STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
舞い散る火の粉と共に香る、 互いの髪の匂い。
徒の大剣で陥没したアスファルトと禍々しい尾によって爆砕した道路中央部。
その二つの破壊痕を挟むようにして、 蒼炎の美女と翡翠の美男子は屹立していた。
やがて深い菫色の瞳で花京院の澄んだ琥珀色の瞳を
真正面からみつめた美女が、 厳かに口を開く。
「人間じゃ、 なかったのね」
「いいえ、 ボクは人間です。
ただ、 普通とは少し違った 『能力』 を、
生まれながらに持っています」
互いに歩み寄りながら、 躰から立ち上る香水のラストノートが
気流に紛れて靡いた。
「その 『能力』 って?」
「誰が名付けたのかまでは解りませんが、
『スタンド』 と呼ばれる精神の力です。
この 『能力』 を持つ者は、
己の生命力を
ソレは普通の人間には視るコトが出来ません。
そして、 それぞれの特性に応じた超常的な現象を引き起こすコトが出来ます。
最も、 原則としてスタンドは “一人一体一能力” ですが」
「……」
簡易的にスタンドの概念を説明してみたが、
美女の瞳に宿った懐疑的な光は薄れるコトはなかった。
そして、 その彼女の態度に対し花京院に、
失望やそれに準ずる感情は生まれなかった。
在るのはただ己の宿命に対する諦観、 ソレのみだった。
やがて消え逝く封絶の気流が、 静かに彼の髪を揺らす。
「怖い、 と想いますか? このボクのコトを」
畏怖される事は覚悟して、 寂然と告げる言葉。
しかし美女は不意を突かれたように一瞬瞳を丸くしその直後、
「はぁ!?」
と、 その美貌に似つかわしくない頓狂な声をあげた。
瞳に宿っていた懐疑の光も、 どこぞへと吹き飛んだ。
「なんでこの私がアンタを怖がらなきゃならないのよ。
まさかアンタ、 さっきので私を “助けた”
なんて想ってるんじゃないでしょうね?」
先刻の疑いの視線など比べものにならない、
高圧的な闘争心を漲らせて美女は己の超至近距離に差し迫る。
「え、 あ、 いや、 そういう意味ではないのですが」
腰に手を当て指を突き出す前傾姿勢になったコトにより、
開いた胸元が必要以上に誇張されるので
花京院は視線を背けたまま美女を押し止めた。
「兎に角、 アンタには “ミステス” みたいな特殊能力が在って、
ソレで封絶の中でも自由に動けるってコトね。 それだけ解ればいいわ」
「……」
もっと話が
被契約者譲りの磊落な気質なのか美女は勝手に怒って勝手に納得したようだ。
「それに、 アンタみたいな
別にこれが初めてじゃないしね。
マ……マ、 マ? 忘れたけど100年くらい前、
北米でアンタと良く似た 『能力』 を持つ男に会ったコトが在るわ」
「 『スタンド使い』 と、 会ったコトが在るんですか?」
驚く場所が違うとは想ったがそれは無視して花京院はマージョリーに問う。
「ええ、 自分の身体をロープのように、 バラバラに出来る処なんか良く似てるわ。
そう言えば確かに、 その能力のコトを、 『
呼んでたような気もするわね。 今の今まで忘れてたけど」
「その人は、 今?」
その成長と練度如何に拠っては
通常の人間を遥かに超える 『生命力』 を宿すコトが出来る。
「死んだわ。 “殺された” らしいわよ。 私と会ってちょうど3年後に」
「そうですか……」
素っ気なく告げる美女に対し、 眼前の美男子は名も知らぬその男を憂いた表情になる。
己と “同属” という事が、 そんな表情を生むのだろうか?
自分は、 自分以外のフレイムヘイズが生きようが死のうが
きっと眉一つ顰めないだろうというのに。
しかしマージョリーは、 そんな花京院の態度に理不尽な怒りを感じた。
理由はよく解らないが、 コイツのそんな顔は見たくなかった。
「ほら! そんな100年前のコトより今は 『仕事』 よ!
さっきのバカが要らない真似したコトで、 余計に状況が差し迫ったわ。
美女の言葉に押し黙っていた美男子は冷水をブツけられたように顔を上げる。
「いつものパターンだな。 他の徒ブッ殺してる間、
ラミーのクソヤローに存在嗅ぎ付けられてまんまと逃げられる。
毎度毎度本末転倒もいいとこグゴォッ!」
堅い 『本』 の縁に、 ソレより硬い拳骨を叩き落とされて悶えるマルコシアスを
後目に花京院はマージョリーに問う。
「つまり、 時間をおけばおくほど、
ラミーを取り逃がす可能性が高まるというコトですね?」
「そーゆーコト。 私の存在が気取られてなくても、
他の徒がワラワラ集まってきちゃ意味は同じでしょ?
あのクソヤローは他者と一切交わらない亡霊みたいな生き方をしてるから、
逃走する際に何か “自在法” を行使するかもしれないわね。
無論、 生きてる人間を何百人もブッ殺して」
「自分がただ、 逃げる為だけにですか……」
「……!」
そう言って自分を見る花京院の瞳が、 いつのまにか鋭く尖っている。
普段の、 見る者全てに安らぎを与えるような彼の表情からは
俄に想像しがたい程の変貌振り。
強い意志と信念、 そして、 ソレに反する者に対する圧倒的な冷徹さ。
そのギャップが、 まるで己の分身を視ているような感覚が、
マージョリーの心の裡をゾクリと震わせる。
「解りました。 その 「問題」 を、 解決出来る人の所へ案内しましょう。
出来ればあの人の手を煩わせたくはなかったのですが、 致し方在りません」
「あの人?」
怪訝に眉を顰めるマージョリーに、花京院は告げる。
「その存在を知っている者で在るならば、
“この世のどんな者でも捜し出すコトの出来る” 人物です。
ボクと同じ 『スタンド能力者』
しかし、 戦いの年季では遙かに勝ります」
「んな便利なヤツがいんなら、 何で最初から使わねーんだよ?
こんな七面倒くせぇコトせずによ」
マージョリーの腰元でマルコシアスが当然の疑問を口にすると花京院は視線を伏せ、
お前が原因だとでも言うように 『本』 へと顔を寄せた。
「マルコシアスさん」
「あぁ? マルコでいーぜ。
オレ達ァ
「そうなんですか……」
瞳を細めたまま花京院は呟き、 自分が知る紅世の王との相違に
釈然としない気分になる。
「ではマルコシアス。 貴方にお願いがあります。
“絶対に喋らないでください”
これから起こるコト、 起きたコト、 何が在ってもスベテです」
【2】
目当ての人物は、 やはりホテルの部屋にいた。
ドアをノックし自分だと告げると二つ返事で扉が開かれた。
しかし来訪者は自分だけではなくその背後の存在を認めると
おお! という声と共に少々目を白黒させながらも、
やがて紳士的な応対で部屋の中へと招き入れられた。
脇に大きめのコーヒーカップが置かれた白い大理石のテーブルには、
見たこともない大仰な海図や船舶の詳解書、 海洋資料等で溢れ返っている。
コレだけ大変な仕事を一人任せにしてしまったコトへの後ろめたさで
表情を曇らせる花京院とは裏腹に、 部屋の主ジョセフ・ジョースターは
若い者はもっと世界を知らねばならん! と言って送り出した時と同じ表情で言った。
「花京院、 お主もなかなかスミに置けんのぉ~。
香港の街に出るやいなや、 こんな美人と連れ添ってくるとは」
ジョセフは小声でイジワルそうに話し、 白い健康な歯を剥き出しにしたまま
うりうりと肘の先で花京院の薄い胸をつつく。
「フフッ、 そんなんじゃありませんよ。
何というかまぁ、 人助けのようなモノです」
そんなジョセフの冷やかしを穏やかな表情で受け止めながら、
中性的な美男子は静かに返した。
「なんじゃ、 そうなのか? それはまた、 なんとも勿体ない」
そう言いながら上へ下へとシゲシゲと自分を見回すワイルドな風貌の老人を、
美女は一言も発さず何? このジジイ、 という仏頂面で見下ろしていた。
そんな両者の対照的な態度を後目に、 花京院は制服の胸ポケットから
一枚の写真を取りだしジョセフに手渡した。
「単刀直入に言います。 この写真の男性なのですが実は、」
んん? と言いながら写真の老紳士に視線を送るジョセフ。
その彼に対し花京院は淀みのない口調でサラリと、
「こちらの御婦人の、 生き別れた 『父親』 なのです」
(なぁッ!? だ、 誰が!!)
予期せぬ言葉にマージョリーは声を上げて激高しそうになるが
辛うじて言葉を呑みこむ。
その彼女の細い腰元でマルコシアスがクックッと笑いを噛み殺していた。
「どうやらいま、 この香港の街におられるようなのですが正確な居場所が解りません。
何よりこちらの御婦人、 マージョリーさんはビザの滞在期限が迫っていまして
今日と明日の二日しかこの国に居る事が出来ないのです。
なので何とか、 ジョースターさんの力をお借り願えないかと想いまして」
「……」
即興で、 微笑混じりにスラスラと嘘八百並べ立てる花京院を見ながら
マージョリーは、 実はこいつ凄くコワイ奴なんじゃないかと密かに想った。
一方説明を受ける老人は彼の言葉を疑う様子はなく、
両腕を組みながらふむふむと頷きながら聞いていた。
「う~む。 そういう理由ならば、 協力するのにやぶさかではないのだが」
歯切れの悪い感じでジョセフはそう言った後、
再び花京院に顔を寄せヒソヒソ話を始める。
「……しかし、 あの御婦人はワシの 『スタンド能力』 のコトを知っておるのか?
幾ら “視えん” とは言ってもな。 『念写』 した後のコトはどう説明する?」
「大丈夫。 非常に聡明で理解力の在る女性です。
事前にここで見聞きしたコトは他言しないと了承を取ってあります。 カメラは?」
「まぁ君がそう言うのなら、 特に心配する事はなさそうじゃが」
ジョセフからその保管場所を聞き、 年季の入った旅行鞄の中から
精巧な一眼レフカメラを取り出した花京院は、
それを大理石テーブルの空いたスペースに置く。
ジョセフはその前に座り、 意志を集中させた瞳でソレに向き直る。
そして己の右掌を見据えスタンドを発現させる瞬間、
「さて、 お嬢さん?」
くるりとソファーの後ろを振り向き腰の位置で腕を組んで佇むマージョリーを見た。
「これから、 少々不思議な光景をお見せする事になるが、 別に怖がる必要はない。
人間なら誰しもが持っている、 他人とは少しだけ違った 『能力』 じゃ。
そう、 貴女のその美しい姿と同じようにな」
穏やかな声でそう告げ、 まるで真冬の太陽のように温かな笑顔を自分に向けてきた。
視る者全てに安らぎを与えるような、 ノリアキのソレとはまた違った雰囲気。
「……!」
お嬢さんと呼ばれたコトや、 自分に対する畏怖や猜疑が全くない表情に
マージョリーは想わず口籠もる。
それは当然ノリアキがこの老人に充分信頼されているといったコトの
裏返しなのだろうが、 でも何故か、 不思議と温かな感情が心に沁みてくる。
「……」
何も言えずジョセフという老人の顔を見つめ返すしかなかった自分に対し、
彼は笑顔を崩さぬまま前に向き直ると己の右手を高々と頭上に掲げる。
そして。
「 『
壮烈な声でそう叫び、 ソレと同時に掲げた右の掌中から
深紫色をした無数の
周囲に同色の高圧電流のような光を帯び、
その
再び眼にする、 己とは違うこの世ならざる異能の発現系にマージョリーは
想わず息を呑むが、 脇にいる花京院から静かにと眼で諭される。
すぐさまに老人はその無数の茨を纏った紫の手刀をテーブルの上に置かれた
一眼レフカメラに向け、 空間に弧を描く軌道で振り下ろす。
手撃そのものは当たらず周囲に纏った茨のみがカメラ内部を透化して
反対方向へと突き抜ける。
やがてシャッターを切ったワケでもないのにフラッシュが
中から無機質な電子音と共に一枚の写真が吐き出された。
ジョセフはソレを左手で摘み上げ室内の照明に透かしながら感光具合を確かめ、
「まぁ、 こんなカンジかの?」
と背後の美女に手渡した。
「!!」
見開かれる美女の瞳。
ずっとずっと追い続けてきた、 因縁の敵。
ソレが、 はっきりと写真の中にいた。
淡い照明の降り注ぐどこかの建物の中、
ガラス工芸らしいアンティークに囲まれた空間の中心に。
己のイメージをそのまま紙に投射した
マルコシアスの自在法とは明らかに次元が違う、
はっきりと、
しかも 「背景」 までもが鮮明に写っているため、
ソコから位置を特定するコトも可能の筈だ。
右下に他人のコートの裾らしきモノが映っているが
別に気にもならない。
「ノリアキ!!」
鬼気迫る勢いで向き直る美女の視線を真正面から受け止め
花京院もその写真を覗き込む。
「ふむ、 流石ですね。 “アノ男” の時とは違い、 キレイな映り方だ。
でも、 まだ 『現像』 は終わってはいないようです」
そう花京院に促され視線を戻す美女。
(!?)
写真の右斜めの位置に、 ボンヤリとやがて鮮明に 「象」 を結ぶモノがあった。
不定型なジグソーパズルのピースを一定の間隔を置いて設置したかのような、
簡易の “街路図” のようなモノがソコに追記されている。
「
「言うまでもなく、 この街の 『地図』 です。
この×印の部分に、 目当ての人物がいるというコトでしょうね。
微細な振動を繰り返していますが、
ソレはこの建物の内部を移動しているというコトで、
外には出ていないのでしょう」
「――ッ!」
もうコレ以上ないというくらい正確無比な情報に、
マージョリーは歓喜でそのルージュの引かれた口唇を軋ませた。
「今度こそもう逃がさない!! 行くわよ!! ノリアキッッ!!」
言うが速いか美女は抱えたブックホルダーを肩にかけ直しドアへ向けて駆け出す。
「解りました。 急ぎましょう、 ミス・マージョリー」
それとほぼ同時に花京院も彼女の後を追っていた。
「あ、 おい」
そう言うジョセフを後目に、
「助かった! 礼を言うわッ! ジジイ!!」
「ありがとうございましたッ! ジョースターさん!!」
ドア前で一度振り返り、 忙しなく礼ともつかない言葉を残して
若い二人は脱兎の如く部屋を飛び出していった。
(ジジイ……?)
美女が初めて自分に言った言葉と普段とは様子の違う美男子に、
一人部屋に残されたジョセフはポカンとなる。
そして。
「ふむ……ワシも
と一人呟き、 ぬるくなったコーヒーを口に運んだ。
←To Be Continued……
『後書き』
はいどうもこんにちは。
なんか正式に仲間になったら、
マージョリーはジョセフの事を“ボス”とか呼びそうですね。
言われた本人は戸惑うでしょうが。
何のかんのいって『3部』の“リーダー格”は
やはり彼だというコトでしょう。
戦闘力はやや落ちますが、
【前部の主人公】があまりしゃしゃり出ないで、
でもストーリーの大事な部分は『支え』になっている。
この【バランス感覚】は流石荒木先生、と云った処です。
何より『スタンド使い』と“フレイムヘイズ”なんて、
ジョセフじゃないと『まとめられない』でしょう。
そういった意味でもやはり彼は、
【ジョジョの主人公】だったというワケですね。