STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
「でやああああああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッッッッ!!!!」
紅い弾丸のような突貫で巻き起こる気流に
黒衣を靡かせながら空間を疾駆するシャナ。
そして大上段に構えた戦慄の美を流す白刃が唸りをあげて
サムシング・ブルーのウェディングドレスを纏った武装燐子の
頭蓋に向けて振り降ろされる。
ギィィィィィィィンッッッ!!!
「!!」
しかし今度呼び出された武装燐子は先刻のモノを
より強力に
高速で繰り出されるシャナの斬撃に反応した、
その持ち手も反射的に防いだのではなく
守りと
大刀と
だが。
「だああああああああああああああああああッッッッ!!!!」
即座にシャナは打ち落としの斬撃を武器破壊の斬撃へと変換し、
全身の膂力を総動員して搾力を刀身へと捻じ込む。
その影響で強度で劣る燐子の白刃はバラバラになって砕け散る。
すぐさまにヴェールを被った無防備の頭蓋に贄殿遮那の本刃が叩き込まれた。
音もなく斬り裂かれていく身体内部で斬撃が音速に達した為、
次の刹那衝撃波が巻き起こり真っ二つに両断された燐子が爆風で跡形もなく吹き飛ぶ。
その後に到来した炸裂の破壊音が、
壮麗なる紅世の王 “狩人” フリアグネが
言う処の 「戦闘組曲第二楽章」 開幕のベルだった。
大刀を振り下ろしたままの体勢で俯くシャナの背後から、
すぐさまに様々な色彩のウェディング・ドレスを纏った燐子7体が
ガギィィィィィィィィィ!!!!
今度はシャナが背後から襲いかかる無数の剣林を
彼女(?)らには背を向けたまま左手を大刀の峰に押し当て
全て受け止める。
そして。
「ぜえぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」
息吹と共に全身の筋力と更に
その小さな躰からは想像もつかない強烈な灼熱の 「剣気」 が
贄殿遮那の刀身から喚き起こる。
吼えるフレイムヘイズ “炎髪灼眼の討ち手”
その灼熱の剣気を手にした武器を透してクローム樹脂の身体に叩き込まれた
武装燐子の群は、 まるで破壊振動波を喰らったかのような衝撃を身に受け
全て後方へと弾き飛ばされた。
すぐさまに後方へ向き直ったシャナは
右手の柄頭を基点に大刀を円環状に廻転させ、
周囲に遍く無数の剣輪を波紋の如く生み出した。
鋭い白刃の旋風が巻き起こり、 その動作を警戒した
強化型武装燐子達が二の足を踏む。
敵に対する威嚇と同時に廻転運動によって生まれた遠心力を、
シャナは肩と肘とに集束させ、 素早く大刀を返して揺らめく炎髪と共に背へ流す。
そして執るその 「構え」 は、
左肩をやや前面に押しだし後ろ足を斬撃と同時に送り出す、
古流剣術で言う処の 「
ソレを己の超人的な身体能力に合わせて
フレイムヘイズ “炎髪灼眼の討ち手” 専用 「斬刀術」
「ッッだあぁぁぁぁッッッッ!!!!」
鋭い掛け声と共にシャナは瞬時に足下のコンクリートを踏み割り
半月状の足痕を残して、 背後に跳ね飛ばされた武装燐子達の脇を
彼女 (?) 達が着地するより
舞い上がる黒衣、 火の粉撒く炎髪。
まるでDVDのコマ送りのように不穏な動作一つなく前方で
一時停止したシャナの手の内で、 大刀は既に全力で振り切られていた。
彼女の背後で、 7体の燐子が空間に疾走った斬閃に因って左斜めに両断され、
空中で割かれた上半身をコンクリートの上に落下させる。
ソノ斬刀の余りの疾さ故に、
血の代わりに吹き出す白い炎の間歇泉までもが一刹那遅れた。
『
遣い手-空条 シャナ
破壊力-A スピード-A 射程距離-B(最大25メートル)
持続力-E 精密動作性-B 成長性-B
大刀を振り下ろしたままの体勢で足を止めたシャナの背後から、
一呼吸の間も置かず3体の燐子が組になって襲いかかる。
「ッッシィッッ!!」
白い
流し目で燐子を睨め付けたシャナの交差した右手の隙間から瞬速で放たれた
紅蓮の刃が、 人体の急所に当たる燐子達の喉元と眉間に突き刺さり
その着弾箇所周辺を燃え上がらせた。
炎髪の撒く炎気を、 指の透き間で手裏剣状に変化させ敵の急所に撃ち込む。
穿たれた紅蓮の
華麗さと凄絶さ、 二つの顔を併せ持つ
フレイムヘイズ対中間距離用 「
『
遣い手-空条 シャナ
破壊力-C スピード-シャナ次第 射程距離-シャナ次第
持続力-A 精密動作性-シャナ次第 成長性-A
顔面と喉元を焼かれた燐子3体が力無くその場に崩れ落ちるよりも速く、
シャナは既にそこから躰を90°反転させ真横に飛び去っていた。
高速で黒衣をはためかせながら鋭く中空を翔る紅の少女は、
光彩を無くした無明の双眸を
未だ嘗てない力の奔流に身を奮わせていた。
(スゴイ……ッ! 理由は解らないけど、 躰がスゴク軽い……ッ!
それに、 信じられないくらいよく
「今」 ならきっと……! 誰にも負けない……!
アイツにも……! アノ男にも……ッ! 誰にも……ッッ!!)
その少女の昂りへ呼応するかのように、
全身から鳳凰の羽根吹雪の如く発せられた
紅蓮の火の粉が空間を灼き焦がす。
(今ならきっと……“アレ” が出来る……!
一度修得しようとして出来なかった “アレ” が……ッ!)
脳裏に浮かび上がる新たな炎刃の
シャナは斬撃で開いた隙間より包囲網を抜け出した。
着地と同時に、 革靴の裏がキュッと鳴る。
その前方から関節を軋ませつつ迫ってくる、
個々の力では太刀打ち出来ないと判断し人海戦術に撃って出た
武装燐子の大群に向けて少女は不敵な笑みを刻む。
「無駄よッ!」
凛々しく清廉な掛け声。
「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
大刀の腹を真横にして、 中段に構えた刀身内部へ左手を
更に柄を握る右手からも波長の違う炎気を送り込む。
やがて贄殿遮那の内部にて波及効果を起こした炎気がその全体に拡散していき、
刀身が真紅の火の粉を振り撒きながらまるで烈火に
溶鉄の如き形象に変わっていく。
「りゃああああああああああああああああッッッッ!!!!」
叫びと共に大きく振りかぶった焼紅の大刀を、
勢いよく前方に撃ち出すシャナ。
その高速で振り抜かれた刀身から、
具現化した紅い斬撃が追進して勢いよく飛び出した。
余波である直線状の火走りをコンクリートの上に噴き上がらせ、
高速射出された実体の在る斬撃の紅い牙が進撃してくる
武装燐子達を持っている武器ごと斜めに寸断し、
更にその背後の青いフェンスまでも突き破って彼方へと消える。
掌に集束した炎気の塊を贄殿遮那を通して増大させ、
カマイタチ状に変化させて射出するフレイムヘイズ専用 「斬撃術」
『贄殿遮那・
遣い手-空条 シャナ
破壊力-B スピード-B 射程距離-B
持続力-B 精密動作性-B 成長性-B
たったの一撃で、 十数体の武装燐子を
武器ごと斬り飛ばした少女を
すぐさまに動きを止めて左右に方向転換し始め、
遠距離攻撃を警戒してか今度は広域に散開して飛び上がり頭上から急襲した。
しかし、 これまでの長い戦いで培われた状況判断力を有する少女は、
すぐさまにその事態へと対応する。
「馬鹿ねッ! それじゃあわざわざ自分で逃げ場を
そう叫んで両手に構えた大刀を、 高々と頭上へ掲げた。
手の平から湧き上がる無数の火の粉を刀身内部に送り込みながら。
「やああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!!」
刀身から圧搾された炎塊が弾けて放射線状に変異、
その周囲全方向に向けて隈無く疾駆する。
張り詰めた鋼線のような灼熱の光が、
上空の重力に縛られた回避不能の燐子達、
そのありとあらゆる箇所に着弾して全身を貫いた。
その一発一発の威力は低いが、
広範囲を一度に攻撃出来る炎の戦闘自在法。
『贄殿遮那・
遣い手-空条 シャナ
破壊力-C スピード-C 射程距離-C(半径15メートル)
持続力-C 精密動作性-C 成長性-A
シャナの周囲、 円周上にスクラップとジャンクの残骸が白い火花を伴って
「……」
その様子を給水塔で立ち上がったフリアグネは両腕を組み、
純白の長衣とパールグレーの髪を封絶の放つ気流に靡かせながら
先刻とはまるで違う、 引き締めた表情で戦況を見つめていた。
(
“フレイムヘイズ討滅” を目的に創り上げた
この私秘蔵の強化型武装燐子達を、 こうもあっさりとはな……)
状況的に追い込まれたわけではないが、
愛着の深い秘蔵のコレクション達がその価値の解らない者に
身も蓋もなくバラバラにされていくのを目の当たりにし、
(流石はアラストール秘蔵のフレイムヘイズといった処か……
単純な戦闘能力だけなら “彼” を倒した 『星の白金』 以上、 か……?)
フリアグネは様々な宝具の検分によって研ぎ澄まされた審理眼で
冷静に状況を分析しながらも、 そこで初めて耽美的な美貌を
脳裏に甦る、 一人の人間。
その瞬間引き締められた表情が自覚のないままに、
ふ、 と切なげなモノへと変化する。
気流に消え去る声で、 ただ一言大丈夫と呟いたフリアグネは、
再び見開いたパールグレーの双眸を尖らせると、
勇猛な闘いを繰り広げた少女を傲然と見下ろした。
「どうしたの? あまりの事に声も出ない?
おまえの可愛い 『お人形達』 は、 もう半分以下になったわ。
何か自在法で援護をするなら今の内よ。
次の一合で全滅させるつもりだから」
紅い無明の双眸でシャナはフリアグネを捉え、
危うく揺れる微笑を浮かべる。
己の勝利を信じて疑わない、 確乎たる意志を持って。
「勇猛果敢な事だね。 お嬢さん。
確かに、
「ハッ、まさか此の期に及んで命乞い? 聞く気はないけど」
「フッ、 コトは君が想っているほど単純ではないという事さ。
古来より 「戦果」 とは、 「武力」 の大きさだけで決するモノではないのだよ」
そう俯いて、 自嘲気味に微笑むフリアグネ。
「その事実。 この私が教えて差し上げよう。
アノ御方の忠実なる
紅世の王! この “狩人” フリアグネがなッッ!!」
叫びながら長衣を翻し、 鮮烈な声で宣告する白色の貴公子。
「だったらとっととそこから降りて来なさい!
ザコが何匹集まっても私には通用しないわ!」
叫ぶシャナにフリアグネは、
「イヤ、
と静かに告げた。
「ッッ!?」
意外な
フリアグネはその耽美的な美貌を何よりも邪悪に歪ませた。
まるで己が仕える主の、
「何故なら……君は……」
ゾッとするほど静かな声で、 フリアグネは冷酷な微笑を浮かべつつシャナを見下ろす。
「もう! 私の
「!!」
そう叫んだフリアグネが、 邪悪な表情のまま純白の長衣を素早く
弧を引いて撃ち放つと同時に、 シャナの周囲で無造作に転がっていた
夥しい数の残骸が蠢き、 ソレが次々と宙に浮かび上がり全方位から襲いかかってきた。
「――――――――――ッッッッ!?」
驚愕の事実にシャナの反応が一瞬遅れる。
ソレがもう、 既にして致命的損失。
しかし、 少女を責めるのは酷というモノであろう。
動く 「残骸」 の大群は、 周囲360°全てから微塵の隙間もなく
シャナに、 文字通り豪雨のように降り注がれたのだから。
どんな強者も、 降り落ちる雨の雫を全て避ける事など、
絶対に不可能なのだから。
「な!?」
たったいま自分が斬り倒した、
夥しい燐子の手が、 足が、 胴体が、そして首が、
シャナの黒衣を掴み、 或いは接着し、
更に首が黒衣の裾に噛みついて全身を覆っていく。
「くぅッッ!! ナメるな!! こんなものォォォォォォォッッ!!」
体内の中心部に炎気を集め、 一気に爆裂させてまとわりついた
残骸を吹き飛ばそうとシャナは、 全細胞の力を限界まで引き絞る。
しかし――。
「え!?」
いきなり片膝の力が抜けて、 コンクリートの上へコトリと落ちた。
自身の躰の、 予期せぬ突然の造反にシャナの頭の中は一瞬蒼白となる。
そこに降り注ぐ “狩人” の声。
「フッ……! 当然だろう! お嬢さんッ!
ソレだけの 「力」 を回復もせず、セーブもせずに常時全開放して、
全力の攻撃を繰り出し続けていれば
熱に浮かされて自覚は無いようだがな!!」
フリアグネはそう叫び、 既に勝ち誇った表情でシャナを見下ろす。
「だからッ! 次の私の攻撃を! 防ぐことも不可能だッッ!!」
再び弧を描いて純白の長衣が前方に撃ち出されると、
中に編み込まれた “操作系自在法” が発動して奇怪な紋様が
シルクの表面に浮かび上がり、 そして発光した。
ソレと同時に周囲13体の燐子、 そのクローム樹脂の表面にも
奇怪な紋様が
遠隔操作を受けた人形達は手にした武器を投げ出して
次々とシャナに抱きついていく。
群がるその重量に、 シャナは無理矢理引き
「あうぅッッ!!」
コンクリートの地面に強く頭を打ちつけられ、
ボヤける視界のまま封絶の空を仰ぐ形となったシャナの眼前に、
無数の燐子の顔があった。
その
至上の悦びとする狂気の笑みで覆われていた。
「……ッッ!!」
全身に走る、 穢れた、 しかし圧倒的な 「数の力」 で
存在を蹂躙される、 原始的な恐怖。
その先で、 敗者見下ろす冷たい視線で、 シャナを睨め付ける紅世の王。
「どうもありがとう。
「!!」
邪悪そのものの声だった。
しかし、 信じ難いほど甘い響きがそこにあった。
その狂気にギラついた視線を受けながら、
シャナは自分が完全に “狩人” の
必要以上にアラストールを侮蔑したのも、 自分を挑発し続けたのも、
全ては怒りで 「我」 を
そして力尽きさせる為の 「布石」 だったのだ。
更に、 今自分の内から湧き上がるこの新たな
この 「結果」 の為の 「伏線」
自分を捕らえる 「罠」 を、
意気揚々と、 得意気に、 微塵の疑いすら抱くことなく。
憎むべき相手の謀略を、 自ら掻き抱いていた。
その残酷な 「事実」 が、 優秀な戦士である少女の 「誇り」 を
一片の容赦も無くズタズタに引き千切る。
そこに間髪いれず、“狩人” の言葉が舞い降りた。
「さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!! いまこそ
アノ御方の忠実なる 『暗殺者』 !!
この “狩人” フリアグネ最大最強焔儀をッッ!!」
そう言って長衣が艶めかしく絡み合った両腕を逆十字型に交差し、
指先に不可思議な自在式印を結んで王は “
そのフリアグネの右手には、 いつの間にか神秘的な輝きを放つ
麗美なハンドベルが握られていた。
ソレは、 己の使役する燐子を 「爆弾」 に変えて 「自爆」 させる事の出来る
「能力」 を持つ背徳の
“紅世の宝具” 『ダンスパーティー』
その能力と己が自在法とを結合して編み出された、
「宝具」 と “自在法” の高等融合焔術儀。
「くらえええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!! フレイムヘイズ!! 炎髪灼眼ッッ!!」
その “流式” の魔名が、 耽美的な口唇から
高々とシャナに向けて宣告される。
「簒奪」の
『
流式者名-“狩人” フリアグネ
破壊力-A(燐子の数により無限に増大) スピード-A
射程距離-A(燐子の数により無限に増大)
持続力-A(燐子の数により無限に増大)
精密動作性-A 成長性-A(燐子の数により無限に増大)
「さああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!! 弾ッッッけろォォォォォォォォッッ!!
アアアァァァ――――――ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
狂ったように嗤いその全身から纏っている
長衣よりも白い存在のオーラを立ち昇らせながら、
フリアグネの右手に握られたハンドベルが緩やかに空間を流れ、
そして清らかな音色がを奏でられる。
その音に
武装燐子全てがその身を歪ませて凝縮し始めた。
「むうぅッッ!! イカンッッ!!」
瞬間、 胸元のアラストールが深紅に発光する。
その時、 シャナは、 眼前に迫る破滅よりも、
まるで別の事を考えていた。
たったいまフリアグネが言い放った、
たった一つ言葉を――。
“弾けろ”
確か、 自分が言った、 言葉だ。
いつ、 だったか?
そう、 だ。
アノ時、 だ。
アノ時、 自分が、 言った、 言葉、 だ。
そして、
脳裏に、 一人の男の姿が浮かぶ。
黄金に輝く、 この世の、 何よりも、 ドス黒い、
闇黒の、 瞳。
そして。
そし、 て……
「ジョ……」
その言葉が口唇から紡ぎ出される前に、 シャナの視界が白く染まった。
ヴァッッッッグオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ
ォォォォォ―――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!
鼓膜を劈くような、 大爆裂音。
巻き起こった真空波の影響で校舎の窓ガラスが全階まとめて砕け散る。
そして給水塔の上で静かに佇む殺戮の “狩人” フリアグネの眼前で、
爆破炎蒸する巨大な垂直ドーム状の火柱。
激しく渦巻く白い爆炎の中心部に浮かび上がる少女のシルエット。
スパークする爆炎光に全身を白く染められながら。
「
主譲りの、 悪の華のように危険な微笑みを浮かべた口唇を、
フリアグネは長衣で覆いながら呟いた。
←To Be Continued……
https://www.youtube.com/watch?v=6cgQ76eEYAU