STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『眠れる嬰児 ~Star Platinum/Magician's Red~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 

 静かに立ち上る、 存在の燐火。

 瞳を閉じたまま瓦礫の上に伏する紅世の王。

 その、 白い生命の残光。

 承太郎とシャナは、 黙ってその存在の終焉を見届けていた。

 善悪(カタチ)はどうあれ己が死力を尽くして戦った相手に対する、

コレが彼らなりの 「敬意」 だった。

 その沈黙を突如打ち破る、一つの、声。

 

「フリアグネッッ!?」

 

 二人の間に来訪した、 第三者の声。

 

「!!」

 

「!?」

 

 先刻、 本体とスタンドの蹴りでブチ破られた鉄製のドアから

上がった声の主を認識する間もなく、 花京院 典明は駆け出していた。

 瓦礫の海の上でたった一人、 いま正に死の淵に瀕している彼の元へ。

 フリアグネの元へ。

 その空間を駆ける美男子の心中で湧き上がる、 一つの声。

 もう一人の、 自分の声。

 

 

 

“彼は 「悪」 だ!”

 

 

 

 そんな事は解っている!

 

 

 

 

 

 

“数多くの人間を! 己が 『目的』 の為に犠牲にした!”

 

 

 

 

 

 そんな事は解っている!

 なら、 何故?

 今、 駆け出すのか?

 それは。

 それ、は。

 

 

 

 

 

“こんなヤツでも 『友達』 だからッッ!!”

 

 

 

 

 

 誰よりも何よりも自分の存在を必要としてくれたから。

 ソレ以外の理由なんて何もいらない。

 

「フリアグネッッ!!」

 

 花京院は、 仰向けの体勢で地に伏していたフリアグネの肩を掴んで

優しくそっと抱き起こした。

 

「……」

 

 もう、 死に逝く運命(さだめ)は変えられない。

 それだけの 「罪」 を、 彼は既に犯してしまっていたから。

 でも、 それでも。

 せめて、 せめて最後の最後の(とき)くらいは、

安らかな気持ちを与えてやりたかった。

 誰にも気にされず、 一人淋しく散って逝く位なら。

 例えどんな罪人でも、 死の尊厳を与え、

静かにその生命の終焉を看取ってあげたかった。

 それだけは、 偽りのない 『本心』 だった。

 

(……)

 

 甘い、 ライムオイルの匂い。

 遠い追憶、 嘗て一度だけ、 その香気に包まれたコトが在るような。

 そしてその香気にと共に聴こえてくる、 (こだま) のような声。

 誰かの、 呼ぶ声。

 誰か、 が。

 その声に誘われるように、 フリアグネは、

もう二度と開かないと想われた双眸を、 微かに開いた。

 ぼやける、 微睡みようなその視界に、 映る姿。

 ソレは次第に線を結び、 像を成す。

 

(……)

 

 その視界の殆どが闇に閉ざされつつある瞳に、 映った姿。

 たった一人の、 人間。

 震えるフリアグネの口唇から漏れる、

気流に掻き消える程か細い、 儚き声。

 花京院にしか聞こえない、 一つだけの声。

 か細く震えるフリアグネの手が、 そっと左胸の部分に触れる。

 花京院は、 寄せられたそのフリアグネの手を強く握り返す。

 

「……」

 

 震えるその手で、フリアグネは花京院の頬をそっと撫でる。

 その存在を、 確かめるように。

 微かに開かれたフリアグネの双眸に向け、

花京院は優しい微笑を浮かべ、 穏やかな口調で語りかける。

 

「大丈夫。 何も、 心配しなくて良い。

ボクは、 此処にいる。 どこにも、 行かないよ。

だから、 今はただ、 安らかに」

 

「……」

 

 もうこれ以上何も感じる事は無いと想っていた

自分の凍てついた心に、 温かなナニカが甦ってきた。

 これが、 人間の温かさ?

 これが、 人間の温もり?

 解らない。

「人間」 ではない “紅世の徒” で在る自分には。

 何も。

 でも、 それでも、 構わない。

 抱かれたその肩に、 繋がれたその手に、 花京院の温もりを感じながら、

フリアグネは最後に、 本当に安らかに微笑(わら)った。

 

「フリアグネ……」

 

 花京院は、 (うれ)うように左手を強く握り返した、

温もり、 消えて、 しまわぬように。

 やがて、虚ろに現世の境界を揺蕩(たゆた)っていたフリアグネの躰の線が、

その輪郭を消失()くしていく。

 ソレが人の形を失って大量の純白の炎となり、

一つの 『鳥』 の形と成って天空へと翔け昇り、 一斉に爆ぜた。

 元なる場所へ。

 全てが、 そう在るべきだった処へ。

 (かえ)っていった――。

 

「……ッッ!!」

 

 その、 音もなく舞い堕ちる白い欠片(カケラ)を手に掬いながら、

花京院は震える背を向けたまま言った。

 

「……彼……は……フリアグネ……は……決して……「幸福」 には……

なれない運命(さだめ)の……男だった……

もう既に……ソレだけの事を……

行って……しまっていたから……」 

 

 もう少し早く、「別の形」 で出逢えていたならば。

 馬鹿げた考え、 でも、 そう想わずにいられない。

 

「でも……自分以外の……「誰か」 に対する気持ちは……それだけは……

「純粋」 な……ものだったと想う……少なくとも……このボクは……」

 

「……」

 

 空条 承太郎は、 黙って花京院の言葉を聞いていた。

 否定も肯定もしなかった。

 例え敵であろうと、 数多くの人間を殺してきた咎人(とがびと)であろうとも、

花京院とフリアグネ、 その両者の関係は、その中で生まれた互いの想いは、

この世界で二人だけのものだから。

 

「……」

 

 花京院は、 手の平に遺ったフリアグネの残霞(ざんか)

自分の左胸に捺し当てた。

 その存在を、 己に刻むかのように。

 これから、 フリアグネは、 自分の裡で生きる、

自分の存在、 『幽波紋(スタンド)』 『法 皇 の 緑(ハイエロファント・グリーン)』 と共に。

 

「これで……ずっと……忘れない……」

 

 左胸に手を捺し当てたまま花京院は(おもむろ) に立ち上がり。

 

「おやすみ……」

 

 両目を閉じ、 もう誰もいない瓦礫の墓標に向けて、 静かに哀悼を捧げた。

 

【挿絵表示】

 

 

「……」

 

 両手をポケットに突っ込んだまま、 押し黙る承太郎の視界の端、

空間を舞い散る白い飛沫が完全に消え去ったその瞬間、

力無く瓦礫の上に崩れ落ちる少女の姿が在った。

 

「ッッ!!」

 

 咄嗟に出現させたスタンドで足下の瓦礫を踏み割り、

超高速で少女の元へと移動し承太郎はその躰が瓦礫へと伏する前に抱き留める。

 

「……」

 

 腕の中の少女の躰は、 信じられないほどに小さく、 そして頼りなく、

そしてその存在が身の丈以上の大刀を振り翳して戦っている事など

想像もつかない程の軽さだった。

 その少女は、 もう荒くすらもない本当にか弱い息遣いで

静かにその閉じられた双眸を開く。

 儚く己を映す、 真紅の双眸。

 しかし最早その(うち)に、

初めて視た時のような鮮烈さや凛々しさはもう見る影もなく、

ただただ戦いに傷ついた少女の瞳が其処に在るだけだった。

 

「ッッ!!」

 

 そして、 そのスタンドに抱き留められた少女の方も、

眼前の事実に双眸を見開いて驚愕する。

 今、 自分を。

 他の人間には視えない 「もう一つの腕」 で支えてくれている

青年のその躯には、 夥しい数の傷痕が刻まれそこから流れ出る鮮血が

全身を染め上げていた。

 躯の至る所についた、 鋭利な武器による創傷や擦過傷、

引き裂かれた極薄のアンダーシャツから覗く、

亀裂骨折の影響で赤黒く腫れあがった生身の素肌。

 本来の戦闘能力を鑑みれば、

自分と同等以上の力を携える彼ならば、

幾ら大軍とはいえ “燐子” 程度の相手に

ここまでの重傷を負うとは考えられない。

 でもソレは、 ()()()()()()()()()()()()()()()()の話。

 一体何故彼がここまでの傷を負っているのか?

その 「理由」 は既に明確だ。

 そして、 互いの疵痕を見つめ合ったまま同時に湧き上がる互いの声。

 

(シャナ……おまえ……)

 

(承太郎……おまえ……)

 

 交叉する、 二人の想い。

 

(ズタボロ……じゃあ、ねぇか……!)

 

(ズタボロ……じゃ、ないの……ッ!)

 

 交錯する、 二つの感情(こころ)

 

(バカヤロウ……! 他の奴の為に……こんなにズタボロになりやがって……!)

 

(バカバカバカ……! 私の為に……そんなにボロボロになって……!)

 

 ブッきらぼうな言葉でそう毒づき合いながらも、

承太郎は、 腕の中の少女の事を考える。

 少女の、 シャナの、 「戦う」 事、

その、 真の 『意味』 を。

 

 

 

 

 人間は、 自分も含めて、

(すべから) く何かを 【破壊】 して生きていると言っても良い存在だ。

 そんな哀しい人間の宿業の中で、

その身を 「犠牲」 にして血に塗れ、

心も躰も傷だらけになりながらも、

それでも懸命に誰かを 『救済』 し続けているこの腕の中の少女、

「シャナ」 の存在は、 きっと、 この世界のどんなものよりも優しい。

 だが、 傷つき戦い続ける少女の心の(きず)は、

例えどんな 「能力」 を以てしても決して癒す事は出来ない。

 そして、 終わりの見えない戦いの日々の中、

ゆっくりと溶けない根雪のように降り積もっていく

少女の冷たい魂の 「孤独」 は、

例えどんな 『スタンド』 だろうと絶対に埋める事は出来ない。

 

 

 

 そう考える無頼の貴公子の心に、

音もなく去来する想い。

 静かに形を成す、もう一つの 『決意』

 

(……やかましくて。

何か知らねーが紅い眼と髪で。

バカデケェ刀をブン廻す、

可愛げのねぇ小娘(ガキ)だと想ってたンだがな……)

 

 

 

 でも、 もういい。

 もう、 たった一人で、 頑張り続けなくても良い。

 辛い時は、 辛いと言って良い。

 泣きたい時は、 思い切り泣けば良い。

 これからは、 オレが傍にいるから。

 お前が嫌じゃないなら、 いてやるから。

 例え、 この世界中がお前の 「敵」 に廻ったとしても、

懸命に誰かを護り続けるお前を、 誰も護ってくれないというのなら。

 せめて、 このオレが。

 空条 承太郎が。

 この世のどんな残酷な事からも、 必ずおまえを(まも)ってやる――。

 

(……)

 

 少女は、 温もりを感じていた。

 体温ではない、 精神の、 存在の温もり。

 

(あたた……かい……)

 

 気づけばいつも傍にいて、

崩れ去りそうな自分の存在を支えてくれている。

 

(あたたかいわ……おまえ……

まるで……太陽に……抱かれてるみたい……)

 

 ()()、 は。

 逢うのが、 ずっとずっと、 待ち遠しかった。

 此処に来るのが、 本当に本当に楽しみだった。

 ジョセフから、 自分とそんなに歳の違わない 「孫」 が、

一人いると聞かされた時から。

 その時はもう、 ジョセフもスージーもエリザベスの事も、

好きだったから。

 人間ではない、 バケモノじみた能力(チカラ)を持つ、

怖れられて、 疎まれて当然の “フレイムヘイズ” で在る自分にも、

何の分け隔てもなく温かく優しい、『ジョースター』 の血統の人達が

本当に本当に、大好きだったから。

 だから、 古いアルバムのページ。

 幼い頃の “アイツ” の姿を、

ジョセフに見つからないように、 アラストールにも内緒で

こっそりと何度も何度も眺めていた。

 でも、 実際に逢った “アイツ” は。

 自分が想っていたよりも、 ずっとずっとヤな奴で……

 良い奴で。

 想っていたよりもずっと想い通りにはならなくて……

 でも、 一緒にいると楽しくて。

 想像していたよりもずっとブッきらぼうで……

 でも、 他の誰よりも優しくて。

 写真の中とは似ても似つかない 「不良」 だったけれど……

 でも、 正義と覚悟と決意の精神(こころ)に充ち溢れた、

本当に強くて誇り高い人だった。

 

(!!)

 

 そのとき、 突如、 鮮明に甦る、 一つの言葉。

 己が(からだ)を醜い 「白骸(ムクロ)」 に換えてまで。

 そして。

 そのたった一つの大切な生命を 「犠牲」 にしてまで。

 自分をフレイムヘイズへと導いてくれた者の言葉。

 

 

 

『いいか……?』

 

 

 

 ソレが、 彼の最後の、 手の感触と共に甦ってくる。

 

 

 

 

『……いいか……? 覚えておけ……

今此処に在るものは……“紅世の王” さえ一撃で虜にする力を生む……

この世界で最大最強の自在法だ……

いつか……自分で……見つけろ……

そして……ソレだけは……絶対に……

何が在っても……手放すな……

()()()()()()()……なる……なよ……』

 

 

 

 

 最後に、 そう言い遺して、 彼は消えた。

 崩壊する 『天道宮』 の中、 無音のまま儚く空間に舞い散る

虹色の火の粉と共に。

 そのとき、 自分は、 果たして彼に、何と言ったのだろうか?

“ありがとう”

 それとも。

“おやすみ”

 認識するには、 目の前の事実は余りにも唐突過ぎて。

 そして、 『運命』 は余りにも残酷過ぎて。

 ただ、 泣いていただけだったのかもしれない。

 でも、 「その言葉」 だけは覚えていた。

 何が在っても絶対忘れちゃいけない。

 それだけは、 解るから。

 誰だって、 きっと、 そうだから。

 その、 今は亡き青年に向かって、 少女は静謐な声で呼びかける。

 

 

 

 

(……『見つけた』……よ…… “シロ” ……

コレが……貴方の言っていたものなのかどうかは……解らないけれど……

でも……多分……きっとそうだよ……)

 

 

 

 

 体温も感触も感じないスタンドの腕に抱かれながら、

少女はその 『みつけたもの』 見上げる。

 

「……」

 

 その人は、 ずっと視線を逸らさず

ただ黙って自分を見護ってくれていた。

 何か、 言いたい。

 でも、 何を言えばいいのか解らない。

 来てくれてありがとう、 という感謝?

 それとも、 来るのが遅い、 という文句?

 先刻、 戦っている時は、 頼まれずとも彼に関する言葉が

次々に溢れ出てきた筈なのに。

 実際、 その彼を目の前にすると

みんな白い闇の彼方に消え去ってしまう。

 言葉はいつも、 役に立たない。

 アノ時の自分の言葉は、 もうこの人には届かない。

 

(!!)

 

 再び脳裡に走る、 白い閃光。

 直感以上の、 確かな確信。

 そうか――。

 だから。

 だか、 ら。

 

「……」

 

 シャナは、 痛みで引きつる躰をスタープラチナの腕の中で

無理に揺り動して引き起こそうとする。

 

「バカ! 無茶すんな! ジッとしてろッ!」

 

 そう怒鳴って顔を近づけてきた彼の線の細い頬に向けて、

少女は震える指先をそっと手を伸ばす。

 

「どうした? どっか痛ぇのか? 

待ってろ、 すぐにジジイの所へ連れてってやる」

 

 スタンドの両腕で自分の躰を両膝ごと抱きかかえ、

そして震える口唇から漏れる声を聞き漏らさないように

その顔をすっと近づけてくる。

 

「オイ、 アラストール。 昨日みてぇにオレのスタンドの力を使って、

応急手当くれぇは出来ねーのか?」

 

「その創痍(そうい)の身体で何を言う。

昨日の 「娘」 と違いこの子はフレイムヘイズだ。

今の状態で治療など行えば、 本当に貴様が死ぬぞ」

 

 承太郎とアラストール。

 二人が何かを言い合っている。

 でも、 聞こえない。

 もう、 聞こえない。

 

(自分で……試してみるのが……一番……良いん……だよね……?

ね……? ジョセフ……お爺ちゃん……)

 

 少女の心中に無限に拡がっていく、

光り輝くように眩く、 強烈な感情。

 ちょっと、 苦しいけど。

 でも。

 全然不快なものじゃない。

 

 

 

 

 

“想いを伝えるのは、 言葉だけじゃなかったんだ”

 

 

 

 

 

「やれやれ、 スタンドだ、 超能力だっつっても、 肝心な時には何の役にも立たねー。

こんな事なら曾祖母(ひいばあ)サンに 「治療」 の波紋も教わっとくンだったぜ、 チ」

 

 空条 承太郎の言葉は、 唐突にそこで途切れた。

 静かに重ねられた、 少女の 「口唇」 によって。

 

「ッッ!?」

 

 星形の痣が刻まれた、 その首筋に絡められた細い腕。

 風に揺れて靡く、 深紅の髪。

 甘く痺れるような、 火の匂い。

 そし、 て。

 少女の、 淡く潤った可憐な口唇が。

 承太郎の、 色素の薄い口唇に触れていた。

 互いの血と血で塗れた、

口唇と口唇とが穏やかに触れあう、

鮮血の、 口づけ。

 これから、 この世界を覆い尽くそうとしている巨大な 「闇」 と、

共に闘っていく事を誓う、 何よりも尊く何よりも神聖な行為。

 

「―――――――――――――ッッッッ!!??」

 

 少女の、 その余りにも突然の行為に、

胸元のアラストールは戸惑いを隠すこともなく驚愕を漏らす。

 しかし、 その事に、 当の本人達は微塵も気づいていない。

 承太郎にはシャナしか。

 シャナには承太郎しか。

 その存在が視えていない。

 他のものは全て、 その意味を無くし、

二人以外の存在は時空間の遙か彼方にまで消し飛んでしまった。

 

「……」

 

 そして、 完全に想定外の事態に、 少女のその行為に、

両眼を見開いて絶句する 「彼」 に向かって

ゆっくりと口唇を離したシャナは。

 一度、 向日葵のような満面の笑顔をその顔いっぱいに浮かべ、

そし、 て、 静かに瞳を閉じた。

 

【挿絵表示】

 

 

「シャナッッ!!」

 

 精神の支えがなくなりズシンッと重くなるスタープラチナの腕の中、

だらりと垂れ下がった少女の首筋からさらさらと零れ落ちていく真紅の髪。

 ソレが、 焼けた鉄が冷えるように元の黒い色彩へと戻っていく。

 少女の生命の消耗を象徴しているかのように。

 咄嗟に伸びた手が、 彼女の左胸に触れていた。

 

「……」

 

 微かだが、 鼓動は在った。

 少女の温かな、 体温と共に。

 確かに、 そこに存在していた。

 生命の息吹。

 命の鼓動。

 少女が、 いま此処に居るという(シルシ) 。 

 ただそれだけの事実が、 何故か無性に愛しい。

 一度消えたら、 もう二度とは戻らない 『真実』 故に。

 

「気ィ失っただけか……無理もねぇな……」

 

 シャナの左胸からそっと手を離した承太郎はそう呟き、

そして学帽の鍔で目元を覆う。

 正直、 何故か鼓動は異常な迄に高鳴り、

体温の急上昇に伴う多量の発汗作用が背に感じられたが

敢えてソコは意図的に無視した。

 理由は、 考えたくもなかった。 

 取りあえず、 ()()

 

「…………様々な事象が同時に折り重なった為、 この子も動転していたのだろう。

つまり 「我」 を喪失した状態での事。 あまり深く考えるでない」

 別に何も訊いていないのに

何故か異様にムッとした口調でそう一人語ちるアラストールに、

承太郎は後ろめたさを隠す意味も込め少しだけ(よこしま)微笑(えみ)を浮かべて返す。

 

「そういわれると、 寧ろ 『逆』 に考えろっつーのが

ジョースター家に代々伝わる 【家訓】 なんだがな?

()()()()、 果たしてどーなるのかな?」

 

「なッ!? き、貴様ッッ!!」

 

 珍しく感情を露わにしてそう喚くアラストールに、

 

「冗談だぜ? アラストール。

アンタでも取り乱す事在るんだな? 意外だぜ」

 

承太郎は軽く言って微笑ってみせる。

 

「むう……意外に根に持つ男よ……」

 

 アラストールは先刻以上にムッとした声でそう呟き、 不承不承押し黙る。

 

「……」

 

 その二人の耳元にやがて、 スタープラチナの両腕に抱かれた

少女の口唇から、 静かな寝息が聞こえてきた。

 傷だらけの、 服も躰も焼塵に塗れた姿でも

まるで、 嬰児(みどりご)のような表情で眠る少女。

 空条 承太郎は、 スタンドの腕の中で眠るその少女に、

己が使命を立派に果たした一人のフレイムヘイズに、

静かに語りかける。

 

(眠れ……今はただ……何も考えず……

目が覚めれば……また……戦いの日々が……おまえを待っている……

だから……今は……今だけは……何も考えず静かに眠れ……

このオレが……スタープラチナが……

()()()()()()()()()()……)

 

「……」

 

 安らかな表情。

 安心しきった寝顔。

 今までフレイムヘイズとして少女は、

己の身は己で護らなければならなかった。

 故に少女は、 こんなにも大きな安息に包まれて眠った事はない。

 たった一つの存在が。

 たった一人の人間が。

 これほどまでに少女の存在を変えてしまうモノか?

 胸元のアラストールは、 感慨いった表情で眠る少女を見る。

 その、 『幽波紋(スタンド)』 『星 の 白 金(スター・プラチナ)』 の両腕に抱かれながら。

 (あまね) く星々の存在に包まれながら。

 少女は、 シャナは、 ただただ安らかな表情で眠っていた。

 まるで、 目醒(めざ)めることで何かを成す、

『運命の眠り姫』 で在るかのように――。

 

 

 

 

 紅世の王 “狩人” フリアグネ

 その従者 “燐子” マリアンヌ

……共に 【消滅】

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

 

 

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