STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
破滅の戦風が吹き荒ぶアンダーワールド。
常人には知覚、 認識するコトも許されない因果の環。
暗い木欄色の火の粉が不可思議な紋字と共に舞い踊る空間の中心で、
美女は邪な微笑を浮かべ呟いた。
「ラミーを追ってる
私の存在を感知した徒に襲撃を受ける。
いつものパターンね。 全く困ったものだわ」
「ナニ言ってやがる。
だったら気配消してヤツらの存在を感知してもシカトすりゃあいいじゃねーか。
毎度毎度律儀に会う徒遭う徒全部ミナミナ殺しにしちまうから
肝心要のラミーのヤツにゃあ逃げられてンだろーがよ」
「当ッ然でしょ!! クズ追ってる先でクズを見つけたら跡形も遺さず討滅する!!
ソレが私達 “フレイムヘイズ” なんだからッッ!!」
「まッ、 当然だァな。 精々ラミーのヤローに気取られてないコトを祈ろーぜ」
「気取るスキなんて与えないわよ。
第一 “私の封絶” じゃないんだから。
寧ろヤツの方がこの気配に誘き寄せられる可能性の方が高いわ。
流石に封絶の中にまでは入ってこないでしょうけど」
互いに慣れた口調で美女と 『本』 は些かの動揺もなく言葉を交わす。
「そうなったらすぐにでも見つけだしてあげるわよ。
まさか今回に限り、 嗅ぎ廻ってるのが 「ただの人間」 だとは
流石のアイツも想わないでしょ。 ねぇ? ノリアキ」
そう言って美女が振り向いた先。
火の粉舞い散る陽炎のゆらめきの中、
ピタリとその場に停止する少年の姿が在った。
「……」
アスファルトに反照する封絶の木欄に
その中性的な風貌を当てられる美男子を、
マージョリーは正面からしげしげと見つめる。
「止まっちゃったか。 当たり前だけど」
事も無げにそう言い特に意識した様子もない美女を後目に、
まるで心を持たぬ人形のように一点を凝視したまま、
花京院 典明は動かない。
無論この特殊空間、 因果孤立領域 “封絶” のコトを彼は知っている。
いつも当たり前のように友人の隣に侍る少女から(心情的に面白くないが)
そして今はもう亡き純白の貴公子から、
何度も同じ 『能力』 を視せられたコトが在りその説明も受けているから。
しかしそのコトを、 敢えて花京院は秘匿した。
別に “彼女” のコトを信用していないわけではない。
だが場に無用な混乱を招きかねないという判断と、
彼女が自分に求めるモノとを察しての決断だった。
彼女が欲しているのはあくまで “案内人”
情報提供者とその補佐に当たる者であり、
戦闘の
ソレに 『スタンド使い』 は、 極力己の 「能力」 を他者に
己の威容を誇示しそのスベテを相手に刻み込もうとする
“フレイムヘイズ” とは、 その存在の本質が違った。
(すいません。 騙すつもりはないのですが、 貴女を困惑させたくなかったのです。
頑張ってくださいね。 理不尽な
罪無き人々を護る為にも)
瞬き一つしない琥珀の双眸で、
花京院は慈しむようにマージョリーをみつめ
そっと静かなエールを彼女の背中越しに送る。
ソレが伝わったのか否か、 美女はいきなりくるりとこちらを振り向き
踵の高いヒールを鳴らしながら再度己の傍へと歩み寄り、
その美貌を肌が触れるほどの超近距離に寄せる。
「それにしてもコイツ、 本当にイイ男ね。
いまなら、 キスしちゃっても気づかないかな?」
(!?)
熱に浮かされたような声でそう言いながら、
マージョリーはマニキュアで彩られた細い指先で
花京院の整った輪郭を艶めかしくつ、 と撫ぜる。
その頬には無垢な赤味が差し、
表情は蕩けるような艶っぽいモノとなっていた。
(……そ、
一流のスタンド能力者で在るが故、
裡で眠るスタンドの気配を消す事は可能だが
己の感情まで消すコトが出来るワケではない。
「普通の人間」 を装っているため身動きできず、
しかしそのように軽々しくするような行為ではないと
認識している美男子は、 美女の誘惑が戯れであるコトを心から祈った。
ソコに、 意外な助け船。
「オイオイオイオイ、 後にしな。
我が多情な妖姫マージョリー・ドー。
それにおまえサンの熱く烈しいヴェーゼをくれてやる相手は、
まずアイツだろ?」
そう言ってマルコシアスが炎で形作った指で差した先。
ソコ、 に。
「……」
時節は初夏だというのに、 黒いレザーのロングコートを着た男がいた。
そのインナーもパンツもブーツも、 全て同じ黒尽くめ。
表情は目深に被ったフードの為に伺えない。
しかしその全身から尋常なるざる殺気を放ち、
漏れる吐息から獣のような唸りを発している。
「グゥ……オオオ……見つけた、 ぞ……
我が怨敵 『蹂躙の爪牙』
そのフレイムヘイズ “弔詞の詠み手”……!」
地獄の底から漏れいずるような、
憎悪と怨嗟に充ち充ちた声がその男から吐き出された。
暗闇の奥で凶悪に光る異界の瞳。
ソレが周囲の光景を意に返さずマージョリーとマルコシアスのみに向けられる。
「はぁん? 誰? お前?」
己に向けられたドス黒い声とは対照的に、
美女は道端の石ころをみるような視線で男を見据え
気流に靡く髪を挑発的に掻きあげる。
「ムゥゥゥ……忘れたとは云わさぬぞ……我が王とその同胞スベテを……
ソノ存在の欠片も遺さず無惨に討滅した貴様等の所業を……!」
全身を貫く屈辱の為、 空気を震わせるような声で己を睨む男に対し
「誰だっけ?」
と美女は取り澄ました顔でマルコシアスに問う。
「さぁ~てねぇ~。 王なんざぁ、 今までさんざっぱら討滅してっから、
いちいち覚えてねーなぁ」
問われた被契約者は自分の上に乗せられていた紙袋を中身ごと
バリバリ噛み砕きながら無関心に返した。
「……!!」
黒尽くめの男の殺気が一段と尖る。
「でもこの封絶の色……
あぁ、 テメーもしかして 『
あンのヤローはその配下が無駄に 「12人」 もいやがったから、
その全ては殺りきれてなかったかもしれねぇ。
ンでそン中の一匹が亡き主の仇討ちってワケか?
そりゃあ涙ぐましいこって、
ギャーーーーーーーハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!」
木欄色の火の粉舞い散る空間で、狂猛なる紅世の王の哄笑が木霊した。
「黙れッッ!!」
マルコシアスの言葉が正鵠を射ったのか、 男はそこで初めて声を荒げる。
忠誠を誓う主を護れず、 しかしその後を追うコトも赦されず、
恥辱に身を引き裂かれるような想いで生き抜いてきたこの数十年間。
男は、 たった一つの想いが故それに堪えた。
破滅の爪牙がスベテを切り刻んだ場所。
無数の同胞の亡骸と共に瀕死の状態となって地に伏していた己に、
その眼前で首だけとなった王の口から、 最後に告げられた言葉。
“生きろ――”
それだけを糧に、 男は今日まで生きてきた。
その言葉の 『真意』 をみつける為に。
己からスベテを奪った忌まわしきフレイムヘイズに “報復” を遂げる為に。
「“鬼眼大聖” ね。 思い出したわ。 なかなか強かったわね。 アイツ。
でも仲間の十二人と後先考えず人間喰らってたから “私達” にみつかって、
全部まとめて討滅されたわけだけど、 まさか生き残りがいたとはね」
過去の話には興味がないのか、 美女は感情を込めず淡々とした口調で徒に告げる。
その次の刹那。
「グオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――――――――!!!!!!!!!!
黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
ビリビリと空気を劈く叫声。
それと同時に男の全身を覆い尽くしていた黒革のコートが薄紙のように引き裂かれる。
同様にインナーもパンツもブーツも。
そして、 火の粉と共に空間に舞い散る千切れた残骸の中から姿を現した、 のは。
美女の身の丈を遙かに超える諸刃の巨剣を両に携えた魔物の姿。
全身を覆う硬い鱗は鋼鉄のような無数の突起でビッシリと埋め尽くされ、
尖った先端部周辺に肉瘤を纏った禍々しい尾を背後に流し、
頭頂部にその倍はある3本の大角を天に向けて屹立させている。
面積比で美女の約5倍、 体積比ならその10倍は在ろうかという、 徒の真の姿の現出。
「……」
しかしその圧倒的存在を前に美女は眉一つ顰めず、
突風で舞い踊った髪を抑えたのみだった。
「下世話な人間如き、 何匹掻き喰らおうが貴様等に難じられる覚えはないわッッ!!
全ては我等が “種” を厳守するが為の王の御業!!
貴様等如き討滅の道具風情が、 其の異を問うことすら
先刻と同一人物とは想えない、 臓腑の底まで浸透するような叫声で徒は吼え
美女を遙か高見から傲然と見下ろす。
「……!」
ソコで、 今まで徒が何を言おうともその麗しさを違えるコトが無かった
マージョリーの美貌が、 微かに険難な色を帯びる。
その背後で両者をみつめる花京院にも、 また。
(
すぐにでもスタンドを発現させ、
人の命などなんとも想わない異界の魔物に
挑みかかろうとする壮気が全身から充ちるが、
翡翠の奏者は己を諫め眼前にて蒼然と佇む彼女に託す。
そして物を語れない彼の心情を代弁するが如く美女は、
「フ……フフ……フ……! やっぱり、
こーゆー
震える声でそう言いながら、 これから始まる殺戮の歓喜にその身を奮わせる。
「……ッ!」
そして彼女の全身から急速に発せられる群青色の存在の
遙か高見から見下ろしている徒の方が気圧された。
無論その様子を遠間にみつめる花京院も。
そし、 て。
彼女の肩から下がった黒いレザーベルトで繋がれた巨大な 『本』
神器 “グリモア” を介して、 狂猛なる紅世の王が残虐なる闘いの始まりを宣告する。
「ウチの魅惑の
ソレは、 テメーみてぇな逆恨みの勘違いヤローを」
ソコで重なる、 紅世の王とフレイムヘイズの声。
「返り討ちにするコトよッッ!!」
「返り討ちにするコトだッッ!!」
言葉の終わりとほぼ同時に、 全身から迸る群青の火走り。
開いたグリモアを練達の挙止で秋水の如く構える美女。
勝者無き死闘、 その無情なる幕が、 一人のスタンド使いの前で壮絶に上がった。
←To Be Continued……