STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

53 / 85
『幕 間 ~INTERTRUDE~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 少女はふと、 眼を醒ました。

 真夜中の、 プラチナの光の中。

 夜風に揺れるベルベッド風のカーテンから外光が室内に漏れ、

ソレが部屋に置かれた調度品に反照しモザイクのような装飾を形造っている。

 

「……」

 

 無言のままシルクのベッドのから降り、

就寝時の下着姿のまま夜風の靡く方向へと音もなく歩いていく。

 躰の節々に鈍痛が在った。

 歩を進めるごとに筋繊維と関節が軋む。

 しかしそんな痛みなど一眉だにせず少女は進む。

 通常なら、『こんな程度』 では済まされない。

 まだフレイムヘイズに成り立てで 『本当の戦闘』 に不慣れな頃、

最後の奥の手として “アノ方法” をアラストールから伝授された時

ソノ翌日は全身を劈く苦悶と眩暈と吐き気で起きあがるコトすらも出来なかった程だ。

 ソレだけで、 アラストールが如何に己を気遣い躰を丁重に扱ってくれたのかが解る。

 分厚いガラステーブルの上で佇むペンダントは何も言わなかったけれど。

 やがて少女の視界に映る、 世界都市香港の夜景。

 ありとあらゆる種類の宝石を砕き、

ソレを闇夜の空間へ幾何学的に散りばめたかのような

極彩色のマスカレード。

 しかしその世界に冠たる美色の饗宴も、 今の少女の瞳には映らない。

 

「何、 やってるの……? 私は……」

 

 ギラギラと輝く街のキラメキにその白磁のような白い肌を照らされながら、

少女はポソリとそう呟く。 夜風が髪を浚い、 キャミソールの裾が微かにはためいた。 

 

「一体、 どうしたいの? どうして?」

 

 まるで自らを断罪するように少女は深い夜の中、自答を繰り返す。

 

「こんなコトをする為に、 こんなコトがしたくて、 私はここにいるんじゃない……!」

 

 呻くように絞り出した少女の悔恨は、 ただ夜風に紛れるのみ。

 

【挿絵表示】

 

 

「……」

 

 テーブルの上のアラストールは黙として語らず、 ただ厳かに瞳を閉じる。

 脳裡に浮かぶ “彼女” が、 ただ慈しむように一度だけ自分に向かって頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

【2】

 

 

 ホテルの朝は、 意外なほどの喧噪で包まれていた。

 SPW財団系列の中でも指折りの宿泊施設の筈だが、

それを常用的に利用出来る者はいる所にはいるもので

民族も人種も多岐に渡る人々がフロアを行き交っている。

 ある者は早足で携 帯 電 話(スマート・フォン)を片手に忙しくなく喋りながら、

またある者はロビーに備え付けられた豪奢なソファーで談笑しながら、

そのような中ホテル十二階の一室から一人で出てきた

小柄で髪の長い制服姿の少女の姿は一際異彩を放つものではあったが、

無論彼女はそんなコトなど気にも止めず

朝食のため指定された場所を目指す。

 周囲の無分別な視線に晒されながらエレベーターを降り一階の、

その左側が全面ガラス張りで覆われたカフェテラスに脚を踏み入れた少女は

目当ての人物達を探すため小さな首を巡らす。

 しかしその必要もなくすぐ、

 

「空条 シャナ様ですね?」 

 

早朝なのに顔色の良い若いウェイターが、 丁寧な物腰で自分に声をかけた。

 

「……」

 

「こちらへどうぞ」

 

 沈黙を肯定と受け取ったのか、 ウェイターは先を促し店の奥の方に自分を案内する。

 よく磨き込まれたガラスを透化して朝の陽光が柔らかく降り注ぎ、

屋内のなのに清涼な空気が胸を充たした。

 滑らかな天然石の床を歩きながら、

やがて見慣れた人物が自分の存在に気づき手をあげる。

 

「Good-morninge! シャナ!」

 

「おはよう。 シャナ」

 

「……よう」

 

 既にテーブルに着き朝食を取っていた二人の青年と一人の老人が、

各々の態度で自分に朝の挨拶をかける。

 

「……えぇ」

 

 少女は静かな声でそう答えると、 老人のすぐ隣の席に腰掛けた。

 焼けたばかりのパンと、 焙煎仕立てのコーヒーの薫りが届く。 

 

「昨日はよく眠れたかね?」

 

 初老の男性、 ジョセフ・ジョースターが和やかな声と表情のまま

繊細な装飾の入った陶器のカップに紅茶を注いで自分に差し出す。

 彼の邸に住んでいた時、 幾度と無く繰り返された朝の光景。

 

「えぇ、 まぁ」

 

 少女はカップを口元に運びながら、 浮かない表情で素っ気なく返した。

 

(?)

 

 その少女の様子を、 ジョセフは敏感に察知する。

 血の繋がりはないとはいえ、 数カ月以上も一緒に暮らした者、

少女がいつもと違う事はすぐに解る。

 ましてや並々ならぬ洞察力を持つ彼なら尚更のコトだった。

 

「……」

 

 やがて少女の前に色鮮やかなサラダや澄み切ったスープ、

出来たて貝のポアレなどが運ばれ少女は無言のまま機械的にソレを口に運ぶ。

 いつもの彼女を知っている者なら、 明らかに違和感を覚える態度だった。

 

「……」

 

 彼女の様子を憂慮したジョセフは、 それとなく自分の孫である承太郎に助け船を促す。

 しかしその孫は自分の視線に気づいているのかいないのか、

朝から健啖にモノを口に運ぶのみ。

 テーブル中央に置かれたハムやソーセージ等をロクに切りもせず、

チーズや添えられたハーブと一緒に忙しくなく咀嚼している。

 やがてようやく自分に向き直った彼から差し出されたものは、

 

「つげ」

 

という一言と空のコーヒーカップのみだった。

 

(むうう……こやつは……鋭いのか鈍いのか……我が孫ながら本当に解らンのぉ……)

 

 ジョセフは苦虫を50匹噛み潰したような表情で、

チャイニーズ・タイガーの絵柄が入った陶器のコーヒーポットで

孫のカップにおかわりを注ぐ。

 

「ところで、 ジョースターさん」

 

 少女の異変に気づいてはいたが波を荒立てない為に沈黙していた花京院が、

野菜と白身魚のムースを食べ終えた口元をナプキンで上品に拭いながら言う。

 

「昨日のあの 『男』、 J・P・ポルナレフと言いましたか。

彼の処遇は一体どうなりました?」

 

「……!」

 

 花京院のその言葉に、 共に全霊を尽くし互いにその存在を認めあった

アラストールが反応する。

 

「うむ。 取りあえずはSPW財団系列の医療機関にその身を安置しとるよ。

何しろ全身の至る箇所が火傷だらけで放っておけば命にかかわる重傷だったからな。

今朝方入ってきた情報によると、 昨日の深夜には意識を取り戻して

もう喋れる程度には回復したそうだ。

流石にアレだけの 『スタンド能力者』

その自然治癒力も一流といった所かの」

 

「そうですか。 よかった」

 

 花京院はソレだけ確認したかったのか、 安堵した表情でカップを口に運んだ。

 

「くれぐれもアラストールによろしくと、

頻りに感謝の意を示しておったそうじゃ。

邪悪な意志はもう微塵も感じられんらしい。

ただ、 病室を訪れる女性の看護師や医師達を、

誰かれ構わず口説き落とそうとするのでその点は困り者らしいがな」

 

 ジョセフは苦笑しながらそう言い、 魚貝類のグラタンを口に運ぶ。

 

(むう、 アノ者。 そのような嗜好の持ち主だったのか……)

 

 散るその間際まで高潔だった彼の姿からは、

俄に想像もつかないのでアラストールはなんとなく面白くない表情のまま心中で呟く。

 その上で。

 

「……ごちそうさま」

 

 いつのまにか朝食を食べ終えていた少女が静かに呟く。

 そして周囲を一眉だにしないまま席を立つ。

 

「あ、 おい、 シャナ」

 

 重苦しい雰囲気のまま自分達を避けるようにその場を離れようとする少女を、

ジョセフは反射的に呼び止める。

 しかしシャナは、 ほんの一瞬だけ立ち止まるが足早にすぐその場を立ち去ろうとする。

 その刹那だった。 

 

「よぉ?」

 

「……ッ!」

 

 振り向かず背中越しにかけられた青年の声に、

少女は雷にでも撃たれたかのように背筋を伸ばしその場に停止する。

 

「……」

 

 そして首だけで振り向いた少女の瞳。

 ソレは。

 何かを求めるような、 そして縋るような、

そしてそのスベテを拒絶するかのような矛盾した表情。

 指先で微かに触れただけで、 容易く崩れ落ちてしまいそうな、 余りにも儚い印象。

 その彼女の様子に気づいているのかいないのか、

無頼の貴公子はシャナに背を向けたまま事務的に告げる。

 

「ケータイの電源、 入れとけよ。 人喰いのバケモンが現れたらすぐに(しら)せろ」

 

 承太郎のその言葉に少女は一度鋭く彼の背中を睨め付けると、

 

「おまえの助けなんか……必要ない……一人で、 出来る……」

 

押し殺した声で、 震える口唇で、 苦悶を吐き出すようにそう返す。

 

【挿絵表示】

 

 

「どうかな?」

 

「……ッ!」

 

 明らかに猜疑の色を滲ませて、 背中越しにそう告げる青年に

少女は一層その視線を強める。

 しかしテーブルの上に置かれた青年の左手を視界の隅で捉えると、

そこから逃れるように背を向ける。

 両者の間に漂う一触即発の危うい雰囲気に、 ジョセフはただ固唾を飲むのみ。 

 まるで、 出逢った最初の頃に戻ってしまったかのようだ。

 互いの存在を視線で切り結ぶような、 険悪だったあの頃に。

 俯き加減で表情の伺えないまま、 少女は走ってその場からいなくなる。

 遠くなっていく大理石の反響音を聞きながら、

承太郎は制服から取り出した煙草を口に銜えた。

 

「……」

 

 船のチャーターと航路の調整、 更にその下準備に加えて頭痛の種が増えたコトに

ジョセフはやれやれと片手を額に当てる。

 

「何か、 ナーバスみたいだね。 彼女」

 

 静かな口調で少女の走り去った後を見つめていた花京院に、

 

「さぁ? いつも、 あんなカンジじゃあねーのか?」

 

承太郎は端正な口唇の端から細い紫煙を吹き出すのみだった。

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

 

『後書き』

 

 はいどうもこんにちは。「新章」の導入部です。 

 なんか妙に長いのでこのような形になりました。

“彼女”の登場を期待した方はすいません、

明日までお待ちください(『挿絵』頑張りますので……('A`))

【第二部】のメインパートだからここからが本当にガチで長い。

 だから「ローマ数字」が12を超えたら少し表記が

見ずらくなりますし20越えると「変な形」になったりするかもしれません。

(最悪「数字」にする可能性も御座います)

 あぁ、あと「しぶいねぇ~」の人は()()()()()()

『月』のアルカナが“彼女”に移ったとお考えください。

(シャナが『魔術師(マジシャン)』になっているように)

 だから章名が【DARK BLUE MOON(闇蒼の月)】なんです。

 ソレでは(≧▽≦)ノシ

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。