STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『NEXT STAGEⅤ ~Bye For Now…~ 』

 

 

【1】

 

 

 夕闇に沈む街を見下ろしながら空条邸へと続く

長い坂道を昇る帰路は穏やかなものだった。

 激しい訓練内容によって付いた傷痕は自在法で消し、

更にアラストールの放った “清めの炎” で肉体を浄化した為

3人の姿はいま、 その全身を聖水で清めたかのような汚れ無きモノとなっている。

 帰路の途中、 道端の自販機で買った白桃エキス入りの天然水が

渇き切った少女の小さな喉を心地よく潤した。

 

「……」

 

 これまでは栄養面よりも単に 「甘味」 の方を最重要視し、

糖度の高い缶飲料ばかりを口にしていたのだが

今日のように激しい訓練後は寧ろ水分補給を目的とした

糖度の低いアイソトニック・ウォーター等方が飲み易いし

また美味であるというコトが最近解ってきた。

 その自分の両脇でも長身の美男子二人が、

同じようなラベルのスポーツドリンクを口に運んでいる。

 互いに交わす言葉は少ないがそれでも

奇妙な爽やかさに充たされた静寂の帰路だった。

 

「それじゃあ、 ボクはここで」 

 

 夕風にシャツの裾を揺らしながら、 花京院が静かに言う。

 そして夕闇に陰る交叉路の方へと足を向けた彼を少女の声が呼び止める。

 

「いいの? ホリィ、 おまえの 「分」 も用意しちゃってるわよ」

 

 意表を突かれたように淡い茶色の髪を揺らしながら

振り返る花京院とは裏腹に、 少女の顔は素っ気ない。

 実は今日の訓練に出向くとき、 花京院も合流する事を承太郎の母親である

ホリィに伝えたおり、 それならば彼も一緒に夕食へ招いて欲しいとの旨を

彼女から言付かっていたのだ。

 無論訓練の方に夢中に成りすぎて、 今の今までスッカリ忘れていたのだが。

 

「……本当、 かい?」

 

 別段少女の事を疑っているわけではないが、

何の脈絡もない唐突な申し出だったので

花京院は反射的により信頼性のある人物の方へと是非を問う。

 

「……」

 

 問われた人物は件の剣呑な視線のまましばらく押し黙っていたが、

やがて淡い嘆息と共に口を開き、

 

「……やれやれ、 “アノ女” の考えそーな事だ」

 

と誰に言うでもなくそう呟く。

 シャナに言伝を頼む辺り、 後の展開を充分に予想している。

 おそらく自分が頼まれても、 「自分で言え」 と素っ気なく突っぱねたコトだろう。

 この、 妙な処で勘が冴え、 先を見越す洞察が鋭いのは

我が母親ながら見事だと褒めるべきなのだろうか? 

 しかし、 そんな気が微塵も起きないのは何故だろう。

 

「……」

 

 不承不承の面持ちのまま、 学帽の鍔で視界を覆う無頼の貴公子を後目に

少女の胸元から荘厳な声があがる。

 

「奥方からの深謝に絶えぬ心遣い。

粛 々(しゅくしゅく)と頂戴するが良かろう。

ソレを無に帰すような所行は赦されんぞ。 花京院」 

 

 静かだが、 有無を言わさぬ強い口調でアラストールが、

 

「一人暮らしなんでしょ? おまえ? 

だったら用意の手間が省けていいと想うけど」

 

その上で再びシャナが素っ気なく言う。

 

「……」

 

 食事に招かれる物言いとしては、 随分とまた高圧的且つ淡々としたモノだが

自分がこのまま同道するコトに二人(?)の異議はないらしい。

 しかし美貌の淑女お招きとはいえ、

その好意に甘えて気安く乗ってしまって良いモノだろうか?

 生真面目な性格故に逡巡する花京院に向け承太郎が、

親指を立てソレを流す仕草で 「いこうぜ」 と促す。

 

「今日の訓練内容を整理しておきてぇ。

夕飯(メシ)でも食いながら話そうぜ。

“仕上げ” も御破算になっちまったコトだしよ」

 

「……」 

 

 その、 少女以上に素気ない仕草と言葉。

 でもただソレだけで、 胸の裡の葛藤はウソの消え去ってしまう。 

 

「何よ。 私が悪いっていうの」

 

 押し黙る花京院の下から、 据えた視線で見上げるように自分を睨む少女に対し、

 

「さて、 な」

 

承太郎は口元に少しだけ(よこしま) な微笑を浮かべ、

両手をズボンのポケットに突っ込んだまま先に行ってしまう。 

 

「こら、 待ちなさいおまえ! 逃げるなぁッ!」

 

 少女もブーツの踵を鳴らし駆け足でその後を追う。

 

「……」

 花京院もやがて口元に穏やかな微笑を浮かべ、 二人に続く。

 夕闇に沈みゆく太陽。

 その残照が坂の上の三つの影を、 どこまでも遠くへと延ばした。

 

 

 

 

 

【2】

 

 

「おお、 戻ったかシャナ。 “例のモノ” 届いておるぞ」

 

 玄関先で編み上げブーツの、

幾重にも交差した革紐を丁寧に解いていたシャナに

居間のドアを開いて出迎えたジョセフが背中越しに声をかけた。

 

「ホントッ!?」

 

 嬉々とした表情で頑健な躯付きの老人へ振り返った少女は、

靴を脱ぐ間ももどかしいのかそのまま両足からブーツをすっぽぬけさせて、

檜張りの廊下を走っていってしまう。

 少女が無造作に中空に放ったブーツが宿主の脳天と顔面、

それぞれに直撃しそうになったので素早く出現したスタンドの腕が

ブーツを掴んでガードする。

 

「……」

 

「……」

 

 どうやら、 意識的なスタンド操作を心掛けるコトによって

本能的な反射運動等もソレに付随して向上しているようだ。 

 想わぬ発見だったが認識した事態もまた想わぬモノだったので、

コレでいいのかと二人のスタンド使いは微妙な表情のまま顔を見合わせる。

 そのまま無言で少女のブーツを玄関先に置き、

二階の承太郎の私室へと歩みを進める。

 夕食が準備されるまではまだ多少時間があるので、

この後は部屋で話をするか、 地上デジタル放送のスポーツチャンネルでも観て

時間を潰すコトに成りそうだ。

 涼やかな初夏の宵。

 訓練で(ほて)った躯を宥める為に、 静かに過ごしたい処。

 

「それにしても、 ()()()()って一体何なんだろうね?

彼女の様子からすると、 何かとても重要なモノらしいけど」

 

 特に気に掛かったわけではないが無言でいるのもなんなので、

世間話がてら花京院が承太郎に問いかける。

 

「さぁな。 ()()パンかなんかじゃねーか?」

 

 承太郎の方もなんとはなしにその質問に応じる。

 

「パン?」

 

「あぁ。 アノ甘ったるくて、 堅ぇンだか柔らけぇンだかよく解らなくて、

『メロン』 とは名ばかりの “アレ” だ」

 

「詳しいじゃないか?」

 

 少しだけ瞳を澄ました花京院が冷めた口調で問う。

 

「そりゃあ行く先々で10個以上も喰わされりゃあな。

不味いたぁ言わねーがどうもオレの口には合わねー。

でも喰わなきゃ喰わねーであのヤローは」

 

 そこで承太郎の歩みが一度止まる。

 そして真正面から視線を合わせる、 若き眉目の 『スタンド使い』

 

「……」

 

「……」

 

 件の戦いが終わってから、 その最初の日曜日。

 ジョセフとホリィの (熱烈な) 勧めで自分の住むこの街を、

シャナに案内したコトが在った。

(いま想えばアノ時の二人の笑顔が妙に造りモノめいていた気がする)

 行きつけのショップや生活必需品が揃っているモール、

空気の綺麗な森林公園や地元の名所等を紹介している時は

少女も静かに応じていただけだったのだが、

道すがらメロンパン専門の屋台や自営業のパン屋をみつけると

必ずそこへつき合わされた。

 そして紙袋から溢れるほどのメロンパンを抱えて戻ってきた少女と共に、

アスファルトに備え付けのベンチで小休止。 

 この行為が計5回繰り返された。

 甘いモノは苦手だと確か少女に明言していたと想うが、

そんな記憶は異次元世界の遙か彼方にまで飛んでいたのか

一度の例外もなく少女にパンを勧められ、

ソレへ否応も無しに応じるコトを余儀なくされたアノ時の自分。

 何分少女が (非常に稀なコトに) 自腹で買ってきたモノである上に

パンを勧める笑顔が余りにも純粋で無垢だった為、

断るに断り切れなかったのだ。

 清楚なプリンセス・ワンピースにその身を包んだ小柄な美少女の隣で、

ラフな学ランを着た長身の男が苦々しい顔でメロンパンを(かじ)っていた図は、

(はた)から見ればさぞや異様に映ったコトであろう。

 通報されなかったのが不思議なくらい。

 麗らかな陽春の花片に彩られた、 甘いながらも苦い記憶である。

 

「……」

 

 当然()()()()()()()()素面(シラフ)(そうでなくても)

で花京院に話せるわけもなく、 逆に眼前に位置する中性の美男子は

うら冷えた視線で訴えるように自分の瞳を覗き込んでいる。

 そして気まずい雰囲気に陥る二人の前に、 救世主が登場。

 

(!)

 

 前方に位置する茶室の開き戸から、

自分の祖父であるジョセフ・ジョースターが

何故か満面の笑みでこちらに手招きをしている。

 その人懐っこい笑顔が何となく勘に障り、

いつもなら思いっ切り無視(シカト)する所だが現状が現状なので

承太郎は仕方なくソレに応じる。

 

「何か用か? ジジイ」

 

 そう言って茶室の方へと向きを変える承太郎に、

花京院も無言で連れ添う。

 そして。

 

「!」

 

「!?」

 

 馥郁(ふくいく)足る香木の薫りで充たされた茶室の中央に、

その 『姿』 は在った。

 セーラー服姿の、 シャナ。

 先程まで着ていた服は、 キレイにたたまれ足下に置いてある。

 しかし。

 見慣れた筈の少女のその姿が、 今日は一際異彩を放って承太郎の瞳には映った。

 制服の基本的なデザインは、 今までと特に変わってはいない。

が、 制服の裾が従来のモノより若干短く、

スカートの布地も機動性を重視して薄くなっているようだ。

 でも何よりの違いはその右肩口。

 燃え滾るような灼熱の焔をモチーフにした高 十 字 架(ハイクロス)に、

黄金の鎖が交叉して絡みついた紋 章(エンブレム)がセーラー服に刻み込まれている。

 まるで、 少女の存在の象徴で在るかのように。

 承太郎の着ているモノと同じ、 SPW財団系列のブランド

『クルセイド』 に特注で造らせた、 この世に一着しか存在しないセーラー服。

 本来のシンボル的な意味合いは(ナリ)を潜め、

明らかに戦闘用に特 化(カスタマイズ)された縫製(ほうせい)が随所に施してある。

 その影響でいつもより二割増しに成った凛々しい様相で、

威風堂々とこちらを見る少女に対し

二人のスタンド使いから出た最初の一言は。

 

「校則……違反だな……」

 

「うん……」

 

「!?」

 

 何故か思いっ切り期待を裏切られた表情で、

少女はその(まなじり) を見開いた後、

憤然とした面持ちで承太郎の前に詰め寄る。

 

「じゃあおまえの “コレ” は何なのよ?」

 

 そう言って他の女生徒には触らせたコトのない学生服の裾を掴み、

少女は無頼の貴公子に詰め寄る。

 

「オメーは 「不良」 じゃねーだろ」

 

「ボクはまだ制服が届いてないから」

 

「うるさいうるさいうるさい!

兎に角、明後日からコレ着ていくから!」

 

 隣で何故か返答する花京院も一緒に、

少女は鋭い一喝で両者の言葉を吹き飛ばす。

 

「勝手にしろ。 風紀のセンコー辺りがうるせーと想うが、

(ナシ)は自分でつけろよ」

 

「イヤ、 そこまでの覚悟は無いんじゃないか?

あの先生も 「再起不能」 にはなりたくないだろうし」

 

 各々そう言って再び自室の方へと足を向ける両者に、

セーラー服姿のシャナもついて来る。

 涼やかな初夏の宵。

 どうやら随分と騒がしい、 否、 賑やかになりそうだった。 

 

 

 

 

 

【3】

 

 

 その日の夕食後。

 空条邸お決まりの屋根瓦の上で視た夜の街は、

今まで視たどの景色よりも鮮やかに視えた。

 寝間着を揺らす夜風も、 何よりも優しく頬を撫ぜた。

 ただみんなで集まって、 共にテーブルを囲むという、 ありふれた行為。

 たったそれだけのコトなのに、 とても楽しかった。

 まるで、 今まで自分がずっと追い求めていた、

意味も実体も無いものを、 突然分け与えられたかのように。

 

「!」 

 

 階下、 承太郎の部屋の位置から聴き慣れた洋楽のメロディーが

微かに外へと洩れて耳に届く。

 多分窓が開いている筈だから、 いきなりここから部屋の中へと飛び込んだら

ビックリするだろうか?

 ……

 でも、 今日は止めておこう。

 アイツも(表情には決して出さないが)訓練で疲れているだろうし、

明日からの為にゆっくり休ませてあげよう。

 何事もメリハリが肝心。

 そう想いながら一度深く頷いたシャナは、

その後同じ年頃の少女達がそうするように

無垢で柔らかな笑顔を浮かべ、 組んだ膝の中へと埋める。

 

「……」

 

「……」

 

 自分も、 アラストールも、 互いに無言。

 それでも、 互いに感じている事は、 心から望んでいる事は、

同じだと想えた。

 

(このまま……今日みたいに……)

 

 そうやってずっと、 アイツと訓練を続けていけば。

 

(いつか……必ず…… “アノ男” 以上に強くなれる……!)

 

 直感以上の、 たしかな確信。

 

(私とアイツが怖くて……その姿をみせないのなら……好きにすればいい……)

 

 その間に、 もっともっと強くなってやる。

 

(やるべきコトは……ううん…… “ヤれるコト” はきっと……

数え切れないほどたくさん在る……!)

 

 アイツとの連携技、 融合業、 その他様々な戦闘コンビネーション。

 ソレらの可能性を考えているだけで、 今から理由もなくゾクゾクしてくる。

 

(勝てる……! 絶対……! アノ男に……ッ! 私とアイツで……!!)

 

 未だ以てその居所は解らないが、 きっと、 そう遠くない未来。

 共に成長した能 力(チカラ)を開放して、 統世王の宮廷内を駆け抜ける二人の姿。

 預言者の携える啓示のように、 一切の歪みなき確定的な映 像(ヴィジョン)

 

(その先には……きっと……きっと……!)

 

 ワケもなく裡で脹れ上がる期待が。

 これからきっと訪れる無数の “希望” が。

 少女の存在を充たしていく。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

“こんな日々が、 ずっとずっと、 続いていけばいい”

 

“きっと、 ずっとずっと、 続いていく” 

 

 

 

 

 

 この現世に産まれた者で在るならば、

必ず誰もが想い描くであろう、 そんな当たり前の日常風景。

 ささやかだが、 他の何にも代えられない

平穏なる、 人間としての 『幸福』

 ……

 無理もない事だが、 このとき、 この少女は、

ソレがそのまま継続していくと、 何の根拠もなく想い込んでいた。

 生まれて初めて感じた。

 幾千の闘いの日々の果て、 ようやく辿り着いた。

 優しく温かな、 自分の 『居場所』

 名も無き少女の、 たったそれだけの、 小さな 「願い」

 しかし。

 ソレが、 いともたやすく崩れ去る、

余りにも儚い 『幻想』 の産物で在ったコトを。

 この後、 少女(シャナ)は、 想い知らされるコトになる。

 文字通り、 嫌という程に。

 

 

 

 

 

“因縁は消え去らない”

 

“運命は変えられない”

 

 

 

 

 

 残酷なる、 この世の 『真実』

 車輪はただ、 回り続ける――。

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

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