STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
天上天下傲岸不遜の超絶美女、
フレイムヘイズ “
その肩に黒いレザーベルトでブラ下げられた紅世の王
“
『スタンド使い』 花京院 典明を付き従え香港の街路を練り歩いていた。
「……」
先刻まで隣を歩く、キワどいタイトスーツ姿の美女に
翡翠の美男子の風貌は、 今は一転。
清廉そのものだが瞳の裡に研ぎ澄まされた怜悧さと
強い意志の光とを同時に内在している。
進める歩はまるで軍神のように壮烈としており
立ち止まれば脇の美女を置いて一人、 彼方までも往ってしまいそうだ。
「だからよ、 人喰いっつったって別に骨や肉をバリバリ噛み砕いてるワケじゃあねぇ。
“存在の力”っつーこの世に存在するための、 大元のエネルギーみてぇなモンを
吸い取ってやがんだよ」
その彼の隣、 自分の腰元で、 マルコシアスがこの世に起きている
『
「でも本来この世にいねぇ奴らがいて
好き勝手に暴れ回って喰い散らかしてたら、
世界の存在そのものが歪んじまうだろ?
だからソレを防ぐために俺みてぇな “王” が
人間の中に入ってこの世を荒らす“徒” を
一匹遺らずブッ殺すコトになった。
と、 いやぁまぁ聞こえはいいが、 なんのこたぁねぇ。
“
ってんで、 重い腰を持ち上げたってのが真相だ。
オメーらの世界の 『神』 と一緒で “王” は、
人間が何人生きよーが死のうが知ったこっちゃあねーからよ。
ヒャーハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!」
何が可笑しいのか濁った銅鑼声で嗤う 『本』 の言葉を、
脇の美男子はええ、 そうですか、 なるほど、 と些かの疑問も持たずに応じている。
(……)
隣を歩く美女は、 その彼の異様とも言える順応性の高さにグラスの奥を丸くしていた。
確かに、 自分達の伝える荒唐無稽な話を疑うよりは
信じてもらえた方が物事は円滑に進む。
しかし、 今までの経験上フレイムヘイズでもない普通の人間が、
即座に己の言った 『本当のコト』 を受け入れた事例など皆無に等しい。
ソレは客観的にみても明白であり、
自分も相手の立場だったならまず信じないであろう。
フザけているか、 頭がイカれていると想うだけだ。
しかも、 さきほど喫茶店の中で自分が彼に語ったコトは殆ど断片的なモノ。
この街に人喰いのバケモノが逃げ込んだ。 自分達はソレを追っている。 だから手伝いなさい。
概略すれば大体そんなモノだ。
だが、 この中性的な風貌の少年は、 ソレを信じた。
ほんの僅かな猜疑の視線も、 オカシイんじゃないかという嫌悪の表情も微塵も出さず。
ただ。
「わかりました。 ボクはあと2日だけ此処に滞在しますが、
その間だけでよろしいのでしたら」
と、 落ち着いた口調で自分に告げた。
信じないなら信じないで構わない。
信じようが信じまいが起こっているコトは 『現実』 なのだから。
その事実を元に今までは半ばゴリ押し気味に “案内人” を従えてきたマージョリーは、
肩透かしを食らったような気になる反面、 逆に不安になった。
利発そうな風貌をしているがこんなにも簡単に他人の言うこと、
それもこんな荒唐無稽な寓話にも等しき事象を
平然と受け入れてしまうこの少年は、
果たしてこの先大丈夫なのだろうか?
こんなに無防備すぎる心ではいかがわしく
いつか必ず食い物にされてしまうに違いない。
そういう結論に行き着いた美女は自分でも想わず、
何故そんな気持ちになったのかも解らず叫んでいた。
「駆け引きし甲斐のないヤツね!
もっと疑いなさいよ! この私を! 世の中スベテを!
アンタを騙そうとしてるかもしれないのよ!?
ドン底まで落ちてに堕ちて、 ソコで後悔したってもう遅いのよッ!?」
自分でも我ながら一体何を言っているのか?
本末転倒もいいところだと理解していながら言葉は止まらなかった。
傍でマルコシアスが爆笑していたが気にもならなかった。
彼から奪い取ったケータイを返さず、
胸元のポケットに入れた自分がバカみたいだ。
でも彼はそんな必死な自分の様子を穏やかな微笑を浮かべてみつめたまま、
静かな物腰でこう言った。
「確かに、
“貴女のような
そう言われた時の自分は、 果たして一体どんな顔をしていたのか?
隣で笑っていたマルコシアスが静かになったのを覚えている位で、 記憶は曖昧だ。
そんな自分を後目に、 彼はゆっくりと言い含めるように続けた。
「貴女のように理知的で聡明な方が、
わざわざ人を騙す為に作り話まで用意して、
こんな場所に連れ込むというコトの方がボクには信じられない話なので、
だから、 どれだけ想像を超えた話だとしても、
“ソレは本当なんだ” と、 そう想いました。
ウソをつくのなら、 そんな 「人喰いのバケモノ」 や
「フレイムヘイズ」 なんて言葉は使わず、
もっと他人が信じるような話にすると想いますし」
あくまで澄んだ琥珀色の瞳。
そして、 少しも自分を疑っていない表情。
その中性的な美男子の姿に、 彼女は、 マージョリーは、
かつて自分の傍にいた、 一人の少女の存在を折り重ねた。
(……
彼の背後に、 同化するようにして浮かび上がった、 少女の
幾星霜の時を経たとしても、 決して色褪せるコトのない、 汚れ無き姿――。
『マー姉サマ……』
格子ガラスから店内に降り注ぐ緩やかな陽光の中、
彼女の 『声』 が、 聴こえたような気がした。
今はもう、 この世のどこにもいない彼女の声が。
己がフレイムヘイズと成る最大の理由となった、
この世の何よりも清らかで優しい心を持った少女の声が。
少なくとも、 マージョリーにはそうとしか想えなかった。
「……!……ッ!」
自然と、 涙が溢れてきた。
止めようにも、 止められなかった。
アノ娘を永遠に失って以来、 もう何百年経ったか解らない、
とうの昔に、 涸れ果てた筈の涙だった。
「どうしたんですか!? ミス・マージョリー!?」
「オイオイオイ!? 何があった!?
我が移り気なヒロイン、マージョリー・ドー!!」
傍で青年と喋る本が心底己を案じた声で問いかけた。
「なんでも……ない……!」
そう応えるのが、 精一杯だった。
「本当に……何でも……ない……のよ……!」
何もしてあげられなかった。
護ってやることもできなかった。
この身を犠牲にしても、 スベテを失っても、
『アノ娘』 だけは救ってみせると誓った筈なのに。
だから自分に、 悔やむ資格はない。
泣く資格すらもないのだと、
マージョリーは血を轢き絞るような想いで嗚咽を噛み殺した。
開いた胸元で鈍く光る、 銀のロザリオをギュッと握りしめたまま。
【2】
『現在の状況』
花京院→マージョリー・ドー
=まだ 『能力』 を視てはいないが
既に異能者、“フレイムヘイズ” として認識している。
嘘を言っているとは想えないので、 期限付きだが協力を受諾。
マージョリー&マルコシアス→花京院
=「普通の人間」 だと想っている。 少し変わっているとは想うが。
承太郎=取りあえず一服中。
シャナ=現在どこにいるか不明。
“探索” は、思いの外難航した。
香港の街を数時間練り歩き聞き込みも(主に花京院が)
行ったが、 有益な情報は出てこない。
無論人喰いのバケモノがこの街のどこかに潜んでいる等と
荒唐無稽な 『本当のコト』 を聞くワケにもいかず、
実際はマージョリーから渡された「写真」 を見せ
あくまで人捜しという体裁を取り繕っての調査である。
マルコシアスが存在の力を繰る “自在法” で紙に映し出した “徒” の写真。
(ジョセフの 『念写』 より精度は劣るが同じ系統の能力のようである)
ソコに映るのは、 クラシックなスーツを着た一人の老紳士。
自分の知る精悍な風貌の老人とは対照的な、 細身で気品と礼節に充ちたその姿。
しかしソレが、 残虐な本性を覆い隠す 『擬態』 で在るコトも花京院は知っている。
かつて、 己の傍らにいた異界の友人もまた、 同じような風貌だったのだから。
脳裡に過ぎる彼とその最愛の従者の姿を
一度瞳を閉じて記憶の淵に眠らせた花京院は、
街路で周囲の注目を一身に集める美女の傍へと戻る。
彼女に聞き込みの結果を告げる刹那、
舌打ちとあぁやっぱりなという溜息が幾つも周りから発せられた。
「ダメですね。 この 「老人」 を見たという方は、 一人もいませんでした。
この場所で長年商売を行っている人にも聞いてみたのですが、
花京院が脇に抱えた紙袋から、
白い湯気が甘く香ばしい匂いと共に立ちこめていた。
「何? コレ?」
美女は白胡麻のびっしり
マニキュアでキレイに彩られた指先で抓みしげしげと眺める。
「
何も買わないというワケにはいきませんでしたので」
花京院がそう言って肩を竦めると、
「ふぅん」
美女は特に興味なさげにその出来たてで熱く膨らんだ白球を口に放り込む。
「……」
予想以上に甘く歯ごたえが変わっていて美味だったが、 ソレは表情に出さないでおく。
「オ、 オレにも! オレにもッ! 我が慈愛の守護天使マージョリー・ドー!!」
自分の腰でマルコシアスが分厚い皮表紙をバタバタ鳴らしてうるさいので、
「あぁッ! もう!!」
美女は紙袋の中から白と黒の球体を6つほど鷲掴みにして、
駄鳥の撒き餌をやるように本の中へとブッきらぼうに投げ捨てる。
「~♪~♪~♪」
こう見えて甘いモノには目がないのか(ソレ以前に味覚があるかどうかが疑問だが)
放埒な紅世の王は珍しく無言で中国菓子をページとページの隙間で
青い炎を飛ばしながら咀嚼している(律儀に呑みこむ音まで立てて)
その奇態な光景にもいい加減なれた翡翠の美男子は、
美女から(自分の「許可」無しに絶対かけないコトを3回誓わされた後に)
返却されたスマート・フォンを開き、
特殊回線を通じてSPW財団の管轄する
メインコンピューターの一つにアクセスし、
周辺の街路図を高精細液晶パネルに映し出す。
モニターに衛星から送信された縮尺図と主要な名所や建造物等が
3ディメンションのタッチパネルとなって立体的に浮かびあがる。
制服のポケットに入れていたボールペンの先を利用して
必要な情報をクローズアップし、 他は消去してウインドウを整理した花京院は
液晶のディスプレイを前方に向け、 爽やかに告げる。
「さて、 ここでの聞き込みはあらかた済んだようですから、
次はこの北ブロックに行ってみましょう。 繁華街です。
人の集まる場所ですし、 旅行客も多いでしょうから
一人か二人くらいはこの老人を目撃した人がいるかもしれません」
「……」
彼の言葉に球形の中国菓子を王と共に仲良く噛み砕いていた美女は、
異論のない様子で頷き紙袋を携えたまま後に従う。
「ほら、 行くわよマルコ。 休憩は終わり」
「zzzzzzzzzzzz……」
3時間を超える探索作業に於いても汗一つ浮かべてないマージョリーの脇で、
徒がみつかったら起こしてくれと言わんばかりに惰眠に耽る紅世の王に
美女の膝蹴りがブチ込まれた。
花京院はその二人の様子を微笑ましいと想いながらも、
何故自分が彼女に協力する気になったのか? その意味を考える。
確かに人喰いの怪物を野放しにするわけにはいかないし、
そんなヤツがこの街でナニカを策しているというのであれば、
そんなコトは絶対に阻止しなければならない。
しかし。
“もしそれ以外に理由が在るとするならば”
やはり、 先刻の彼女の姿を見てしまったというのが、 一番の理由だろう。
如何なる理由であれ、『女性を泣かすようなマネをするヤツは許せない』
ましてやソレが、 人喰いのバケモノで在るなら尚更。
一見温和で誰よりも社交的に見える花京院だが、
実は己の信念や美学へ反する者に対する圧倒的な冷徹さは
余人の遠く及ぶ所ではない。
非情に徹しなければ、 護れないモノもある。
ソレは、 物心つかぬ幼き頃から望まぬその 『能力』 が故に、
数多くの邪悪な 『スタンド使い』 とソレに纏わる有象無象の怪異と
日夜戦い続けてきた彼に自然に身についていた心象、
孤高の 『精神』
ソレがDIOの感興をそそり、
そして最大、 最強の 『スタンド使い』
エンヤ、 ヴァニラ・アイスにも一目於かれた存在であるコトに
花京院自身は気づいていない。
そして、 自分の背後を歩く一人の女性もまた、
抗いようのない残酷なる 『運命』 の中
一人孤独に戦い必死にナニカを護ろうとしてきた
『同類の存在』 であるというコトも。
「……」
「……」
互いに無言のまま、 蒼炎の美女と翡翠の美男子は、 二人共に街路を歩いた。
日がやや翳りだし、 黄昏時の到来が香港の街を朱に染め始める。
その中で、 二人の影が折り重なるようにアスファルトへと伸びた。
まるで互いの存在以外寄る辺を持たない、 巡礼者で在るかのように。
海辺から吹き抜ける風が、 静かに両者の髪を揺らす。
「待って、 ノリアキ」
背後を歩く美女が、 唐突に自分を呼び止める。
振り向いた視線の先、 マージョリーが右の建物、 否、
その遙か先を見透すかのように鋭い視線を走らせていた。
そし、 て。
「……フ……! フフフ……フフフフフフフフフ……!」
狂おしくそして兇悪に歪む、 彼女の美貌。
ソレが歓喜で
「“きやがったわよ” 頼みしないのに次から次へと沸き出てくる。
サイコーに卑しくて浅ましくておぞましい……クソったれのクズ野郎が……!!」
同時に眼前を駆ける、 炎。
逢魔が刻の到来。
暗い
←To Be Continued……