STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『DIOの呪縛 ~Curse of The World~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 

 

“その日” は、 訪れた。

 何の前触れも、 脈絡も無く。

 ただ、 当たり前の事で在るかのように。

 訪れた――。

 

 

 

「フゥ……」

 

 承太郎には内緒で行った早朝の秘密特訓を終え、

いつものように広い檜造りの浴槽にゆっくりと浸かったシャナは、

一昨日前届いた丈のやや短い、 そして右肩口に灼熱の高 十 字 架(ハイクロス)の紋章が

刻まれた特製のセーラー服に袖を通し、 上気した頬と緩んだ笑顔で

()()()()()()()ダイニング・ルームの方へと足を向けた。

 特訓の上々の成果による充足感と初夏の朝風呂の清涼感とに身を包まれながら、

“普段通りに” そのドアに手をかける。

 いつもなら、 扉の隙間越しから洩れてくる淑女の可憐な鼻唄が

今日は()()()()()()()()気づかないまま。

 

「ホリィ、 何か手伝う事」

 

 扉の縁に手をかけ、 ひょこっと顔を覗かせる少女。

 その黒い瞳に、 最初に映った、 モノ。

 

「!!」

 

 常日頃手入れの行き届いた、 塵一つないフローリングの床にブチ撒けられた、

無数の調理器具と色鮮やかな朝の食材。

 開け放され内部の蛍光が外に漏れだした大きな冷蔵庫の隙間から、

細く白い、 一つの手が見えた。

 

「………………ぇ?」

 

 その光景を目にした数拍の後、 ようやく少女の口から漏れた声は、

傍にいるアラストールにも聞こえないほどか細く小さなもの。

 意識が認識するには、 余りにも現実性を欠いた惨状。

 その表情に笑顔が凍ったように貼り付き、

少女は口を半開きにしたまま数秒そこに停止する。

 沈黙。

 在るのは、 ただ、 沈黙。

 眼前の出来事に対する、 その回答の糸口すら与えられない残酷な静寂。

 

「ホ……リ……ィ……?」 

 

 かろうじて繋がっていた一抹の神経が、

足下の覚束無(おぼつかな)い危うい歩調で少女を進めていく。

 しかし床を踏みしめる足裏にはまるで現実感が無く、

水のない海面の上にでも立っているようだった。

 

(……?……?……???)

 

 少女の足を進ませるのは、コレが 「現実」 の筈がないという

断崖の薄氷を踏むかのような危うい願望。

 しかし。

 やがてその瞳に映るモノは、 現実。

 どれだけ厭でどれだけ認めたくなくとも、

絶対に覆るコトのない、 ただの 『現実』

 

「ホ……リ……ィ……?」

 

 半ば夢の中にでもいるような心持ちで、 解れた笑顔のまま

苦しげに横たわる淑女の前で膝をつき、 そのか細い躰を抱え上げる少女。

 その口唇から洩れる押し殺したような苦悶の吐息も、

布越しに伝わる異常な体温も、 いまの少女には何の意味も成さない。

否、 感じられない。

 

「むう……! 何という……凄まじい……熱だ……!」

 

 シャナと時を同じくして、 目の前の惨状に喪心していたアラストールが

ようやく我を取り戻して声を荒げる。

 淑女の躰を蝕むその 『元凶』 を、

己の意志を現世に表出させるペンダント型の神器、

“コキュートス” 全体にヒシヒシと感じながら。

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 そして。

 まるで狙いをすましたように、

その 『元凶』 は “姿” を現す。

 淑女の躰を透して実体化するソレは、

夥しい数の、 美しき “(イバラ)

 周囲をバラに酷似した双葉が取り巻き、

その先端に禁断の実を想わせる嬌艶な果実の結ばれた、

生命の 『幻象(ヴィジョン)

 ソレが周囲に神聖なパールホワイトの燐光を煌めかせながら、

淑女の全身を覆い尽くすように絡みついていく。

 

「幽……波紋……ッ!」

 

 上で曖昧な状態へと陥っている少女の代わりに、

いち早く現状を認識した胸元のアラストールが、 絶句したような声を漏らした。

 

「な、 なんというコトだ……! 奥方にこの能力(チカラ)が……!

しかもその発現の影響に 『器』 が堪えきれず、 (こぼ)れ初めている……!」

 

 悔恨を滲ますように、 一人の紅世の王は己の言葉を噛みしめた。

 

「不覚……ッ! “彼の者(DIO)” の存在の影響は、

盟友と空条 承太郎のみに止まり、

奥方には異変が視られないというコトから閑却(かんきゃく)に捉え過ぎていた……!

()()()()()()()()()()ッ!」

 

 普段は少女の胸元で静かに光を称える漆黒の球が、

今は何度も紅く発光しながら言葉を紡ぐ。 

 

「“フレイムヘイズ” にしろ 『幽波紋使い』 にしろ、

この世ならざる領域に位置する異力(チカラ)は、

その殆どが己が 「心奥」 に宿る想いの強さで繰るモノ!

云わば 『闘争の本能』 で操るモノッ!

慈愛と友愛とでその 『器』 を充たされた奥方には()()()()()!! 

彼の者の幽血の “呪縛” に 「叛逆」 する力が皆無に等しいのだ!!

故にその異力(チカラ)が、 己が存在を蝕む結果となってしまっているッッ!!」

 

 己の眼前で苦悶の吐息を漏らしながらも、

この世ならざる神聖な荊に取り巻かれて瞳を閉じる淑女の姿は

不謹慎とはいえ深い淵に彩られた、 背徳的な美しさを視る者に想起させた。 

 

「……(まず)い……このままでは……! 

奥方自身に抗う術が無い以上……その存在の灯火は何れ尽きる……

彼の者の “呪縛” に()り殺されてしまう……!

“王” との 『契約』 に失敗したフレイムヘイズが、

跡形もなく焼滅してしまうように……!」

 

 目の前で横たわる淑女の苦悶を、

ほんの僅かでも和らげる事が出来ない己に

口元を軋らせる紅世の王。

 その、 背後。

 ソコから唐突に立ち昇る、 二つの途轍もない存在の気配。

 

「ムッ!?」

 

 眼前に生い繁る幽波紋(スタンド)の荊を背景に、

咄嗟に振り返ったアラストールの視線の先。

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!

 

 

 

 

 

 淑女の父親、 ジョセフ・ジョースター。

 淑女の息子、 空条 承太郎。

 その二人が、 愕然とした表情でこちらを見据えていた。

 

「……」

 

「……」

 

 無言で自分の傍に、 力無く歩みよった二人に対し

ずっと押し黙り続けていたシャナが、 ようやくその口を開く。 

 

「承……太郎……? ジョセ……フ……? ホリィ……が……ね……

ホリ……ィ……が……ね……!」

 

【挿絵表示】

 

 

 震える声と口唇で少女は、

まだどこか夢だと想い込んでいる危うい心持ちのまま

瞳に涙を浮かべた悲痛な笑顔で、 縋るように二人へ訴える。

 見た目はあどけない少女とはいえ彼女もまた歴戦の戦士。

眼前の事態を理解出来ていないワケではない。

 ただ。

 意識が()()()()()()()()()頑なに拒んでいるのだ。

 未だ、 目の前の出来事を 『現実』 だとは受け止められず

怒り狂えばいいのか泣き叫べばいいのかも解らないまま、

幻想と現実の狭間に一人取り残されている。

 

「……ホ……リィ」

 

 少女の問いには応えられず、 か細い声でようやくそれだけ搾り出したジョセフは、

割れた食器の破片が散乱した床に膝をつき、 娘の頬をそっと撫でる。

 

「…………」

 

 一方空条 承太郎は、 俯き加減で口唇を噛みしめ、

その細い顎を微かに震わせていた。

 無言で何も言わず表情も学帽の鍔で伺えないが、

逆にそれが凄まじい迄の怒りを、 嫌が応にも周囲へと感じさせるコトとなる。

 

「……う……うぅぅ……お……おぉ……おおお……」

 

 自らの最も怖れていた最悪の事態が、

目の前で遂に現実となってしまった事を嫌が上にも突き付けられたジョセフは、

寝間着姿のまま床に蹲りその全身をワナワナと震わせる。

 そし、 て。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………!!!!!!」

 

 ジョセフは呻いた。

 美しきスタンドの絡みつく、 最愛の娘の傍らで。

 まるで溶解した水銀でも呑み下すかのように呻いた。

 

「……」

 

 その盟友の姿をただみつめる事しか出来ないアラストールは、

生まれて初めて、 灼き尽くしてやりたい程怒りを己に感じた。

 

「……盟友(とも)よ……遺憾(いかん)な……事となった……」

 

 かける言葉が見当たらず、 ようやくそれだけ零れた、 空虚な言葉。

 どうしようもない。

 何もしてやれない。

 ()()()()()()()()()()()()。   

 

(……)

 

 アラストールの心中で意図せずに湧き出る、

“この男” と出逢って以来生まれた、

少女と共に織りなした幾つもの追想。

 共に語り合い、 笑い合い、 人間と紅世の徒との境界を越えて

互いにその存在を認め合った繋がりだった。

 いつのまにか、 自分にとっても、

他に掛け替えの無い存在となっていた男だった。

 その者が、 一番辛い時、 苦しい時、

自分はその痛みを和らげる事も肩替わりしてやる事も出来ない。

 己の目の前でただ絶望に嘆くジョセフの姿を目の当たりにしながら、

何が盟友だ……ッ! とアラストールは自虐的に吐き捨てた。 

 

「ワシ……の……ワシの……!

最も……! 最も怖れていたコトが……!!」

 

 呻きながらも喉の奥底から言葉を絞り出したジョセフは、

心中で渦巻く無数の感情のまま、 堅く握った拳で床を叩く。

 何度も。 何度も。 何度も。

 目の前で起こったどうしようもない 『運命』 の悲劇に対して、

己の想いをブツけるかのように。

 

「無いのではないかと……想っておった……

DIOの……魂の “呪縛” に対する……

『抵抗力』 が……!

この子は……この “子” は……!

生まれてこの方ただの一度も……

誰かを強く憎んだり恨んだりした事はない……!」

 

 遠い昔――。

 今は亡き初代スピードワゴンから伝えられた自分の祖父、

“ジョナサン・ジョースター” の生涯。

 その話を幼いホリィに聞かせた時も、

この子はスベテの惨劇の 『元凶』 と成った

“ディオ・ブランドー” に対してさえも、

『誰にも愛されなくてかわいそう……』

と一人彼の境遇を憐れんでいた。

 その、 自分の祖母譲りの、

この世の何よりも温かく優しい心。

 ソレは、 どれだけ時を経ても全く変わっていなかった。

 あどけない少女の時と同じまま、

ホリィの心の中に存在していた。

 

「しかし……ソレが……()()()……!

このような事にぃぃぃぃ……!!」

 

 哀切に充ち充ちた声で、 ジョセフは再び声を引き絞る。

 しかし悲嘆にくれる父親の前で、 その娘は閉じた瞳を開く事はない。

 

(……ッ!)

 

 そのジョセフの脳裡に、 一人の 『男』 の姿が浮かんだ。

 己のスベテを自分に託し、 神風の砂嵐の許、

一人鮮赤と共に散っていった者――。

 いつも何かしてもらうばかりで、 いつも助けられてばかりで、

結果的には何もしてやれなかった、

この世でたった一人の、 自分の、 親友。

 

(シー……ザー……!)

 

 消えない過去の疵痕と共に、

彼の存在が、 嫌が応にも己の無力さを突き付けた。

 お前は誰も護れない。

 お前は誰も救えない、 と。

 

「オイ……一体いつまで……()()()()()()つもりだ……ッ!」

 

 目の前で苦悶に伏するホリィの傍らで、

ただただ狼狽するしかない三者に突如、

地獄の底から這いずり出してきたかのような、

或いは爆発寸前のマグマを想わせる、

凄まじい怒りを圧し殺した声が頭上から降り注ぐ。

 

(!!)

 

 淑女、 空条・ホリィ・ジョースター。

その、 この世の何よりも掛け替えのない、最愛の息子。

 空条 承太郎。

 彼は、 眼前の事態に困惑するわけでもなく泣き叫ぶわけでもなく、

ただ、“キレて” いた。

 以前、 自分と無関係な少女が淀んだ悪意に蹂躙された時とは

比較にならないほどの、 凄まじい威圧感(プレッシャー)で。

 深遠なる紅世の王 “天壌の劫火” アラストールにすら

畏怖を抱かせる程の脅 嚇(きょうかく)で。

 ただ、 ()()()()()()()()

 その承太郎が、 ジョセフの寝間着の襟元を掴んで、

力任せに無理矢理床から引き吊り剥がす。

 

「目の前の事態にビビりあがって! パニくってッ!

泣き言いってりゃあソレで何かが解決すんのかッッ!!」

 

 まるでジョセフの胸の裡を見透かしたかのように

承太郎は怒りの炎が燃え盛るライトグリーンの瞳で、

困惑した祖父の瞳を真正面から貫く。

 

「言え……! 『対策』 を……!!」

 

 闇夜の肉食獣のように散大した双眸で詰め寄る実の孫に対し、

ジョセフはただ困惑した表情で応じるのみ。

 彼もまた、 目の前の事態を完全に認識しているわけではない。

 心のどこかでは、 これは現実ではない、 夢であって欲しいと想っているのだ。

 

(!?)

 

 襟元に込める力を一切緩めるコトなく

承太郎は勢いのままジョセフの鍛え抜かれた躯を、

脇に設置された食器棚へと叩きつける。

 暴力的な音が室内全域に響き渡り、 衝撃で零れ落ちた

幾つもの食器やグラスが割れて床に散り乱れた。

 

「黙ってちゃあわかんねーだろッッ!! ねぇなら今すぐ考えろ!!

一体今まで何の為に無駄に生きてきやがった!!

このオイボレクソジジイッッッッ!!!!」

 

「やめてッッ!!」

 

 突如、 少女の悲痛な叫びが、 空間を劈いた。

 

「!!」

 

 (まく)れ上がった瞳孔で振り向いた、 視線の先。

 そこ、 に。

 

「やめ……て……ホリィの傍で……大きい声……出さないで……」

 

 そう言って少女は、 自分よりも遙かに長身の淑女の躰を、

労るようにそっと包み込む。

 得体の知れない脅威から、

必死で彼女を護ろうとするように。

 

「こんなに……こんなに……苦しがってる……

フレイムヘイズじゃ……ないのに……普通の……人間なのに……!」

 

 消え去るような声でそう言葉を紡ぎ続ける少女の黒い双眸から、

抑えていたものが一気に溢れるかのように、

透明な雫が零れて淑女の衣服の上に落ちる。

 幾筋も。 幾筋も。

 

「うぅ……ひっ……く……ううぅ……ううううぅぅぅぅぅ~~~~~~~~……」 

 

 もうそれ以上は言葉に成らず、 少女はただ嗚咽を漏らして泣きじゃくるのみ。

 

(……ッ!)

 

 その少女の姿を目の当たりにした承太郎は、 無言でジョセフの襟から手を放し

代わりに皮膚が破れて肉に喰い込む程強く、 己の拳を握りしめた。

 

(……何……ヤってんだ……?)

 

 一瞬の喪心の後に襲ってくる、 途轍もなく重い罪悪感。

 

(テメエで勝手にブチ切れて……

周囲に当たり散らして……女泣かせて……

オレは一体……何ヤってんだ……!)

 

 何のコトはない。 

 結局一番取り乱していたのは自分だったと気づき、

承太郎は震える拳から鮮血を滴らせる。

 

「スゴイ音がしたが、 一体どうしたんだ!?」

 

 爽やかな果実の芳香と清廉とした声。

 正門前から騒ぎを聞きつけて何事かと想った花京院が、

その場に駆けつけた。

 

「ハッ!?」

 

 割れたガラスの散乱したダイニングルームの中心で、

 幽鬼のような表情を浮かべるジョセフと泣きじゃくるシャナ。

 そして。

 己に背を向け拳から血を滴らせながらその身を震わせる

承太郎の姿を目にした瞬間、 花京院は、 全てを理解した。

 

(……)

 

 いつもなら、 自分の他に2つしか感じない 『スタンド』 の気配、

ソレが()()()増えていたのだから。

 

「まさか、 まさ、 か……ホリィさんに……『スタンド』 が……!

しかもソレがマイナスに働いて 【害】 になってしまっているのか……!?」

 

 そう言って視線を向けた、 少女に抱かれて荒い吐息を繰り返す淑女。

 彼女を抱いている少女の腕に、 無数の美しい荊が透けていた。

 

「……」

 

 第三者といえ流石に動揺の色は隠しきれず、

蹌踉(よろ)めいた細い躰をなんとか支えた花京院の視界に

微かに震える友人の背が映る。

 

「空条……」

 

 かける言葉など何もないと知りながらも、

それでも花京院は承太郎の傍へと歩み寄り、

震える肩にそっと手を置いた。

 常に威風颯爽としていて己に対する揺るぎない自信に充ち溢れている

普段の彼の雰囲気は、 今はもう見る影もない。

 しかし。 

 そんないまにも自分に向かって崩れ落ちてきそうになっている彼の存在を、

今度は自分が支えてあげなければならないと想った。

 そうでないなら、 彼の友人である資格などないと花京院は想った。

 

盟友(とも)よ……辛いのは解るが……

こうなった以上早急に手を打たねば……

ソレが一時でも早く、 奥方をこの窮地から救う事に繋がってゆく……」

 

 未だ心中は激しく揺れ動いてはいるが、

それでも心を鬼にして己を諫めたアラストールが

ジョセフにそう問いかける。

 その異界の友人に対し、 ジョセフは震える口調で言葉を絞り出す。

 まるでこれから自分が告げる事実を、 拒むかのように。 

 

「ひと……つ……!」 

 

 断腸の想いで、 呑み下した煮え滾る水銀を

今度は吐き出すかのように、 ジョセフは言葉を絞り出す。

 

「 『DIO』 を……アノ男を……

見つけだして(たお)すしかない……!

DIOの存在を抹消して……

“呪縛そのもの” をこの世から消し去るしかない……ッ!」

 

(!!)

 

 やはり、 という予感は在ったが、 アラストールは何も言わなかった。

 かつてアノ絶対存在 『究極神』 すらこの世界から封滅したこの男なら、

ナニカ自分の想いもよらない 『策』 を創り出すかもしれないという嘱望も、

今は心の奥底に封印した。

 幾ら、 嘗てこの世界を幾多の危機から救った真の 『英雄』 とは云っても、

今は、 この世界のどこにでもいる、 子の安否を気遣う一人の父親。

 自分のたった一人の娘を、 得体の知れない脅威に踏み躪られ

その絶望に嘆くしかない者にソレ以上強いるのは、

他のどんな申し開きも通用しない、 残酷というモノだった。

 

「しかし……しかし……ワシの 『念写』 では、

()()()()()()()……ッ!

ヤツの 「姿」 は写せてもその 『居場所』 までは特定できん。

何の手懸かりも無しに()()()()()()()()

この世界から見つける術など、 一体どうすれば……」

 

 己を蝕む絶望に正気が混濁しかけてきているのか、

ジョセフは誰に言うでもなくオロオロと言葉を紡ぐ。

 

(……)

 

 アラストールは、 そのジョセフの様子をみつめていた。

 何も言わず、 ただみつめていた。

 己の裡で()(いず)る、 幾多の感情と共に。

 

 

 

 

 

 ……大丈夫。

 何も、 心配いらない。

 (オレ)が、 何とかするから。

 ()ぐには無理でも、 必ずなんとかしてみせるから。

 だから、 もういい。

 そうやって何もかも、 全部自分で背負わなくても。

 少しは(オレ)を頼れ。

“友達” だろ? 

 

 

 

 

 

 紅世でも、 一際その異名を轟かせる王へと変貌する内に、

少しずつ見失っていった、 本来の存在(じぶん)

 ソレが今再び、 アラストールの裡に甦りつつ在った。

 己の存在の裡で燃え盛る、 灼熱の 『決意』 と共に。

 先刻の、 ジョセフの言葉。

 ソレは、 広大不偏な砂漠の中で、

DIOという一粒の砂を見つけるのに等しき所行。

 事実上、 不可能に近い。

 でも、 やるしかない。

 例えどんな手を使っても。

 どれだけ可能性が低くても。

 ()()()()()()()

 何よりも、“コイツ” の為になら。

“コイツ” は、 今まで、 自分の大切なものを幾つも幾つも失ってきた。

 何度も何度も傷ついては倒れ、 その度に失い、

それでも “コイツ” は。

 

 

 

 

“笑っていた”

 

 

 

 

 

 緩やかに降り注ぐ、 太陽のような笑顔で。

 例えまた大切な何かを失う事になろうとも、

それが 「誰か」 の為であるならば、

喜んで身も心も捧げるという、

黄金のような気高き 『覚悟』 を持って。

 ソレならば。

 (オレ)が護ってやらなければ。

 この世の何よりも強く誇り高い “コイツ” を。

 ソレが出来なくて。

 何が 『紅世の王』 だ!

 何が “天壌の劫火” だ!!

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

“ククク……”

 

 

 

 

 

 そのアラストールの決意を嘲笑うかのように、

突如、 ()()()()()()()()()()()()()

室内で静かに木霊(こだま)した。

 

「!!」 

 

「!!」

 

「!!」

 

 同時に底知れない邪悪な気配が、 空間を充たした。

 ダイニング・ルームを夾ん(はさ)で在る応接間に設置された

液晶プラズマTVの大画面から、 突如迸るウォーター・ブルーの光。

 電源を入れていないのにその画面からは溢れ返る程の光の洪水が湧き出し、

そしてソノ光源を 「台座」 に、 3つの人型のシルエットが浮かび上がる。

 左に、 透徹の氷像を想わせる水蓮の美少女。

 右に、 闇冥の水晶を想わせる褐色の麗人。

 その中心に、“男” はいた。

 この世界の災厄。

 スベテの因縁と宿命の元凶である、

『DIO』 が――。

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

 

 

 

『後書き』

 

 はいどうもこんにちは。

 当初創る予定はなかったんですがなんとなく創っちゃいました

『アラストールの挿絵』

 なんかマティルダより「美人」になっちゃいましたね。

(ガチで()()()()()()創ったからな……('A`))

 美男子に【悪魔の羽根】っていうのは定番かも知れませんが、

ベタでもやはり良いモノは良いですね。

 この「イメージ」が在ると過去のアラストールの言動も

ちょっと印象が変わるかも知れません。

(少々お爺ちゃんっぽいですからねセリフが……('A`))

 ソレでは(≧▽≦)ノシ

 

 

【参考動画】

https://www.youtube.com/watch?v=dZp_BDQmydk

 

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