STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
「か、
なんという凄まじいスピードのスタンドだ……!」
背後にいたジョセフがその驚愕を抑えるコトもなく声を漏らす。
『ククク……例えここから一センチメートルの距離より、
100丁の拳銃で一斉に弾丸を発射したとしても、
弾丸はオレに触れるコトさえ出きん。
最も、 弾丸で 『スタンド』 は殺せぬがな』
まるで機械合成音のような、 ノイズを伴う無機質な声で、
スタンド、 『
(ス、 『
今まで私が討滅してきた遣い手とは、 明らかに次元が違う……ッ!)
青年の背後でその真紅の瞳を見開く少女の様子を
目敏く見据えていた蟲型のスタンドが、 耳障りな羽音共にシャナへ告げる。
『クククククク……3流どころの能力者を、
10人かそこら倒してきただけでイイ気になるなよ?
“マジシャンズ”
お前が今まで倒してきた 『スタンド使い』
エンヤ殿が “ある方法” を遣い生み出された、
いわば 「即席」 のスタンド能力者。
モノを知らぬ幼子のような者。 故にその経験も技術も我等には遠く及ばん。
DIO様の側近足る我等は、 その全てが 『生まれついてのスタンド能力者』
云わば神に選ばれしスタンドのエリート。
貴様が今まで倒してきた 「スタンド使い
その格が天と地ほども違うのだ』
「……ッ!」
想定していなかった事実に対する驚き、
しかしソレに対する気丈な反抗心を瞳に宿らせて、 少女は奇虫を睨み返す。
(どこだ……? どこにいる……!?)
スタンド、 『
少女にそう語り続けているその間にも、 ジョセフは言葉を耳に留めながら
己の周囲に警戒心を張り巡らせていた。
(アレだけのスピード、 そして精密動作性。
スタンドのタイプは間違いなく 『近距離パワー型』
ソレを操っている 「本体」 は間違いなくワシらのすぐ近くにいる!
この周囲の乗客の中にきっとッ!)
周囲の乗客はその殆どが浅い眠りに就いているが、
ソレでも寝息やほんの些細な仕草から 「不自然さ」 を発見しようと
ジョセフはその長年の戦いの年季で培われた神経を研ぎ澄ます。
しかしそんな彼の行動を嘲笑うように。
「例えば……
瞬きよりも短い時間、 まるで空間と空間とを飛び越えるように
スタンド、 『
承太郎達の眼前に灰色の残像を遺し、 ソコから遙か遠方の後部座席へと移動する。
(!!)
「また移動したッッ!!」
承太郎が瞬間移動したスタンドに視線を向けるのと
シャナが声を上げてソレを指差したのはほぼ同時。
だが、 その一秒後。
『ククククク……』
後方の悪意の塊の接近に気づかず安らかな眠りに落ちている乗客に向け、
奇虫のスタンド 『
『KEEEEEEEEEEEEEEEEAEEEEEEEEEEEEEEE
EEEEEEEEEEE―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!』
普通の人間には決して聴こえない、 磨き込まれた硝子の板を
鉤爪で掻き毟るような奇声を上げ音速で突っ込んだ。
ズァッッッッッギュアアアアアアアアアアアアア―――――――――――――!!!!!!!!!!
刹那の間もなく一列20シート以上の最後部から突貫した蟲型スタンドは、
一秒もかからずに最前列に座る若い男性の口中から出現し、
その節くれ立った硬質な全身に鮮血を纏い空間に赤い弧を描きながら上方へと翔け昇る。
シートごと肉を抉り、 後方の頭蓋骨が穿たれた音が耳に入ったのは
(!)
(!?)
(!!)
(…!)
(ッ!)
何も出来ず止めるコトも叶わず、 遠間にスタンドを見つめる5人は
その存在を認識するだけ精一杯だった。
その5名の視線が釘付けになっているモノ。
ソレはスタンドそのものではなく伸縮自在の鋭利な触針に突き刺さった、
微かに湯気を上げて血に塗れる赤い肉塊。
その者達を再び嘲笑うように、 奇虫のスタンドは針に突き刺した
赤い肉塊をまるで戦利品のようにビラビラと見せつけ
残虐に陶酔した狂暴な声を上げる。
『 “
そしてオレの 『目的』 は!!!!』
そう叫び高速で大きく旋回した蟲型スタンドは、
長い触針の間に連ねられた無数の人間の舌を機内の壁面に擦り付け
何度も軌道を変えながら鮮血を塗りたくる。
その後に遺された赤い痕跡が示すモノは。
“
赤い雫が生々しく滴り、 スペルの 「M」 の部分が猟奇的に跳ね上がった、
殺戮の血のオブジェ。
「ヤロウッッ!!」
「このォッッ!!」
己の
罪の無い何十人もの人間の生命を容易く奪ったスタンドに
怒髪天を衝く勢いで承太郎とシャナが同時に猛る。
「さっきのは全力じゃなかった……今度こそ全開のラッシュでブッ潰すッッ!!」
「跡形も無く焼き尽くしてやるッッ!! フレイムヘイズの焔儀で!!」
片やスタンドの全身から白金の燐光を迸らせ、
片や右手に炎を不可思議な紋字と共に纏わせながら、
『スタンド使い』 の青年と “フレイムヘイズ” の少女は
同時に殺戮のスタンド、 『
そこに――。
「待てッ! 待つんだ!! 空条!! シャナ!!」
花京院が清廉な声で猛る両者を制する。
その翡翠の美男子が視線を向けた先。
「う、 う~ん、 今、 何時じゃ? なんだか、 騒がしいのぉ~」
簡素な服を着た初老の男性が、 寝惚け眼を擦りながら身を起こそうとしていた。
「……」
瞬時に老人の傍へと移動していた花京院が、
その首筋に完璧な角度とタイミングで当て身の手刀を入れる。
「失礼……」
意識を断たれ再び深い眠りへと落ちていった老人の身体を丁重に支え、
リクライニング・シートにゆっくりと伏せた花京院は
そのまま承太郎とシャナへと向き直る。
「今はまだ大丈夫だが、 他の乗客が気づくのは時間の問題でしょう。
そうなったらパニック状態になるのは必至、 その前にヤツを倒さなければなりません」
冷然とした口調で端的にそう告げながら、 花京院は二人の傍へと歩み寄る。
「シャナ、 君の炎はソレがエンジンにでも引火すればこの旅客機を爆発させかねないし、
空条、 君のパワーも機体壁に大穴を開けでもしたら大惨事だ」
「……」
「……」
あくまで冷静な花京院の忠告に、
承太郎とシャナは不承不承振り上げた拳を降ろす。
「ここはボクの 「静」 なるスタンド、
『
ヤツを始末するのに相応しい」
そう花京院が言い終わるのとほぼ同時に、
背後から空間を歪めるような異質な音を伴って彼のスタンドが出現する。
宇宙人、 或いは未来人のような特異なフォルムを高貴なエメラルドの燐光で包まれた
“遠隔操作型スタンド” 『
その姿を認めた蟲型スタンドは、
再び無機質な声を耳障りな羽音に絡ませながら、
その翡翠の奏者へと語りかける。
『花京院 典明か? DIO様とエンヤ殿から聞いてよーく知っているぞ。
アノ最強のスタンド使い 『亜空の瘴気』 ヴァニラ・アイスにも
随分と眼をかけられていたそうじゃあないか?
『組織』 での将来が約束されているにも関わらず
その全てを捨て、 敵側に寝返るとは正直理解に苦しむな?』
「黙れ……」
花京院はその怜悧な風貌にやや陰を落とし、 空中で停止するスタンドに告げる。
両者の間に立ち込めるその険難な雰囲気を敏感に感じ取った少女が、
脇にいる承太郎の制服を引く。
「大丈夫……なの……? やっぱりあいつ、 元居た 『組織』 に未練があるんじゃ……」
「そう想うか?」
問いかけられた無頼の貴公子は、 疑惑も危機感もその表情に微塵も現さず
寧ろ余裕すら感じさせる態度で少女にそう返した。
「……想わない」
その彼に当てられたのか、 少女は一言そう告げ眼前に視線を戻す。
『フッ……何なら、 このオレからエンヤ殿に取り直してやっても良いのだぞ?
お前ほどの 『スタンド使い』 ここで殺すには惜しい。
それにわざわざ負けの決まった者共に付くコトもないだろう?
賢いお前なら理解出来るな? ン?
二人でこいつらを皆殺しにしようじゃあないか』
「黙れと言っているんだッッ!!」
己の過去を断ち切るかのように、 花京院は清廉な声で叫んだ。
「ボクは自分の 「意志」 でDIOを斃すと決めたんだ!!
誰に強制されたわけでも請われたからでもない!!
余計な御託はここまでだ!! さあッ! かかってこい!!
『
それともまさか臆したのか!!」
凛としたその声に、 奇虫ややは興が削がれたかのように沈黙し口を開く。
「フッ、 もう少し頭の良い男だと思っていたが。
失望したぞ、 花京院 典明。
自分のスタンドが 「静」 だと解っているならばこのオレには挑むまい……
スタープラチナに劣る貴様のスピードでは、
このオレを捉えるコトは絶対にできん」
「さて、 ソレは、 どうかな」
奇虫のその宣告に対し花京院は、
流麗な動作で左手を右肩口、 そして右手を左脇腹の位置に置き、
厳粛なスタンド操作の構えを執る。
その両者の対峙を灼けつくような瞳に映しながら、
少女はその外見からは想像もつかない鋭敏な頭脳で状況の分析にかかる。
(正直、花京院に 「勝ち目」 は無い。
それはあいつが弱いからとかじゃなくて、
戦闘の 【相性】 が悪過ぎる……!
スタープラチナにも私にも遙かに劣るあのスピードじゃ……
間違いなくアノ 『
その少女の懸念を余所に、 花京院は眼前のスタンド戦の火蓋を切る。
「エメラルド……ッ!」
犀利な声でそう呟くと同時に、スタンド、
『
瞬時に浮き上がり、 そしてうねるように攪拌され集束していく。
そし、 て。
「スプラッシュッッッッッ!!!!!」
やがて硬質な翡翠の 「結晶」 と化したスタンドパワーは、
眩い輝きを以て一斉に弾ける。
「フッ……」
眼前から迫る無数の翡翠徹光弾の嵐を前に、
奇虫のスタンド 『
ソレを見据える。
そしてその光弾の最初の一つが微かに大形に伸びた顎に触れた瞬間。
『KEEEEEEEEEEEEAEEEEEEEEEEEEEEEEEE
EEEEEE―――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!』
他の者には聴こえない空間の罅割れるような奇声を発し、
ブレる残像と共にソコから消え去る。
そしてそのまま一切のバランスを崩さず攻撃照準は標的にピタリと位置したまま
凄まじい音速でフレキシブルに
まるで光の反射のような直線の軌跡を空間に描いて
放たれた華麗なる流法 “エメラルド・スプラッシュ”の結晶光騨をスベテ完全回避する。
(!!)
己の懸念が現実のモノとなった事に、 少女はその紅い双眸を一際大きく見開く。
(やっぱりあのスピードに躱された……! このままじゃ……ッ!)
輝く翡翠光弾の群れが背後に翔け抜け消えた刹那、
ソレを躱したスタンドも即座に反撃へ移る。
「喰らえィ!! “
再び奇虫の口腔から撃ち出された悪魔の触針が花京院のスタンド、
『
“スタンドへのダメージは、 そのまま 「本体」 へと還る”
故にその致命点を完全に突かれれば花京院の絶命は必至。
だが撃ち放たれた “
身を翻していた 『
躱す事こそ不可能だったが何とか急所を撃ち抜かせるコトだけは
かろうじて阻止する。
「ぐっ!!」
スタープラチナをも超える音速で伸びた触針はスタンドの肩を鋭く穿ち、
人間の肩胛骨に当たる部分を突き破って貫通し、 背後のシートにメリ込む。
法則により花京院の女性のように細い肩口にも穿孔が現れ、
ソコから生温かい鮮血が勢いよく水流のように飛び出す。
本体が大きく体勢を崩しスタンドとスタンドとが繋がった状態で、
眼前の悪意の塊、 『
「ほう? なかなか良い反応だな?
予め自分の攻撃(E・S)が避けられると
視てから避けたのではもう遅すぎる。
だが、 同じ躱し方が二度通用するとは思わないコトだ。
我が 『
次はこの “
今度は外さないようによ~く狙ってな?
ソレでも良いと言うのなら再び攻撃を仕掛けてくるが良い」
『
血を現す 「
『
(やっぱり花京院じゃ勝てない。 ここは私が……!)
左肩から血を流しその部分の止血点を押さえながら立ち上がる
中性的な美男子の無惨なる姿を認めた少女が、
纏った黒衣を揺らしながら血気盛んに前へ出る。
そこに。
「待ちな」
自分の脇に位置する無頼の貴公子がクールな声でソレを制する。
「承太郎ッ! でも!」
敵も次は本気だ。
本気で “殺し” にかかる。
永年の経験則から、 そんなコトはもう気配で解る。
しかしそんな少女の抗議の声にも隣の青年は変わらぬ声調で、
「いいから見てな」
ただ一言そう言った。
(!?)
その時の。
彼の淡いライトグリーンの瞳に映った色。
絶望的な状況なのに。
もう次の刹那に死んでしまうかもしれないのに。
彼が花京院を視る眼はその何れでもない。
何というか、 温かな。
信じて見護っているような。
(なんか、 違う……)
最初はほんの微かな違和感だったが、
次第次第にザワザワと不明瞭な感情が胸の中に広がっていく。
不安なような、 不快なような。
そして何か。
嫌なカンジで熱い。
(私を視る眼と、
最早眼前の死闘は意識の外に追いやられ、
少女の視線は傍にただ青年に釘付けとなる。
その彼の気高きライトグリーンの瞳に映る、
血に塗れた姿の翡翠の奏者。
痛みで引きつる肩を無理に動かして再び流法の構えを執り、
スタンドの掌中で眩いエメラルドの光が集束していく。
その彼の視線に気づいているのかいないのか、
翡翠の奏者は先刻以上の清廉なる声で
己がスタンドの流法名を高々と発する。
「エメラルド・スプラッシュッッッッッ!!!!!」
再び光が眼前で弾け、 遍く翡翠の結晶光弾が煌めきの洪水共に
『
『クハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!
バカの一つ覚えのように再び “エメラルド・スプラッシュ” とは!!
最早万策尽きたようだなッッ!! ならば死ねィ!! 花京院ッッ!!』
奇虫はそう叫んで再び先刻の場面をトレースするように、
空間にジグザグのスタンド光跡を遺して光弾の海を躱す。
(!!)
そして花京院の端麗な風貌の前に姿を現した奇虫は、
そのおぞましき外貌を剥き出しにし
『オレのスタンドに舌を引き千切られると狂い悶えるンだぞ!!
クハハハハハハハハハハハハハハ!! 苦しみでなァ!!
貴様のその美しい
今から愉しみだぞッッ!!
ファァァァァァァァハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』
そう叫びながら己自身が殺戮の快楽で身悶える蟲型スタンド、
『
「むう。 やはり、 “アノ
少女の代わりに眼前の死闘をその漆黒の球に映していた紅世の王が、
一切の起伏もない荘厳な声でそう言った。
『くたばれ!! 花京院ンンンンッッッッ!!!!』
狂声を発しながら、 花京院の女性のように艶めいた口唇に射出される
悪意の
しかし。
「何? 引き千切られると、 狂い悶える?」
その刹那――。
奇虫の頭上から
まるで深緑の樹木を想わせるような、 無数のスタンドの触手の群。
『何ッ!?』
自分の死角からの予期せぬ深緑の襲来に、 奇虫のスタンド、
『
束になったスタンドの触手の群の微かな隙間を、 なんとかかいくぐって躱す。
だがその第一陣、 続く第二陣、 第三陣を躱しても、
既に “結界” は
幾ら避けても深緑の触手群は、 まるで意志を持った森の牙のように
際限なく次々と湧き出て頭上から降り注ぐ。
死に体だと想っていた者の、 突如の叛逆。
その深緑の色彩が司るモノは、 正に樹海の異図。
『グエッ!?』
やがて眼前、 否、 己の周囲全域を細い深緑の
回避空間を失った蟲型スタンド 『
その
その
ザイル状になったスタンドが幾重にも絡み付いて完全に動作を封じ空間へ拘束する。
身動きの取れなくなった超高速のスタンドは、
唯一拘束を免れた
おぞましき体液を吐き出しながら
ソコから抜け出ようと必死に藻掻く。
しかし何層にも渡って巻き絡められた
『
そんな蟲ケラの無意味な抵抗などまるで意に介さない。
そうして完全に戦力を無にされた殺戮のスタンドに向かい、
花京院は変わらぬ清廉な声で言い放つ。
「解らなかったのか? 既にリクライニング・シートの中や下に、
ハイエロファントの触手や触脚が無数に
“エメラルド・スプラッシュ” はソレを覆い隠す為の
要はお前の飛行制空圏内全域をザイル状に引き延ばした
スタンドで蜘蛛の巣のように覆い尽くすコトが目的だったんだ。
ボクのハイエロファントの 「射程距離」 は最大50メートル。
ソレは同時にスタンドを糸のように細く引き延ばせば、
その全域にスタンドを潜ませるコトが可能というのも意味する。
「逃げ場」 を無くしてしまえば、 幾らスピードが
違うか? ン?」
花京院はそう言って、 自分を再び “悪の道” へと引きずり込もうとした
スタンドを睨め付ける。
『
「ある意味」 では正しいと解される事象では在ったが、
今の彼に取ってソレは、 自分自身の誇り対する許し難い侮辱でしかなかった。
「さて、 待たせたな。 空条」
スタンドをスタンドで空間に拘束したままの状態で、
腰の位置で端整に両手を組んだまま花京院は承太郎の方へと向き直る。
「!」
その中性的な美男子の、 深いライトアンバーの瞳に映ったモノ。
(なるほど、 な)
承太郎はソレを視ただけで、 彼の意図を察する。
そう言えば、 左手を撃ち抜かれたンだった。
眼前のスタンド戦に集中する余りスッカリ忘れていたが。
(借りはキッチリ自分で返しとけってトコか?
なかなかイキな処が在る男だな? 花京院)
心中でそう呟き、 承太郎は一歩前に出る。
『くっ、 うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――!!!!!!!!!』
暗闇の中でスタープラチナの途轍もない存在を感じた
『
スタンドの触手の束を何とか引き千切ろうと
暗い灰色の燐光を振りまきながら懸命に足掻く。
ソコにまるで神の啓示のように、 静かに降り注ぐ奏者の声。
「無駄だ。 お前の 『能力』 は、 そのスピードと精密動作性に
(スタンドの)エネルギーの大部分を費やすタイプのモノ。
だからその代償として
最後の最後で自慢のスピードに脚を
(!!)
満足に動かせない羽根と完全に拘束されている手足の先を震わせながら、
奇虫のスタンドは花京院のその恐るべき慧眼に息を呑む。
(試して、 みるか……)
その両者を遠巻きに見つめる無頼の貴公子は、
『近距離パワー型』 で在る己のスタンドの射程距離、
半径2メートル以内には踏み込まず有効射程圏内から
遙かに離れた位置でスタンドを出現させゆっくりと攻撃態勢を執らせる。
(何、 する気? その位置じゃ、 おまえの攻撃は相手に届かないわ)
青年の特製の学生服で覆われた広い背中を見つめながら、
少女は彼の 『能力』 を知る者なら当然の疑問を心中で口に出す。
その、 次の瞬間。
(……)
青年のスタンド、 『
バラ手で胸の前に添えられていた手の甲側を滑るように撫でる。
まるで熟練の奇術師のように、 その手が滑った後の左手には
ソコに “本来在るべき筈のモノ” が無くなっている。
ソレは。
スタープラチナの両手に装着された、
その拳部分に無数穿たれた、 紅世の刀剣すらも易々と破壊する
「着脱可能」 だと知ったのは、 実はごく最近のコト。
いつかの少女の言葉を思い起こし、 己のスタンドをより注意深く観察した結果。
そしてスタープラチナは取り外した無数の鉄鋲を平に構えた右掌内で、
まるで
スタンド・パワーを集束すれば “贄殿遮那” にも匹敵する斬れ味を
生み出すスタープラチナの指先。
その指先で以て撃ち出される、 云わばスタンドの散弾、
威力は推して知るべしであろう。
やがて、 ライフルの高性能スコープにもまるで引けを取らない照準率を誇る
スタープラチナの眼が、 空間に拘束された 「標的」 の着弾箇所を精密に割り出す。
ソレと同時に無頼の貴公子の口を衝いて出る、
新たなるスタンドの流法名。
流星の
『
流法者名-空条 承太郎
破壊力-A スピード-A 射程距離-B(30メートル前後)
持続力-E(実質2発が限界) 精密動作性-B 成長性-C
輝く白金の閃光と共に、 空間に一斉射出されるスタンドの散弾。
ソレは目標着弾箇所から0,1㎜もズレず、
正確に奇虫の頭部、 前胸背胸、 小楯板、 会合線に
微塵のタイムラグも無く抉り込まれ、
更に右大顎と後翅、 中脚、 符節、 股節、と 順に千切り飛ばす。
無論ハイエロファントの触手は避けたまま。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAGYEEEEEEEEEEEEEEEEE
EEEEEEEEEEEEEEEE―――――――――――――――!!!!!!!!!!!』
完全拘束状態により反射的な防衛動作も行えない状態で
『
今まで、 自分が死と絶望を与えてきた者達と同じように。
ソコに間髪入れず到来する、 翡翠の奏者の静かな声。
この世で最後の、 別れ路の言葉。
「さっき、 引き千切られると狂い悶えると言ったな?
ボクのハイエロファントは……」
“引き千切ると狂い悶えるんだ”
その刹那。
スタンドの触手が一度鋭く脈動し、
同時に 『
原型も留めない程に八ツ裂きにする。
「貴様のような悪党を……悦びでな……」
バラバラになったスタンドの残骸が降り注ぐ。
その結果を生み出した、 若き二人の 『スタンド使い』 に拠る、 新たなるスタンド能力。
スタンド、 『
創り上げた “結界” に拠って相手を封じ込め、 必殺の一撃を確実に叩き込む融合技。
ハイエロファントが
どんな攻撃でも100%当たり、 尚かつ相手の肉体を引き絞っている為
その
しかも攻撃する側は存分に力を撓め、 練る時間を有したまま。
そして弱った相手を、 ハイエロファント・グリーンが跡形もなく引き千切る。
卓越した高度な 『スタンド使い』 同士に拠って初めて可能な、
スタンド・コンビネーション。
【
星法一体。
流星聖法の
『
双流法者名-空条 承太郎&花京院 典明
破壊力-AAA スピード-AAA 射程距離-AAA
持続力-AAA 精密動作性-AAA 成長性-AAA
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ
ァァァァァァァァァ―――――――――――――――!!!!!!!!!!!」
突如空間を劈く絶叫。
先刻、 花京院の当て身でシートに伏した老人が
この世ならざる苦悶の表情をあげ、
その口から異常に長い舌を垂らして藻掻いている。
同時に、 その舌の表面に刻まれる、 奇虫の
即座にソレは真っ二つに断ち割られ、 頭部にも裂傷が走る。
そして老人は、 首から上のありとあらゆる穴から血汁を流出させ、 息絶えた。
“スタンドのダメージはそのまま 「本体」 へと還る”
何人たりとも決して逃れるコトは出来ない、
『運命』 の 「
その惨状を眼にし、 肩を寄せ合うようにして屹立する若き二人の 『スタンド使い』 は、
「さっきのジジイが 「本体」 だったのか」
「おぞましい 『スタンド』 にはおぞましい 「本体」 がついているモノ、 だね……」
勇壮且つ清廉な声で共にそう漏らすのみ。
「……ッ!」
その二人の姿を遠間から紅い双眸に映したシャナは、
歯噛みするように黒衣の中で拳を握った。
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