STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
雲一つない空。
その淀みのない蒼天が、 彼方への航路を創っているかのように。
ソレを背景に高々と
元来、 神々の神域と人間が住む俗界とを割かつ “結界” を意味するモノだが、
今現在その伝承が 『現実』 のモノと成っているコトを認識出来る者はごく僅かだった。
「おしまいッ!」
清廉な掛け声と共に赤い鳥居の最上部から小さな影が一つ、
滑空の気流を纏わせながらその 「内」 に舞い降りる。
目測で有に10メートルを超す高度から飛び降りてきたその影は、
そんなコト意に介さず片手を石畳の上に付き、
片膝を曲げもう一方は鋭角に延ばして落下衝撃を分散、 着地する。
膝下まで届く、まるで極上の絹糸のように細く艶やかな黒髪が
気流によって吹き上がり、やがて重力の恩恵を受け軽やかに空間を撫ぜる。
継いで種々なる花々の香りも舞い踊った。
「……」
顔を上げたのは凛々しい視線の、 全身、 黒尽くめの少女。
上着も、 ズボンも、 ベルトも、 靴も (流石に下着までとは云わなグゴォッ!)
その頭部までをもプラチナ・プレートの嵌め込まれた
黒いレザーキャップを被っている。
「終わったのか?」
その黒き少女の傍らに、 彼女と同じようなデザインの
学帽を被った青年が歩み寄る。
見上げる程の長身。
中世芸術彫刻のように、 美しく均整のとれた
その身を包む、 マキシコートのように裾が長い学生服の腰に
革のベルトが二連、 交叉して巻き付いている。
何よりもその筆舌に尽くし難い、 威風颯爽足る美貌。
形の良い耳元で、 プラチナのピアスが煌めいている。
「ええ。 たったいま、 この神社周辺区域の “因果” を
その 「連続」 から切り離したわ」
薫り慣れた芳香が、 少女の鼻孔を
「これでもう普通の人間が此処を 「認識」 するコトはまず不可能だし、
フレイムヘイズや紅世の徒からも
まぁ、 “封絶” の応用ね」
「おい? ソレじゃあよ」
開いた右手で彼を制する。
「その 『逆』 は話が別。 外の異変は感じ取れるように
ちゃんと 「隙間」 は空けてある。
まぁ私の経験上
“
こちらの心情を見透かしたかのように話す黒髪の少女に、
“承太郎” と呼ばれた青年は学帽の鍔で目元を覆いながら返す。
「フン……オレが心配してンのは、「後処理」 のコトだぜ。
『スタンド』 でさんざっぱら暴れ回ったはいいが、
その後全部ブッ壊れた 「直りません」 じゃあ通らねーからな」
「フフッ」
少女は殆ど曲線になるような、 柔らかい笑顔で懸念に応じる。
「無用の心配よ。
“因果孤立空間” の
存在を 『喰われたり』 しない限り「修復」は可能よ。
勿論ソレにはおまえにも協力してもらうけど」
「フン、 それなら別に、 依存はねーがよ」
青年はブッきらぼうに言葉を切り、 その美貌をやや斜傾に向ける。
ソレは彼特有の、 不器用な照れ隠しだった。
共に過ごした時間はそんなに長くはないが、
少女は自分でも知らないうちに気がついていた。
そしてソレを、何故か無性に誇らしく想った。
青年自身も気づいていない、 知っているのは
自分だけかも知れないという奇妙な優越感と共に。
「……」
「……」
両者に舞い降りる、 沈黙の帳。
気まずいわけではなく、 寧ろ心地よい緊張感。
互いの所作をそっと
「始めぬのか?」
穏やかな雰囲気で黙する二人に、
荘厳な賢者の如き声が突如来訪する。
「ッひゃわッッ!? アラ、 アラ、 アラストール!?」
その喫驚までも愛らしい少女の胸元で、
神聖なる光を称え周囲に金色のリングが絡められた漆黒の球、
天頂部を細い銀鎖で繋がれたペンダントから声はあがっていた。
声の主は、 深遠なる紅世真正の魔神、
その真名 “
眼前の少女の 「被契約者」 であり、
普段はその強大な力を宿す 「本体」 を裡に眠らせ、
己の意志のみをペンダント型の神器 “コキュートス” の能力を
通して現世に表出させているのであった。
「……」
しかし今、 その現世に表出されている “王” の意志は、
何故か不機嫌極まりない。
ソレは言わずもがな、 先刻の少女の自分に対する態度。
言葉には出さず、
胸に抱くコトはないというのを知ってはいるが、
先刻の少女の言葉
という
眼前の(自分も見込みが在ると密かに認めている)青年に、
自身の存在を時空間の彼方にまでブッ飛ばされて
不興極まりない心中をアラストールは何とか呑み下し、
声だけは平静そのもので告げる。
「 “アノ者” も
そう言って喋るペンダントが指差した(?)先。
青年と少女から数メートル程離れた石畳の上。
紅顔の美男子を絵に描いたような人物が両腕を腰の位置で端整に組み、
見る者全てに安らぎを与えるような微笑をこちらに向けていた。
気流に靡く、 瑞々しい果実の香り。
シンプルだが質の良いミントグリーンのシャツと
腰に
その足下は柔らかそうなスウェードの靴で覆われている。
耳元で揺れている果実をモチーフにしたイヤリングこそ
いつもと変わっていないが、 制服ではなく私服なので
普段と受ける印象が大分違う。
唯一欠点を挙げるとするなら、 全くと言っていいほど嫌味がないので
その点が逆にイヤ味だという位だ。
脇の青年が広い背を少女に向け、
その瞬間、 ほんの一瞬に過ぎなかったが、
少女がとても残念そうな顔をしたのを
アラストールは見逃さなかった。
「準備、 出来たようだぜ。 待たせたか? “
「いいや、 彼女一人に任せてしまってすまないと想っているよ。
ボクの “結界” も、
青年に“花京院” と呼ばれた中性的な美男子は、
その細い両腕を左右に広げ
「ウチのジジイの話じゃあ、
『スタンドは一人一体、 一能力』 が絶対の 【原則】 らしいからな。
もしオレ達だけなら 「訓練」 する場所を探すのにも一苦労だ。
全くもって “シャナ” 様々だぜ」
青年はそう言って首だけで振り返り、 立てた親指で少女を差す。
「そうだね」
花京院も柔らかな微笑で、 青年に応じる。
「……」
少女はちょっとだけ頬を朱に染め、 そして何故かムッとした表情で
二人の美男子の傍に歩み寄った。
爽やかな初夏の風が、 3者(4者?)の間を吹き抜けていく。
今日は土曜なので学校は昼上がり。
3人とも特に予定はなかったので、
シャナの提案で午後は前々からいつかやろうと計画していた
『特別戦闘訓練』 に当てようというコトになったのだ。
異次元世界の暗殺者。
紅世の王 “狩人” フリアグネの襲来から、 早一月。
高度な自在法、 意志を持つ “燐子” の創成、
多種多様な 「宝具」 とソレをほぼ完璧に駆使する
何よりも “
その強大なる存在の力。
紆余曲折在ってなんとか辛うじて討滅出来たものの、
コレからフレイムヘイズとしてより強力な “王” と戦っていくのであれば、
まだまだ
その当事者で在る少女だけではなかった。
いずれ必ず訪れる、 『アノ男』 との決戦の為に――。
とりあえず放課後、 各々一度自宅に戻り昼食の後神社に集合。
当然3人とも他の生徒達と同じように私服へと着替えてきている。
最も承太郎だけは、 いつもと色違いの青い学ランだが(公私兼用で何種類かあるらしい)
しかし。
いつもとその風采が最も違うのは、
西洋風の
その下は凝った刻印の入った銀鋲が所々に配置された
レザーのハーフ・パンツに黒革の編み上げブーツ。
そして頭には 『STARDUST』 という
これまたハードなロゴの入ったプレート付きのキャップである。
首から垂れ下がったペンダントへ合わせるように、
可憐な細い指には星や鳥、 クロス等のレリーフを
ベルトラインより下には入念な彫金を
2連になって繋がれている。
実は、 承太郎の学生服に合わせてその母親であるホリィが
こっそりSPW財団専門のブランド
当然その 「意図」 は承太郎も、 着ているシャナすらも気づいていない。
「さぁ! 時間がもったいないし始めるわよ!」
ハードな装いの黒い少女が大きく手を打ち、
3者は予め指定された場所へと移動する。
鳥居の笠木中央部にて、 不可思議な紋字と紋章と共に揺らめく深紅の炎。
その周囲で爽涼に戯れる
清澄な水の流れる手水舎傍、 一対の狛犬が並び銘文の刻まれた石碑の聳える本殿前にて、
小さな
【2】
「じゃあまずおまえ達。
年季の入った本殿壇上に飛び乗り、
その視線だけは長身の美男子二人を見下ろすカタチになったセンセイは、
講義の挨拶も指針も何も示さぬまま 「結果」 のみを口にした。
「……」
怪訝な顔をする承太郎とは裏腹に
「いいよ」
と、 その隣の花京院は事も無げに言う。
やがて。
胸元の位置で細い指先が艶めかしく折り曲げられた花京院の掌中に、
透き通るようなエメラルドの光が湧き水の如く溢れていく。
煌々と安らかな色彩を称え躰の裡から沁み出ずるその光は、
少々意外そうな顔で自分を見る美貌の青年にその行使者は、
「
無論 「威力」 や 「精度」 は本来のモノより劣るが、
瞬発的に出せるのと必要以上に相手を傷つけない等メリットも多い。
まぁ慣れるまで、 少々訓練が必要だけどね」
そう言って自嘲気味に微笑う。
流石に、
その 「経験」 と 「技術」 能力に関する 「知識」 は、
後天的に 『スタンド』 に
無頼の貴公子は素直にその事実を認め、 言葉を返す。
「なんか “コツ” とかはあんのか? 手の平に意識を集中して、
スタンドパワーをソコに集めンのをイメージしてみたんだがな」
「最初はソレで良いと想うよ。
欲を云えば、 スタンドを外ではなく 「内」 に、
身体内部で 「
イメージすればエネルギーの流れを体感し易い。
スタンドは本体の外に出ていない時は、
スタンド使いの内部で眠っているだけで
「フム……」
親密げに言葉を交わす、 二人の美男子。
その頭上では胸の前で力強く両腕を組み、
足を大きく八字に開いた美少女が
憮然とした表情で両者を見下ろしていた。
出来ればソコは
しかし、 同じこの世ならざる異能を裡に宿す身とはいえ、
チカラの 『発現系』 が違う為にその感得の仕方を
自分は
ましてやその 「操作」 のコトなど夢のまた夢。
ここはその 『能力』 に一日の長が在る花京院に任せるしかない。
妙な胸のムカつきは消えないが。
「……」
まぁ、 いい。
口元にフ、と不敵な微笑を浮かべる少女。
着ている服の背徳的なデザインも相まってか、
小悪魔的な微笑が通常の二割増しで甘く光った。
「よし。 まぁ、 こんなモンか」
「!」
唐突に耳に飛び込んできた声。
向けた少女の、 視線の先。
無頼の青年の右掌中で
その色彩は、 ソレを放つ者の高潔さを象徴しているかのよう。
きっとこの世の如何なる負の存在でも、 くすみ一つすら付けられない。
そんな心象を想起させるような、 綺羅の
(キレ……イ……)
口元に悪魔の微笑を浮かべていた少女の表情は一転、
天使の歓喜へと即座に変貌する。
その隣で同様の光を掌中に携えている細身の美男子には一切目もくれず、
少女はその光に目を奪われる。
彼女の 「名」 の由来にもなっている、
戦慄の大太刀を手にしたとき以上の執心を持って。
「よぉ?」
「ひゃあぁッ!?」
甘美なる陶酔の時は、 同じく甘い響きを持った青年の美声で以て破られる。
「 「講義」 を再開してもらいてーんだがな?
この手に集めた 『幽波紋光《スタンドパワー》』を、
一体どーすりゃあいーんだ?
普段から教師を一度も “そう” 呼んだコトのない無頼の貴公子が、
年端もいかない少女にそう問いかける。
掌中の白金は、 色褪せるコトなくその光を称え続けていた。
「え、 えぇ、 そうね」
そう言って顔を赤らめたセンセイは、
両目を閉じながら一度コホンと咳払いをして威厳を戻し、
講義を再開する。
「ソレじゃあ 「次」 は、 その手に集束したチカラを
『炎』 に
「……」
再び。
その 「やり方」 も 「意味」 も全く告げず 「命令」 と 「結果」 のみを
突き付ける小さな
取りようによっては理不尽とも云えるその無理難題に、
今度こそ完全に面食らった青年とはやはり裏腹に
その脇の美男子は容易くソレを実行する。
「!!」
「!?」
突如。
花京院の女性のように細い指先を揃える掌中に、
鮮やかなエメラルドの炎が出現する。
炎本来の本質で在る破壊的な印象の全くない、
安らかで清らかで、そして静謐なる存在の灯火。
その色彩。
現世と紅世両界にその異名を(非常に悪い意味で)轟かせる、
狂気の “探求者” に爪の垢でも煎じて飲ませたくなるような、
至上の
「……」
やや呆れたような顔で再び花京院を見る承太郎。
壇上のセンセイもその
そんな中、 その優秀な生徒は勝ち誇るわけでも驕るでもなく、
あくまで優しい口調のまま 「
「“エメラルド・スプラッシュ” と、 原理は大体同じだよ。
脳裡に 「結晶」 じゃなく “炎” を強くイメージして
スタンドパワーを操作、 具現化してやる。
スタンドは訓練すれば、
ソレに較べれば、 そんなに難しいコトじゃあない」
再び壇上でムクれているセンセイの視線には気づかずに、
優等生の不良生徒に対する懇切丁寧な説明が続く。
「そうだな。 君の場合、 スタープラチナが殴ったり蹴ったりしてるのをイメージするのと
同じ 「感覚」 で、 “炎” をイメージして視ると良い。
別の
「ああ……ヤってみるぜ」
承太郎はそう言って静かに瞳を閉じ、 花京院の言葉を脳裡で反芻しながら
鋭く集中力を研ぎ澄まし、 精神の裡で 『
同時に、 その掌中で、
嵐を前にした波打ち際のようにさざめきだす、
「……」
自分の 「出番」 を取られて面白くなかったセンセイも、
この時ばかりはただひたすら “ガンバレ” という純粋な想いの許、
その存在の力を行使する者
やが、 て。
「!!」
「!?」
ガオッ! という狂暴な音響と共に、 青年の掌中で白金の火柱が噴き拳がる。
花京院のモノとはまるで対照的な、 触れた者スベテを
しかし狂暴な破壊的存在感を以て噴き拳がっているというのに、
その色彩は視る者スベテを惹きつけるような神聖さを宿しているという
相反する要素を併せ持っている。
周囲に眩い輝きを迸らせるその炎に頬を白く染められながら、
自分の “生徒” の想像以上の出来に、
センセイは歓びを隠すこともなく顔いっぱいに現す。
その胸元でムゥと小さく、 心底感嘆したような声があがったコトには
誰も気がついていない。
「フ……ゥ……ッ!」
呻くように呟いた承太郎の一声と共に、 噴き挙がっていた火柱は
一瞬にしてその高度を無くし、 一気に彼の掌中へと収まる。
あとに残ったのは、 開放されるソノ時を待ち焦がれるように
狂暴な火花を空間に捲き散らす、 白金色の塊。
「フッ、 イメージとスタンドパワーとを
チョイと骨だが、 まぁ、 はじめはこんなモンか」
白金の炎を右手に宿らせる青年は、 己の掌中を見据えながら満足気に呟く。
「だが、
『スタープラチナ』 はパワーとスピードはあるが、
だがコレでその 「弱点」 も補強されるってワケか。
今はまだ弱々しいが、 もうチョイ練習すりゃあ威力も
自分の生みだした白金の 『炎』 を見据えながら、
その端正な口唇に不敵な微笑を浮かべる美貌の青年。
彼に限らず、 人は何か一つ新たな 『能力』 を、
自分の 『可能性』 を見つけた時、
こんな表情をするのかもしれない。
その、 静かながらも自信に満ち溢れた風貌。
だが、 意外。
「OK。 “ソレ” はもう、
その 「炎」 を創り出せと命じた張本人が、
いとも容易くそう口にする。
「……」
予め可能性の一つとして少女の言葉を見越し、
瞬時に掌中の炎を掻き消した優等生とは逆に、
脇の不良生徒は口を半開きにしたまま棒立ちとなる。
「オイ? 一体ェどーゆーコトだ?」
右手に
承太郎は壇上のシャナに一歩詰め寄る。
「 『近距離パワー型』 の 「弱点」 を補う為にヤらせたコトじゃあねーのかよ?
訓練して、 オメーみてーなバカデケェ炎を
スタンドにブッ
炎を自在に生みだしそして操るこの 『能力』 に関しては、
少女の方が遙かに熟練者、 というより専門家であり
自分は素人も同然だというコトは百も承知していたが、
即座に諦めてしまうにはどうにも惜しい 『能力』 だった為
承太郎は
その背景には己の 「弱点」 を補うコトも在るが、
シャナのように(条件付きではあるが)破壊された街や傷ついた人間を
元通りに 「修復」 出来る 『能力』 を獲得出来るかもしれない、 という想いが在った。
しかし。
「
壇上のセンセイは、 不良生徒の淡い期待を清々しいまでに粉砕する。
「“自在式” が編めないんだから、 実戦レベルにまで
要はおまえ達にその
そしてソレは、 その気になれば有形無形を問わず
“自在に
「……」
ワケの解らない専門用語も織り交ぜられながら、
取り付くしまもない程に論破され沈黙以外の選択を余儀なくされる不良生徒。
右手に宿っていた狂暴な炎の塊も、 いつのまにか立ち消えている。
苛立ちと共に心中でそう呟きながらも、
解らない事は考えてもしょうがないので承太郎はセンセイの言葉を待つ。
「もう一度いうけど、 “フレイムヘイズでない” おまえ達に、
『炎の自在法』 を教えるつもりはない」
センセイは念を押すように、 腕組みをしたままそう告げる。
「でも存在の力を操る
つまりおまえ達自身の 『
より精密に、 高性能に自分の 『
操る事が出来るようになる 『可能性』 は在る」
「ジザイホーを、 スタンドに組み込む、 だと?」
想わず口を付いてでた承太郎の言葉に、 シャナは無言で頷いてみせる。
「“狩人” がヤってたでしょ?
燐子に自在法を組み込んで思い通りに操ったり爆弾に換えたり。
アレだって元を正せばただの
スベテは自在法に拠って生み出される、
『この世ならざる存在の事象』 なの。
だからおまえ達はソレを使って燐子や宝具じゃない、
自分の 『
「……」
「……」
押し黙って顔を見合わせる二人の生徒を頭上から見据えながら、
センセイは講義を続ける。
その瞳を、 より鋭く研ぎすまして。
その声を、 より森厳に澄み渡らせて。
「“存在の力” は、 森羅万象、
物質ではないけれど、 無論おまえ達の 『
ソレを使って
“有は無に還り無は有を創り出す”
つまりは、 『永遠』 という可能性への追求……」
センセイはソコで一端言葉を切って、
無数のリングが嵌められた右手をスッと前に差し出す。
同時にその掌中で数塵火の粉が舞い、 刹那に炎が灯る。
不可思議な紋字と紋章とが、 周囲に
まるで何かの儀式、 或いは敬意であるかのように、
少女は紅蓮の煌めきを、 余すコトなく空間へと迸らせる。
そしてその煌めきと共に頭上から到来する、 預言者のような声。
一人の、 純潔なる “フレイムヘイズ” の声。
「歴代のフレイムヘイズとその紅世の王達は、
『永遠』 という理念を自在法の 「象徴」 としたの。
現世と紅世の在るべき姿の為に。
『永遠』 とは “無限” のコト。
深紅の炎に勇壮なる風貌を照らされながら、
承太郎はその研ぎすまされた洞察力で
少女の紡ぎ出す言葉の意味を分析し始める。
「……」
『永遠』 だの “無限” だのと、
何やら話が大袈裟になってきたが
シャナの言わんとしているコトは理解できた。
つまり自分の能力 『
まだまだ 「未知」 の部分が在るというコト。
そして自分はまだ、 その 『存在能力』 を巧く引き出せてはいないというコトだ。
言われるまでは気にもとめていなかったが、
確かに言っているコト自体は間違っていない。
今まで自分はスタンドを 「操作」 する際、
“目の前にいるヤツをメチャメチャにブン殴れ” や
“襲ってくるモノをスベテ弾き落とせ” 等、
大雑把な 「命令」 しか与えてはこなかった。
しかもソレすらも、 思い返してみればあぁそうだったという位で、
実際には殆ど無意識に近い状態でスタンドを念じ、
本能的にその 「操作」 を行っていたに過ぎない。
しかしシャナの言う通り、 スタンドを効率的に動かし
尚かつその能力を最大限に引き出すのであれば、
より高度な 『操作技術』 が要求されるのは当然のコトだ。
最新鋭の高性能エンジンをフルチューンで搭載した
モンスターマシーンの
ソレを自在に操るテクニックが必須条件であるように。
それが無ければ如何に優れた機体で在ってもただの鉄屑、
コーナリングでクラッシュするだけの 「棺桶」 に過ぎない。
その自分でも気づいていなかった事実に、
目の前(上?)の少女は気づいた。
『スタンド使い』
しばし押し黙っていた承太郎だが、 少女の発する言葉の意味を解し
やがて閉ざしていた口唇を静かに開く。
「……成る程な。 F1で例えりゃあ今まではオートマだったが、
マニュアルに切り換えた方がより高度な操縦が出来るってこったな。
「……」
自動変速と手動操縦。
いつもながら独特の言い回しをする承太郎だったが、
物事の核心はきちんと押さえている。
自在法に於いてもその 「
傾向的に後者の方が(本能的に発動させる前者と比べ)高度な構成技術を要する為
より優れているとされている。
同じ自在法でも、 自在式が在るのと無いのとでは
その威力も精度もまるで違ってくるように。
自分もこの自在法の理念を解するには時間を要した為、
こうもあっさりと解かれては張り合いがないが
「正解」 を言っている以上ソレは肯定するしかないので、
「まぁ……概ねそんなカンジね……」
と、 目元を黒いレザーキャップの縁で目元を覆いながらそうに呟いた。
本当は、 もっと間違って失敗して、 ソレを逐一修正しながら
自分に頼る以外何もない(しょ~がないわねぇ~♪ 承太郎は♪)
とか想わせようとしていた目論見は見事外れた。
そこに追い打ちをかけるように言葉を繋ぐ、 脇の優等生。
「ボクも、 今まで
スタンド操作を行っていたけれど、 殆ど無意識的なモノで
あまり細分化して考えては来なかったね。
スタンド
でもこれからは “そうでない敵” との戦いも覚悟しなきゃならない。
だから今まで以上にスタンド操作に磨きをかけるのなら、
シャナの言ってる事は間違いないよ。
訓練によって幾らスタンドパワーが
相手の 『能力』 次第じゃ無意味どころか逆効果になるからね。
どんな状況にも臨機応変に対応できる操作技術と応用能力が、
どうしても必要になってくる」
「……」
花京院に他意はなく、 あくまでシャナの言うコトを肯定、
補足説明をしたのみだったが、なんだかフォローを受けたみたいで
ますます面白くないセンセイは憮然とした表情のまま講義の締めに入る。
「兎に角、 おまえ達はこれから 『
ソレを 「適正化」 する
腕を振り上げるとか振り廻すとかの何気のない動作の中にも、
一体どれだけの 「力の流れ」 が存在するのか
だからその 「基礎」 としてまず 『チカラの集束と変換』 を体感させたの。
状況に応じてチカラを然るべき処に集め、 無駄を殺ぎ落とし、 ソレを変換させる
そう言い終えるとシャナは、 教師が持参したテキストの束をまとめるように
右手に宿った炎を大仰な手捌きで振り翳し、 掻き消す。
そして。
「さて、 と。 これで私の 「講義」 は終了よ」
礼の代わりに可憐ながらも強い微笑を口唇に浮かべ、 承太郎達に向き直る。
センセイ役は、 コレで終わり。
再び対等の立場に戻ったシャナは壇上から飛び降り、
長身の美男子二人の前へと軽やかに着地した。
その眼下の、 自分の腰元に届くのがやっとという
背丈の少女に承太郎は問い
「おい? チョイ待ちな。 そのジザイホーとやらの 「ヤり方」 を、
まだ教わってねーぜ。 せめてその 「基本」 くらいは知っとかねーと
“応用” も何もねーだろ?」
正当な要求。
しかし少女から返ってきたのは、 全く 『逆』 の答え。
「 “ソレ” は、
存在の力の流れ、 その感じ方や制御の仕方は同じように見えて、
実は一人一人全然違う。 当然その 『発現型』 もね。
要は
ソレは誰に教えられるモノでもないし伝えられるモノでもない。
おまえ達が自分自身でやり遂げる
歴代のフレイムヘイズはみんなそうしてきたし私もそうしてきた。
だからおまえ達もそうしなさい。
“ヒント” はもう充分あげたでしょ? 」
青年のライトグリーンの瞳を覗き込むようにして告げられる、 少女の返答。
「……」
普通ならここで、 “できるわけがないッ!” と 「4回」 位叫びそうだが
幾分かの沈黙の後、 青年は答えを返す。
その瞳に宿る、 怜悧な光に裏打ちされた答えを。
「……つまり、 オメーに手取り足取り教えてもらった 「ジザイホー」 じゃあ、
ソレは “コピー” ってヤツで 『本物』 じゃあねぇってコトか?
テメー自身でみつけろってコトだな」
生来の洞察力と実戦で磨き上げられた判断力とで、
自分なりの答えを導き出す 『スタンド使い』
ソレに対し眼下の少女は、
「そのとおり! よく解ってるじゃない」
(届くのなら) その頭を被った学帽ごと撫で回しそうな心持ちで、
満足そうな笑みを彼に返した。
「そりゃどーも」
青年は剣呑な視線で少女の笑顔を受け止めながら、
ふと既視感によく似た感覚が脳裡を過ぎったのに気づく。
遠い、 昔。
ソレを己に流れる “血” が覚えていた所為なのかもしれない。
「……」
安堵によく似た、 その奇妙な 「実感」 を反芻する青年の傍らで、
「よろしい」
と、 黒尽くめの少女が腕組みをしたまま深く頷いていた。
その脇の美男子は、 変わらない穏やかな微笑で二人をみつめている。
頬を撫でる、 深緑の息吹。
髪を揺らす、 初夏の風。
三者の間に、 緩やかな空気が充ちていく。
そし、 て。
「さて、 それじゃあ今度は 『私の番』 ね」
「アン?」
「?」
穏やかな沈黙を破った少女の言葉に、
懸念の表情を浮かべる二人のスタンド使い。
「ボク達の
不思議そうに自らを指差す花京院。
「オレらがオメーに、 一体 『何』 教えるってんだ?」
件の剣呑な瞳で、 少女を見据える承太郎。
「格闘技はいまさらだし、 「剣」 なんぞオレらは使ったコトねーぜ。
それとも、 何か一発芸でもやれってのか?」
「あ、 それならボクはチェリーを口の中で結ぶ事が」
「“前” にヤってやった
「そんなわけないでしょ! バカバカバカ!」
真っ赤な顔をして、少女は長身の美男子二人を
見上げるようにして叫ぶ。
「
『
すました顔で、 当然のように言い放つ少女。
深緑香る爽やかな初夏の昼下がりだというのに、
何故か冷たい風が一迅、 3者の傍らを通り過ぎた。
←To Be Continued……
『後書き』
はいどうもこんにちは。
『挿絵』についてですが、「帽子」はどうヤっても無理でした。
あと所々「描写」と違いますが『仕様』です。
まぁ「原作」とは違う「姿」が見れたというコトで
どうか御了承ください。