STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『戦慄の暗殺者Ⅴ ~The Greatful Depletion~』

 

 

 

 

【1】

 

 

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッ!!

 

 

 

 

 

 

 突如目の前に姿を現した、 中世芸術彫刻のような白銀比の躰と

腰に届く以上に長い艶やかな髪を併せ持つ幻想的な雰囲気の美女。

 否、 (からだ)は成熟しているが可憐な顔立ちをしているので

正確には 「美少女」 と呼んだ方が適切かもしれない。

 透き抜けるような白い肌、 露わになった肩口と細い二の腕、

深い瑠璃色の、 胸元が開き右脚の部分にスリットの入った

サテンスカートのドレスに身を包み、

更にドレスとは正反対に純白な、

天使の羽衣を想わせる長衣(ストール)を纏っている。

 足下は踵の高い 『十 字 弓(クロスボウ)』 の刻印が入った

ヒールリング付きのミュールを(しゅく)と履いていた。 

 白い封絶の逆光に反照された

その “月下美人” と呼んでも差し支えない艶麗なるその姿。

 見る者が見ればきっと彼女をこう評したであろう、

【闇夜ノ花嫁】 と。

 

「……」

 

 承太郎は警戒と緊張とを崩さずぬまま、

その幻想的な雰囲気を醸し出す美少女を見つめ状況分析を測る。

 そして同時に纏っている純白の長衣が放つ神秘的な煌めきに、

全世界波紋戦士直属の長である曾祖母(そうそぼ) 『エリザベス』 の

その妖艶且つ威風足る姿を想い起こした。

 目の前の少女は、 曾祖母に比べて妖しさと勇ましさこそ薄れるものの

その様装は彼女の戦闘体系に酷似していた。

(更に付け加えるのなら、 その全身に纏った清純な気は

成長し女性として完成されたエリザベスにはないモノである)

 比較対象である曾祖母も、 『波紋』 の修練時には

似たような色彩を放つ首 帯(マフラー)を身に纏っていた。

 しかしその本質は装飾用のソレではない、

使()()()次第によってどんな屈強な刀剣をも凌駕し

どんな頑強な甲冑すらも一撃で粉砕する超絶の波紋兵器だ。

 似たような形状をしている以上、 そして先刻の奇怪なトランプも含めて

少女の纏う長 衣(ストール)にも、 何らかの 「特殊能力」 が付与されていると

視るのが妥当であろう。

 それならば衣擦れによって長 衣(ストール)の微妙な動きを感知する為に

素肌を露出しているのも頷ける。

 曾祖母も実戦を想定した戦闘訓練の時は、

常に軽装でしかも動きやすい薄地の服を着ていた。 

 

 仮に “ジョースター” の血族であるエリザベスを光の女神と喩えるならば、

『DIO』 の使い魔である眼前の少女はその対極、

差詰め影、 闇の隷 女(スレーディ)

 その闇の美少女が神秘的な煌めきを放つ

アメジストの瞳で、 静謐に語りかける。

 

「それにしても……よく私の 「居場所」 が解ったわね?

空条 承太郎。 影も形も完璧に消し去った筈なのに」

 

 清純な姿に相応しい美しき声で、 異界の美少女は承太郎に云った。

 

「そりゃあそんだけ強烈な “殺気” を四方八方に撒き散らしてりゃあな。

マヌケな猫でも近寄る前に逃げていくぜ。

()()()の 『能力』 で透明になっても意味ねー」

 

 そう反論し承太郎は逆水平の指先で、

艶やかな胸元でサラサラと()き流れる長衣を指差した。

 

「流石の洞察力ね。ご主人様から譲り受けたこの 「宝具」

『ホワイトブレス』 の特性を一目で見破るなんて」

 

 純白の長 衣(ストール)がその軽さ故まるで陽炎のように、

少女の周囲で婉麗(えんれい)に揺らめいている。

 

「身内に似たようなモン持ってるのが一人いるんでな。

だがその 「能力」 は、 “透明になる” なんてなチャチな代モンじゃあねーぜ。

本気で使()()()ブ厚い鋼鉄の扉でもブチ砕いちまうからな」

 

 承太郎は少し得意気に少女へ説明すると、

即座にその表情を引き締めた。

 

「確かテメーは、 一昨日(おととい)街中で

オレにケンカを吹っかけてきやがったヤツの片割れだな?

悪趣味なマネキンの 「首玉」 ン中に潜んでやがった金髪の女。

()()()が少々変わっちゃあいるが、 声と雰囲気で解るぜ」

 

 承太郎の問いに目の前で佇む異界の美少女は、

その長く麗しいホワイト・サファイアの髪を(たお)やかにかきあげる。

 フワリ、 と舞い上がった髪が、

まるで極上の絹糸のように優しく空間を撫でた。

 

「御指摘の通りよ。

私は、 壮麗なる紅世の王 “狩人”フリアグネ様の忠実なる従者、

燐子(りんね)” マリアンヌ」

 

 マリアンヌと名乗った美少女の形の良い耳元に、

磨かれた瞳と同色のピアスが仄かに光っていた。

 

「私のご主人様。 そしてそのご主人様が敬愛する “アノ方” の御為に

その命頂戴させてもらうわッ! 覚悟なさい!」

 

 ドレスの少女はそう清冽な声で鋭く言い放ち、

そして長 衣(ストール)を先鋭に翻す。

 その容貌は正に少淑女とでも云ったような嬋媛(せんえん)な佇まいだが、

仕える主を 『ご主人様』 と呼ぶ等所々が妙に子供っぽい。

 その懸 隔(ギャップ)が見る者によっては抗いがたい強烈な魅力となるが、

承太郎はその凛とした宣戦布告とは裏腹に剣呑な表情で応じる。

 

「やれやれ。 見た目が変わろーがホーグとかいう 「得物(エモノ)」 持ってこよーが、

結果は何も変わらねーぜ。

また痛い目みねー内にとっととご主人様ン所にズラ帰えんだな?

“マリアンヌ” だったか?」

 

 少女の露わな素肌から立ち昇る、

アイリスやブルガリアン・ローズ等が

絶妙にブレンドされた甘い香気に

承太郎は眉一つ動かさず言った。

 

「フッ、甘いわね? 空条 承太郎?

今のこの姿()こそが、 ご主人様が私の為に創って下された

この私の 『完成体』 なのよ。

この前の同じだと想っていたら、 痛い目を見るのはアナタの方だわ」

 

 主に対する絶対的な信頼がそうさせるのか、

マリアンヌは余裕の表情でそう返す。

 

「……」

 

 その言葉に承太郎は嘆息をつき学帽の鍔で目元を覆う。

 

「やれやれ。 そんな掴めば折れちまいそうな細腕で何言ってやがるんだか。

『スタンド』 を使う間でもねぇ。

「今」 のテメーじゃ生身のタイマンでも楽勝だぜ。

女を殴る趣味はねぇ。 今すぐオレの前から消えろッ!」

 

 そう宣告し三度突き出した指の先でマリアンヌを射す。

 曾祖母譲りの、 威風堂々足るその風貌。

 しかしマリアンヌは小悪魔的な微笑と共に彼へと問い返す。

 

「ウフフフフフフフフフ。

一体、 ()()()()()()()()()()()()()()()? 

「上」にいる “炎髪の小獅子” がそんなに心配なの?」

 

「……ッ!」

 

 予期せぬ指摘に一瞬虚を突かれたかのように承太郎の視点が遠くなるが、

すぐに強靱な意志で表情を引き締める。

 

「テメーの知ったこっちゃあねぇ話だ。

アラストールのヤツも傍に居る。 何も問題はねぇ」

 

「フフフフフフフフフフ。

()()()()()というのよ。 空条 承太郎。

アナタは今、 余計な事に意識が逸れていて

目の前の存在の 『本質』 に気がついていない」

 

 マリアンヌの、 その明らかに含みのある言葉に承太郎が反応する。

 

「……だと?」

 

 疑念を浮かべた承太郎によく聞きなさい、

と前置きしてからマリアンヌは告げる。

 

「今の私の()()姿()は、 アナタを 「討滅」 する為のモノではないし、

ましてや戦闘用のソレでもない。 もっと大いなる “目的” の為に創られたモノ。

その 『本質』 を理解していないアナタに勝ち目はないわね? 空条 承太郎」

 

「……ッ!?」

 

 自信に満ち溢れたマリアンヌの言葉に困惑の表情を浮かべる承太郎。

 しかし彼の鋭敏な頭脳は、 己の意志とは無関係に

与えられた情報を精査しその「理」を模索する。

「戦闘用」 では、 ない?

 なら、 何故、 この女はオレの前に姿を現した?

 ()()()()()()()()()()目的ではないのか?

 脳裏に様々な疑問がランダムに点灯する。 

 困惑した表情に対し口元に清らの微笑を浮かべ、

魅惑的な甘い芳香を靡かせながらマリアンヌは言葉を続けた。

 

「私の今のこの 「躰」 は、

紅世(ぐぜ)禁儀(きんぎ) 『都喰らい』 によって発生する

膨大な量の “存在の力” を注ぎ込む為に創られた、

云わば聖なる 『器』

そして、 ご主人様と共に永遠を歩む為に創られた

悠久の 『似姿』……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 自信に満ち溢れた清冽な表情で細い手を胸に当てながら、

マリアンヌは己が存在の本質を語らう。

 しかし承太郎は同時に語られた “別の事象” に意識が向き

想わず声が口から漏れた。

 

『都喰らい』…… だと……ッ!?」

 

 その彼の動揺には気づかず、 紅世の美少女マリアンヌは主譲りの

麗らかな口調で言葉を紡ぎ続ける。

 少女にとっては 『都喰らい』 と呼ばれるモノの事象よりも、

今の自分の本質を語る事の方が遙かに重要であるらしかった。

 

「だから、 今の私のこの 「姿」 は、 ご主人様の私に対する想いの結晶。

フリアグネ様の永遠の愛が顕在して 「形」 と成ったモノ。

だから今のこの躰で私がアナタに――」

 

「おいッ! “そんな事ァ” どうでもいいッ!」

 

 甘い熱を秘めて紡がれる令嬢の言葉は、

無頼の貴公子が放つ怒声によって掻き消された。

 自らの言葉に陶酔していた少女は、 まるで微睡(まどろ)みから覚めた仔猫のように

アメジストの双眸を(みは)り瞬かせる。

 

「答えやがれッ! その 『都喰らい』 っつーのは一体ェどういう意味だッッ!!

テメエッ! アレだけ殺ってもまだ飽きたらず、

今度は()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!?」

 

「――ッ!」

 

 仇敵に何よりも大切な主との 『絆』 を 「そんなもの」 呼ばわりされた事に、

少女は宝珠のような綺羅の肌を微かに紅潮させムッとなったが

すぐにその表情を引き締める。

 

“相手の感情を読み取りその 「弱み」 を利用しろ。

特に 「怒り」 は最も生み出し易く尚且つ利用し易い”

 

という主の言葉を思い出したからだ。

 

(ハイ……解っております……私のご主人様……)

 

 心中で甦った最愛なる者の言葉に、

マリアンヌは感謝の意を捧げると同時に頬を朱に染めた。

 

「ウフフフフフフフフ。 コトは()()()()()()()()()()()

そう 『単純』 ではないわ。 空条 承太郎」

 

 そう言ってマリアンヌは焦らすように言葉の間隔を開けると、

淡いルージュの引かれた夢幻の口唇で静かに告げる。

 今の承太郎にとって、 何よりも残酷な 【真実】 を。

 

「紅世の禁儀で在る究極自在法 『都喰らい』 の効力は、

()()()()()()()()()()()

この街に存在する全て、 草木や動物は勿論、 花や虫、 石や土、

水や空気に至るまで有機物無機物は問わず、 文字通り 『全て』 よ――!」

 

「――ッッ!!」

 

 衝撃。

 淑とした声で淡々と告げられたマリアンヌの言葉、

『都喰らい』 その本質に承太郎は絶句する。

 名称から類推して漠然と大量殺戮のイメージを膨らませていたが、

その 『本質』 はより残虐な事実、 ()()()()()()()()()真実だった。

 マリアンヌは、 蒼白になった承太郎の表情を愉しそうに一瞥すると

声のトーンを高めて言葉を続ける。

 

「更に 『都喰らい』 発動の直後、

膨大な量の存在の力へと還元されたこの街は、

()()()()()()()()()()()()()()になる。

その痕跡すらも遺さずに、 忘却の彼方へ掻き消されてね。

ウフフフフフフフフフフフフ」

 

「……」

 

 瞳を見開いたまま無動となる承太郎に、 マリアンヌは尚も続けた。

 

「そ、 し、 て、 この 『()』 を還元された存在の力で満たす事によって、

私はようやく 『一個』 の存在として

この世界に 『自律』 出来るようになる。

もうご主人様の御手を煩わせる事もなく、

一つの存在として、

永遠に傍らでお仕えする事が出来る」

 

 そこでマリアンヌは一度言葉を切り、 淡い吐息をつくと

 

「そして今度は私が護られるのではなくッ!

私がこの手でご主人様を御護りするのよッッ!!」

 

決意の叫びと共に純白の長 衣(ストール)を鮮麗に翻した。

 周囲を揺蕩う気流にすら靡く極薄の長衣が

羽根吹雪のように空間を舞い踊る。

 

「アナタには解らないでしょうね? 

今の私の至上の幸福感なんて。

想像すらも出来ないのでしょうね?

「人間」 で在るアナタには。

ウフフフフフフフフフフフフフ」

 

 嫋やかな声調と微笑で心底嬉しそうに、

マリアンヌは承太郎へと問いかける。

 瞬時には全く理解不能な言葉の羅列。

 あまりにも突拍子がなく、 まるで寓話の中の話でもされているようだった。

 しかし、 この少女が2日前に行った 『行為』 を思い起こせば、

ソレが真実か虚実か等と問う事は愚問だった。

 目の前の異界の少女は、“紅世の徒” は、

()()()()()()()()()()

 一片の躊躇もなく、 一片(ひとひら)の慈悲すらなく、

数十万単位という人間を蟻でも踏み潰すかのように躊躇いなく葬り去る。

 無邪気な幼子が、 残酷な遊戯に興じるように。

 

「――ッッ!!」

 

 承太郎の口内で、 犬歯がギリッと軋んだ音を立てた。

 しかしそれだけの大惨劇を企てているにも関わらず、

口唇に清らの微笑を浮かべている少女 “マリアンヌ”

 神秘的に光るアメジストの瞳には、

その 『行為』 に対する背徳感も罪悪感も

まるで感じ取るコトが出来ない。

 それどころかその 『都喰らい』 という人間の、

否、「存在」 の 『大消滅』 を何かとても 「崇高」 なモノ、

或いは 「神聖」 なモノとでも想っているようだった。

 数十万単位の人間の 『生命(いのち)』 が、

自分の 『()』 に流し込まれる事に対して

微塵の恐怖も嫌悪も抱いてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 空条 承太郎は、 否が応にもその事実を思い知らされた。

 幾らその姿が、 人間に酷似しているとはいっても。 

 自らの宿敵、 『DIO』 もまた、

嘗て己が祖先に対する “血染めの裏切り” によって

『人間の心』 を完全に捨て去った者。 

 全ての人間が生まれながらに持っている筈だった “ある感情” を、

己がドス黒い意志と欲望とでその全てを潰滅させた、 【真の邪悪】

 いま目の前にいるこの少女は。

 その主、 “紅世の王” は、ソノ――

 

 

 

 

 

 

 

 

DIOの使徒。

 

邪悪の信徒。

 

生命と精神の簒奪者。
 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……! ううぅっっ……!!」

 

 怒りで身を震わせる承太郎の口元から、

手負いの獣の如き強暴な呻り声が漏れる。

 マリアンヌは一瞬驚いた表情を見せたがすぐに、

たおやかな微笑を浮かべ満足そうにその様子を(すが)めた。

 

「フフフ……フフ……ウフフフフフフフフフ……ッ!」

 

 ルージュの引かれた耽美的な口唇から、 意図せず少女の微笑が零れる。

 欣快(きんかい)だった。

 2日前、 アレだけの燐子の大群を前にしても掠り傷一つ負わず、

更に自分を地に這わせるというこの上ない 『屈辱』 与えたこの男が、

今、 ただの 「言葉」 で、 苦悶の形相を浮かべているというその事実。

 マリアンヌにとってもその反応は予想外だった。

しかしだからこそ、 余計にソレが何にも代え難い

愉悦である事がより深く身に沁みた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()というコト。

 それに、 よく見ればこの男は、

自分の主には遠く及ばないが

「人間」 にしてはかなり美しい風貌をしている。

 単に物理的な造形や構成の美しさではない、

その内に宿る強靭で高潔な 『精神』 に裏打ちされた、

それこそ存在そのものが放つ真正の至純美。 

 その風貌が、 自らの紡ぎ出す言葉一つで苦悶に歪むソノ悦楽。

 まるで、 完成された芸術品を(ほしいまま)粉々にするような、

倒錯した愉悦だった。 

 もっとコノ男を苦しめてみたい。

 肉体的にも、 精神的にも。

 もっと。もっと――。

 臍下(せいか)の深奥から湧き出てて全身を駆け巡る

何よりも甘美で危険な昏い熱をその肌に感じながら、

マリアンヌは(とろ)けるような微笑を口唇に浮かべた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「フフフフフフフフフフフ。

人間とは、 厄介なモノね? 空条 承太郎?

自分以外の人間が死ぬのが、 そんなに辛いの? 苦しいの?」

 

 まるで恋人をからかうような甘い声調で、

マリアンヌは承太郎に問いかける。

 

「滑稽だわ。 自分達は、 ありとあらゆる種類の生物を殺しておきながら、

それが自分の()になると憤るなんて。

随分身勝手な話よね?

そうは想わない? 空条 承太郎? ウフフフフフフフフフフフフ」

 

 甘い吐息と共に紡がれる清らかで静謐な声が、

頭蓋の神経に絡みつき更に神経を掻き乱す。 

 そんな 『理屈』 は、 聞きたくもなかった。

 自分は人間という存在の在り方を探求する哲学者でもなければ、

人類の罪深さを贖う聖職者でもない。

 ただ――。

 

 

 

 

 

 

『無抵抗の人間を虫ケラのように嬲り殺すヤツらが赦せないだけだッッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!! 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 

 

 

 

 

 

 俯きその表情が伺えない承太郎の全身から、

激しく渦巻く怒りと共に放出される

まるで空間自体が蠢くような途轍もないプレッシャー。

()()()()()()()()()()放出される。

 承太郎の全身から、 白金色に煌めくスタンドパワーが

止め処もなく迸り出ていた。

 臨界を超えた怒りと共に――。

 スタンドは、 人間の 「生命」 が創り出す(パワー)在る映 像(ヴィジョン)

 そして、その 『原動力』 となるモノは、 ソレを司る人間の 『精神』

 故に! 「本体」 である “人間の精神が高まれば高まるほど”

()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!

 熱く! 激しく! 燃え尽きるほどに!!

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 承太郎の全身から迸る白金のスタンドパワーが床を伝い、空間を伝い、

やがてマリアンヌの周囲を覆い尽くし露出した肌に絡みつく。

 

「――ッッ!!」

 

「体感」 は、何もなかった。

 熱さも冷たさも、 質量すら感じなかった。

 しかし、 己の意志に、 精神の深奥に直接触れられたかのような衝撃が

『実感』 として在った。

 その奇妙で不可思議な感覚に、 マリアンヌは驚愕よりも歓喜で身を奮わせる。

 そう、 燐子造りの天才である主の創り出した

最高傑作で在るこの 『躰』 に、

注ぎ込まれる力は何も有機物無機物に留まらない。

 この世ならざる能力(チカラ)、 『幽波紋(スタンド)』 すらもその範 疇(カテゴリー)に含まれる。

 ソレが自分に注がれた時の事を想像して、

マリアンヌはアメジストの双眸を幼子のように煌めかせた。

 ()()()()わざわざ、 再三に渡る主の反対を押し切ってまで

自分は危険な相手にその身を晒したのだ。

 

「ス、スゴイ……ッ! 

コレがアノ “天目一個(てんもくいっこ)” すらも凌駕する、 地上最強の 「ミステス」

『星の白金』……! ソノ真の能力(チカラ)……ッッ!!」

 

 この力を手に入れ、 ソレを主の為に役立てる事が出来たのなら、

その至福で自分は一体どうなってしまうのか?

 湧き上がる期待と高揚で心が()けそうになるのを

マリアンヌは懸命に押し止めた。

 

「……け……るな……! ……れ…………う……」

 

 目の前で歓喜を輝かせるマリアンヌとは正反対に、

顔を俯かせ怒りを軋らせる承太郎。

 きつく握り締められた拳の中で、 爪が皮膚を突き破り

流れ出した鮮血が冷たいリノリウムの床に染みていった。

 決意のように。 誓いのように。

 挑発されているのは、 解っていた。

 しかしッ!

 心の深奥から際限なく噴き上がってくる、

マグマのような途轍もない怒りは抑えようがなかった。

 そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!

 承太郎の全身からさらに膨大な量のスタンドパワーが迸った。

 彼の心中を代弁するが如く。

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 脳裏に、 一人の子供の姿が()ぎる。 

 2日前、 自分の母親の傍らで、 存在の残滓すらも遺さずに掻き消えた、

年端もいかない子供の姿が。

 その消滅に気づかない傍らの母親。

 紅い “封絶” の(なか)遺言(ことば)も無く消えて逝った者達。

 圧倒的で一方的な 【悪】 の前に、

無惨に喰い潰されていくしかなかった人々の姿が

閃光のように承太郎の脳裏を駆け巡った。

 そしてそれが、 いま再び、

未だ嘗てないほどの 『規模』 で執り行われようとしている。

 不安、 恐怖、 怒り、 絶望。

 承太郎の裡であらゆる負の感情が堰を切って、 更に激しく渦巻き始めた。

 確かに、 DIOや紅世の徒のような強大な力を持つ者達からみれば、

スタンド能力を持たない生身の人間など、

取るに足らない脆弱な存在なのかもしれない。

 そして生物界の基本原則、 『弱肉強食』 の鉄則からすれば

弱い者は何をされても仕方がないのかもしれない。

 しかしッ!

 例え、 能力(チカラ)を持たなくとも。

 強大な悪意の前では、 儚く消え去る存在であったとしても。

 ()()()()()毎日を懸命に生きている人々の生命(いのち)を、

少しずつでも創りあげたささやかな幸福を、

 

 

 

 

 

 

 

『無惨に踏み躙る事が出来る 「権利」 など! この世の誰にも有りはしないッッ!!』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その人間の想いの全てを。

 その存在の全てを!

 過去も現在も未来も、 己が欲望の為だけに嘲笑いながら喰い潰し、

そして虚無の彼方へと消し飛ばしてしまおうとする異次元世界の住人。

 紅世の徒(ぐぜのともがら)

 そして!

 その支配者DIO!! 

 赦すことは出来ない。

 赦せる筈がない!

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 この街にはいま、 祖父であるジョセフがいる。

 母であるホリィがいる。

 そして決して仲が良かったわけではないが、 同じ学園に通う生徒達。

 とことん鬱陶しいが、 純粋に自分を慕い気づかってくる女生徒達。

 更に毛嫌いしていた教師や刑事達の中にも、

矛盾に満ちた社会へのわだかまりを晴らすため

日夜争いに明け暮れる自分の身を、 真剣に案じてくれる者がいた。 

 その彼らにもきっと、 自分と同じようにその身を案じ、

帰りを待つ者達がいる筈だ。 

 それならば!

 護らなければならない。

 闘わなければならない。

 誰もやらないならこのオレが。

 この “空条 承太郎” が!

 この街を統括する不良の 「頭」 として。

 ジョースターの血統の “末裔” として。

 何よりも一人の 『男』 として!

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 

 

 

 

 

 人ならざる能力、『幽波紋(スタンド)

 その力を持たない者達からすれば、 (おそ)れられ、そして蔑まれ、

疎まれ(おとし)められるだけの能力(チカラ)なのかもしれない。

 そしてその目に視えない、 同類以外誰にも解らないソレを自在に操る

超能力者 『スタンド使い』 は、 異分子として世界から淘汰される

存在でしかないのかもしれない。

 血塗られた闇の歴史の中で、 際限なく繰り返された悲劇のように。

 しかし、 それでも。

 この能力(チカラ)に何か 「意味」 があるとするのならば。

 この能力が生まれた 「理由」 があるというのならば。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ジョセフやエリザベス、 そしてその祖先であるジョナサン・ジョースターの

『波紋法』 が呪われた 【石仮面】 によって生み出された

“吸血鬼” やその創造主である 『柱の男』 のような

人智の及ばない超生物から人類を護る為に生まれた能力で在るのなら、

自分の能力 『幽波紋(スタンド)』 は “紅世の徒” のような

異次元世界の魔物から何かを護る為に生まれた力の筈だ。

 

「――ッッ!!」

 

 承太郎の碧い双眸に、 気高きダイヤモンドすらも凌駕する

決意と覚悟の光炎が燃え上がった。

 熱く。 激しく。 燃え尽きるほどに。

 その栄耀なる双眸で、 承太郎は紅世の少女へと向き直る。 

 その “紅世の徒” マリアンヌは、

口元に翳りのない微笑を浮かべて立っていた。

 心なしか頬と露出した肌に仄かに赤みが差しているように見えたが、

そんな事は別にどうでもいい。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙と静寂の中。

 ライトグリーンとアメジストの瞳に宿った

互いの精神の光彩が空間で交錯した。

 最早互いに、 言葉は必要ない。

 所詮は 「種」 の違う生物(モノ)同士。

 故に、 理解(わか)り合う事は不可能。

 コレは、 「人間」 と “紅世の徒”

両者の存亡を賭けた戦い。

 迸る白金のスタンドパワーを空間に漂わせながら承太郎は、

その “紅世の徒” マリアンヌに向けて開戦のその一歩を踏み出す。

 マリアンヌは恐悦と歓喜でゾクゾクと身を震わせながらそれに応じた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()――。

 その事実を深く実感しながら。

 

「スゴイ闘気、ね……ッ! まるで空気まで震撼(ふる)えているようだわ……!!」

 

 (らん)と輝く紫水晶の瞳で承太郎を見据えながら、

漆黒のミュールがコツリと韻を踏む。

 

(アナタを討滅して、 その魂が肉体を離れる瞬間、

(しっか)りとその力の 『源泉』 を戴かせてもらうわ。

でも安心なさい。

その能力(チカラ)は私のご主人様の為、 有効に使わせてもらうわ。

未来永劫永遠に、 ね。

フフフフフフフフフフ……

フフフフフフフフフフフフフ……!

ウフフフフフフフフフフフフ…………ッッ!!)

 

 マリアンヌは清らの微笑を崩す事なく、

力強い口調で開戦を宣言する。

 

「さあッ! 今こそッ! 一昨日前の恥辱を(すす)ぎ! 

その 『存在(チカラ)』 頂戴させてもらうわッ!

“覚悟” なさいッ! 『星の白金』 空条 承太郎ッッ!!」

 

 清廉な声でそう叫び、 ミュールの爪先でリノリウムの床を蹴り突け

マリアンヌは宙へと舞い上がると、 長 衣(ストール)を羽を拡げた孔雀の如く

扇状に揺らしながら標的へと踊りかかった。

 承太郎は頭上から迫る異界の美少女に

その気高き光炎の宿った視線を向け、

そしてあらん限りの力を込めて吼える。

 

「やれるもんならやってみやがれッッ!!

もうこれ以上テメーらに誰も殺させねぇッッ!!

テメーの方こそ “覚悟” しやがれ!!

この(アマ)ッッ!!」

 

 勇猛果敢に右腕を翻し、

その脇で高速出現した 『星 の 白 金(スター・プラチナ)』 が

逆水平に構えた指先でマリアンヌを鋭く差し貫いた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

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