STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『DARK BLUE MOONⅦ ~You're not here~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 花京院とマージョリーがジョセフの部屋を訪れた折りより、

時刻は数時間前に戻る。

 待ち合わせの場所に目当ての人物がいない事から、

携帯電話(スマート・フォン)で彼に連絡を取り謎の女にけんもほろろに遮断された

空条 承太郎は(どうでもいいが本当に 『着信拒否』 にされていた)

完全に手持ち無沙汰となっていた。

 特にアテがあるわけでもなく銜え煙草のまま香港の街を練り歩く。

 花京院のコトが気にならないと言えば嘘になるが

別段 『スタンド使い』 に襲われたわけでもなさそうだし、

(もしそうならば相手はケータイには出ないだろう)

人の良さそうな顔をしているから強引な女に無理矢理誘われ

断り切れなかったのかもしれない(逆ナンとかいうヤツだろうか?)

 まぁ自分のケータイに連絡が来ない以上それほど大事とは想えないし、

いよいよとなれば最悪逃げる位のコトは出来るだろう。

 なんだかんだでアイツの判断力は信用しているし、

今は休暇なのだから別段神経質になる必要もないと想えた。

 近代的な構造をした街並みに、海から吹き付ける風が緩やかに舞い踊る。

 その中をマキシコートのような学生服の裾を靡かせながら

悠然とした歩調で歩く無頼の貴公子。

 20分ほど無作為に歩き、やがて彼の脚を止めさせたのは街の一角、

正面に大海原を望むコトの出来る近未来的な造りの建物だった。

 

「……」

 

 視界の開ける舗装されたアスファルトの先、

ガラスカーテン・ウォールのウェーブが輝く大型美術館。

 アプローチを進んだ先、丹念に整備された芝生と白い噴水があり

エントランス前に館のシンボルなのか見上げるように巨大な

()()()()彫像が聳えている。

 正面に設置された大理石のプレートは広東語なので解らなかったが、

その上に記載された刻字から 『DRAGON’S DREAM』

と読みとるコトが出来た。

 どうも最近竣工されたらしいこの美術館は、

内部が全層吹き抜けの半屋外空間(アトリウム)になっており

上層部に側面がガラス張りとなったブリッジが絡み合うように数本渡してある。

 ソレが天空で覇権を争う龍をイメージしているのか

建築には詳しくないのでよく解らないが、

取りあえずの暇潰しには打って付けの場所に想えた。

 

(ほう)

 

 エントランスを抜けロビーのアトリウムを見上げた承太郎は、

まずその内部構造の見事さにそう漏らす。

 階下への採光効率ギリギリの太さを持つアーチは、 その上半分がガラス張り。

 一階おき、 四十五度ずつズラして架けられた上三層のアーチと、

その上に張られた強化ガラスの大天蓋が最下層部から一目で見渡せる。

 更に立体に交叉するアーチの構造美と、 柔らかく降り注ぐ陽光の自然美が

それぞれ過不足なく空間の中に調和していた。

 ただしエントランス正面に設置された、

創設者らしい男のやけに悪趣味な銅像が玉に致命傷だったが。

 ロビーに設置された販売機でチケットを購入し、

その中ほどにあったインフォメーションで承太郎は展示物を確認する。

 どうやら今展覧されているモノは、

世界各国から古今より厳選した 「硝 子 工 芸(グラス・アート)」 らしかった。

 都合が良い。

 昔から透明感のある色はスベテ好きだったし、

平日の美術館という雰囲気も嫌いじゃない。

 そういえば、幼い頃は母の手に引かれて

よくこういった場所を訪れていた記憶がある。

 眼前に延びるアーチの先、展示台に置かれた種々折々のグラスアートが

陽光の中で様々な色彩に煌めいていた。

 承太郎はそれら崇高な芸術品を、 己のライトグリーンの瞳で(つぶさ) にみつめていく。

 スタンドや己の血統とは関係ない、 今は年相応の一人の青年に戻って。

 その先に待つ、 ()()()()()()()()との邂逅など、 予想だにしえないまま。

 

 

 

 

 

【2】

 

 

 気がつくと、 美術館の第三層にまで自分は昇っていた。

 美術に対してそれほど深い造詣が在るわけではないが、

基本同じ材質のガラスが透き通った円柱や絡み合う蔦を模した緑のレリーフ、

空間を掴むように曲げられた手など全く違った形に変えられ

それらを眺めているうち密かに、 己の心中で共鳴するモノが在った。

 おそらくは造型の技術ではなく、 その奥に秘められたモノに。

 芸術(アート)とは、 端的に言ってしまえば人間の 『精神』 の表れ、

つまりはその 【具現化】 だ。

 故にソレが己の裡に宿るスタンドと、 否応なく共通する部分が在るというコトを

感じた所為かもしれない。

 時計を見ると、 もうこの館内に入ってから3時間が経過していた。

 おそらく出館する頃には、 日も完全に落ちているだろう。

 時間も忘れるほど美術品に見入っていたという事か。

 久しぶりに、 一人になった。

 今までは頼みもしないのに、 いつも 「オマケ」 が横についていた。

 

【挿絵表示】

 

 

(……)

 

 そう言えば、 本当に一人になったのは久しぶりだ。

 家にいても、 外に出ても、 気づけばいつも傍にあの少女がいた。

 買ってきた本を読む時、 借りてきたDVDを観る時、 暇潰しにPCを動かしている時、

いつもいつも当たり前のように彼女はいた。

 一度気まぐれにバイクで遠出しようとした時など、

動き出したリアシートに彼女が飛び乗ってきたコトも在ったくらいだ。

 それらを不快に想ったコトは、 多分なかったように想える。

 それくらい当たり前の事象として、 日常の風景として、

彼女は自分の生活に溶け込んでいた。

 

(……)

 

 だからなんだというんだ。

 承太郎は学帽の鍔で目元を覆う。

 少女とは、 シャナとは、 たまたま偶発的な事象が折り重なって、

それで行動を共にしているだけだ。

 DIOという、 共通の敵を討ち斃すために。

 彼女は使命として。 自分は宿命として。

 ただ、 ソレだけのコト。

 そう想い包帯の巻かれた、 己の左手を見る。

 だから、今は互いに協力関係にあるのだから、

こんな傷如きで 『あんな表情』 を浮かべる必要はない筈だ。

 誰が悪いわけでもない、 同じ目的の元に行動する者ならば当然のコトなのだから。

 

(!)

 

 承太郎はソコで、 己の瞳を見開いた。

 

(オレは今、 何を考えていた?)

 

 らしくない事を考えたと、 無頼の青年は己の側頭を掌底で何度か叩く。  

 その時。

 

(……!)

 

 いつのまにか、 視界の裡にぼんやりと浮かぶ小さな灯火が在った。

 温和そうな老婦人の胸の部分、 その中心で今にも消えそうに儚く揺らめく存在の光。

 異次元世界の怪物に喰われた人間の成れの果て、“トーチ”

 意図せずに瞳が尖っていたので、 視えていたのだろう。

 出逢って間もない頃、 シャナに拠って施された視操系 “自在法”

 一度発動してしまえば半永久的に効果が持続するのか、

今では眼を凝らすだけでトーチで在る人間とそうでない者を識別するコトが出来る。

 老婦人の脇には、 夫らしき長年の男性がいた。

 もうその記憶も、 感情すらも何もない筈だが

その男性は大切そうに彼女の肩を抱き、

老婦人の方も幸福そうな笑みを浮かべ前に飾られた

蒼く透き通る大杯に目を向けている。

 

「……」

 

 いずれは、 消え去る存在。

 やがては、 忘却され逝く生命(いのち)

 ソレは何も、 この女性に限ったコトではないのかもしれない。

 しかし。 

 ソレでもこの二人には、 きっと良い “想い出” が在ったのだろう。

 死が二人を割かったとしても、 ずっと傍にいるという 『絆』 が。

 視るべきではないと判断した無頼の貴公子は、

静かにその二人から視線を逸らした。

 明日か明後日か、 そう遠くない未来にあの女性は消える。

 それでも、 二人に遺された僅かな時間は、

この世界で二人だけのものの筈だった。

 死すべき、 否、 既に死した存在だからこそ、 せめて最後は安らかに。 

 そう想い承太郎が二人に背を向けて立ち去ろうとする刹那、

そのタイミングがゼロコンマ一秒でも遅れていれば、

後の 『運命』 は大きく形を変えたモノとなっていたのかもしれない。

 しかし、 端から定められていたかの如く、

或いは最初からそう決まっていたかの如く、

その存在は彼の目の前に姿を現した。

 

「……ッ!?」

 

 トーチで在る老婦人の背後から、 音も無く歩み寄る一つの影。

 事実を知らない者からするならば、 ソレは周囲に無数いる見物客の一人に過ぎない。

 しかしスーツ姿のその男が老婦人にそっと手を伸ばし、

それが触れるか触れないかの間に、 彼女の存在は消え去っていた。

 何の痕跡も、 余韻すらも遺さず、 老婦人の胸元で揺らめいていた光のみが、

男の手の中に握られていた。

 彼女の脇にいた男性は、 自分が何故こんな位置に手をあげているのかと

不思議そうな表情でその場を去る。

 後には、 老婦人の存在の灯火を手にしたスーツ姿の男だけがそこに残った。

 

「――ッッ!!」

 

 全身の血が煮え滾るほどの怒りが、 承太郎の裡で激しく渦巻いた。

 総身から放つ威圧感(プレッシャー)のみで、

周囲の壮麗なるグラスアートが片っ端から砕け散ってしまうかのように。

 口元を軋らせ足下に敷かれた絨毯を踏み躙るようにして近づく

その尋常ならざる気配に、 男の方も気づいたのかトーチを手にしたまま振り返る。

 クラシックスーツを纏った、 針のような痩身。

 左手に鈍い光沢の在るステッキを持ち黒い天然素材の帽子を被っている。

 厳かな気品に充ち充ちたその姿は、 さながら老紳士といった佇まいだが

今の承太郎にそんなコトは目に入らない。

 老齢にしては長身であるその男を見下ろすようにして

承太郎はその老紳士、 否、 “紅世の徒” に向けて口を開いた。

 

「テメェ……ッ!」

 

 そのたったの一言だけで、 即座に足下へ跪き訳も分からず命乞いをしかねない恫喝。

 しかしその老紳士は落ち着いた表情のまま、 趣のある枯れた声で告げる。

 

「ほう、“視える” のか? ただ者ではないな」

 

「やかましいッ! とっとと表でろ! クソジジイッッ!!」

 

 穏やかなクラシックの流れる閑静な空間に、無頼の貴公子の怒号が響き渡った。

 周囲の人間が何事かという視線を己を見るが、 無論そんな事は気にならない。

 

「ふむ、なるほど、“ミステス” ……()()()()()()()……

しかし、 出来るかな?」

 

「ッ!」

 

 少しだけ険難な色を帯び、 自分に告げられた老人の言葉。 

 当然ソレを宣戦布告と判断した承太郎は、 来るべき 『能力』 の発動に身構える。

 戦闘の主 導 権(イニシアティヴ)を一時相手に与えるコトになるが、

そんなものは発する光に眼をやられなければどうというコトはない。

 

(来や……がれ……ッ!)

 

 すぐさまにでもスタンド、 『星 の 白 金(スター・プラチナ)』 を発現出来る

精神態勢を整え、 承太郎は目の前のまるで霧のような存在感の徒を睨め付ける。

 しかし。

 彼の全身で研ぎ澄まされる闘志とソレに附随して湧きあがる

スタンドパワーとは裏腹に、 目の前の徒は()()()()()()()

 虚を突かれたように顔を引く美貌の青年に対し、

静かに告げられる老紳士の言葉。

 

「仮に私が “封絶” をこの場で発動させた所で、 結果は同じではないかな?」

 

「!!」

 

 その言葉に、 承太郎はあまりにも初歩的な、 そして致命的なミスに気がついた。

“シャナがいない”

 そう、 仮に目の前の徒が封絶を発動させ外界に影響を及ぼさない

因果孤立空間を創り出したとしても、

その空間を 『修復』 する能力は自分にはない。

 戦闘となれば相手もただではやられないだろう、

故に幾らこの徒を斃したとしても、 それでは何の意味もない。

 

「テメェ……! 小賢しい真似を……!」

 

「だが有効だ。 コレで君は、 私に手が出せない」

 

 口中で歯を軋らせる無頼の貴公子とは対照的に、 穏和な表情で彼と対峙する老紳士。

 確かに、 その通り。

 コレでは周囲の人間全員を 『人質』 に取られたも同然だ。

 あのやかましいクソガキがいないだけで、

こうも簡単に自分が追いつめられるとは。

 完全に手詰まりとなり、 承太郎は冷たい汗に塗れた拳を握る。

 このままでは、 捕らえられるも殺されるもこの男の意のままだ。

 

( “スター・フィンガー” で、 一瞬の内に首でも斬り飛ばすしかねぇ……ッ!

だが、 果たしてソレで死ぬか……!? 

イヤ、 それ以前に命中()たるのか……!?)

 

 瀬戸際の緊張感の中、 承太郎は己の思考回路をフル稼働させ打開策を模索する。

 しかし眼前の老紳士はあくまで穏和な表情のまま

承太郎のライトグリーンの瞳をみつめ、

そして予想外のコトを口走った。

 

「フム。 少し悪ふざけが過ぎた、 か。

そう構えるな。 私は君と争う気はない」

 

(!?)

 

 交戦の意志はないというコトを証明するように、

尖った容貌が笑みの形に折り曲がる。

 

「それより、 ミステスとは言ったが、 ()()()()()()()()()()()()()?」

 

 そう言って老紳士は興味深そうに承太郎を観察する。

 訝しげに眼を細める承太郎に、 老紳士は更に予想外のコトを告げた。

 

「どうだ? 茶でも飲まないか? 君に色々と聞きたい事がある」

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

 

 

 

『後書き』

 

【挿絵表示】

 

まぁ、「遊び」です。

3部じゃなくて「6部」になっちゃいましたが……('A`)

まぁ「学ラン」も結構似合いますね、彼女……('A`)

 

 

 

 

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