STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
「 『スタンド』 って……オメー……無理に決まってンだろ……」
唐突且つ想定外の少女の要求。
承太郎はやや呆れたような口調で、
「シャナ。 君は 『スタンド使い』 じゃないだろう?
花京院がゆっくりと諭すような口調で、 それぞれ少女の申し出を否定する。
しかしこの最もな正論を、 目の前のハードな洋装に身を包んだ少女は
昔々在る処の悪逆非道の王国の頂点に君臨していた
暴虐の姫君の如く突っぱねる。
「うるさいうるさいうるさい!
おまえ達だって元は普通の人間でしょ!
だったらフレイムヘイズで在る私に出来ない筈がないわ!」
「……」
「……」
この、 一見筋が通っているのかいないのかよく解らない理屈に
若き二人の 『スタンド使い』 は大いに困惑する。
「お・し・え・て! “自在法の理念” は教えたわ。
Give and take。
それとも、 ただでモノを貰ってソレでいいと想うような、
そんな情けない 『男』 なの? おまえ達?」
途中完璧な発音でそう言って、 シャナは据えた視線で二人の瞳を覗き込む。
もう
二人共充分(過ぎる程)解っているので、
少女の
“泣く” を使われる前に(その殺傷能力に自覚の無い処が真に恐ろしい)
不良生徒はその 「役」 を優等生に押し付ける。
「やれやれ、 花京院任せたぜ。 オレァこーゆーのは苦手だ」
そう言って軽く花教院の肩に手を置き、
一服する為に鳥居の外へと足を向ける。
「イヤ、 そう言われても、 ボクも困るのだが……」
珍しく狼狽の色を表情に出す中性的な美男子に向けて、
当の本人は背を向けたまま軽く手をあげるだけで
この件を終わったコトにしてしまう。
「……」
仕方ない、 ダメ元でとスタンドの出し方をシャナに教えようとしたその時、
件の少女の姿はもう彼の目の前から消えていた。
「……」
気も早く、 鳥居を潜る前からもう煙草を口唇の端に銜えていた無頼の貴公子の、
その引き締まった腰に巻き付いた二本の革のベルト内一本が
突如学ランの上から凄まじい力で引っ掴まれ、
“振り向いていないのに” まるで 「この世」 から 「あの世」 に
連れ去られるが如く、 背後に高速で引っ張り込まれる。
「ッ!?」
予期せぬコトに体勢を崩して膝を折った青年の広い胸に、
更に予期せぬ呼吸も止まるほどの衝撃。
そのまま石畳の上に押し倒され弾みで
何故か浮かんだ “圧迫祭り” とかいう意味不明な単語を
承太郎が認識する間もなく視界に入ったのは、 件の少女の凛々しい風貌。
正確には、 その上半身。
石畳の上に仰向けの体勢となった自分の上で
身を
完全にロックされている。
引っ張られた勢いで口から飛んだ煙草が地に落ちるのを確認したのは、
その後だった。
「……」
もう吸えなくなってしまったが、 手入れの行き届いた神社の清潔な
汚すのは
再びとんでもない力で今度は襟元が引っ張られ、
無理矢理前方へと引き起こされる。
「……」
その目の前。
鼻と鼻とがくっつきそうな超至近距離で。
キッとした鋭い視線の少女が、 自分の瞳を覗き込んでいた。
「……」
脳裡で 『いつぞやの光景』 が、 意志とは無関係にフラッシュバックし
無頼の貴公子はその美貌を眼前の美少女からやや引く。
少女はそんなコトなど知らぬ存ぜぬのまま、 きつく結ばれた口唇を開く。
「いい? よく聞きなさい?」
何故か満面の笑みで一言そう前置きした後、
少女は先刻以上に視線と口元とを尖らせて、 襟元を掴んだ青年に迫る。
「お・ま・え・に、 教えて欲しいのッ!
花京院は熟練の 『遣い手』 だから、 初級者の私にはまだ早い。
ソレに 「最初」 は 『遠隔操作型』 よりも
『近距離破壊型』 の方が私の 「性」 には合ってるわ。
「距離」 の 「調整」 は常時覚えていけばいいわけだし、
遠くに
ソレに乱戦の時は 「
尚更自分の得意分野から修得していった方が合理的でいいわ。
紅世の至宝。 そして究極の王。
“天壌の劫火” アラストールのフレイムヘイズ、
この “炎髪灼眼の討ち手” に教授出来るというコトを」
「……」
舌を噛みそうな長台詞を淀みなく
少女の威圧感と、 ソレを遙かに上廻る大望に気圧されて 「下」 の青年は、
口を
その少女の胸元で、 微かに
識者諸君の有能な判断に委ねるコトにしよう。
「……」
“花京院はまだ速い”
この言葉から類推できる事実。
つまり、 この少女が脳裡に想い描いている、
まだ視ぬ 『
『近距離パワー型』 でありながら “遠隔操作” が出来、
尚かつ 「本体」 から幾ら距離が離れてもパワーが微塵もダウンせず、
オマケに “遠隔自動追跡” まで出来るという人類スタンド史上類を視ない、
『最大最強能力』 で在るようだ。
このスタンドの 『
少女の遠大な申し出に、 石畳の上で広大な空を仰ぐ青年は深々と溜息を付く。
もうツッコミ所が多すぎて、 いちいち指摘するのがアホらしくなったのだ。
『勘違い』 もここまでイくと逆に凄いと褒めてやるべきなのか?
学帽の鍔でその目元を覆いながら青年はゆっくりとその身を引き起こす。
彼がいきなり起きあがった為、
上で馬乗りになっていた少女はその荷重移動によって
転がる石のようにコロンとなる。
「やれやれ、 まぁ教えるだけは教えてやる……」
無駄だとは想うがなと心中で呟きながら
クールに学ランの埃を払う美青年に、
(しっかり受け身を執って)いきなり起きあがるなと
抗議の声をあげようとしていた少女は一転、
その表情を百花のように輝かせた。
その少女の表情とは裏腹に、
承太郎は学帽の影で苦々しさを噛み殺す。
スタンドのコトを誰よりも良く知る 『スタンド使い』 で在るが故に、
そんな顔をされると余計にヤりづらいのであった。
やがて不承不承の面持ちで、 両手をズボンのポケットに突っ込んだまま
少女へと向き直る。
「いいか? スタンドを 「発現」 させる為にはまず、
自分の背後にチョイとばかり意識を集中させてやる」
「背後にね! こう!?」
無駄だとは言ったものの、 一応教えると約束したからにはソレなりに、
承太郎はスタンドの発現の仕方を少女に伝授する。
少女もうって変わった、 まるで戦場にいる時のような真剣な表情となる。
「足の 「開き」 はこんなもので良い?
肩はもうちょっと 「入れた」 方がいいかな?
あ! 前後の荷重の
発現する時の 「反動」 ってどっちから来るの?」
「……」
矢継ぎ早に飛んでくる、 少女の質問。
要は 「後ろに意識を向けろ」
たったソレだけしか言っていないのだが
少女はもう両腕を交差した独特の構えを執り、
スタンドが出た 「後」 の対処にまで気を回している。
その純粋でひたむきな態度。
そして一を聞いて十を理解する卓越した知性が、
今は無性に哀しく想えた。
しかし今更止めるワケにはいかないので
承太郎は淡々と続きを説明する。
「そしてたった一言、 強く念じる。
“出ろ” または “来い” そんだけだ。
やってみな。 操作の仕方はその後だ。
スタンドがなけりゃあ操作方法なんざ教えても意味ねーからな」
「ハアアアアアアアアアアアァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!」
言うが速いか。
少女の清廉な息吹が空間に響き渡る。
ソレだけで周囲の空気が凝結したかのような、 鋭い緊張感が辺りを支配する。
(やれやれ……教えられるとすぐに 「使って」 みたくなるタイプか……?
始末に負えねーな、こりゃ……)
この後の展開を予想して、 美貌の青年は学帽の鍔で視界を覆う。
やがて。
少女の膝下まで達する長く美しい黒髪が、 風も無いのに数束、
ミエナイ引力に惹かれるかのように空間へと舞い踊り、
瞬時に火の粉を撒いて灼熱の光を灯す。
同時に。
その漆黒の双眸も、 この世の何よりも熱く烈しい、 紅蓮の煌めきをその裡に宿す。
“炎髪灼眼”
少女をフレイムヘイズたらしめている、 宿命の
身に纏っている黒尽くめの洋装等、
本当にただの
存在の光華。
そして。
少女の変貌と同時に交叉していた両腕が、
突如双刃の抜刀術を彷彿とさせる尖鋭な勢いで振り解かれ、
周囲に旋風を捲き起こす。
その動作に呼応するかのように、
「来オオオオオオオォォォォいィィィィィィィッッッッッッ!!!!!!」
勇ましき灼熱の喊声が、 その可憐な口唇から発せられる。
少女の全身から夥しく飛び散って、 空間を灼き焦がす紅蓮の火飛沫。
まるで鳳凰の羽根吹雪のように、 空間に振り捲かれる深紅の炎髪。
神の御遣いと錯覚するかの如く、 熾烈なる輝きを迸らせる真紅の灼眼。
そして。
そし、 て!!
……
…………
………………
まぁ、 ソレだけ。
「ウソ教えたわね!! 承太郎ッッ!!」
その顔を炎髪より真っ赤にして、 激高する少女。
一言一句違わぬ、 余りにも予想通り過ぎる
件の青年は剣呑な視線のまま冷めた言葉を返す。
「ウソじゃあねーよ。 最初に言っただろうが。
やり方教えようが何しようが、
少々酷かとは想ったが、 叶う筈もない
更に残酷だと判断した承太郎はすげなく言う。
ソレに対して眼前の少女がどう反応するのか、 重々承知したまま。
「うるさいうるさいうるさい! 今のはちょっと失敗しただけよ!
見てなさい! 今日中に絶対 “発現” させてみせるからッ!」
再び予想通りの、 一語一句違わぬ少女の反応。
こうなるともうテコでも(以下略)なので承太郎は、
「まっ、頑張ンな……」
一言だけそう告げ、彼女に背を向ける。
まぁ、 散々自分でヤってみてソレでも 「出ない」 というコトを悟れば、
少女も諦める
その期待が少ない内に諦めさせた方が傷も浅くてすむ。
もう時既に遅しな感は否めないが。
「……」
少女の傍から離れ、 木々の茂る開けた空間の方に足を向けた自分に、
花京院が音もなく寄り沿ってくる。
そう。
あまり少女のコトにばかり、
自分は自分の出来るコトを始めなければならない。
逃れようのない、 そして逃れる気も毛頭ない、
いずれ必ず訪れる 『アノ男』 との決戦の為に。
その為にまず行うべきコト。
己のスタンドパワーの、 完璧なコントロール。
そして。
スタンドの潜在能力を完全に引き出す、 高度な操作技術。
「……」
冷然で在りながらも、 強靭な決意と覚悟とをそのライトグリーンの瞳の裡に秘めた
青年の背後から、 突如空間を歪ませるような異質な音を伴って
彼の 『
その長い髪を風に揺らし、 纏った
主譲りの勇壮な意志の光をその白金の双眸に宿らせて、 現実世界に舞い降りる。
「!」
同時にその自分の背後で、 異質な重高音。
振り向いたその先。
異星人、 或いは未来人のような機能性を極限まで追求した
花京院 典明の操る清廉なスタンド、
『
ソレが周囲に神聖なエメラルドの燐光を
静かに自分とスタープラチナを見つめていた。
自分のスタンドと同じ精神の輝きを、 その盲目の瞳に宿しながら。
承太郎は口を閉ざしたまま、 学生服の長い裾を翻し
スタンドと共に彼等へ向き直る。
「……」
四の五の考えるのは、 抜き。
地道な反復練習も 「性」 に合わない。
スベテは 『実戦』 の中。
ソコでナニカを感じ取り、 選び取っていけばいい。
自分の祖先がそうしたように。
自分の祖父がそうしたように。
いま、 また、 自分も、 同じ 『道』 を歩み始める。
そう遠くない未来。
自分と同じ血脈の者達も、 そうするように。
確信にも似た、 奇妙な実感。
その許で鋭く研ぎすました眼光と鮮鋭に構えた逆水平の指先で、
スタンド、 スタープラチナと共に花京院を差す承太郎。
「いく、 ぜ……」
「あぁ。 遠慮はしないよ。 空条」
その細い両腕を腰の位置で
ライトアンバーの双眸に強い自信を宿らせた表情で
言葉を返す花京院。
時を越えて “アノ時” と同じように。
いま再び対峙する、 二人の『スタンド使い』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
両者の身体から、 スタンドから立ち昇る、 それぞれ色彩の異なる燐光。
そしてソレに伴う、 壮絶な存在の
自分と同じような 『宿命』 そして同じ 『宿敵』 を持つ者同士。
その信頼の 『絆』 は、 血よりも紅くそして深い。
痛みも傷も、 超越する程に。
「スター・プラチナァァァァァ!!!!!」
「ハイエロファント・グリーン!!!!!」
まるで合わせ鏡の立ち位置ように。
その右腕と左腕とを高速で薙ぎ払ってスタンドを繰り出す両者。
さながら初めての邂逅の時を再現するかのように。
しかしアノ時とは全く別の意味合いで、
二つのスタンドがそれぞれ色彩の異なる
『
真正面から激突する。
「オッッッッラアアアアアアアァァァァァァ――――――――――!!!!!!」
「ハアアアアアアアアアアアァァァァァァァ――――――――――!!!!!!」
動き出した 『運命』
紡がれていく 『因果』
若きスタンド使いとフレイムヘイズは。
次なる 「領域」 へと歩み出す――。
←To Be Continued……