律である筈の “如何に敵である者に致命的なダメージを与えるか?”

シャナの言葉を使えば “己の 「殺し」 を相手に刺し込むこと” 自体が

敵スタンドの特殊能力 『発動条件』 で有ったりした場合が何度も在った。

 相手の保持する能力如何によっては、

圧倒的に優位なフレイムヘイズの身体能力までもが時に足枷(あしかせ)となったり、

折角編み込んだ炎の自在法が逆に操られて自分に牙を剥いた事さえあった。

『幽血の統世王』

 DIOとの戦いによりその事を再認識したシャナは、

 直近(ちょっきん)では最初からフルスロットルで己の全戦闘能力を開放し、

相手の特殊能力を発動させる 「前」 に、

一気に大太刀の連撃の一斉総射をスタンド本体に捻じ込んで

一挙に討滅してしまうという方式を執っていた。

 当然反撃のリスクもあるが、

“スタンド能力はソレを操る本体が倒されてしまえば解除される”

というジョセフからの言葉を認識した上での選択だった。

 攻撃の多種多様多彩性は距離を縮める事によって潰し、

逆に至近距離での乱打戦なら肉体の生命力、 耐久力で遙かに勝る

フレイムヘイズの方が圧倒的に有利。

 そう見越して執ったシャナの戦闘方式は未知の敵、

『スタンド使い』 相手にものの見事に(ハマ)った。

『幽血の統世王』 以外のスタンド使いは全て生身の人間、

故に本体への直接攻撃が他の何よりも効果がある。

 そうやってスタンド共通の弱点を突く戦いを続け、

(たお)したスタンド使いの数が10人を超えた頃、

幽 波 紋 使 い 狩 り(スタンド・ハンター)紅 の 魔 術 師(マジシャンズ・レッド)

という、 あまり有り難くないレッテルが自分に貼られていた。

 

 だから。

 それ故に存在の力を編み上げるのに大きな時間をロスする

“炎の戦闘自在法” は、 最初から戦いの選択肢からは除外された。

 その能力の解らない 『スタンド使い』 に、

ましてや一撃必殺の能力を携えているかもしれない相手に、

力を編むため硬直状態に陥るのは完全な自殺行為と言っていい。

 しかも折角編み上げた自在法も相手の能力によっては無効化、

或いは操られてこちらに弾き返されるという事態に陥ってしまう。

 故にDIOとの戦闘以降で “炎の自在法” は

全くといって良いほど使っていなかった。 

 最近の 「鍛錬」 の内容も、

身体能力の向上と剣技の練磨或いは新技能の開発という

贄殿遮那(カタナ)” 主体の訓練法で、

炎を用いる鍛錬は “封絶” くらいしか行っていない。 

 炎術の練度(れんど)が鈍っているのは明らかだった。 

 そして、 いま、 目の前にいるこの男は、

その事実、 ()()()()()()()()()()()()()

 もし自分の近接戦闘、 その主武器である “贄殿遮那” を封じる手段を

ヤツが持っているとしたら、 状況は極めて分が悪いと断じられた。

 シャナは怒りで燃え上がりながらも頭の隅で冷静にそう分析し、

警戒心をより強く研ぎ澄ました。

 しかしせっかく鎮まりかけた少女の内なる炎に、

フリアグネの次の言葉がまた余計な油を注ぐ。

 

「まったくもってガッカリだよ。

君は生粋の 「刀 剣 使 い(ブレイダー)」 だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

凡庸で有り触れた相手、 今まで飽きるほど 「討滅」 した。

愚直に前から突っ込むしか能のない、

品位も礼節も欠片も持たない粗暴なる者が相手では、

戦意の高揚も戦果の充実も生まれようがない。

実に矮小(わいしょう)な、 “取るに足らない存在” だよ? 君は」

 

 そう言って斜に構え、割れた硝子の側面のような視線でシャナを見下ろす。

 

「ッッ!!」

 

「全く、私の 「同胞」 には君と殆ど容姿は変わらないが、

途轍もない炎の自在法の 「遣い手」 がいるよ。

焔儀だけならこの私すらも凌駕する、

『最強の自在法士』

紅世の王、その真名 (いただき)(くら)

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……ッッ!!」

 

 フリアグネの口から出た、 全く予想だにせぬ者の名。

 その事に、 胸元のアラストールが絶句する。

 上のシャナには、 最早その 「名」 は届かない。

 

「有名だから、 その存在くらいは知っているだろう?

君も少しは彼女を見習ったらどうかな?

あ、 君はここで討滅されてしまうから、

もうその機会は永遠に訪れないか?

これは失礼、 フフフフフフフ……」

 

 嫌味な程の笑顔で、 嬉しそうに口元を長衣で覆うフリアグネに対し、

 

「ぐ……!! うぅ……うううぅぅ……!!」

 

生まれて初めて血に塗れた獲物を目の前にした、

獣のような唸り声がシャナの口から漏れた。

 しかし少女のその様子に、

心中の驚愕のため今度はアラストールが気づかない。

 

( “頂の座” だとッッ!? 現世(うつしょ)ではフレイムヘイズと双璧を成す巨大組織

仮面舞踏会(バルマスケ)の 『大 御 巫(おおみかんなぎ)!!』

バカな!! 既にそのような者まで配下に誣いているというのか!? 彼の者は!?)

 

「うっ、ぐ……うっうっうっ……ウゥ~~~~~~~!!」

 

 少女は感情に心を焼かれまいと必死に憎しみを抑えようとしたが、

漏れる吐息と声までは抑えようがなかった。 

 身体の奥底からドス黒いナニカが湧き上がり、

早鐘を打つ鼓動と共に炉解した鋼のような

灼熱の血液が全身を隈無く駆け巡る。

 心の内で熱く激しく渦巻く感情に気が遠くなりかけた。

 奮熱(ふんねつ)する怒りで頭がどうにかなりそうだった。

 自分の能力に対する侮辱は、

同時に契約者であるアラストールに対する侮辱でもある。

 自分自身に対する揶揄や中傷だったら幾らでも耐えられた。

しかしこの世で最も尊敬し敬愛する、

己の存在の全てを捧げた

アラストールへの侮辱だけは絶対に赦せない。

 侮辱する者も、 付け入る隙を与えた自分自身も。 

 そんなシャナの様子を、

完全にその怒りが 『不可逆』 になった事を

フリアグネは満足気に確認すると、

再び彼女を無視してアラストールの方に向き直った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さて、と。 お待たせしたかな? アラストール?

それでは君の下らない質問に答えて差し上げよう」

 

“下らない” という部分を殊更に強調して、

フリアグネは慇懃無礼を絵に描いたような仕草で

アラストールを睨め付けた。

 

「私がアノ方に忠誠を誓った理由……

それは、 ()()()()()()()()()()()()()

 

 俯いて怒りに震えるシャナとはなるべく視線を合わせないように、

瞳を閉じて横に向き直りそしてその両腕を組むと

フリアグネはアラストールにそう言い放った。

 

「実に単純な理由だがそれが全てだ。

何よりアノ方の世界を覆い尽くすような巨大な存在は、

その 『復活』 前から犇々(ひしひし)と感じていた。 「君」 もそうだろう?」

 

 意図的に少女の存在を無視し、 得意気に言葉を紡ぐフリアグネ。

 

「……」

 

 シャナの震える左足が、 無意識に一歩前に出た。

 フリアグネはDIOに劣らぬ邪悪な笑みを浮かべると、

妖しく煌めくパールグレーの瞳でサディスティックに一瞥した。

 

「その 『(きざし)』 が微睡(まどろみ)の中に現れた事も在ったか。

夢の中のアノ御方は、 神々しき麗絶な竜神の御姿(みすがた)をしておられたが、

実際に相対したその御姿は較べモノにならなかった。

同じくアノ方に御逢いした君なら、

()()()()()()()()()()? アラストール?」

 

「むう……」

 

 アラストールは此処から大海を挟んだ遙か遠く、

北米の地で垣間見たDIOの姿を想い起こした。

 確かに、 その全身が黄金に煌めくかのような、

絢爛たる永遠が顕在したかの如き男の姿に、

討滅の使命感以外の感情が芽生えなかったと言えばソレは嘘になる。

 沈黙するアラストールを誇らしげに一瞥した見つめたフリアグネは、

そのまま微かに高揚した声で言葉を続ける。

 

「私を始めとする紅世の徒の多くは、

アノ御方が永き眠りから 『復活』 するとほぼ同時に

すぐ御許(みもと)へと馳せ参じた。

それをしなかったのは、 アノ方の存在を感じ取れない無能な(ともがら)

愚かなフレイムヘイズだけだ」

 

 フリアグネはそう言って何もない空間を、

纏った長衣ごと愛おしそうに両腕で掻き抱く。

 頬には人間のように赤みが差し、 瞳はあくまで澄んでいた。

 

「アノ御方の存在は……あまりにも……あまりにも……ッ!

大きく、 深く、 そしてお美しい……

その御姿を前にしてその御力を試そうなどとは微塵も想わなかった……

アノ方の絶対的な存在の前では……この私の存在など塵芥にも等しい……

“フレイムヘイズ狩り” の自負など跡形も無く消し飛んだ……

そして気がつけば……私は自分の宝具をアノ方に献上していた……

そしてアノ方はそれをお受け取り下された……!

それだけで私の心は……この上ない至福で満たされたよ……ッ!

あんなに素晴らしい気持ちに包まれたのは……!

666年前にマリアンヌを生み出して以来初めてだった……ッ!」

 

 端麗な口唇から紡ぎ出されるフリアグネの言葉は、

か細い呟きのような淡い声調でアラストールに聞かせるというより

自分自身に言い聴かせているようだった。 

 そして純白の長衣を愛しそうに抱きしめながら、

赤子のような笑みをその耽美的美貌に広げる。

 

「遂に、 王足る 『誇り』 すらも失ったか? “狩人” フリアグネ」

 

 敵とはいえ、 同胞の余りに変わり果てた姿に

落胆を押し隠せない口調で告げられるアラストールの言葉に、

フリアグネは夢から覚めたように長衣から顔を起こすと

再び愚者を見下ろす歪んだ笑みで応える。

 

()()?」

 

 細めた流し目でアラストールを見たフリアグネは、

そのまま数秒言葉と動きを止める。

 そし、て。

 

「クッ、ハハハハハハハハハハハハハハ!!

アァァァァァァァァハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 いきなり子供のような、 無邪気で開けっぴろげな声をあげて笑い始めた。

 

「何が可笑しいッッ!!」

 

 怒髪天を突くようなシャナの喚声で空間がビリビリと震える。

 

「イヤイヤ、失礼。 まさかそんな低次元な応答が

返ってくるとは想わなかったのでね。 つい」

 

 口元を長衣の裾で覆いながらフリアグネは

小馬鹿にするような流し目をシャナに送って来た。

 相当に精神がHigh(ハイ)になっているのか、

小さな舌先まで出している。

 

「……!!」

 

 底無しに湧き上がってくる怒りに頭が沸騰するのを覚えた。

 

「しかし、アラストール? 

君はまだそんな次元の話をしていたのか?

全くもって最早救いがたい。

その老いた精神の鈍重さ加減には、

嫌悪を通り越して哀れみすら湧いてくるよ。

紅世の最果てに小屋でも(こしら)えて、

隠居していた方が良いんじゃないのかい?」

 

 心底呆れ返ったという表情で言い捨てられる露骨な侮蔑の言葉に、

シャナの奥歯がバリバリッと音を立てた。

 フリアグネはそんな少女の様子など意に介さず、

理解の悪い受講生を啓蒙(けいもう)する教授のように指先を立てた。

 

「いいかね? 誇りや使命などというそんな偏狭なヒロイズムは、

アノ方の絶対的な存在の前では全く無意味だ。

アノ方の前で全ての言葉は意味をなくす。

善や悪などという些末な概念など最初(はな)から超越しているのだよ!

アノ方は!」

 

 そう言ってフリアグネは大仰に両腕を広げてみせる。

 

「そして愚かなフレイムヘイズ風情には解るまい!

アノ方に存在を認められ永久(とわ)仕えることの出来るこの至上の悦びが!

今なら解る! そしてはっきりと実感出来るッ!

私はアノ方に逢う為に! 

数千年も時の中を彷徨(さまよ)ってきたのだ!!」

 

 フリアグネは最早完全に、 自分の紡ぐ言葉に自身で陶酔していた。

 カルト宗教の煽 動 者(アジテーター)特有の症状、 催 淫(ヒュプノシス)現象である。

 その端正な口唇から出る言葉は、

宛ら死霊の取り憑いた弦楽器が

狂って勝手に動き出したかのような、

異様で不気味な調律と韻を掻き奏でていた。

 

「そしてアノ方は!! この使命を完遂した暁には!!

この地での 『都喰らい』 を御赦し下された!!

これで私の永年の “悲願” も!! ようやく成就出来るというわけだッッ!!」

 

「!!」

 

「!!」

 

『都喰らい』

 その言葉にシャナとアラストールが同時に絶句する。

 そんな二人の様子など無視して、

フリアグネは狂った調律の狂騒を奏で続ける。

 

「クククククククククク! 全くもって最高だッ!

実に実に実に素晴らしいッ!

アノ方に出逢ってから私という存在の 『運命』 は、

その全てが完璧に回転している!!

ハハハハハハハハハハ!! 『神』 だ!!

アノ方は正しく現世(うつしょ)紅世(ぐぜ)とを統覇するべくして生まれた

『神』 なのだよ!!

フハハハハハハハハハハハハハハハ!!

クハハハハハハハハハハハハハハハ!!

アアアァァァーーーーーーハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

「貴様……」

 

 最早身も心も完全なるDIOの下僕へと堕ちたフリアグネに、

流石に嫌悪を滲ませた王に対し、

 

「アラストール……ッッ!!」

 

懇願するようにシャナは叫んだ。

 

「も……う……! 無駄……よ……!!

アノ男の……!! 奴隷に……!! 成り……下がった……!

ヤツに……!! もう……! これ以上……!

何……言っても……! 通じ……ない……!!」

 

 怒りで、 言葉が切れ切れにしか出てこない。

 でももう、 これ以上聞いているのは堪えられなかった。

 ()()()()()()()()()()

 アノ男に関する言葉も。

 そしてその(おぞ)ましき従属奴隷の声も。

 全身を生き物のように這い回り、

胎動と脈動とを繰り返す溢れ出る憎しみに気が狂いそうだった。

 そう……

 戦わないと気が狂う!

 討滅しないと気が狂う!!

 目の前のこの男を!

 そしてアノ男に纏わる全ての存在を!!

 

「クハハハハハハハハハハハハ!! このマヌケめッッ!!

貴様はその 『奴隷』 に惨たらしく殺されるのだよ!!

卑しい王の討滅の 【道具】 がッッ!!」

 

 フリアグネはまるでDIO自身が取り憑いたかのような

邪悪な風貌でサディスティックに嗤うと、

その瞳にも仕える主と同じ邪悪の光を宿らせて叫んだ。 

 

 

【挿絵表示】

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 





はいどうもこんにちは。
『頂の座・ヘカテー』のキャラデザは変えました。
現在の挿絵作成の環境上、()のデザインは
どう足搔いても無理なんです。
なので“和洋折衷”の『魔法少女』という感じに致しました。
(「内側」が“和”で身体の末端に至るにかけて『洋装』が入る)
「能登ぉ~」とか言われても知りません、
『ノトーリアスB・I・G』でも喰らっといてください。

一応設定上はヴァニラ・アイス、エンヤと並ぶ
【ケタ外れの強さ】というコトになっておりますので、
まぁ『強キャラ感』出せたと個人的には満足しております。
多少、露出は多めになってしまいましたが、
ソコは『ジョジョのテイスト』が入ってるというコトで
予め御了承ください。
(『エルメェスの兄貴』よりはエロくないでしょ……('A`))
ソレでは(≧▽≦)ノシ

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