STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『戦慄の暗殺者FINAL ~LAST IMPRESSION~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 

    ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

   ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!

 

 

 

 灼熱の、 エピローグ。

 神々さえも息を呑む、 死闘の終焉。

 目が眩む程の存在の光が、 二つの存在から立ち昇っていた。

 決意、 憎悪、 友愛、 正義、 邪悪、 信頼、 純潔、 信念、 覚悟。

 ありとあらゆる、 巨大な情念の渦。

 生命(いのち)

 その全てが刹那(いま)、この一極に。

『運命』 に――。

 

「もう……いい……」

 

 眉間に銃口を突き付けられながらも

恐怖も絶望もその表情に現さないフレイムヘイズの少女に、

紅世の王 “狩人” フリアグネは冷酷に吐き捨てる。

 少女の真紅の双眸は得体のしれない輝きで充々ていた。 

 ソレが、 余計にフリアグネの裡で逆巻くドス黒い憎悪の炎を煽る。

 

「永劫の……闇に堕ちろ……ッ!

フレイム……ヘイズ……!!」

 

 そう言って手にした殲滅の魔銃、

『トリガーハッピー』 の銃爪(トリガー)を引き絞る。

 

永遠(とわ)に続く地獄の苦悶の中ッッ!!

せめて私のマリアンヌに詫び続けろォォォォォォォォォ―――――――――!!!!」

 

 その、 時。

 突如、 フリアグネの背後、 階下から粒子線状に迸る

エメラルドの閃光。

 継いで、 大爆裂音。

 

「!!」

 

「!?」

 

 シャナとフリアグネ。

 両者を照らす幽波紋(スタンド)の光。

 その 「正体」 が、 「法皇」 を司る 『スタンド使い』

花京院 典明の最大最強流法(モード)

『エメラルド・エクスプロージョン』 であるコトを

()()()()知らない。

 

「……あ……の……「光」……は……?」

 

 フリアグネの視線は、 迸るエメラルド光へ吸い寄せられるように釘付けとなっていた。

 周囲全域を照らす眩いエメラルドのハレーションにより、 その髪も瞳も碧一色に染まる。

 そして、 震える口唇から、 零れるか細い呟き。

 最早、 依るべき藁すらを掴む力を失った、 儚き声。

 

「……」

 

 再び視た視線の先。

 光の大放流と共に原型を無くしていく体育館の、

バックリ抉れた巨大な着弾孔から鉄の瓦礫と共に飛び出してくる燐子達の残骸。

 ソレらが、 意味するモノ。

 無言の、 別れ。

 最後の、 流法。

 決別の、 餞。

 

「……」

 

 脳裡に浮かぶ、 その者の姿。

 時折浮かべた、 穏やかな微笑。

 その面影が、 ゆっくりとフェードアウトするように、 消えていく。

 消えて、 いく……

 ソレと同時に、 己も予想だにし得ない程の

途轍もない喪失感が総身を覆い尽くした。

 もうコレ以上ないという位の深い哀しみで充たされていたフリアグネの心は、

さらに、 無限の精神の 「暗黒」 へと堕ちていった。

 最早彼には、 生きる理由や希望と呼べるモノは、

これで何も無くなってしまった。

 己が身を引き裂き、 心凍てつく程の、 深い 【絶望】 によって。

 

「……」

 

 そのフリアグネの白い頬を伝う、

何よりも冷たい、 ひとすじの雫。

 彼の心にまだ微か遺っていた、 最後の涙の単結晶。

 ソレが静かに、 瓦礫の水面へと落ちた。

 

 

 

 

 みんな……

 みんな、 離れていく。

 大切な者は。

 本当に護りたい存在は。

 みんなみんな。

 遠くへ行ってしまう。

 自分を、 置いて。

 

 

 

 

 

 無情なる因果の交叉路の直中で、

フリアグネはただ哀しかった。

 ただただ、 哀しかった。

 

「…………ッッ!!」

 

 流法の放つエメラルドの光に照らされながらその場に立ちつくすフリアグネに向かい、

シャナは足元の大刀を手にして斬りかかっていた。

 

「……」

 

 しかし、 フリアグネは()()()()()()向き直って手にした銃の、

死の銃爪(トリガー)を引き絞る。

 

「!!」

 

 無限の精神の暗黒で充たされた、 虚無の瞳で。

 皮肉な事だが、 ()()()()()()()()()()()()

“狩人” フリアグネの精神は、

完全に 「昔」 の状態へと戻っていた。

 虚ろな心のまま、 ただただ 「宝具」 を簒奪する事のみに明け暮れていた、

しかしその戦闘能力だけは 『絶頂』 で在ったアノ頃に。

 その 「純粋」 な彼に、 至近距離での抜き撃ち合いに勝てる者など誰もいない。

 どんな紅世の王でも、 フレイムヘイズでも、 絶対に。

 ソレが銃と剣での勝負なら尚更のコトだった。

 銃口から迸る、 死の閃光。

 白い、 マズルフラッシュ。

 渇いた、 射出音。

 そして。

 そし、 て!

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!

 

 

 

 

“三つ目の” 存在がシャナの背後から、

けたたましい破壊音と共に鉄製の扉へ掛けられた南京錠を鎖ごとブチ破り

極限の速度でプラチナの弾丸のように空間に飛び出してきていた。

 眼下のエメラルドの光と同じ、

否、 ソレ以上のスタンドパワーの輝きを携えた

『白金の旋風(かぜ)

 ソレが、 一瞬でシャナの脇を通り過ぎ限界を超えたスピードで、

全身からスタンドパワーを迸らせながら眼前のフリアグネに向かって

一迅の流星のように翔け抜けた。

 

「!!!!」

 

 その顔に、 もうこれ以上ないというくらいの喜びを浮かべようとするシャナの

深紅の髪が捲き起こった烈風により一刹那遅れて空間に舞い挙がる。

 甘い麝香の残り香を感じると共に灼熱の歓喜が

凄まじいまでの勢いで少女の全身を駆け巡り

精神の裡を狂おしい程に灼き焦がす。

 炎髪の撒く深紅の火の粉と灼眼の放つ真紅の煌めきと共に。

 

 

 

 

 

 

 そう。

「約束」 したから。

 来てくれると、 想ったから。

 貴方の足音が。

幽波紋(スタンド)』 の呼動(こどう)が、

ずっとずっと、 私には聴こえていたから。

 だから私の、 今のこの想いを、 こう呼ばせて欲しい。

 そうすれば、 フレイムヘイズで在った今までの自分を、

(まっと) うできると想うから。

 今のこの想いを。

『希望』 と――。

 

 

 

 

 

 

 シャナの真紅の双眸に、 一迅の閃光が映る。

 まるで空間までも斬り裂くかのような、

微塵の乱れもない尖鋭なる直線。

 ソレが、 既に全速力(フルスピード)で振り抜かれたスタンド、

スタープラチナの二本貫き手に構えられた指先に集束する

幽波紋光(スタンド・パワー)』 の 「軌跡」 を示している。

 疾風烈迅(しっぷうれつじん)斬空(ざんくう)洸牙(こうが)

 流星の流法(モード)

流 星 指 刺(スター・フィンガー)

流法者名-空条 承太郎

破壊力-A(贄殿遮那並) スピード-A 射程距離-C(最大7メートル)

持続力-D 精密動作性-B 成長性-A

 

 

 

 

 そのスタンドの放った超高速流法(モード)が、

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

既にフリアグネの右腕を切断していた。

 宙に舞ったフリアグネの右手に握られた銃口から、

「標的」 からはまるで見当違いの方向に

フレイムヘイズ殲滅の弾丸が渇いた音と共に発射される。

 そして、 舞い散る白い火花と共に瓦礫の海へと落ちるフリアグネの右腕。

 ソレは、 大量の火の粉を放って音もなく空間へと消える。

 全ては、 刹那の瞬間(とき)

 神々すらも見落とす、 時の狭間(はざま)

 意識の限界すらをも超えた 「世界」 の中でのコトだった。

 

「……」

 

 フリアグネは、 その、 いつの間にか目の前にいた、

時間を消し飛ばして突如瞬現したかのような

長身の男を、 虚ろな瞳で見つめていた。

 先刻までそこに誰もいなかったとは、

信じられない位の強烈で圧倒的な存在感。

 強靱な意志と覚悟が秘められたライトグリーンの瞳。

 極限まで鍛え抜かれ磨き抜かれた、 芸術的なフォルムの体躯。

 血と炎の匂いが混ざり合った、 蠱惑的な麝香の芳香(かおり)

 その姿にフリアグネは、 己が絶対の忠誠を誓う君主の姿を重ね合わせた。

 

「……貴様……が……星の……白……金……?」

 

 虚ろな瞳と表情でそう問いかけるフリアグネに、

 

「よぉ……逢いたかったぜ……『ご主人様』……」

 

目の前の男、 空条 承太郎は静かにそれだけ言った。

 しかし、 その神麗なる風貌とは裏腹に、 その男の全身はズタボロだった。

 身に纏った、 マキシコートのような学生服の至る箇所に

使役する燐子達が手にしていた武器の創傷痕や尖突痕が存在し

ソコから血が滴っている。

 自分の燐子達を殲滅する際についた傷なのか?

 しかし、 学園内ほぼ全域に放ってきた総数延べ500体を超える武装燐子の

大軍を相手にしながら、 人の身にも関わらず五体満足だという事態が

信じられない話だった。

 

「ツレが、 随分世話ンなったみてぇだな……」

 

 承太郎はそこで初めて、 今の自分以上にズタボロな姿のシャナを、

今やその喜びの表情を隠そうともしない少女を鋭い視線で見つめた。

 

「……」

 

 その姿。

 白い封絶の放つ月光に酷似した煌めきに照らされた、 幻想的なる風貌。

 虚無で充たされた自分の心にも、 まるで闇夜の太陽の如く鮮烈に映る。

 全身傷だらけで血に塗れていても。

 否、 ()()()()()何よりも気高く誇り高く映る。

 その男の姿、 『星の白金』 の 「真名」 に微塵も(もと)る事はないその存在に、

フリアグネは戦闘継続中という事も忘れて魅入った。

 まるで、 初めてアノ方に邂逅した時、 そのままに。

 

(……美)

 

 想わず、 心の中でそう呟きかけたフリアグネに向けて、

 

 

 

『オッッッッッラァァァァァァァァァァァ―――――――――――ッッッッ!!!!』

 

 

 

 突如、 その男の背後で上がった咆吼。

 ソレと同時に、 自分の脇腹にその男の腕から延びた

“もうひとつの腕” が、 極限まで鍛え絞られた剛腕の鉄拳が

微塵の容赦もなく叩き込まれていた。

 

「がはぁぁぁッッッ!!!」

 

 腹の底から、 臓腑の奥の方から、 多量の呼気が一気に吐き出され

そして何かが軋んで圧し折れる音が耳元に届く。

 

「今のは……テメーがその身勝手な 『目的』 の為に生命(いのち)を奪った、

数多くの 「人間」 達の分だ。

今のは、()()()()()テメーのアバラをブチ砕いたと想え……」

 

「!!」

 

 そう言ったその男の、 『星の白金』 の内部から、

同等かソレ以上の存在感と威圧感を併せ持った巨大な人型のナニカが

空間を歪曲するかのような異質な音と共にズルリと抜け出す。

 ソレは、 その全身に神聖な白金の燐光を纏い

自らの創り出した封絶よりも強くフリアグネを照らしていた。

 

「そして!! コレも!! ソイツらの分だッッ!!」

 

 

 

 

 ドッッッッッグォォォォォ――――――――――ッッッッ!!!!

 

 

 

 

「がぁぐぅッッ!!」

 

 今度はフリアグネの顔面左頬に、

スタープラチナの鉄鋲が穿たれたブラスナックルの拳が捻り込まれた。

 歪む美貌と滲む視界。

 継いで牽き搾るような強い衝撃で背後に弾き飛ばされたフリアグネは、

突風に飛ばされた紙屑のように瓦礫の上を無造作に転がる。

 そして、 そのフリアグネの頭上から到来する、 余りにも巨大で強烈な存在の声。

 まるで、 一人の強大な紅世の “王” が、

特殊な 『能力』 でこの世に 【顕現(けんげん)】 でもしたかのように。

 

「いいか……? 覚えておけ……その 「次」 もソイツらの分だ……

その次も……その次の次も……その次の次の次……も……」

 

「!!」

 

 スタンドと共にゆっくりと歩み寄りながら言葉を紡ぎ続ける承太郎の、

その言葉の 「意味」 をフリアグネが認識する間もなく

その全身から白金の燐光を稲妻のように迸らせるスタンド、

スタープラチナの戦慄の轟拳の狂嵐が

フリアグネの全身に向けて爆裂一斉総射された。

 

「ソイツらの 「分」 だァァァァァァァァァァ―――――――――ッッッッ!!!!

コレもコレもコレもコレもコレもコレもコレもコレもコレもコレもコレも!!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァ―――――!!!!」

 

 

 

 

 グァッッッッッッギャアアアアアアアアアアアアア

アアァァァァァァ――――――――!!!!!!!!!

 

 

 

 

「――――――――――――――――ッッッッッッッッ!!!!????」

 

 己の躰の至る処から発せられる、

存在そのものを圧削して撃砕するかのような壊滅音。

 その腕は、 たったの二つの筈なのに。

 その拳は、 たったの二つの筈なのに。

 己の視界全域に夥しい拳の弾幕が遍く流星群の如く次々と瞬現し、

一斉に自分の存在目掛けて襲いかかってくる。

 そしてその輝く流星の群が、 躰の至る処に次々と着弾し、

拳型の刻印を全身に穿つ。

 

「―――――――――――――――――――――――――ッッッッッ!!!!!」

 

 その余りに凄まじい弾幕の破壊力とスピードの為に、

倒れる事は疎か声すらあげるコトも出来ない。

 躰は宙を浮き、 落下重力によって地に伏する事も赦されない。

 微塵の容赦も躊躇もない、 正義の鉄槌。

 星の白金、 空条 承太郎の断罪殲滅撃。

 

(――――ッッ!!)

 

 その苛烈なる大破壊劇を、 少女は、 シャナは、

笑みを浮かべたままの表情で、 輝く真紅の瞳で見つめていた。

 湧きあがる無数の感情を、 微塵も抑えるコトもなく。

 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、

学生服の裾を翻して 『幽波紋(スタンド)』 を繰り出し続ける

青年の凄烈なる姿を。

 

「……」

 

 

 

 傍に、 立つ者。

 そして、 苦難に、 立ち向かう者。

 私にとっての 『守護者(スタンド)』 は、

きっとこの人。

 

 

 

 

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラアアアアアアアア

ァァァァァァ――――――――――――――!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 空間に響き続ける、 スタンドの咆吼。

 肉の(ひし)ぐ音。

 骨の軋む音。

 そして、 血の代わりに空間へ捲き散る、 白い炎。

 瓦礫の上にしゃがみ込んだままでその光景をみつめながら、

少女は、 心の底から嬉しかった。

 だがしかし、 それでも、 心の中に湧いた一抹の不平を漏らす。

 

(…………なによ……他の人間(ひと)の……コト……ばっかり……

“私の為には”……怒ってくれないの……?

おまえの中の……私の 「分」 は……まだな、 わけ……?)

 

 そう心の裡で呟いたシャナに、

スタンドに攻撃態勢を執らせたままの承太郎がこちらへと振り返る。

 

「……」

 

 そして、 一度だけ自分を見て、 小さく頷く。

 その、 ライトグリーンの瞳に映ったモノ。

 

(!!)

 

 ソレを一瞥しただけで、シャナはその 「意図」 を感じ取った。

 そして、微笑を浮かべて傷ついた躰を、

大刀の柄を支えにしながら引き起こす。

 

「フッ……やれやれ……だわ……

()()()()()()()()()()()、 ってワケ……?

心に……()()()()()()()()……()()()()……?

ったく……怪我人相手に……無茶なコト……言って……くれちゃってぇ……!」

 

 口元に微笑みを浮かべてそう愚痴りながらも

傷ついた躰で立ち上がったシャナは、

大太刀 “贄殿遮那” を瓦礫の上に突き立てたまま

躰の裡に残された存在の力を指先へと集め

火の粉舞い散るソレを丁寧に編み始める。

 

「はああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!!!」

 

 再び湧き上がる、 灼熱の喊声。

 結果は、 どうでも良い。

 ただ、 己が最大焔儀を、 全力で()り出す為に。

 アイツの気持ちに、 全霊で応える為に。

 己が存在の、 スベテを懸ける。

 やがて八字立ちで、 腰の位置で開いた少女の両掌に、

それぞれ属性の違う炎が宿る。

 そこで足を組み換え、 ソレら二つを重ね合わせる為に両腕を素早く交差させる。

 何度も。 何度も。

 迸る電撃のような着撃音と共に、 空間に舞い散る静と動の火花。

 最大焔儀発動の、 初期挙動。

 

「まだまだぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――ッッッッ!!!!」

 

 スタンドの放つ遍く夥しい殲滅の弾幕で、

引き裂かれたスーツの胸元を掴まれてがくりと俯くフリアグネを

片手で軽々と掲げたスタープラチナは、 その細身の躰を無造作に頭上へと放り投げる。

 そし、 て。

 落下してくる紅世の王に向け高々と宣告される、

流星 『幽波紋流法(スタンド・モード)』 の流法名。

 

「スタァァァァァァブレェェェカァァァァァァ――――――――――ッッッッ!!!!」

 

「――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!」

 

流星爆裂弾(りゅうせいばくれつだん)

 右拳に白金色のスタンドパワーを強力に集束させた白熱の爆裂撃。

 ソレが 「全力」 でフリアグネの左胸に荒れ狂う龍の如く撃ち込まれ、

そして煌めきながらも爆散し同時に生まれた驀進力でフリアグネの躰は

直線の軌道で地面とは平行に吹き飛んでいく。

 その、 先。

 少女の、 シャナの眼前至近距離で。

 逆十字状に交差された両腕の先端、複雑な印の形に結ばれた指の先で。

 宙に浮いて蠢く、砕けた白刃のように凶暴な火走りを放つ紅蓮の火球。

 

「アーク……クリムゾン……ブレイズ……ッ!」

 

紅 蓮 珀 式 封 滅 焔 儀(ぐれんひゃくしきふうめつえんぎ)

 少女を司る、 究極焔術大系の一局を担う御名(みな)

 その領域が焔絶儀の一つ。

 渦巻く業炎と揺らめく浄炎、

異なる二つの属性の炎を己が編み込んだ自在式によって融合させ

相乗効果によって増大した存在力を高架型に変容させて対象に撃ち込む

炎の強化型戦闘自在法。

 その流式の深名(みな)が、 今再び、 高々と少女の口唇から宣告される。

 

「レイジング……! クロス……ッッ!!」

 

 流式発動の動作とほぼ同時に、

シャナは既に指先に編み込んで集束させておいた操作系の自在式を

その両掌を重ねて腰撓めの位置に構え、残された時間の中

可能な限り式を修練させてその威力を高める。

 そし、 て。

 シャナの腰の位置で合わせられた両掌が、

前面で迸る紅蓮の大火球に向けて。

 その延長線上からこちらに吹き飛んでくるフリアグネに向けて。

 極熱の咆吼と共に渾心の力で以て刳り出される。

 

「ヴォォォテェェェェェッッックスゥゥゥゥゥゥゥゥ―――――――ッッッッ!!!!」

 

 魔葬焼刹(まそうしょうさつ)灼煉(しゃくれん)劫架(ごうか)

炎 劾 華 葬 楓 絶 架(えんがいかそうふうぜっか)

 術式発動の自在式と共に突貫型操作系自在式も同時に、

双掌撃を経由してその内部に叩き込まれた火球が突如

北 欧 高 十 字 架(ケルティック・ハイクロス)』 のカタチに変容し、

高架の紅い残像を描きながら 『流 星 爆 裂 弾(スター・ブレイカー)

に吹き飛ばされてきたフリアグネの躰を、

微塵の容赦もなく己の遙か頭上、天空へと轢き飛ばす。

 

「―――――――――――――――――――――ッッッッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 交叉法(カウンター)効果によってその威力を更に加速させて。

 燃え盛る 『灼 熱 の 高 十 字 架(フレイミング・ハイクロス)』の直撃を受けた

フリアグネの躰は瞬時に紅蓮の炎で全身を覆われ、

その炎はフリアグネの躰に集束していた

白金の 『幽波紋光(スタンドパワー)』 と融合して激しくスパーク、 爆裂し、

頭上に真円の軌道を描いて撥ね上げられた全身を

白金と紅蓮の混ざった閃熱で灼き焦がしながら一度強烈に光を放つと、

そのまま直下の瓦礫の海を撃ち砕いてまるで暴龍の如く苛烈なる勢いで

凄まじい衝撃と共に着弾する。

 空間に捲き上がる、 莫大な瓦礫の飛沫と夥しい量の粉塵。

 

「……………………」

 

 その中心内部で、今や完全に意識を断絶され白一色の双眸のまま

大地に(はりつけ) られた背教徒のように、

陥没した瓦礫の上で仰向けに這い(つくば) る紅世の王。

 そのフリアグネの全身から焼煙と共に、

無数の白金の燐光と紅蓮の火の粉が混ざり合って寄り添うように

立ち昇っていた。

 (さなが) ら、 断罪者の御霊を弔う葬送曲でも在るかのように。

 その立ち昇る燐光と火の粉に向けシャナの視線の先、

空条 承太郎は。

 その指先を逆水平に構え、 瓦礫の水面で斃れているフリアグネを差す。

 連られるわけではなく、 ソレがまるで当たり前の事のように、

シャナも同じように指先を逆水平に構え同じようにソコを差す。

 その両者の指先の先端が、空間延長線で重なる。

 そしてほぼ同時に、 二人の口を付いて出る言葉。

 

「裁くのは……」

 

「裁くのはッ!」

 

 折り重なって響き渡る、 壮烈なる二つの声。

 

「オレのスタンドだ……ッ!」

 

「私の能 力(スタンド)よ!」

 

 破壊の乱風と封絶の放つ気流に揺れる、

承太郎の学生服とシャナのセーラー服。

 

「…………」

 

 直接触れあったわけでもないのに、

以前、 手を合わせた時等較べモノにもならない程の高揚感が

シャナの全身を貫いて甘い痺れが神経へ直に接触しているかのような、

強烈な体感を(もたら) す。

 否。

 確かに、 触れた、 繋がった。

 手と手が、 ではなく、 (からだ)(からだ) が、 ではなく、 『精神』 が。

 或いは 『魂』 が。

 互いがたった今全力で以て撃ち放った

『流法』 と “流式” を楔として、 時間も空間も超えて、

二人の存在が確かに繋がったのだ。

 

「……」

 

「……」

 

 そのまま、 互いに、 無言で押し黙る二人。

 様々な感情が波濤のように()し寄せ、 時は、 止まる。

 その両者が、 たった今創り出した、

殲滅討滅双方の原動力と成った究極の能力。

 互いの最大の流法と流式とを、 正反対の方向から激突させて

凄まじいまでの累乗波及効果を引き熾こし爆 裂(ヴァースト)

その二つの存在の狭間に途轍もない超絶的破壊空間を生じさせる極絶技。

『スタンド使い』 と “フレイムヘイズ”

 両存在の完全融合(ワザ)

流法式祁(フォース)

 星炎招来(せいえんしょうらい)星天真紅(せいてんしんく)神撃(しんげき)

 流星灼眼の流法式祁(フォース)

スターダスト()タンデム()ブレイズ()

流法及び流式者名-空条 承太郎&空条 シャナ

破壊力-AAA スピード-AAA 射程距離-AAA

持続力-AAA 精密動作性-AAA 成長性-AAA

 

 

 

 

 尚、この 『究 極 の 流 法(アルティミット・モード)』 は、

司令塔である空条 承太郎の神懸かり的な状況分析能力、

空間把握能力が絶対条件であり、 ゼロコンマ1秒タイミングがズレただけでも、

ただの 「連撃技」 に堕する事を此処に銘記しておく――。

 

「……………ッッ!!」

 

 墜落の衝撃によって大きな放射状の亀裂が走った瓦礫の海原にて、

引き()るように細身の躰を震わせる紅世の王。

 最早彼に、 戦う力は微塵も残されてはいない。

 宝具を操る力も、 自在法を編み込む力も全て

一片も残さず空条 承太郎によって放たれた

流法式祁(フォース)』 によって跡形もなく殲滅され、

今やただそこで生きているだけ、 ただ呼吸をしているだけの存在と成り果てた。

 

「……」

 

 しかし、 何もかも、 大切な者も立ち上がる力すらも失ってしまった彼だったが

奇妙な事に、 その心の裡は波打ち際の夕凪のように澄み渡りつつ在った。

 静かに、 そして穏やかに。

 そう、 何かが、 フッ切れたように。

 深い哀しみの憎悪と絶望で充たされいたパールグレーの双眸は、

今再び元の宝石のような光を取り戻しつつ在った。

 そのフリアグネの耳元に届く、 衣擦れの音。

 

「……」

 

 傍に、 立つ者。

 燃え盛る灼熱の双眸と火の粉舞い散る紅蓮の髪を

破滅の戦風に靡かせる、 凄絶なる一人の少女。

 その少女の右手に握られる 『討滅』 の刃は、

刀身に炎を円還状に集束させ加粒子に近い状態で刃に宿す

強靱無比なる閃熱の劫刃。

『贄殿遮那・煉獄(れんごく)ノ太刀』

遣い手-空条 シャナ

破壊力-A++ スピード-シャナ次第 射程距離-C

持続力-D 精密動作性-シャナ次第 成長性-B

 

【挿絵表示】

 

 

 

 フリアグネの()には、 目の前に佇むその少女の姿が

まるで、 『天使』 のように視えた。

 最愛の彼女の(ところ) へ、 “マリアンヌ” の(もと)へ、

自分を送ってくれる“御遣い” のように。

 

「……フッ」

 

 それならば、 と力無く微笑ったフリアグネは灼けつく躰を引き起こし、

座り込んだままの姿勢で幼子がやるように左手をゆっくりと拳銃の形に模すと、

再びゆっくりとその銃口の先端をシャナの方へと向ける。

 

「!?」

 

 最早万策尽きた己の奇妙な行動に、

疑念の表情を浮かべる炎髪の少女に向けて。

 全霊を尽くしてブツかり合った存在に向けて。 

 

「……フレイム……ヘイズ……」

 

 フリアグネは(かげ)りのない微笑を浮かべたままそう呟き。

 

「この……討滅の……道具め……」

 

 そう片目を閉じてからかうように小さく、

「BANG」 と指先を弾いてみせた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 ズァッッッグゥゥゥゥゥゥゥ――――――――ッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

「うる……さい……」

 

 少女の呟きと共に、 強い踏み込みで全身の力一点に連動させて放たれた

渾身の袈裟掛けにて、 融解した鋼の如き灼紅の劫刃が

フリアグネの左肩口を透して躰の中心部に叩き込まれる。

 

「……ッッ!!」

 

 最早、 声というモノは、 なかった。

 存在そのものを灼き斬られるような激しい 「痛み」 と共に、

途轍もない 「歓喜」 が湧き上がってきた。

 最愛の 「彼女」 と、 もう一度 「再会」 出来るという歓びが、

躰を蝕む苦痛すら上回った。

 そし、 て。

 眼前で捲き起こる、 灼熱の咆吼と刳り出される劫刃の乱舞。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい

 うるさいうるさいうるさいうるさァァァァァ―――――――――いッッッッ!!!!」

 

 次々と湧き上がる激しい喚声と共に己が全身を、 その存在を、

数多の斬撃技で以て刳り出される灼紅の劫刃で刻まれながら、

フリアグネは憂いに充ちた表情のまま、 呆然と己の想いを反芻していた。

 逃れられない絶対の 「死」 を目の前にするコトによって初めて生まれ出ずる、

極度に引き延ばされ、 静止した 「世界」 の中で。

 

(本当は……本当……は……もう……とっくに……解っていた……

()()()()()……君の処へ……旅立たねば……もう……君とは……

決して…… 「再会」 ……出来ないと……いう……事は……)

 

 無数の朱い斬閃と、 次々に舞い散る白い、存在の火飛沫(ひしぶき)

 その色彩、 哀しいほどに鮮やかな、 花片(はなびら)の如く。

 ソレと一緒に散華する、 フリアグネの想い。

 何の偽りようもない、 真実の想い。

 

(でも……認めたく……なかった……頭で……解って……いても……

まだ……この世界の……どこかに……君が……いるような……気がしたから……

この……一秒後にでも……私の前に……ひょっこり……君が……現れて……

いつもの……ように……微笑みかけて……くれるような……

そんな……気が……したから……)

 

「―――――――――――――――ッッッッ!!!!」

 

 叫びと共に数多の劫刃を繰り出し続けるシャナの躰にも、

フリアグネの全身から迸る純白の炎が、生命の飛沫(しぶき)が、

返り血のようにかかる。

 

(燐子……だったから……私が……自分で……生み出したから……

愛した……わけじゃない……

「君」 が……()()()()()()……

この世界で……たった一つの……かけがえのない……存在……

“マリアンヌ” ……だったから……

だから……君の為になら……何でも……して……あげたかった……

ソレが……例え……どんなに……罪深い……事で……あろう……とも……)

 

 脳裡に甦る、 最愛の彼女。

 緩やかな陽光を背景に映る、

その、 (くるお)しい程に愛しき姿。

 

(……後悔は……ない……()()()()……()()()()……

アノ方に……忠誠を……誓った事……

炎の灰燼……一枚(ひとひら)すらの……後悔も……私には……ない……

君と共に……生きられて……そして……アノ方に……出逢えて……

私は……私は……本当に……幸せ……だった……本当に……

本当……に……)

 

 やがて、 空間に散華する白い飛沫と共に、

フリアグネの躰は、 ゆっくりと地球の 「引力」 に(いざな) われ

背後へと、 堕ちていく。

 そのパールグレーの双眸も、 静かに、 閉じられていく。

 まるで、 彼の生命の、 その存在の終幕を、 そっと降ろすかのように。

 

(……今……傍に……いくよ……

今度は……もう……離さない……

ずっと……一緒だよ……

永遠に……永……遠……に……

私の……私……の………………)

 

 

 

 

 

 

 

“マリ……アンヌ……”

 

 

 

 

 

 

 

「オッッッッッラァァァァァァァァァ――――――――――――――ッッッッ!!!!」

 

 勇烈な駆け声と共に 『火車ノ太刀』 の構えで。

大刀を振り抜いた体勢のまま一気に駆け抜けるシャナ。

 

「……」

 

 一際鋭く、 飛び散る純白の炎。

 その瞬間、 フリアグネは糸の切れたマリオネットのように、

力無く地に伏した。

 天を仰ぐその躰を、 舞い落ちる純白の長衣にそっと包まれて。

 そして、 その白炎を司る壮麗なる紅世の王は、

もう二度と、 立ち上がる事は無かった。

 その理由も必要も、 最早存在しなかった。

 

←To Be Continued……

 

 

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