STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
「……」
「……」
スタンドに流法体勢を
空条 承太郎と花京院 典明は自分達の側方で歯を食いしばり
目じりに涙をためたまま真っ赤になっている、
黒い洋装を紅で彩った美少女へと向き直る。
その少女の全身から発せられる、
唯ならぬ危うい雰囲気にスタンドの
元来の生真面目な性格故に、 戦闘訓練と反射的に口に出そうになった
花京院は咄嗟にその言葉を喉の奥へと呑みこむ。
だが、 しかし。
「“戦闘訓練” だ。 邪魔をしねーでもらいてーな」
その鍛え抜かれた両腕を胸元で組み、
無頼の貴公子が悠然とした佇まいで少女へ速答する。
「空条ッ!?」
解らない筈はないのに。
しかしその承太郎の振る舞いを花京院が諫める暇もなく、
「うるッッッッさいッッッッ!!!!」
再び少女の怒声が周囲に響き、 木々がざわめいた。
だがこの言葉を浴びせられた当の本人は、
別段狼狽えた様子もなくただ淡々とした表情で続ける。
「 “コッチ” のコトより “ソッチ” の方はどーなんだ?
もう 『スタンド』 は出たのか?」
「……ッッ!!」
別段棘や揶揄するような口調ではないが、
しかし今の少女には挑発しているようにも聞こえる承太郎の問い。
痛い処を突かれたように、 少女は一瞬その小さな躰をやや引く。
しかし、 すぐに。
「う、うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさい
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさァァァァァァァァァァい!!!!」
三度激高する。
「……」
額にピアニストのような細い指先を当て、
修復不能になってしまった眼前の事態に首を振る花京院の姿は目に入らず、
少女はその隣で傲然と構える無頼の貴公子を睨み続ける。
望んでいたのは、 そんな言葉じゃない。
それにもう一体、 何の為に “うるさい” と言っているのかさえ解らない。
ただそう言いたいが為に、 目の前の現実を無理からにでも否定したいが為に
言葉を口走っているようにしか自分でも想えない。
これじゃあただの八つ当たり(最も完全にそうであるが)
物事が思い通りにいかなくて駄々をこねている子供以外の何者でもない。
自分が言いたいのはこんなコトじゃない。
こんなコトじゃ、 ない筈なのに。
「……」
思いつく様言葉を吐きだし、 呼気を荒げる少女に向かい
その怒声を散々浴びせられた美貌の青年は件の剣呑な視線で、
「気がすんだか」
無感動にただそう告げる。
「――ッッ!!」
反論、 せめて訓戒でも口にしてくれれば
売り言葉に買い言葉で今の自分の惨憺足る有様を誤魔化すコトも出来ようが、
こうも冷静に来られたのでは押し黙るしかなくなる。
コレ以上続けても、 自分が惨めになるだけだから。
未熟な自分の姿を、 ただ晒し続けるだけだから。
そんな彼女の心中を知ってか知らずか、
目の前の青年は再び感情を込めずに少女に告げる。
「さんざっぱらヤってみて、 いい加減コレで解ったろ?
「――ッ!」
駄目押しのようにハッキリとそう宣告する青年に対し、
生来の性格が災いして反射的にソレを否認しようとする少女。
「……」
しかし最早その余地も気力もなく、 失意のままに小さな肩を落とす。
“そんなコト” はもう、 誰に言われるでもなく自分が一番解っていた。
でも。
知りたくなかった。
聞きたくなかった。
少なくとも、 承太郎からは。
ウソでも良い。
アノ人のように、“いつか出来る” と言って欲しかった。
だって。
だって……
(……)
自分は一体、 いつからこんなに 「弱く」 なったのか?
幾度も血風にその身を晒され、 時に血の海を泳ぐコトになろうとも、
決して怯みはしなかったのに。
何故、 この眼前に位置する青年の承認が一つ受けられなかった位で、
こうも気持ちが沈むのか?
思考が答えの出ない堂々巡りに陥り、 再び俯く少女。
その少女の傍らで、
(そんなにハッキリと言わなくても……)
是非なきコトとはいえ、 傷心したその少女の様子を不憫に想った花京院が、
(
珍しく不快の色を露わにしたアラストールが共に心中で呟く。
「……」
沈黙の許、 暗く沈んだ空気が周囲に漂いつつ在る中。
やれやれと無頼の貴公子がいつものように学帽の鍔を摘む。
その眼前には、 同じくレザー・キャップの鍔で表情が伺えない紅の少女。
無言だが、 その態度が暗に自分の諌言を拒絶しているのが視て取れる。
どうやら、 幾つか予想していた事態の中でも
とびきり厄介なモノに自分の予感が的中したようだ。
ヤるだけヤってみてソレでも不可能なら、
明晰な頭脳を持つこの少女なら
潔く 「諦める」 と想っていたのは、
どうやら大いなる錯覚というヤツだったらしい。
「結果」 が出ていない今、
まだ大人しく黙り込んではいるが明日になればきっと、
この少女は同じ内容の訓練を出
その次の日も。
その次の次の日も。
周囲が幾ら諭しても、 おそらくこの少女は聞き入れない。
スタンドが発現するその時まで、 この少女はきっと止まらない。
一体何がこの少女に、 ソコまで 『
執着させるのかは解らないが。
(やれやれ……しょーがねーな……)
眼前の少女から顔を逸らし、
困ったのと面倒なのを半々混ぜっ返したような表情で
無頼の貴公子はその襟足の長い黒髪を学帽越しに掻く。
まぁこの件は少女に期待を抱かせ、
最初にハッキリと拒絶しなかった自分にも責任が無いワケではない。
今日は久々に全力でスタンドを動かしたので、
早々に引き上げて何処かで酒でも飲みたかったが
目の前で落胆する少女の
空条 承太郎は仕方なくソレを先送りにする。
黄金に光る
「さて、 こんだけヤりゃあちったぁ頭に昇った血もスッキリしたろ?
ヤるだけヤってみた。 でもスタンドは出ねぇ。
それじゃあ、
「え?」
ふと我に返ったように無頼の青年を見上げる少女。
てっきり 「諦めろ」 という答えを無言のままに
語りかけられているだけだと想っていたのに。
でもソレとは違う、 全く予期していなかった言葉を目の前の青年は口にした。
「オメーは、 今までオレらの想像もつかねーような 『修羅場』 を何度も潜って来たンだろ?
テメーの思い通りにいかねーなんてこたァ、 一度や二度じゃあきかなかった筈だ。
“そんな時” オメーは一体どうしてきた? 潔く 「諦めて」 ハイ降参か?」
いつになく饒舌に、 眼前の少女へ答えの解りきった質問を問い続ける青年。
その彼の問いに対し、 心中で夢想するように応じる少女。
(……)
そんなコト、 在るわけない。
そんな風に少しでも考えたら、 今日まで生きてはこられない世界だった。
どんなに煌びやかな真名も。
どれだけ輝かしい戦歴も。
ほんの一瞬の油断で、 スベテは灰となる世界。
その後には、 存在の痕跡も遺らない世界。
そんな修羅の
アノ時。 アノ時。 アノ時。
どうして、 きた?
(!!)
脳裡を駆ける、 閃光。
そして行き着く、 確信。
「自在……法……?」
殆ど無意識に等しい状態で、 少女の口唇からひとりごとのように零れた言葉。
「ようやく
ソレに、 目の前の青年だけが両腕を組んだまま反応した。
「……」
まるでいま白昼夢から醒めたかのように、 眼前の青年を見上げる真紅の少女。
その彼は、 夕陽の影響で神秘的な煌めきを裡に宿らせた
ライトグリーンの瞳で、 剣呑に自分を見据えている。
見放されたと、 想っていた。
少なくとも、 この 『能力』 に関しては。
自分でも、 認めたくなかったから
でも本質的には諦めているのとほぼ同義だったのに。
でも、 目の前のこの彼は、 自分の
縋っても、 頼んですらもいないのに、 自分の
「可能性」 をちゃんと考えてくれていた。
恐らく、 すげなく自分に背を向けたアノ時から。
「――ッ!」
夕日の残光のみならず、 鮮やかな朱を差す少女の頬。
なんだかさっきとは別の意味で、 涙まで出てきそうだ。
真紅の双眸から透明な雫が零れないように、 俯き
その少女に対し相も変わらず憮然とした表情のまま、 言葉を紡ぐ無頼の貴公子。
「確かに、 オメーにスタンドの 「才能」 はねぇ。
コレばっかりは生来のモノだからどうしようもねぇ。
だが 「他のヤり方」 で、 ソレに “近づこうとする” こたぁ可能な筈だ。
例えばオレの “
それでもアノ人に勝てる 『スタンド』 ってのはチョイ想像がつかねーな。
ソレと同じコトで、 オメーの “ジザイホー” も
その 『使い方』 とこれからの訓練次第じゃあ、
スタンドと同じかソレ以上の 『
似てはいても
「……」
夕日を背景に、 件の剣呑な視線で自分に語り続ける彼。
そうだ。
そうだった。
何故。
何故、 そんな簡単なコトに気が付かなかった。
“その為の” 自在法なのだから。
過去に戦った、 数多くの紅世の徒。
最近ではアノ壮麗なる紅世の王 “狩人” フリアグネすらも、
己が
行使しようとしたのだから。
無論ソレはもし使い方を誤れば、 時に取り返しのつかない
悲劇や惨劇を産み出してしまうモノかもしれない。
でも。
要は、 使いようだ。
置いていかれた悔しさと彼への対抗心から、 こんな簡単なコトすらも忘れていた。
そう。
いつでも 『対等』 でいたいのなら、 想いだけではダメ。
その
知性も技巧も尽力も備えなければ。
「……」
無言のまま己の裡で沁み出る言葉を噛みしめる少女に対し無頼の貴公子は、
「 “無限” なんだろ? なら使えよ。 可能性が在るンならな」
静かな声でそう告げる。
(ッ!)
このとき、 少女と同じく彼の傍らにいた花京院 典明は、
初めて己の過ちに気がついた。
自分は、 如何にしてこの少女を傷つけず、
彼女に
少女にスタンド能力は発現しないと、
しかし。
この自分の傍らに位置する友人は、
既に
一つの可能性が潰えた時にこそ初めて生まれ出る、
『新たな可能性』 のコトを。
その承太郎を凝視する花京院と時を同じく、
(
先刻の不承な想いもどこへやら、 少女の胸元で揺れるペンダント、
アラストールもその青年の意外な返答に黙然となっていた。
自分も、 少女すらも諦めかけていた可能性を、
先刻の、 みようによっては冷淡な受け答えも、
散々尽くしてみて少女が諦めるのならソレで良し、
もし諦めなければ何か別の可能性を “共に模索する” という
二段構えの心算だったのだろう。
何よりも無駄だと解りつつもその仕儀を少女に教授したのは、
誰よりも彼女という存在を尊重してのコト。
どのような事でも、 ヤってみなければ解らない。
どんなコトでも、ソレを真に願うのなら。
その想いを否定する権利は、 この世の誰にもないという
アノ男なりの
(……)
おそらく。
最初から自在法のコトを口にしても、この少女はきっと聞き入れなかったであろう。
ソレは似て非なるモノ、 第一戦いもせずに敗北を認めるコト等、
少女の一番
(む……う……)
先刻、 空条 承太郎という男を買い被っていたと
落胆しかけたアラストールではあったが、
その承太郎の 『真価』 は実際に値踏みしたモノよりも
遙かに 「高値」 であったコトに(不承不承ながらも)気がついた。
この男は、 解っていた。
少女の願いも、 想いも、 何もかも。
“その為に” どうすれば良いのかさえも。
「……」
自分の想像以上に解っていたというのが、
なんとなく面白くない処ではあるが。
「それじゃ、 やってみる」
心底滅入った表情も
疲労の色も流した汗の痕のみとなった少女が壮気に溢れた風貌で、
アラストールの頭上から明るい声で言う。
二人の若き異能の遣い手は、 遠巻きに彼女の様子を見護るようだ。
(……)
自分が長考に耽っている間、 少女はいつのまにかその場を移動していたようだ。
先述の二人が、 あらん限りに己の
絶え間の無い幽波の拳撃、 蹴撃とで抉り起こされ、
翡翠の晶撃で砕き尽くされた凄惨なる大地。
これまで歩んできた幾多の戦場と引き較べてみても
なんら遜色の無い破壊の中心部にて、
少女は、 静かにその真紅の双眸を閉じる。
「……」
今度は、 最初から勇ましき喊声を挙げるコトはしない。
その代わり神経を研ぎ澄まし、 精神を極限まで集中させる。
そして。
意識を己の存在の裡へと、 より深く潜行させる。
自在法を行使する際の、 最も重要な仕儀の一つ。
(……)
その少女の脳裡で、 朧気に浮かぶモノ。
心象に揺れるまだ視ぬ
まずは、 燃え盛る灼熱の炎。
その渦巻く紅き波濤が創り出す
人型のようにも視えるが、 まだボヤけていて判断がつきづらい。
もっと眼を凝らせば……
否。
違う、 そうじゃない。
自分で。
自分で決めるんだ。
自己の脳裡に疾走る一迅の直感。
その一瞬の閃き。
ソレを信じるんだ。
(!!)
そう。
“鳥” だ。
“鳥” が、 良い。
この世の如何なる存在にも縛られず。
自由に羽根を拡げ紅世の天空を
焔の鳥。
ソレが、 私の生命の
ソレこそが!
私の 『
「ハアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!」
閉じていた双眸を一挙に見開き、 抑えていた喊声を挙げる少女。
限界まで撓め込んで収斂させた存在の力を、
意識の束縛を振り解いて感覚のままに編み上げる。
後は想像力の赴くままに構成する。
ソコに、 一片の躊躇も迷いも在ってはならない。
ただ己の信じるがままに精神を開放し。
この世の何者にも屈しない。
新たなる力を創造する!
「来オオオオオオオオオオいィィィィィィィィィ!!!!!!!!」
見開かれる真紅の灼眼。
空間に捲き乱れる深紅の炎髪。
旋風と共に真一文字に振り抜かれた右腕。
同時に少女の背から鳳凰の翔破の如く一斉に噴き出される、
夥しい量の紅蓮の火飛沫。
少女がフレイムヘイズで在るというコトを知らない者ならば、
間違いなく彼女が 『スタンド使い』 だと錯覚させるに足る、
凄まじい迄の灼熱の威圧感。
しか、 し。
「やっぱり、 まだダメか……」
己の背後を見遣り、 紅蓮の残火以外は何も無いコトを確認した少女は、
がっくりと生身の膝を砕けた石畳の上つき、 残念そうに肩を落とす。
量の多い艶やかな深紅の髪が、 サラサラと首筋を流れ少女の胸元に垂れ下がる。
しかし少女はすぐにその顔を上げ、 自分の真正面に位置する長身の青年を
まっすぐみつめる。
その真紅の瞳に気高き光を宿し、
いつもよりも遙かに凛々しく美しき容相で。
(……)
絶対に、 諦めない。
例え、 今は無理でも。
出来るように成る迄、 何度でも挑戦すればいいんだよね?
そうすれば、 いつか、 きっと。
もっと、 おまえのコトを――。
「……」
無言のまま、 真紅の双眸を透してライトグリーンの瞳に訴える
少女の想いに気づいているのかいないのか、
無頼の青年はその表情変えず
両手をレザーのズボンにツッこんだまま、
「イヤ、 どうやらそーでもねぇようだぜ」
ただ一言、 少女にそう告げる。
「え?」
一瞬何のコトか意味が解らず、
その脇で、
「正直、 驚いたな。 まさか
翡翠の美男子がその琥珀色の瞳を見開き、 自分のある一点を凝視している。
「!?」
見入った視線の先。
見慣れた自分の、 左肩口。
その上で、 静かに動く存在が在った。
(!!)
その外貌は、 まごうことなき鳥の形容。
しかし、 その頸から下の躰の造りは、 紛れもない人間のソレ。
背から脚元まで拡がる深紅の両翼を外套のように身に纏い、
その所為で雌雄の区別が付かない “鳥人” が
周囲に紅蓮の燐光を厳かに振り撒きながら、
少女の右肩の上に、 ただ在った。
「……」
殆ど夢の中に居るようなあやふやな心地で、
自分の左肩を止まり木にしている存在に、
少女はそっと右手を差し出す。
(……)
少女に留まっていたソレは、 まるで意志が在るかのようにソコから軽やかに跳躍し、
外套のような両翼を大きく展開してその裡に多量の空気をはらみながら、
フワリと差し出された掌の上に着地する。
そして。
『KU……UU……WAAA……』
鋭い鉤形の嘴を微かに開き、 産声のように小さく
まるで、たったいまこの世に渡り来た、
新生の紅世の “徒” で在るかのように。
「あ……ッ!」
今日一番の輝きを以て、 無頼の青年に嬉々とした表情で向き直る少女。
件の青年は少女にしか解らないほど小さな、
しかし他の誰よりも優しげな微笑をその口唇に浮かべ、
「フッ、 まぁ初めてにしちゃあ、 巧くいったンじゃあねーか?」
クールな風貌の中にも緩やかな色を仄かに宿し、 そう告げる。
「私もッ! 自在法にこんな使い方が在るなんて想いもしなかった!!」
慮外の出来事に、 喜悦満面の表情で白金の青年に頷く深紅の少女。
「まぁ取りあえずは、その “サイズ” を自由に換えられるようにするのが
当面の課題ようだな。 『スタンド使い』 にしろ “グゼノトモガラ” にしろ、
相手をするにはチョイとばかり
「ウン!」
相も変わらずの冷静で論理的な素っ気ない応答だが、
今の少女に取ってはソレが真夏の夜風よりも爽やかに感じられる。
そうして表情を輝かせる少女の傍らで、
「ボクのハイエロファントも、 最初から今のような
子供のように小さい姿から始まった。
『スタンド』 には固有の形体のまま姿を変えないモノと、
本体の 「成長」 に合わせて共に姿を変えていくモノと2パターン在る。
どうやらシャナ、“君のは” 後者らしいね」
翡翠の美男子が爽やかな声で言う。
先刻の悲嘆にくれた想いなど端から存在していなかったかのように、
澄やかに晴れ渡る少女の心。
一つの壁を越え、 新たなる領域に足を踏み入れるコトの出来た歓び。
今までも同じような体験が無かったワケじゃないけれど、
想うようにいかず苛ついて、 傷ついて、 当たり散らして、
何かメチャメチャな今日一日だったけれど。
でも、 悪くない。
まるで、 悪くない。
ソレは、 きっと。
目の前の “コイツ” が、 ずっと見護ってくれていたから。
「……」
無口で、 無愛想で、 不器用で。
でもいつだって、 自分のコトを何よりも大切に想ってくれていた、
“アノ
私を、 信じてくれていたから。
金色の斜陽が映す神秘的な姿を見上げるようにして、
少女は彼に視線を注ぐ。
その彼女の胸元で、 一人喪心する王の姿が在った。
(
比類無き紅世の王、 “天壌の劫火” アラストール。
その深遠の裡で鮮やかに甦る――。
熾烈なる紅蓮の焔を背景に神聖な戦装束をその身に纏った、
一人の、
“ソノ者” が、 今生の
精鋭なる重剣士と凄絶なる狂獣、 至純なる妖精に霊妙なる呪術士他
在りと在らゆる幻想世界の住人を具現化して混成された、
焔の一大千軍万魔。 『
その 「一体一体が」 通常のフレイムヘイズ等足下にも及ばない程の力を有し、
更にそのスベテを完全に支配下に置いていた超絶無比なる『
たったいま少女の生みだした小さな存在などは
大海を前にした
だが、 しかし。
その存在の小さな姿は、 否応無しにアラストールの心中を揺さぶった。
力は微弱で構成も細小で在ろうとも。
“彼女” の創り出したソレと全く同じだったのだから。
(……)
その。
極大なる炎の魔神の胸中を、 一人の王の純然な想いを、
知り得る者は誰もいない。
ソレは、 紅世で生まれた一人の男と、 現世で生まれた一人の女、
その二人以外決して触れるコトを赦されない、
この世で二人だけのものだったから。
(……)
彼女の在りし日の姿を。
紅蓮の吹き荒ぶ戦場でその 『
止め処なく溢れる記憶の奔流の中で想い起こしたアラストールは、
やがて一つの事実に辿り着く。
たった今気がついた、 一つの 『真実』 に。
(我の力を受け継いでいる以上。 我の存在を身に宿している以上。
その炎の 「属性」 が永きに渡りソレを行使してきた
“アノ者” に
故に行使する自在法の構成が近似していれば、
“アノ者” と似通った姿を執るのも当たり前のコトだ)
ならば、 しかし。
たったいま、 少女の手の中で生まれた小さな存在は、
“初代・炎髪灼眼の討ち手” と “二代目・炎髪灼眼の討ち手”
その二つの存在の 『融合体』 と云った処だろうか?
だがそれよりも、 意を向けるべきは、 この事実。
誰よりも永きの時の流れの中、
幾千の戦場を “彼女” と共に歩んだ自分自身ですら、
予想も出来なかった『真実』
“彼女” は、
その愛しき姿のスベテ。
その
一片も遺さず紅蓮の灰燼と化そうとも。
その存在は。
決して滅びるコトは無く、 自分の存在の中で生き続けていた。
そして。
ずっと、 見護ってくれていた。
自分、 を。
そして。
そし、 て。
いま、 他の何よりもかけがえのない、
二人の想いの結晶で在るたった一人の少女。
“シャナ” を。
“いつでも……傍に……”
空耳。
本来、 聴こえる筈のない声。
もうどれだけ追い求めようとも、 決してこの世には存在しない声。
でも、 聴こえた。
確かに、 聴こえた。
神遠なる紅世の王、 “天壌の劫火” アラストールにだけは。
(消えぬ……のだな……)
胸中に沁み
(ヒトの生きた 『証』 は……譬え……何が在ろうとも……)
心象の裡で甦る、 彼女のけがれなき笑顔。
夕闇の渇いた風が、 傍で鳴いている。
まるでこの世ならざる一人の王を、 慰撫するかのように。
「……」
その王はやがて、 自分の存在を宿す少女と同様、
目の前の一人の男に視線を向ける。
たったいま気がついた、 そして確かに実感した、『真実』
ソレを解き明かすキッカケと成った、 遍く星々の存在を司る青年を。
「……」
その青年は自分の視線に気づいていないのか、
或いは知っていて意図的に気づかないフリをしたのか、
少女のようにこちらへ視線を返すコトはなかった。
(……)
ソレが、 青年の自分に対する報いだと解したアラストールは、
返礼として自分も彼から視線を外す。
言葉は要らない。
現世と紅世。
例え異なる世界で生まれた存在であろうとも、
同じ 『男』 で在るのなら。
ただソレだけで、 充分事足りた。
「……ところで、コイツの “名前” は一体どうするんだ?」
再び少女に視線を戻した青年が、静かな口調で問いかける。
「ふぇ? 名前?」
微細な火の粉を散らしながら、 手の中でトコトコ動き回る小さな存在に
すっかり目を奪われていた少女は、 不意を突かれたような表情で青年に向き直る。
「何にでも “名前” はある。 聖書にもそう書いてあるしな。
スタンドは生命の力でその
だからその 『能力』 に合った “名前” が在るコトに拠って、
自分の思い通りに動かし易くなる筈だ。 まっ、 オレの経験で言うンだがよ」
承太郎はそう言いながら細めた流し目で一度、 少女の胸元に視線を向ける。
(……)
今度はペンダントの方が、 敢えて青年の視線に気づかないフリ。
その上で紅髪の少女がやや狼狽した様子で、 青年の問いに詰まる。
(名前……名前……!? どうしよう?
“この子” に相応しい名前……名前……)
想えば、 何かに 「名前」 をつけた記憶等、 殆どない。
昔、 『天道宮』 でのフレイムヘイズ修業時代、
自分の稽古相手となっていた一人の “徒” を、
その外形からそのまま 「シロ」 と呼んでいたくらいだ。
「……」
思い悩んで被った黒いキャップから煙でも吹き出しそうなほど
考え込む少女に、 青年がやや嘆息気味に助け船を出す。
「何もそう
あんまり
別に何でも、
好きなミュージシャンの名前でも曲のタイトルでも。
何かねーのかよ?」
「う、 うん……でも……」
童謡や古典派のクラシック、 それと賛美歌くらいしか知らなかった昔とは違い
最近ヒマな時はよく承太郎の部屋に出入りしているので、
近年の若者向けの楽曲も知らないわけではない。
でも。
そのどれもがどうも、 自分の 『
相応しくないような気がする。
しかし自分の好きな曲の中から何か名付けようにも、
まさか “交響曲第二番・第三楽章・
とか名付けるわけにはいかないだろう。
(!!)
思い悩む少女の脳裡に、 突如舞い降りる天啓。
そうだ。
そう、 だ。
この子は、 私の “分身”、もう一つの、 私の存在。
だから。
だから!
「名前、 決まったわッ!」
俯けていた視線を勢いよく上げ、
凛とした真紅の双眸で真っ直ぐ少女は彼を見る。
そして。
その宝珠のような口唇から。
高々と己が 『
「この子の、 名前は……」
『
本体名-空条 シャナ
能力-まだ産まれたばかりなので不明。
破壊力-E スピード-C 射程距離-E(体から離れると数秒で消滅する)
持続力-D 精密動作性-E 成長性-???
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