STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『戦慄の暗殺者ⅩⅤ ~Cross Fire Evolution~ 』

 

 

【1】

 

 

 

「オッッッッッラァァァァァァァァァァァァ――――――――ッッッッ!!!!」

 

「無駄だァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッッッッ!!!!」

 

 響き渡る数多の斬吼。

 踊り狂う幾多の火走り。

 ソレらを次々に生み出す焔人が、 二人。

 激戦の残光。

 死闘の飛沫(しぶき)

 

()()()……()()()()……ッッ!!)

 

 もう何合目か解らなくなった炎刃の斬り結びから距離を取ったシャナは、

瓦礫に足裏を滑らせながらその呼吸を3秒で戻す。

 

「どうした? 息が上がっているぞ! マジシャンズッ!」

 

 傷ついても揺るがないその耽美的美貌に微かな露を浮かべ、

フリアグネは不敵な微笑を浮かべる。

 勝利の女神が天空で吊す天秤は、 少しずつ己に傾きつつあった。

 武力、 精神力、 能力共に互角ならば、

最終的には最も原始的な肉体の勝負になる。

 先刻自分の最大焔儀を受けたダメージは、

幾ら精神の加護が在ろうと完治には程遠い。

 加えてこちらは体力的に勝る男、

幾らフレイムヘイズであろうとも 「生物」 で在るならば、

人の形容(カタチ)を持って存在している以上

この原初的な法則(ルール)からは逃れられない。

 加えて未だ使っていない無数の 「宝具」 も手中にある。

 そろそろ斬撃戦に目が慣れきった炎髪の仔獅子に、

銃と剣との複合攻撃を仕掛けてやろうかと純白の長衣

“ホワイトブレス” に収納されているフレイムヘイズ完殺の魔銃

『トリガーハッピー』 の銃身を細い指先でつ、 と撫ぜる。

 必勝の手札(カード)は、 今や全て自分の手の内に在った。

 

(……ッッ!!)

 

 そして、 そのフリアグネが気づいている事を当然シャナも察知していた。

“このまま長期戦になれば勝ち目はない” と。

 でも、 たった一つだけ 「手」 が残されていた。

 でも、 その 「手」 は。

 奥歯をギリッと食いしばるシャナの胸元で厳かに声があがった。

 

「一時、 『退()く』 か? 

燐子の包囲網が無くなった今、 ここより撤退するのは容易い。

彼奴(あやつ)と合流し、 体勢を立て直すのだ」 

 

「ダメッ!」

 

 戦闘に於いては一番合理的で正しいアラストールの提案を

シャナは即座に()退(しりぞ)けた。 

 

「むう……」

 

 普段、 殆ど自分に逆らった事のない少女の明確な拒絶に

アラストールは少々意外そうな声を漏らす。

 

「ソレは、 出来ない。

ソレだけは、 ()()()()()()()()()()()()

ゴメン、 アラストール」

「う、 む……」

 

 少女の言葉の意図を悟ったアラストールはそう一言だけ漏らし、

再び押し黙る。

 額から、 全身から流れる汗と満身創痍、

疲労困憊で震える躰をシャナはなんとか意志の力のみで抑えつけ、

歯を食いしばりながらも大刀を正眼に構え続ける。

 その傷だらけの少女の胸の裡で、 滔々と沁み出る想い。

 

(アイツは、 昨日、 “アノ時”

今の私以上に絶望的な状況だったのに、

一切私には頼ろうとしなかった。

傷だらけの心と体でも、 最後まで必死に、

たった一人で戦い続けた……!

だから、 “私もアイツには頼らない”

もし、 一度でも頼ったら。

もし、 一度でも縋ったら。

もう私は、 二度とアイツと 『対等』 にはなれない気がするから。

理由は解らないけれど、 そんな気がするから……ッ!)

 脳裡に浮かぶ、 「アノ時」 の “アイツ”

 全身血に塗れたズタボロの躯でも、 降り注ぐ陽光の下、

何よりも美しく何よりも気高く瞳に映った、 アノ姿。

 だったら、 私もやってみせる。

 おまえと同じように。

 否。

 ソレ以上に!

 

「!!」

 

 シャナは突如、 自分の左胸を掴み躰を覆う黒衣を解くと、

空間に翻されたその外套は一瞬で霧散するかのように掻き消える。

 まるで魔術師の操る呪法のように。

 そして、 その華奢な躰を覆うものは

胸元を大きなリボンで飾る灼け焦げたセーラー服のみとなった。

 

「正気、 か? 己が身を護る 『夜笠(よがさ)』 を自ら解くとは……ッ!」

 

「……」

 

 遠間に純粋な悪意に充ちた微笑を浮かべるフリアグネを後目に、

窮地に陥った立場を更に悪くするような、

自虐的とも言える選択を少女が取った事に対し

アラストールは抑えながらも驚愕を発する。

 もし、 この状態でフリアグネの剣が掠りでもすれば、

氷刃の殺傷力と纏った炎の高熱により

その部分は跡形もなく蒸散してしまうだろう。

 つまり、 どんな 「小技」 でも()まれば終わり。 

 そのアラストールの危惧をよそに、

少女は決意に満ち溢れた双眸で眼前を見た。

 

「アラストール。(しゃく)だけど、 このままじゃいつまで経っても決着は付かないわ。

認めたくないけれど、 幾多のフレイムヘイズを討滅してきただけあって

アイツ大した “王” よ。 さっきまでは精神的に押してたけれど、

今じゃソレも五分以下に引き戻された」

 

「むぅ、 確かにな。

携えた宝具の能力(チカラ)も含めれば、

今や近代最強の “徒” かもしれん」

 

 当代を生きるフレイムヘイズにも、

この男を(たお)せる者が果たして何人いるか――。

生半(なまなか)に答えの出ぬ疑問に魔神は息を呑む。

 

「だからッ! アイツに勝つにはアイツ以上の 『覚悟』 をこの私が!

アイツ自身に示さなきゃいけないって事よッッ!!」

 

 そうシャナが叫び左腕を振りかざすと同時に、

全身から紅蓮の火の粉が迸って舞い散り空間を灼き焦がした。

 

「オラオラオラァァァァァァァァァァァ――――――――――ッッッッ!!!!」

 

 そして勇ましき喊声と共にフリアグネへと躍りかかるシャナ。

 

「!」

 

 繰り出されるは瓦礫にけたたましく刀身を引き擦りながら放たれる、

抜刀炎撃斬刀術、 『贄殿遮那・火車ノ太刀/斬斗(キリト)

 ガギィィィィィィィィィィ!!!

 だが、 ソレは熟練の体術で地面を滑るように高速移動してきたフリアグネに、

剣の(つか)(なかご)部分近くをブレードで打たれ発撃を阻止される。

 

「その 『技』 は、 もう “()た” よ……二度目は通用しない……」

 

「!!」

 

 下部で刃と刃を軋らせながらフリアグネは、

真上から陶然とした笑みを浮かべて見下ろす。

 

「フッ!」

 

 そしてその至近距離の場から一歩も動かない、

上体の廻転のみの旋撃で撃ち抜くように大刀ごと弾き飛ばす。

 

「クゥッ!」

 

 靴裏を瓦礫に滑らせて、 シャナは崩れた体勢を何とか立て直す。

 疲労の上に重ねられた衝撃により、 膝がガクガクと意志とは無関係に震えた。

 その様子を異界の貴公子は満足気に見据える。

 

(フッ……少々熱くなり過ぎている、 か? 私らしくもない。

だが、 真剣勝負というモノも嫌いではない。

久しく忘れていた何かが、 精神の(フチ)から甦ったようだ……!) 

 

「オラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!」 

 

「フッ! 無駄だぞッッ!! 無駄無駄無駄ァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

 アイツ譲りの激しい喚声と共に、 再び躍りかかるフレイムヘイズの少女に

フリアグネは主譲りの傲慢な口調でそう叫び、

半身になって剣を水平に構えた低空迎撃の構えを執る。

 そして、 眼前で数多繰り出される凄まじい速度の斬閃を、

手にした氷刃で空間に蜘蛛の巣のような剣閃の軌跡を描いて

全て弾き落とす。

 

「フッ……!」

 

「お見事ですッ! ご主人様!」

 

 適度に脱力した、 剣技の理想型とも言える構えのまま

フリアグネは余裕の笑みを浮かべて手にした剣をだらりと下げる。

 しかし、 次の瞬間。

 

 ジュバァァァァァァッッッ!!!

 

「何ッッ!?」

 

 そのフリアグネの、 左腕が突如引き裂かれた。

 

「ご主人様ッ!?」

 

 驚愕の表情を浮かべるフリアグネと胸元の従者。

 

(バ、 バカなッ!? 確かに全て迎撃した筈!

ヤツの斬撃で偶然生まれた 「真空」 によって斬れたのか?

イヤ違う! 確かにヤツ自身の放った大刀の本刃が 「命中」 したのだッ!

無数に撃ち出された斬撃の(うち)一つをこの私が見逃した?

ヤツのスピードは、 この私を上回りつつあるというのか?

この極限の状況下で? 満身創痍のあの躰で!? バカなッッ!!)

 

 身に纏う紅世の黒衣を取り去った、

今や戦場では裸に等しき状態でいる少女の、

その冷静な視線がフリアグネの困惑と焦燥とを煽る。

 

「貴様ッッ!!」

 

 素早く瓦礫に踏み込み後ろの蹴り足でキレと射程距離を延ばして繰り出された、

多数のフェイントも織り交ぜたフェント(直突き)の連閃を

今度はシャナが剣を一切交えず、 緩やかな水のように流麗な体捌きのみで全て(かわ)す。

 身体の加重移動を最大に活かす為、

胸の前で真一文字に構えられた大太刀を

それぞれ刺閃に合わせ振り子のように揺らしながら。

 

「!!」

 

 己の最も得意とする剣技が、

悉く掠りもせず全て空間を駆け抜けた事に

フリアグネはパールグレーの双眸を見開く。

 その驚愕の回避法。

 ソレは昔、 少女が血の滲むような修練の元に会得した

凄惨、 酷烈を(むね)とする古流剣術一流派の 「(ワザ)」 に由来。

 本来、 他の武器と引き較べて比較的折れ易い日本刀の強度の弱点を

補強する為に編み出された斬刀回避術、 「虎眼(こがん)の構え」

 それをフレイムヘイズの超人的身体能力に特 化(カスタマイズ)した、

極限レベルでの寸の見切り。

『フレイムヘイズ・灼虎(しゃっこ)(じん)

遣い手-空条 シャナ

破壊力-なし スピード-A 射程距離-C(近距離、 最大半径5m前後)

持続力-D 精密動作性-A 成長性-B

 

【挿絵表示】

 

 

「オラオラオラオラオラァァァァァ―――――――――――――!!!!」

 

 そのような驚愕の “絶技(ぜつぎ)” を繰り出したのにも関わらず、

少女はそんなコトに等興味がないとでも言うかのように

再びフリアグネに向け斬撃の嵐を撃ち出す。

 興味が在るのはおまえの “首” だけだ、 とでも云わんばかりに。

 

「クッ!? 無駄だァァァァァァァァ――――――――――!!!!」

 

 フリアグネは己の慢心が油断を招いたのだと半ば強引に解答を出し、

即座に思考を戦闘モードに切り換える。

 しかし、 今度の斬光の連撃戦は

先刻までとはまるで展開が変わった。

 一撃の 「破壊力」 は、 体力と自在法の影響で明らかにフリアグネが上、

しかし眼前のフレイムヘイズの少女は()()()()()()()()()()

累乗の如く斬撃を繰り出してくる。

 力の優位性は数の原理で押し潰され、

次第に自身の手数は減っていき防戦一方の展開を余儀なくされる。

 まるで少女の放つ夥しい斬撃に

自分という存在が圧搾(あっさく)されているようだった。

 

(くっ、うぅ!?  技術は、 互角!

しかしッ! 『空間把握能力』 はヤツの方が上ッ!

私が㎝で動く所を、 ヤツは㎜単位の動きで攻撃を(かわ)しているッ!

その 「差」 の分どうしてもこちらが出遅れるッ!

接近戦での戦闘経験値の差がここに来て出たかッ!)

 

 そのフリアグネの 「死角」 から

瓦礫に鋭い火線を描いて繰り出された

至近距離の膝蹴りが脇腹に突き刺さって衝撃と共に爆散する。

 

「ガァッッ!?」

 

 瞳孔を見開いて多量の呼気を吐き出したフリアグネの

細身の躰が “くの字” に折れ曲がる。

 

「やっぱり頭が悪いわねッ! おまえ!

戦場じゃ 「足」 も使うっていったでしょッ!

同じ事を二度言わせないでッ!」

 

 そう叫んで素早く蹴り足を引き戻したシャナは、

そのまま下げた刀身を本刃に返さず右手を柄頭に当てる。

 

「そしてッ! 刀身だけじゃなく 「柄」 もねッ!」

 

 そう先鋭に叫んで足下の瓦礫を爆散させ、 強烈に踏み切る。

 

「だァァァァァッッ!!」

 

 高速の束 頭(つかがしら)による穿突(せんとつ)がフリアグネの躰

「水月」 の位置に叩きつけられ捻じ込まれた。

 

「グハァァァァァ―――――――――ッッ!!?」

 

 今まで仕掛けられた事の無い 「技」 を

体勢が崩れた状態で唐突に繰り出されたので、

対応が遅れたフリアグネはそのシャナの打撃術をモロに喰う事となる。

 まるで鳩尾(みぞおち)周囲の皮膚と肉がバラバラに削げ落ちて、

ズタズタになった神経が剥き出しにでもなったかのような

途轍もない苦痛と嘔吐感がフリアグネの全身を劈いた。

 その衝撃で空間に弾き飛ばされながら、

フリアグネは新たなる 「事実」 に気づきつつあった。

 

(私はッ! もしかすると途轍もない大きな勘違いをしていたのかもしれない!!

ただ戦闘能力が強いだけのフレイムヘイズなら今まで何人も討滅してきた!

しかしこの少女の()()()()()()()()ッ!

戦闘力でも頭脳力でも手にした大刀の殺傷力でもないッッ!!)

 

 その脳裡を直撃する、 揺るぎのない確信。

 

(アノ “天壌の劫火” アラストールの! 

途轍もない存在をその 「器」 に呑み尽くしても微塵も揺らがない!

その想像を絶する 潜 在 能 力(ポテンシャル) だッッ!!)

 

 その火の粉を撒く少女の裡に。

 そして存在の背後に。

 フリアグネは、 感じ取った。

 巨大な、 漆黒の塊を深奥に秘め、 灼熱の衣をその身に纏い、

同じく巨大な紅蓮の大翼を背に押し拡げた深遠なる紅世の王

“天壌の劫火” アラストール其の真の御姿を――。

 

(ソレがいまッ! 黒衣の加護を捨て去った 『覚悟』 を起爆剤として

正と負あらゆる要素が内部で 【爆裂】 している!!

ソレがいまのこの強さの源泉ッ!

肉体のダメージや疲労など今や “どうでも良い” 状態なのか!!)

 

 崩れた体勢でフリアグネはなんとか瓦礫の海に着地。

 苦痛に身を苛まれながらもその老獪な知能を総動員して

次に打つべき手段を数種、 刹那の間に構築、取捨(しゅしゃ)選択する。

 そして彼が取った “手” は回復の時間を図る為に 「挑発」 として

剣を自分の前へ防波堤のように突き立てるという行為。

 

“やってみろ! 討滅の道具! この私が赦せないのだろう!?

だったらこの私の 「誇り」 ごと、 見事私を討滅してみせろッッ!!”

 

 そのメッセージを、 『獅子王ウィンザレオの剣』 一心に込めて。

 そし、 て。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ―――――――――!!!!!」

 

 勇ましき喊声をあげながらセーラー服に身を包んだ

フレイムヘイズの少女が空間を翔る。

 胸中に湧く、 自分ですらもどうしようもない強烈な想いと共に。

 

(そう……痛みなんか……どうでも良い……!

手足が千切れたって構わない……ッ!

“そんなこと” より……ッ! 私が本当に痛いのは……!

私が本当に怖いのは……ッッ!!)

 

 涙が滲んだ少女の裡に、 突如紅蓮の炎が燃え上がり

灼熱の閃光を背景に炎が一つの人間の形を成す。

 その存在が、 何よりも熱く何よりも激しく何よりも狂暴な感情を

少女の胸の裡に呼び熾す。

 

(おまえなんかに教えてやるもんかッッ!!)

 

 灼熱のシャナの咆吼。

 その想いの全てを乗せた灼熱の炎刃が、

眼前に突き立てられたフリアグネの氷刃へ

力任せに叩きつけられる。

 

 ギャッッッッグオオオオオオオオオオ―――――――――――ッッッッッ!!!!!

 

「ッッッ!!!」

 

 その途轍もない衝撃の為に、

まるで空間ごと削り取られたかのようにフリアグネの体が

突き立てた剣ごとコンクリートを抉りながら数メートルズレる。

 その刹那。

 まるで今の斬吼が精神の “呼び水” でも在ったかのように、

シャナの精神の深奥で眠っていた真紅の存在の 『源泉』 が再び、

先刻以上の激震を以て弾け散る。

 

(―――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!)

 

 シャナの脳裏を煌めく紅蓮の光暈(こううん)が充たし、

刹那の甘く気怠い痺れがその華奢な躰を、 細い指先を、 爪先の突端まで、

そして長く美しい髪の先端までをも隈無く包み込み、

その灼熱の双眸が再び一切の光の存在を赦さない無限の超高密度、

無明の双眸へと変貌する。

 神炎覚醒(しんえんかくせい)天壌(てんじょう)灼刻(しゃくごく)。 

【フレイムヘイズ・ “(しん)灼眼(しゃくがん)” 】

発動者名-空条 シャナ

破壊力-??? スピード-??? 射程距離-???

持続力-C(現時点) 精密動作性-∞ 成長性-A+(現時点)

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 全身から。

 鳳凰の飛翔のようにより紅く染まった紅蓮の羽根吹雪を振り捲き、

空間を灼き焦がしたシャナの、 その深遠の双眸がゆっくりとしかし、

ゾッとするような凄まじい威圧感を以て再びフリアグネに向けられる。

 

「ッッ!?」

 

 その冷たく、 しかし強烈な存在感にフリアグネは想わず後退(あとずさ)る。

 

(クゥッ!? さ、 最悪だッッ!! ここに来て再び!!

先刻のアノ 『能力』 がッッ!? )

 

 フリアグネは、 恐れた。

 シャナの未曾有の 『能力』 を。

 その 『能力』 が胸元の “マリアンヌに及ぶことを”

真に恐れた――。

 

「フッ……ッ!」

 

 シャナは無表情のまま一度鋭く呼気を吸い込むと、

残像が映る程の超スピードで足下の瓦礫を踏み砕き

フリアグネとはあさっての方向に超低空で疾風のように跳躍する。

 

(!?)

 

 炎髪の撒く火の粉によって陽炎を残しシャナはフリアグネの側面に高速移動すると

そこで一度動きを完全停止させ、 陽炎の揺らめきが終える刹那、 再び元の場所、

寸分違わぬ位置に同じ軌道で移動する。

 同じように今度はフリアグネの遙か頭上を飛び越え背後に着地、

その後眼にも止まらぬ音速移動で彼の脇につく。

 

「ッッ!!」

 

 咄嗟にフリアグネは 『ウィンザレオ』 で目の前を薙ぎ払うが、

もう既に少女の姿はない。

 そのスピードが速過ぎて、 本体は疎か残像にすらも攻撃出来ない。

 そしてシャナは、 ソレと同じ動作をフリアグネを中心点とする

円周状にて何度も繰り返す。

 寄せては返す (さざなみ) のように、

速度に、 軌道に、 その精密な足捌きに 「緩急」 を付けて、

フリアグネの周囲を円球のドーム状に覆っていく。

 

(!?) 

 

 その少女の不可思議な動作に、 やがて変化が起こり始めた。

 正確には、 ソレを目で追う “フリアグネの五感に” 変異が引き起こされた。

 

(なッ!? バ、バカなッッ!? げ、幻覚か!?

あのフレイムヘイズの小娘の姿が、 分身?

否、 そんな次元じゃない! 『増殖(ぞうしょく)』 して見える!? )

 

 手にした長衣で目元を拭ってみるが状況に変化はない。

 目の前にいるフレイムヘイズは確かに一人、

しかし今の動作に 「緩急」 を付けて音速及び低空移動を続ける少女の姿は、

フリアグネの視覚には無数に 『分裂』 して()えた。

 まるで、 巨大な騙し絵の中に、 自分が閉じ込められたかのように。

 

(もっと速く……もっと速く……!)

 

 取りあえずはフリアグネの事は無視しておき、

シャナはこれから刳り出す 【奥義】 の発動のみに

その全神経を研ぎ澄ます。

 幾多に及ぶ戦闘訓練で、 今まで一度も成功した事のない未知の 『超絶技』 を。

 実戦のこの場で以て、 無謀にも決死の試みを敢行する。

 

(もっと|疾《はや)く……ッ! もっと疾く……!!)

 

 舞い踊る気流の中、 脳裡に甦る、 あの人の言葉。

 何度やっても一度も成功せず、 ほとほとイヤになってソファーの上に倒れ込み

悔しさで涙ぐんでいた時に、 いつの間にか隣に腰掛け優しく髪を撫でてくれていた

あの人の、 温かなアノ言葉。

 

 

 

 

 

『シャナ? 「結果」 だけを追い求めようとするな。

「結果」だけを追い求めると、 人は近道しようとするものじゃ。

やる気も次第に失せていく。

大事なのは、“自分はいつか出来る” という 『真実』 に向かおうとする意志だ。

向かおうとする “意志さえあれば” 例え今は無理でも

いつかは必ず目的のものに辿りつく事が出来る。

『向かっている』 わけじゃからな…………違うか?』

 

 

 

 

 

 その言葉に、 シャナは心中で嬉しそうに大きく頷く。

 

(うんッ! 違わない! 違わないよ! 一番悪いのは!

『失敗を恐れて挑戦する事に無縁な場所にいる事』 だよねッ!)

 

 何よりも澄み切った声でそう問いかけるシャナに、

ジョセフは歯を剥き出しにした子供のような笑顔で

親指をグッ、 とこちらに向けてきた。

 ただそれだけの仕草が、 痛いほどに胸を灼き焦がす。

 満身創痍の全身に、 紅蓮の力が甦ってくる。

 風の化身となって駆け巡る空間の中、

いつの間にか口元に笑みを浮かべていたシャナは、

陽光のような明るい声で心中のあの人に叫ぶ。

 

(私! やってみる! やってみるよッ!

今度こそ絶対に成功させるから! だから! 見ててッ! )

 

 

 

 

“お爺ちゃん!!”

 

 

 

 

 緊張と失敗を恐れる不安等、 最初から存在していなかったの如く

紅世の遙か彼方にまで消し飛び、 代わりに輝く高揚感のみが胸を充たす。

 

(もっと(はや)く! もっと、 迅くッッ!! )

 

 少女の脳裡を掠める、二人の男。

 

(“アイツ” よりも! “アノ男” よりもッッ!! )

 

 やがて、 そのスピード、 技術、 精神の存在の力が少女の内部で一点に集束し、

そして! 紅蓮の大爆裂を引き(おこ)す。

 

「だああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッッッッッ!!!!!」

 

 湧き上がる咆吼と同時に巻き起こる天空の旋風(かぜ)

 

「!!」

 

“狩人” フリアグネを取り囲む紅蓮の乱気流。

 素疾く精密な足捌きによって生まれる体術に適切な 「緩急」 をつける事により、

対象者に引き起こる 「動体錯覚現象」 を利用して相手を幻惑、

炎髪の放つ陽炎(かげろう)でその効果を増大させ

さらに高速移動に連動して生まれた

強烈無比な数多の斬撃技を縦横無尽に叩き込む

虚実一体、 対単多数汎用型の奥義。

 幻洸繚乱(げんこうりょうらん)真眼(しんがん)翔撃(しょうげき)

【贄殿遮那・魔幻鏡(まげんきょう)ノ太刀】

遣い手-空条 シャナ

発動条件- “真・灼眼”

破壊力-A+ スピード-A+ 射程距離-B(最大半径30m)

持続力-C 精密動作性-A+ 成長性-B

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「こ、 こ、 ()()()……!」

 

 突如。

 白い封絶内部にてフリアグネを取り囲んだ紅蓮の 『結界』 が

彼の身を、 否、 存在を震撼させる。

 舞い踊る深紅の光塵が周囲360度全てを支配する、 ドーム状の異次元空間。

 まるで誰かの悪い夢に取り込まれてしまったかのような非現実感が

フリアグネの全身を染め上げていった。

 しかし、 悪夢は実体を成して彼に襲いかかる。

 突如、 その深紅の光塵が人のカタチを成して鋭く大上段に、

まるで高々と振り上げられた死神の鎌のように

生命を断ち斬ろうとフリアグネの首筋に紅蓮の閃光が疾走(はし)った。

 

「くぅぅぅッッ!!?」

 

 フリアグネは永い経験で研ぎ澄まされた反射神経で、

何とかかろうじてその超速の斬撃をウィンザレオの剣で受け止める。

 しかしその刹那。

 

「ッッ!!?」

 

 受け止めた筈の斬撃が、 まるで蜃気楼のように高速で左右にブレ

炎刃の幻影が突如実体を以てフリアグネの右腕を鉤爪状に切り裂いて

白い炎の飛沫を鮮血のように空間へ撒き散らす。

 

「な……!? に……ッ!?」

 

 驚愕と苦悶を同時に浮かべるフリアグネ。

 しかしその苦痛を解する間もなく再び眼前から迫る、

紅い人型の陽炎と共に真正面から繰り出される超速の刺突。

 

「!!」

 

 今度は剣で払わず何とか体捌きのみでその尖撃をかわすフリアグネ。

 だが軌道を逸れた本刃とは別に、 眼前から迫る無数の閃光。

 その閃光の端末部を全て、 長い髪を携えた紅い人型のナニカが両手で握っていた。

 そしてその赤光がフリアグネの右腕、 左肩、 左右脇腹、 そして右足を鋭く穿(うが)ち、

血の代わりに飛び散る白い存在の炎が空間に散昇する。

 

「グアアアアアアアアアァァァァァァァァ――――――――――ッッッッ!!!!」

 

 苦悶の表情と共に貫衝で背後に弾き飛ばされたフリアグネは、

瓦礫の水面に引き擦られ朽ち木のように転がる。

 だが彼はすぐに苛む苦痛を押し殺して、 震えながらも立ち上がろうとする。

 護らなければならない存在が、 地に伏し続ける事を赦さない。

 そこに頭上から。 

 さらに左右背後足下からすらも。

 凛々しい少女の声色が、 まるで実体を持った木霊(エコー)のように

森厳な響きを以て到来した。

 静かに。

 ただ、 静かに――。

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

(しん)灼眼(しゃくがん)

能力-遣い手であるシャナ自身が()()()()()()

   行使している能力なのでその全容は不明だが、

   どうやら神経の “情報伝達速度” が異常に 『加速』 される能力のようである。

   そのコトにより身体の 「精密動作性」 が極限まで向上し

   剣技の威力、 精度共に数段上昇、

   更に通常では成し得ない 『超絶技』 なども使用可能となる。 

  「弱点」 は体力の消耗が激しい為 「持続力」 が短い事だが、

   ソレらは全て()()()()()話である――。

 

 

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