STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
「さぁ? お祈りの時間だぜ? マリアンヌ」
鋭く構えた逆水平の指先で自分を差し、
やや気怠げな口調で零れた甘い声が
マリアンヌの躰に恐怖と陶酔の入り交じった体感を駆け巡らせる。
(ま、 まだ、 何か手があるはず……!
高速接近してくる 『星の白金』 に、
巧く 『バブルルート』 を合わせられれば……ッ!
「金貨」 の状態で指先から弾けば……!
その死角から空条 承太郎 「本体」 を攻撃出来る……ッ!)
「せめて苦しまねぇように、 一瞬で終わらせてやるぜ」
承太郎の甘い言葉と共に白金に煌めく 『
スタープラチナの右手に集束していった。
(勝負は……一瞬よッ! マリアンヌ!)
強く己を鼓舞してマリアンヌは、
だが、 このとき、 マリアンヌは、
目の前の空条 承太郎へ 「意識」 がいき過ぎていた為に
気がついていなかった。
その白金色に煌めく 『
スタープラチナのケリ足である
次の瞬間、 目の前の 『スタンド』 スタープラチナは、
「本体」 である空条 承太郎と共に音もなく消え去っていた。
『―――――――ッッッッラァァァァァァァッッッッ!!!!』
「!?」
気がついたのは、 その声の
視線の先、 20メートル辺りの位置で、
砕けたリノリウムの破片が中空に舞っている。
そして、 マリアンヌの可憐な容貌と細身の躰にはややアンバランスな、
美しい造形のふくよかな左胸にスタープラチナの
いつのまにか叩き込まれていた。
防御と回避を犠牲にし、 代わりに破壊力とスピードを
極限にまで高めた必殺のスタンド攻撃。
流星の
『流 星 爆 裂 弾《スター・ブレイカー》』
流法者名-空条 承太郎
破壊力-A スピード-A 射程距離-B(最大25メートル)
持続力-D 精密動作性-B 成長性-A
「あっ……?」
痛みも衝撃もまるで感じず、一切の 「過程」 を消し飛ばして
その 「結果」 だけがいきなり現れたかのようだった。
貫通はさせずその
スタンドパワーで覆われた右拳を透して
全てマリアンヌの躰内部に叩き込まれた為、
内部で凄まじいまでの破壊衝撃波が
夥しい 「波紋」 を引き起こし
滅砕振動波と化した攻撃エネルギーが裡を音速で駆け巡った。
まるで、 全身の血液が沸騰したかのような異常な感覚。
同時に超高圧の電流が全身を駆け廻ったかの如き強烈な体感。
その二つの衝撃が声を上げる間もなく、 マリアンヌの全身で激しく渦巻く。
次の刹那、 マリアンヌの躰はそのダメージにより
存在の形を維持出来なくなったのか、
白い人型の炎の塊と化しまるで宵闇前の夜霧のように空間へと散華した。
残された純白の
一枚の金貨がリノリウムの上に落ちて澄んだ音を立てる。
「フッ……やっぱり、 “ハリボテ” かよ?」
『
その 「結果」 を予測していた承太郎は
微笑を浮かべ、 洞察の正しさを実感する。
「くぅぅぅッッ!!」
霧散する白炎に巻かれながら本当に悔しそうな声をあげて、
宙に浮いた一体の 「人形」 がバランスを崩した軌道で飛び出した。
「おっと!」
周囲に立ちこめる残り火の中、
死角からからいきなり伸びてきた 「人間」 の腕が、
肌色フェルトの躰を素早い手捌きで掴んだ。
「なぁッ!?」
予想外の事態にその 「人形」
先刻までの異界の美少女 “マリアンヌ” は驚愕の声をあげる。
「この空条 承太郎に、 同じ 「手」 が二度通用するなんて思い上がるのは、
十年早いンじゃあねーか? マリアンヌ?」
口元に不敵な微笑を浮かべて、 承太郎はすっぽりと手の中に収まる
マリアンヌの顔をライトグリーンの瞳で覗き込む。
「こ、この! 離しなさいッ! 空条 承太郎!」
「フッ……!」
口調と声色は変わっていないが、
何分 “見た目” が随分可愛らしくなっているので
意図せず承太郎の口から笑みが零れる。
「わりーがそいつぁ出来ねー相談だな。
このままオメーを連れて屋上に行き、
それをダシにオメーのご主人様とやらには
無条件降伏と洒落込ませてもらうぜ」
「な!?」
再び手の中でマリアンヌは、 その愛くるしい表情は変えないままで声をあげる。
「あんまり気が進まねー 「手」 だが、
他の生徒やセンコー共の
ま、 堪えてくれ」
承太郎は怜悧な美貌に少しだけ
マリアンヌにそう告げた。
「ひ、 卑怯よッ! 空条 承太郎!
男なら正々堂々、 私のご主人様と勝負なさい!」
激高したマリアンヌがその (本当に) 小さな躰を動かしながら抗議の声をあげる。
「ハッ、
事実上、 もうこの戦いは 「結末」 を迎えたも同然なので、
やや気分が弛緩した承太郎は左手で煙草を取り出し器用に銜える。
「まぁ安心しな。 命までは取らねーよ。
その代わりメキシコに在る、
『柱の男』 と一生仲良く暮らして貰うがな」
「?」
銜え煙草のニヒルな口調で語られた承太郎の、
その言葉の意味がまるで理解不能だった為
手の中で抗議の声をあげていたマリアンヌは唐突に押し黙る。
「
かといって黙って放置しとくにゃあ危険過ぎる存在だぜ。
テメーら “紅世の徒” はよ」
承太郎は銜え煙草のままそう告げる。
「その紅世の徒も、 “アラストール” みてぇなヤツ
ばっかなら話もラクなんだがよ。
ホント、 ままならねーモンだぜ、 現実ってヤツはよ」
「……い、 一体、 何を、 言ってるの、 かしら?
アナタ、 解らないわ……」
赤い大きなリボンのついた毛糸の髪に、
大粒の汗玉を浮かべながらマリアンヌは絶句する。
そのいきなり押し黙ってしまったマリアンヌに、
承太郎はその人形を掴んだ右手を軽く揺すってみる。
「よぉ? どうした? 起きてッか? マリアンヌ?」
「!!」
その呼びかけにハッ、 と我を取り戻したマリアンヌは、
「こ、この! 離せ! 離せ! エイ! エイッ!」
手のないフェルトの腕で薄く血管の浮いた右手をポカスカやり始めるが、
無論象と蟻の戦力差なのでまるでお話にならない。
「この! 卑怯者ッ! 離せ! 離せ! 離せェェェッ!」
「あぁ~あ、 うるせぇうるせぇうるせぇ」
この2日間、
いつのまにか移ってしまった口調でボヤきながら
承太郎は屋上に向けて歩き出した。
彼の脳裏で、 その台詞の張本人は 「なによッ」 という表情でムクれていた。
その、 刹那だった。
清らかな鐘の音色が、 忽然と空間を流れた。
次の瞬間、 いきなり周囲に散乱していた武装燐子達の残骸が、
いきなり膨張して
事態を認識する間もなく無数の爆発が巻き起こった。
ズァッッッッガァァァァァァ―――――――ッッッッッ!!!!!
「ッッ!!?」
同時に頭上からも、 途轍もない大音響の爆裂が鳴り渡り、
衝撃の伝播で蛍光灯が次々に割れ周囲にガラスの豪雨が降り注ぎ
更に破壊の轟音と爆炎の嵐で承太郎の周囲30メートルは
瞬く間に白が司る頽廃の 「地獄」 と化した。
「チィッ!」
咄嗟にスタンドを出現させ、 反射的に足下の床を爆砕させて踏み抜き
ソレによって生まれた運動エネルギーによって防御体勢を執ったまま
素早く後方へと飛び巣去り白炎の爆破圏内から脱出を試みる承太郎。
「クッ!」
しかしその規模が余りにも巨大過ぎた為
彼の執った行動は 「直撃」 を避けるだけに終わり
結果激しい衝撃と爆風、 その他諸々の余波によって承太郎は
スタープラチナと共に大きく上空へと弾き飛ばされ、
天井の板をその身で深々と打ち砕き更に内部に組み込まれていた鉄筋に
背からブチ当たってようやくその軌道を変え、
斜めに急速落下しながら焼けたリノリウムの上へ大の字で叩きつけられた。
「がはぁッッ!!」
全身を劈くほどの落下衝撃。
気が緩んでいた時に到来したまさかの惨劇に、
さしもの承太郎からも苦悶の叫びが生温い鮮血と共に吐き出される。
「ぐっ……うぅ……な……何……だ……?
今の…… “爆弾” みてぇな……モノ凄ぇ 『能力』 は……ッ!」
血の伝う側頭部を右手で押さえ、
グラつく視界を精神で強引に繋ぎ直しながら、
承太郎はよろよろと身を起こす。
その表情は不意打ちを喰った事に対する己への戒めと、
愛用の学ランがボロボロにされた事に対する両方の怒りで歪んでいた。
(クソッタレが……ッ! アバラが何本かイッちまったかもしれねぇ……!
オマケに大事な制服までズタボロにしてくれやがって……ッ!
やってくれたな……! “ご主人様” よ……ッッ!!)
その彼の周囲は、 先刻の大爆発現象の爪痕である
白い炎があちこちで燃え上がり、
通常の物理法則を無視して至る処に類焼していた。
(マリアンヌの仕業じゃあねぇ。
もしこんな芸当が出来るンなら、 さっきとっくに使っていた筈だ。
コレがそのご主人様とか抜かす紅世の徒
“フリアグネ” とかいうヤツの、 真の 『能力』 か?
確かに花京院のスタンド能力 『エメラルド・スプラッシュ』
と較べてもまるで引けを取らねぇ、
心の中で能力の解析を終えた承太郎は、
裂傷によって口内に溜まった血を吐き捨てる。
ビシャッッ!! と白い光で染められた廊下が
無頼の貴公子の鮮血で染まった。
「ッッマリアンヌ!?」
承太郎は咄嗟に自分の右手へ視線を送った。
先刻、 しっかりとその手に握っていたはずのフェルト人形が、
いつのまにかなくなっていた。
突然の爆発で想わず離してしまったのだろうか?
「……ッ!」
寒気に似た体感が、 承太郎の背に走った。
「クッ……! マズったか……! 命まで取る気はなかったんだがな……
しかし……いくら敵とはいえその相手を味方もろとも 『始末』 しようなんざぁ、
全くとんでもねぇ
敵とはいえ、 正々堂々勝負を挑んできたマリアンヌの、
その悲劇的な最後に承太郎は苦々しく口元を軋らせる。
「仇は、 取ってやるぜ。 マリアンヌ……!」
そう強く心に誓い、 胸の前で強く拳を握った承太郎の前方から
唐突に聞き慣れた声が返ってきた。
「私のご主人様を悪く言わないでッッ!! それと勝手に殺さないで!!」
誰もいない空間から、 清廉な少女の声だけが木霊する。
そして。
その何もない空間にいきなり純白の
中から人形姿のマリアンヌが姿を現した。
「私は無事よッ! 掠り傷一つ負ってない!
ご主人様が現在お持ちの最大 「宝具」
“ダンスパーティー” を発動なされた時には、
自在法を編み込んで下されていたの!
この戦いが始まるよりも、 もっとずっと 「前」 からね!!」
そう叫んで敏腕弁護士宛らに、 最愛の主を擁護するマリアンヌ。
「それに大体今の 「爆発」 は、
だからご主人様が私を巻き込んでアナタを 「討滅」 するなんてコト自体が
ありえないのよッ!」
目の前で愛狂しい表情を崩さないまま、
ヒステリックな口調で怒鳴り続ける人形。
「……」
彼女(?)の無事な姿に、 承太郎は複雑な感情を抱きながらも疑問を投げかけた。
「今のが、 オレを狙った “遠隔能力” じゃあねぇとするなら、 一体何だってんだ?
もしかしてシャナのヤツが、 もうオメーのご主人様をヤっちまったのか?」
「縁起でもない事言わないで!
今のはおそらく “炎髪灼眼” に向けて放った
ご主人様 『最大焔儀』 に対する単なる余波よッ!」
「何ッ!?」
心に走った衝撃により、 頭蓋へのダメージで鈍っていた
思考回路がようやくその機能を回復し始める。
そうだ。
何故、
先程、 マリアンヌに問いかけた疑問とは 「逆」 の事実を。
「!!」
その、 あまりに強烈過ぎる存在感から、 思考の盲点になっていたのか?
いくら強力な戦闘能力をその身に宿していたとしても、
まだ年端もいかない 「少女」 である事には変わりがないというのに。
「覚えておきなさい! 空条 承太郎ッ!
アナタなんか! アナタなんかッ!
私のご主人様には 「絶対」 敵わないんだからァァァァァ―――――――ッッ!!」
涙ぐんだ声で強烈な捨て台詞を残しながら、
マリアンヌは中身が空になった『ホワイトブレス』 を残し、
妖精のような白い燐光を靡かせて
割れた窓ガラスから外に飛び出し上へと消えていった。
大事な 『人質』 にまんまと逃げられてしまったが、
承太郎の思考はいま “そんな事” とはまるで別の方向、
否、 正確には脳裏を駆け巡った衝撃により停止状態に陥っていた。
そして、 耳障りなほどに激しく脈打つ心臓の鼓動と共に、
一つの言葉が甦ってくる。
“フリアグネの必勝の秘密は、 その彼の持っている 『銃』 にある ”
先刻の、 花京院の言葉。
“その銃に撃たれた “フレイムヘイズ” は、
全身が己の炎に包まれて灰燼と化すらしい”
今のが、 その銃に装填された 「弾丸」 がシャナに着弾した結果、
起こった現象なのか?
それとも、 仲間であった花京院すら知らない全く別の 『能力』
余波ですらアノ凄まじいまでの破壊力を引き起こす
能力の 「直撃」 を受けてしまっては。
もう。
もう……
最悪の事象が、 思考の中で形造られていった。
しかし意識は、 頑強にその形成へ叛逆した。
そんな筈は、 ない。
今朝まで、 否、 ついさっきまで、
自分の 「傍」 でやかましく騒いでいたのだ。
まだ年端もいかない、 その身に不釣り合いな凛々しい瞳と艶やかな黒髪を携えた
“フレイムヘイズ” の少女が。
この世ならざる空間、 “封絶”
その中で、 今日まで勇敢に戦い続け数多くの生命を護ってきた、
紅い髪と瞳の少女。
誰に称えられる事なく、 誰に誉められる事もなく、
人外のバケモノ達を相手に血塗れで闘ってきた筈の少女。
何れその命尽きる時も、 誰に知られる事もなく
戦場の荒野で散っていく事のみを定めづけられた、
悲憐の存在。
その事自体に、 自分が言うべき事は何もない、
ソレはきっと、
少女が自分で選び取った、 己の 「戦場」 なのだから。
その事に、 自分が言える事は何もない。
だが。
そんな戦いの申し子のような暮らしを続ける少女にも、
微かではあるがようやく、 「救い」 が訪れる筈だったのだ。
戦い続ける
これからも少女は戦場で血を流し続けるのだろう。
でもそんな少女にもようやく 『帰る場所』 が出来る筈だったのだ。
自分の祖父、 “ジョセフ・ジョースター” との出逢いによって……ッ!
闘う以外、 何も知らない少女。
本来闘いに向かない 「女」 であるのに、
自ら “フレイムヘイズ” という過酷な道を選んだ少女。
でもようやく、 これから始まる筈だったのだ。
少女の、 シャナの、 “人” としての 「生」 が。
それが。
それ、 が。
こんな、 こんな
在り得る筈がない。
在って良い筈が、 ない!
「シャ……ナ……」
口唇から、 意図せずに少女の名が零れる。
そう、 少女には、 祖父と出逢うまで、
自分の 「名前」 すら無かったのだ。
「シャナァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
封絶で覆われた空間に、 彼女を呼ぶ叫号が響き渡った。
50年前、 祖父が友の名を叫んだ時と同じように。
けれども、 還ってきたのは、
残酷な静寂のみだった。
←To Be Continued……