STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
白い封絶が鳴動する。
不可思議な紋字と紋様が、 火の粉と共に噴き散る。
まるで、 その法者の心中を代弁するかの如く。
「キサ……マ……!!」
屈辱に身を灼き焦がし、 憎悪の籠もった瞳でシャナを睨め付ける
紅世の王 “狩人” フリアグネ。
しかし、 狂気の対象であるフレイムヘイズの少女に、
最早その存在は映っていない。
“アイツ” 譲りの剣呑な瞳でつまらないモノでも見るかのよう、
明後日には
そして少女は、 全身から発せられる殺気など意に返さぬといった様子で、
フリアグネとは視線を交えずに言う。
「
その “手” じゃ薄氷一枚砕いた事が無いんじゃなかったっけ?」
「黙れッッ!!」
フリアグネは乱暴に長衣を振り払い、
全身から血の代わりに飛び散る白い炎を撒き散らしながら
憎悪に充ち充ちた声をシャナに浴びせた。
そんな殺伐とした空気の中。
「ご主人様ァァァァァ―――――――――――ッッ!!」
宙に浮いたフェルトの人形、“燐子” マリアンヌだけが
歓喜の声を上げる。
「ッッ!?」
予期せぬ存在の介入に、 フリアグネは一瞬怒りを忘れ
その双眸を無垢な少年のように丸くする。
「ご主人様ァァァァァァァァァ――――――――――――ッッ!!」
悦びを押し隠せない声で、 マリアンヌは白い燐光で尾を引きながら
宙を滑るように駆けフリアグネの眼前に舞い降りる。
「マ、」
「御無事で何よりですッッ!! ご主人様ァァァァァァァ!!」」
マリアンヌは灰燼で汚れてはいるが、 端正な線は変わらない
フリアグネの頬に抱きつきフェルトの頬、 否、 全身を寄せる。
「マリアンヌ……」
フリアグネは舞い戻った最愛の存在に、
すべすべしたフェルトの肌触りに、
己の怒りが急速に冷えていくのを感じた。
「すまない。 私のマリアンヌ。 君の前で取り乱したりして。
随分格好悪い姿を見せてしまったね?」
再び耽美的な光が戻ったパールグレーの双眸を、
フリアグネは愛しそうに細め、 マリアンヌを切なげに見つめる。
「そんな事はありません! アレだけの凄まじい宝具の自在法を受けても
御無事だったんですもの! やっぱり私のご主人様は偉大なる紅世の王ですッ!」
「マリアンヌ……」
嬉々として高揚を叫ぶマリアンヌにフリアグネは若干照れたような、
そして幸福そうな微笑を口唇に浮かべた。
「感動の再会シーンは終わった?
ならとっとと始めたいんだけど。
悪いけれど急いでるから」
凛としたシャナの声が、 灼けたフリアグネの素肌に響く。
言っていることは戯れではないらしく、
苛立ったように灼けた靴の爪先をコツコツと鳴らしている。
「マリアンヌ」
宿敵の声からも護ろうとするように、
フリアグネは手中のマリアンヌを純白のスーツ、
その左ポケットにそっと入れた。
「ご主人様……」
スーツ越しに主の熱を感じながら、
マリアンヌはポケットの中にすっぽりと収まる。
フリアグネは先程と同じような瞳で一度自分を見つめ、
“大丈夫” と口唇の動きだけでそう告げた。
「正直討滅終了かと想ったけど、 意外にシブといわね。 おまえ?
真っ二つに両断した
シャナの鋭い視線を真っ向から受け止めたフリアグネは、
落ち着きを取り戻した表情で言葉を返す。
「マリアンヌの為を想い、万が一に備え
よもや “私自身の為に使う事” になろうとはな。
確かに少々貴様を見縊っていたようだ。
アラストールのフレイムヘイズ。 “炎髪灼眼” 」
「フッ、 おまえは自分の手を汚さず勝つ事に慣れすぎてるのよ。
だから不測の事態には対処が遅れるし、 目の前の敵を侮って過小評価する。
おまえの最終標的は 『星の白金』 空条 承太郎かもしれないけれど、
今、 おまえの目の前に居るのはこの私、
『紅の魔術師』 空条 シャナよ」
そう言って少女は微笑を浮かべたまま、 挑発的に見据え返す。
「後先の事ばかり考えず、 まずは目の前の標的を討滅する事に集中するべきだったわね?
今の自分の惨状をみれば、 やはりおまえは “アノ時” 私に止めを刺しておくべきだった」
「……」
余裕に充ちた表情と忠告紛いの言葉を無遠慮に浴びせてくる少女に対し、
再びフリアグネの胸中でドス黒い憎しみの炎が理性を焼き尽くすほどに蜷局を巻く。
しかしフリアグネは、 永年の戦いで培われた教訓と
左胸の掛け替えのない存在の温もりとで裡なる黒い火勢を
どんな窮地に陥っても決して冷静さを喪わず、
己の意志とは無関係に戦局を合理的に判断出来る
“狩人” の特殊本能。
「……不意打ち紛いの一撃が偶発的に
貴様の最大のミスはこの私を 「本気」 にさせた事だ。
それがどれほど愚かしいコトか、 身を以て知るのだな?
アノ時死んでおけば良かったと……」
最初の邂逅時に見せた、 甘く気怠い雰囲気は今や微塵も感じられず、
代わりに王の真名に恥じない深遠なる声調でフリアグネは告げた。
同時に全身から発せられる、 まるで
ソレを前にシャナは再びゆっくりと左手を逆水平に突き出し、
細く可憐な指先でフリアグネを差す、 否、
「アレは、 運命の因果がおまえに与えてくれた千載一遇の好機。
ソレを活かせないような 「器」 じゃあもうおまえに勝機は訪れない」
深紅の髪から火の粉を舞い踊らせるフレイムヘイズの少女は、
『預言者』 のように森厳な声で眼前の王に宣告する。
「二度目は、 もう来ない! 今度は私の逆襲開始よッ!
おまえに攻撃の機会は巡ってこないけどねッッ!!」
灼熱の喊声と同時に、 シャナは足下に突き刺さっていた
紅蓮渦巻く “贄殿遮那” を引き抜いて差し向けた。
「図に乗るなと言った筈だ……! 小娘が……ッ!」
苦々しく口元を歪め、 フリアグネは引き裂かれたのスーツとは逆に
煤一つ付いていない純白の長衣、 紅世の宝具 『ホワイトブレス』 を
鋭い手捌きで螺旋を描く軌道を空間に流した。
舞い散る白い火花と共に空間を踊る不可思議な紋章。
宝具である長衣に編み込まれ、 発動する召喚系自在法。
数と範囲をあまり精密には設定せず、 微調整もなしに発動させる
先刻までの自在法とは一線を画す、 遙かに高度な召喚儀。
その、 メビウスリングを想わせる螺旋状の法陣中心に、
一際輝度の高い光が一つのシルエットとして浮かび上がる。
「!」
現れたその存在に、 シャナが敏感に反応した。
『刀剣使い』 の本能が、 意志と無関係に騒ぎ出す。
その
ソレは一刀の、 抜き身の 「
やがてシルエットは眩い光を一迅放つと同時に、
具現化して現実の存在となる。
「まさかフレイムヘイズ如きを相手に、
心底苦々しい口調で呟いたフリアグネの、
虚無の空間から浮かび上がって握られたシャナの大刀に匹敵、
否、 ソレ以上の刀身を誇る長剣。
ブレードの揺らめきが燃え上がる炎のような、
波状の刃紋を流す氷刃。
その美しい外見とは裏腹に、 エッジは肉厚の白刃に鋭い反りを描いている為
長さに裏打ちされた異常な殺傷力の高さを危険な斬光と共に見せつけてくる。
恐らく、 この剣で斬りつけられれば喩え両断を免れたとしても
その傷口は肉片が飛び散って抉られたような
生命の自然治癒力を著しく阻害する痕となる為
永遠に塞がる事はなくなるだろう。
そして、 長い時間をかけて次第次第に肉体が腐蝕する地獄の苦悶を味合わせた後に、
残酷な死へと至らしめる、 戦慄の美を流す己の大太刀とはまるで対極に位置する
「切断」 ではなく 「破壊」 のみを目的に造り上げられた正に 『魔剣』
宝具ではない、 宝具ではないが限りなくソレに近い、
おそらくは過去に、 人間の中でも存在の力が大きい
ジョセフやエリザベスのような者達が
通常の武器が全く通用しない王を討滅する為に造り出した
『対紅世の徒殲滅兵器』
皮肉にもソレが討滅すべき其の者に握られた剣の名が、
清廉な声と共に告げられる。
「 『獅子王ウィンザレオの剣』 ッッ!! 私がその忠誠の 「証」 として
アノ方から
そう叫んでフリアグネは細身の躰に不釣り合いの両手剣を片手で持ち上げ、
威風堂々とシャナに向けて突き出す。
鋭くも重くのしかかるような斬壊音と共に、
互いの中間距離にある空気が弾けて千切れ飛んだ。
その長剣が放つ、 酷烈ながらも美しい白銀の煌めき。
ソレが “アノ男” の存在を象徴し、 邪悪なるその姿が
浮かび上がったかのような錯覚を覚えさせた。
しかしその存在を前に、 少女は凛々しき双眸のまま微塵もたじろきはしない。
アイツにそう 「約束」 したから。
何処までも共に行くと誓ったから。
「……」
そのシャナの様子を無感動に一瞥したフリアグネは、
マリアンヌに見せたのと同じ慈しむような表情で刀身に己を映し
表面を労るように撫ぜる。
「出来れば、 永遠に
アノ方から
フレイムヘイズの薄汚い血で
憂いを秘めた瞳で剣に語りかけたフリアグネはやがて、
覚悟を決めたように表情を引き締めシャナへと向き直る。
「だがッ! おまえは危険な存在だ!!
まだこの世に存在してから100年足らずのフレイムヘイズで在りながら!
このまま生かしておけば何れ 『星の白金』 共々、
必ずやアノ方の脅威となる存在になるッ!
故に今ここで全力で討滅させてもらおう!
天壌の劫火アラストールのフレイムヘイズ、 炎髪灼眼の討ち手ッ!
否ッッ!! 我らが宿敵ジョースターの血統の片割れ!
決意の叫喚と共に、手にした 『ウィンザレオ』 の氷刃が逆巻く
その揺らめきが、 パールグレーの双眸に映って烈しく燃え上がった。
武力、 能力、 これで両者の条件は五分。
しかし、 体力は治癒能力を施していないシャナの方が遙かに悪いと言えた。
だが、 そんなリスク等端から存在しないかのように、
フレイムヘイズの少女は露一つ浮かべない表情のままフリアグネを見る。
「
「舐めるな小娘。 忘れたのか? 私の真名は “狩人” だぞ?
今まではソレを使う必要がなかったというだけの話だ」
「ふぅん。 ま、 精々好きに足掻くのね。 結果は変わらないんだから」
「ガキ、 が……! 首と胴とが離れた状態で、
果たして同じ口が利けるのか今から愉しみだぞ……ッ!」
怒気を押し殺した言葉の後、
互いに沈黙したままフレイムヘイズと紅世の徒の二人は、
互いの色彩で覆われた剣を構える。
シャナは右足を前に、 左足は爪先が右の踵延長線へ並ぶように置く、
比較的オーソドックスな 『
対してフリアグネは左足を前に、 肩幅へ開き膝をやや弛緩、
更に肘を張って刃を水平に寝かせ、 迎え撃ちの際手首の返しで裏刃も使えるようにする、
西洋剣術に於ける “フォム・ダッハ” と呼ばれる構えの変形。
攻撃主体とカウンター主体という、 まるで対照的な両者の構え。
そしてその構えを微塵も崩さないまま、
互いの存在から刹那の時間も視線を逸らさず、
音も無い気流のような足捌きで自分に有利な間合いと攻撃位置、
初刃のタイミングを針のように研磨された戦闘神経で探り合う。
そし、 て。
両者の身体から、 否、 存在から空間が捻れるかのような
プレッシャーが静かに立ち昇り始めた。
まるで、 世界の果てを象徴するかのように。
ただ、 立ち昇っていた――。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
二人の全身から発せられる存在のプレッシャーが、
渇いた戦風が吹く破壊空間を錯綜し、
そして相互にブツかり合い高密度で圧縮されていく。
シャナとフリアグネ。
フレイムヘイズと紅世の王。
紅蓮と白蓮。
その二つを司る強力な存在同士の激突は。
決して避けられえぬ因果。
決して逃れられえぬ宿命。
喩えるならば。
ジョースターとDIO。
その二つの巨大な運命の歯車が織り成す。
血統の妙。
血統の業。
やがて、 視る者全てに、 下腹部の弛緩を促すような気怠い痺れを誘発し、
精神を切迫して引き絞るような威圧感がその臨界を超えた瞬間。
「ッッッシイィィィィィィィィィィィィィ――――――――――――!!!!」
「オッッッッッッラァァァァァァァァァァ――――――――――――!!!!」
ギャッッッッガアアアアアアアァァァァァァッッッッッ!!!!!
大太刀 “贄殿遮那” と両手長剣 『獅子王ウィンザレオ』 が、
互いの存在で彩られた熾烈な炎が、
周囲の空気を斬り裂いて灼き焦し凄まじい衝撃と共に激突、
斬刀炎撃同士の高速衝突に伴う火走りが空間に飛び交って踊り狂った。
同時に、 剣に込めた互いの想いも鮮烈に弾ける。
シャナ、 フリアグネ両者の視線が再び、
二本の剣を通して斬撃よりも強い威圧感で真正面から激突した。
「―――――――――ッッ!!」
「―――――――――ッッ!!」
そのまま、 互いの刃と歯を軋ませながら両者一歩も引かない壮絶な
ソレと同時に執り行われるは、 己が存在を相手に刻みつけ
凌駕し呑みこもうとでもするかのように
きつく食いしばった両者の口元から、 意図せず呻きのような声が漏れる。
刀身に込める力も同じならばそれを扱う技術もまた互角。
発する眼光の気迫すらも、 何れ劣らぬ完全拮抗状態。
「チッ……!」
永年の経験則からこのまま鍔迫り合いを続けても、
戦局は膠着したまま喩え千日を経っても決着は着かないと判断した
フリアグネは、 仕切直しの為に長剣を大きく、 しかし鋭く振り廻して
シャナの大太刀を薙ぎ払い同時に開いた躰へ撃ち込ませないよう
大きくバックステップで跳躍。
遙か後方、 20メートルの位置に足裏を鳴らして軽やかに着地する。
そこへ。
「ッッッッラァァァァァァァァァァ―――――――――――ッッッ!!!」
「ッッ!!」
灼熱の喊声と共に突如眼前から勢いよく追進してくる紅い斬光。
脳裡に甦る、 先刻の悪夢。
そしてその裡に込められた炎気が唸りを上げ、
空間を縦に切り裂きながら迫るカマイタチ状の
その殺傷力こそ他に較べて一歩劣るが、
汎用性と射程距離では数歩先んじる斬撃術。
紅蓮の闘刃、 『贄殿遮那・
その具現化した炎の刃をフリアグネは手にした白炎揺らめく長剣、
『ウィンザレオ』 の刀身を素早く斜傾に構えて受け止める。
ガァッッッギャァァァァァァァァッッッ!!!
金属音とも炸裂音とも異なる着撃と共に、
存在の炎同士のブツかり合いが引き起こす焦熱の散華。
「クッ!」
不意ではないが意表は突かれたフリアグネは、
鋭い躰のキレで亜音速射出された炎の闘刃の圧力に
一瞬持ち手を内側に押し込まれるがすぐに。
「こんな子供騙しがッ! ナメるなッ!」
すぐさま刀身に込めた白い存在の炎気を内部で収斂、
放散させて 『ウィンザレオ』 を覆う炎を強化、
真一文字に薙ぎ払った斬撃で 『炎妙ノ太刀』 を引き裂いて
猛火の破片を眼前に撒き散らす。
「フッ」
研ぎ澄まされた戦闘神経の影響で、
その耽美的な口唇を笑みにする事もなく
フリアグネは手にした長剣を次なる迎撃に備え膝下に垂れ下げる。
その炎刃同士のブツかり合いで引き裂かれた炎が舞い踊る眼前から、
突如紅蓮の業火で覆われた一刀が喊声と共に飛び出してきた。
「オラオラオラァァァァァァァァァァ―――――――――――ッッッ!!!」
(ッッ!!)
刹那に満たない時間の交錯の中、
火の粉を撒く深紅の炎髪と貫くように自分を視る真紅の灼眼。
紅世の徒である自分にとっては死神を想起させるその色彩。
先刻、 斬撃を放った瞬間に足下で生まれた踏み込みの力をシャナは、
長い鍛錬によって磨かれた 「体術」 により爪先へ温存、
後は炎刃が引き裂かれて自分の姿が一瞬フリアグネの視界から消えた瞬間に
素早く足先に火の粉を集束させて爆砕、 足下の瓦礫を踏み割り
鋭く超低空姿勢で紅い弾丸のように飛翔していたのだ。
そして黒衣を突風に揺らしながら
高速の片手廻転刺突をフリアグネへと繰り出した。
(先刻の一撃は 「囮」 ……ッ!
私の動作を 「先読み」 して行った連携技、 だと……ッ!?)
今度こそ不意を突かれたフリアグネは、
超人的に研ぎ澄まされた “狩人” の反射神経で意識よりも
刹那まで自分がいた場所をガオッと炎の軌跡が螺旋状に渦巻き、
さらに白い残像を灼熱の紅刃が刺し貫いた。
(……ッッ!!)
あとゼロコンマ一秒避けるのが遅れていたら、
フリアグネの背筋に薄ら寒いモノが走る。
しかし。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァ!!!!」
その感覚を認識する暇もなくフレイムヘイズの少女は、
呼気を吸う間も与えず飛びかかるように距離を詰め、
無数の斬閃を繰り出してくる。
袈裟斬り、 逆袈裟、 水平斬り、 胴薙ぎ払い、 更に上下刺突と
ありとあらゆる剣技をありとあらゆる角度から、 無造作に次々と射出する。
前後の技の繋がりはほぼ皆無、 ただフリアグネという存在に
刀身を叩き込む為だけにやたらめったらに剣を繰り出し続けるという、
とても 「連携技」 とは呼べない愚直な攻撃だったが
その手数が多過ぎるのと炎で覆われた大太刀の殺傷力が
凄まじ過ぎるという利点により攻撃のリスクとデメリットは
この状況に於いて全てカバーされる。
(クッ……! この……ッ! 調子に……!)
そう苛立ちながらもフリアグネは眼前のやや下方から次々と撃ち出される
紅い斬撃の嵐を、 研ぎ澄まされた戦闘神経と手練の剣捌きでなんとか着弾を阻止、
己の周囲に 「結界」 でも張り巡らせたかの如く全弾迎撃しながら眼下のシャナを見据える。
炎撃のブツかり合う炸裂音と飛沫を上げる火花が絶え間なく錯綜した。
「いつまでも調子に乗るなッッ!! この愚か者が!!
愚直に前へ出るだけで、 この私に勝てると想っているのかァァァァァ!!」
そう叫ぶとフリアグネはシャナが三種連続で撃ち出した斬撃の内二つを
長剣の斜面で受け、 最後の一つを躰を僅かに反らしただけの
華麗な体捌きにより紙一重で躱し、 即座に手にした両手剣の柄に
軸足から体幹を経由させて集束した力を込める。
「ハアアアアアアアアァァァァァァァァッッッ!!!」
そして清廉な掛け声と共に鋭く蹴り足を半円を描いて転回させ、
更に生まれた力を腰の捻転と肩の廻転とで強力に増幅させた一撃を
空間を断ち斬るかのような勢いでシャナの頭上から撃ち落とす。
「!」
ギャッッギィィィィィィィッッ!!
シャナはその断空の一撃を小柄な体躯を利用して
一瞬速くフリアグネの間合いに踏み込み、
斬撃が最大の威力を発揮する地点へ達する前に
一転。
少女は暴風のような乱撃の余韻を露も遺さず掻き消し、
その身体能力に裏打ちされた高度な防御術で “狩人” 渾身の一撃を受け止めた。
高速移動が巻き起こす旋風が、 黒衣とスーツの裾を揺らす。
「―――――ッッ!!」
「―――――ッッ!!」
そして再び激突する、 互いの想念。
(おまえは、
私自身の事じゃない!
誰かを心から想えるコトによって、 始めて生まれる
ソレが少女の裡で爆発する。
(でもアイツなら! きっとおまえの事を!
“おまえのしてきた事” を赦さない筈!
だったら私も赦さない! なんだか知らないけどさっきからッ!
おまえの存在自体が頭に来て仕方がないのよ!!)
フリアグネはその全身から発せられる強烈なプレッシャーと、
瞳に宿る閃光のような煌めきに戦慄する。
(な、 なんだこいつは!? こいつのこの “眼” は!?
今まで討滅したフレイムヘイズの中に!
そう、 今までフリアグネが
それぞれ人種も性別も操る炎の色彩も異なる中、
ある一つの 「共通点」 が在った。
その 「共通点」 を利用し、 或いは逆手に取り、
フリアグネは今日まで勝利し続けてきたと云っても過言ではない。
しかし、 目の前の少女には、
正確には 「今の」 この少女には、
(こいつは! こいつにはッ!
私に対する 『憎悪』 、 紅世の徒に対する 『憎悪』 が無いッ!
こいつは!
一体何なんだこいつは!? こんな異様な心理を持つ
フレイムヘイズは初めて見るッ!)
一体こいつは、 『何に』 突き動かされている?
突如 “狩人” の胸中に刻み込まれた、 一つの疑問。
しかし、 ソレは紅世の徒である彼には、
決して解くことの出来ない永久の謎。
その想いに突き動かされた少女は、
尚も存在を圧搾するような力を刀身の柄に込める。
想いがシャナを、 突き動かす!
(おまえが! 自分の欲望の為だけにトーチにしてきた! 殺してきたッ!
数多くの人間達! その人達にもきっと!
私にとってのアラストールやヴィルヘルミナ、
ジョセフやホリィのような存在がいた筈よッ!
それを……その存在を……無惨に……虫ケラみたいに……ッ!)
そして、 もう一人。
自分にとっての “アイツ” のような存在を持つ者も。
きっと。
その認識と同時に、 痛烈に湧き上がる灼熱の咆吼。
「そんなヤツ!! 絶対に赦せないッッ!!」
火を吐くように吼えたシャナに連動して、 急速に振り抜かれる紅蓮の大刀。
「ッッッッッッッッラアアアアアアアアアァァァァァッッッッ!!!!」
「な、 に……ッッ!?」
想いの爆裂と同時にシャナの全身から灼熱の剣気が噴き上がり、
渾心の力の籠もった大太刀がソレに後押しされて全速で振り切られ、
フリアグネの躰を手にした長剣 『ウィンザレオ』 ごと後方へ弾き飛ばす。
拮抗状態が解除されると同時に、 シャナは爪先に細く炎気を即座集束、
一度視線を向け吹き飛ばされたフリアグネの落下地点を算出すると。
「ッッッッだぁぁぁぁッッッ!!!」
鋭い駆け声と共に足下の瓦礫を強く踏み割り、
ギリギリまで引き絞られた弾弓の如く跳躍する。
なんとか空中でバランスを建て直し、
練熟の体捌きで着地するフリアグネの遙か頭上で
少女は鮮麗に一廻転すると落下重力を利用し、
さらに背後より込めた
上空から強烈な廻転遠心力を乗せた大上段の一撃を
全体重を込めて撃ち
その、 紅い陽炎に彩られた凄絶なる姿、
正に
『贄殿遮那・
遣い手-空条 シャナ
破壊力-A スピード-B 射程距離-C(最大上空10メートル)
持続力-E 精密動作性-D 成長性-C
「オッッッッッラアアアアアアアアアァァァァァァァ――――――――ッッッッ!!!!」
紅蓮の双眸に黄金の光を称え咆吼するシャナの、
その廻転大刀の一撃が、 顎を開いた紅龍の牙が、
覚醒したフレイムヘイズ怒りの正義の鉄槌が、
途轍もないプレッシャーを伴って “狩人” の頭上から
灼熱の断頭台のように情け容赦なく
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