STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『DARK BLUE MOONⅨ ~Flaming Tusk Act・2~ 』

 

 

 

【1】

 

 

「……」

 

「……」

 

 群青の火片を戦風に振り捲く封絶を背景に、

二人のフレイムヘイズが真正面から対峙する。

 音も無く屋上に舞い降りたセーラー服姿の美少女と、

その中心で傲然と屹立していたタイトスーツ姿の美女。

 両者は互いの表情や佇まいから発せられるほんの僅かな気配から、

相手の胸裡を推察する為全身の神経を研ぎ澄ませる。

 やがて沈黙するフレイムヘイズを余所に、

契約者の王が口を開いた。

 

「久しいな……“蹂躙の爪牙”

其の者が音に聴いた貴様のフレイムヘイズ、

“弔詞の詠み手” か……」

 

「ヒャーーーーーーッハッハッハッハッハァ!!!!!!

相変わらず(カビ)クセェ喋り方だなぁ!?

えぇ!? アラストール!!」

 

 質問には答えず、 相手の荘厳な口吻とは正反対の物言いで

マルコシアスは狂声をあげた。

 

「ンでそのチッコイのが今のテメーのフレイムヘイズ、

“二代目・炎髪灼眼の討ち手” かッ!

()()()較べて、 随分小さくまとまっちまったなァ!?

ギャーーーーーーハッハッハッハッハッハァ!!!!!!」

 

「何ィ!」

 

 あからさまな挑発に、 シャナが敏感に反応する。

 

「よせ。 相手に呑まれるな」

 

 普段よりもかなり感情的になっている少女を、 アラストールは厳格に諫めた。

 

「アラストール、 一体何なの? こいつら……」

 

 口中をキツク食いしばり幾分目つきの鋭くなった少女は、 胸元のペンダントに訊く。

 

「……うむ。 出来れば、 極力邂逅するのは避けたかった者達ではあるな。

論難しようとも話が噛み合わぬ……」 

 

 滅多に嫌悪というモノを感じるコトはなく、

そしてソレを表情に出すコトもないアラストールの語気が少々揺れている。

 敵で在る紅世の徒ではなく、 味方で在るフレイムヘイズに対して。

 

「フン、 勝手に人をつけ回しておいて、 随分な言い様ね?

用がないのならさっさと帰ったら? 私もそうそう暇じゃないしね」

 

 そこで初めてマージョリーが、 栗色の髪をかき上げながら興味なさげに言う。

 異世界 “紅世” に一際威名を轟かせる “天壌の劫火” に対しても、

全く気後れするコトはなく。

 その美女に、 アラストールは脇に抱えられた王よりも話が通じると解したのか

落ち着いた口調で問う。

 

「“弔詞の詠み手”マージョリー・ドー。 一つだけ答えよ。

貴様がこの地にいるというコトは、

当然紅世の徒の討滅を目的としてのことであろうが、

一体()を追ってきたのだ? 

我等は貴様よりも早くこの地に渡り来た故、

その存在に気づかぬコトは在り得ぬのだが」

 

 アラストールのその問いに対し、

美女は妖艶な瞳で神器コキュートスを一瞥した後

深いルージュの引かれた口を開く。

 

「フッ、 まぁわざわざ答える義理もないんだけど、

ここは “天壌の劫火” の顔を立ててあげましょうか。

“屍拾い” のラミーは知ってるわよね?

あのクソヤローがこの地に逃げ込んでるっていう情報を私のルートで仕入れたのよ。

そしてようやくその正確な居場所までも探り当てた。

その折角の獲物を、 これから狩り殺そうって時に邪魔されちゃたまらないから

封絶張って待ち受けたってワケ。 まさか相手が “同属” とは想わなかったけど」

 

「まぁ、 そーいうこった。

残念だがヤツに眼ェつけたのはこっちが先なんでな。

手は出させねーぜ、 天壌の」

 

 意気がピッタリ合った両者の言葉に、 アラストールは静かに息を呑む。

 

「……ラミー、 だと? 莫迦な、 何故其の者を討滅する必要が在る?

彼奴(きやつ)はその 「真名」 が示す通り人を喰わぬ。

そして世界の存在に極力影響を与えぬようトーチに乗り移って行動をしている

無害な “徒” だ。 討滅等すれば寧ろ無用な犠牲と混乱が」

 

()()……ですって?」

 

 アラストールの真摯な謹言は静かな、

しかしこの世の何よりも冷たい美女の声によって遮られた。

 ソレと同時に、 美女の全身から群青の火の粉が吹雪のように立ち昇って

その長身の躰を包む。

 そし、 て。

 

「“紅世の徒” に!! 無害な存在なんているわけがないでしょうッッ!!」

 

 突如その美貌を兇悪に歪ませ、 手負いの獣のようにマージョリーは吼えた。

 

「今はたまたまヤツの気紛れで、 生きた人間に干渉してないってだけでしょうが!!

この先いつ溜め込んだ存在の力を暴発させて、

どんな災厄を引き起こすかわかったもんじゃない!!

“なってからじゃ” ()()()()()()()()()()ッッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 

 深い、 哀しみ。

 心を(こわ)し、 魂までも砕きかねないほどの絶望。

 ソレに堪えられぬが故、 否、 堪えるが為に狂おしく燃え盛る憎悪の炎。

 そのドス黒い火勢をそのまま吐き出すかのように美女は叫ぶ。

 

「“徒” はスベテ殺す!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!

殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くすしかないッッ!!

一匹残らず例外なくッ! どいつもこいつも 『有罪』 よッッ!!」

 

 己も、 紅世の王をその身に宿すフレイムヘイズ。

 明らかに矛盾したコトを口走りながらも、

美女の憎悪の叫びには有無を言わさぬ暴威が在った。

 周囲に存在するスベテを、 自分すらも焼き尽くして尚足らないという狂気と共に。

 全身が煮え滾る程の慷慨の中、 胸元で光るロザリオがやけに冷たく感じられた。

 

「……蹂躙、 貴様は、 一体何をしていた?」

 

 マージョリーの、 その余りにも逸脱した紅世の徒に対する憎悪に

幾分()されながらも、 アラストールは被契約者に是非を問う。

 

「ここまでの “憎悪の化身” となるまでに、 己がフレイムヘイズを堕とすとは。

なんとか止められなかったのか?」

 

「……テメーにだきゃあ言われたかねーんだよ」

 

 ソレまでの軽躁な物言いから一転、

マルコシアスは重くナニカを含んだような

険悪な声でアラストールに吐き捨てた。

 

「“紅世” がヤバくなるまで “徒” の乱獲おっぱらかしてた 「偽善者」 がよ。

封絶遣わねーで人間喰うヤツもいる。

「使命」 だの何だのとくだらねー御託並べ立ててる間に、

一体何人くたばったかテメーこそ解ってんのか? アァ?

今この間も、“紅世に影響がなけりゃあ” テメーの世界の都合の悪ィモン全部!

マージョリーみてぇな 「人間」 におっかぶせて死なせるつもりだろうがッッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 

「……ッ!」

 

 予期せぬ言葉。

 昔から、 感情に走る男では在った。

 敵であろうと味方であろうと、 気に入らない者には誰彼構わず戦いを挑み、

そして跡形もなく徹底的に叩き潰す。

 ソレ故の “蹂躙の爪牙” の真名。

 

【挿絵表示】

 

 しかし、 自分の()っていたこの男とは、 明らかに異なっていた。

 己の意のままに行動し、 他者の存在など歯牙にもかけなかった者とは。

 

「蹂躙……貴、 様……?」

 

 既視感にも似た感覚に惑いながら己をみつめるアラストールに、

マルコシアスはケッとグリモアの隙間から火吹を漏らした。 

 

「兎に角、 ラミーのヤローは何があろうとも絶対ェにブッ殺すッ!

その決定に変更はねぇ。 邪魔しようってんなら、

テメーから先に咬み千切るぜ! アラストールッ!」

 

「こいつ……!」

 

 露骨に剥き出しにされた戦意からアラストールを庇護するように、

少女は白刃を握る手に力を篭め一歩前に出る。

 余りにも一方的なマルコシアスの誹謗にも腹は立ったが、

ソレより優先すべき事項の為胸中の思考は霧散した。

 その刹那。

 

「!?」

 

 突如己の眼前に迫る群青。

 反射的に身を翻した自分のすぐ脇を蒼い炎の濁流が駆け抜けていき、

一瞬前まで自分がいた場所で、 先端が(あぎと)のように開いた炎が空間を噛み砕いていた。

 ソレが魔獣の頭部を成した焔儀(モノ)だと知ったのは遙か後。

 刻み目のような魔獣の隻眼がニヤリと自分を一瞥し、

空間を焼き焦がしながら高速で元の場所へと戻っていく。

 前方で屹立する美女の携えた巨大な 『本』 神器グリモアの中に。

 

「……ッ!」

 

 驚愕に息を呑み、背中に冷たい雫が伝うのを感じる少女に向け、

美女は無感動に告げる。

 

「よく(かわ)したわね? 最も、 コレ位余裕で躱せないようじゃ、

“天壌の劫火” の名が泣くってモノだけれど」

 

 路傍の石でも見るような冷たい視線で、

マージョリーは真紅の双眸を開いた少女を見下ろす。

 ソレは、 他の紅世の徒を見下ろす視線と全く同じ。

 胸の鼓動がうるさい位にシャナの裡で高鳴った。

 得体の知れない恐怖が、己の心を蝕んだ。

 

(……)

 

 余裕なんかじゃ、 なかった。

 紙一重だった。

 今日に至るまでの、 幾度にも及ぶ戦闘訓練の中アイツの、

星 の 白 金(スター・プラチナ)』 のスピードに眼が慣れきっていなければ、

いまので確実に終わっていた。

 

(……ッッ!!) 

 

 その事実を認識すると同時に、 少女の全身を途轍もない憤激が駆け巡った。

 まるで、 己の血がマグマのような高熱を宿し逆流でもしたかのように。

 もし今の自在法が直撃していたら、

重傷を負った自分の所為で全員がここに足止めされるコトになった。

 もし今ので 『再起不能』 にでもされていたら、 スベテが終わっていた。

 こんな、 何もかも中途半端な状態のまま、 自分で何の答えも出せていないまま。

 永遠にアイツの傍から引き離されていた――。

 

「のォ……!」

 

 その花片(はなびら)のような口唇を血が滲むほど強く噛み締め、

泰然とした状態を崩さない美女を貫くように睨んだシャナは、

 

「こォ、 のおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

ぉぉぉぉ―――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!」

 

自身が炎の塊と化したかのような凄まじい咆吼と共に、

眼前の一人のフレイムヘイズへと挑み懸かった。

 

 

 

 

 

【2】

 

 

 燃え盛る怒りと共に足裏を爆散させ、 弾け飛ぶコンクリートの飛沫よりも疾く、

シャナは既に刺突へ構えた “贄殿遮那” でマージョリーに猛進していた。

 その戦慄の美を流す大太刀の切っ先が、

瞬く間もなく美女の潤沢に脹りあがった左胸を深々と刺し貫く。

 

「……」 

 

 一時の感情の爆発で己が同属を屠った少女の瞳には、

微塵の躊躇も後悔もそして罪悪感すらも感じられない。

 その真紅の瞳の裡には、 得体の知れない “漆黒の意志” が宿り先刻とは一転、

全身の血が凍り付いたような冷たい感覚が少女の存在を充たしていた。

 自分がここまで冷徹に、 残酷になれるモノかと一抹の駭然と共に愛刀を見つめる

少女の視線の先で、 美女がその両眼を見開いたまま貫かれた左胸を凝視していた。

 しか、 し。

 

「……ッ!」

 

 急所を貫かれ絶命した筈の美女はグラスの奥で一度挑発的にシャナに微笑むと、

霧が陽光の中へ溶け込むようにその躰の稜線と空間の境界を無くし消えていく。

 

(“陽炎(かげろう)!?” )

 

 以前アラストールが遣ったモノを感覚的に覚えていた少女は咄嗟に背後へ振り向く。

 その視線の遙か先、 肩口にブックホルダーを下げた無傷の美女が同じ挑発的な微笑を

口元に刻んでこちらを見据えていた。 

 

「まったく、 こうも簡単に引っかかると、 騙し甲斐ってものがないわね」

 

 そう言って件の如く、 大仰な手つきで背後の栗色の髪をかきあげる。

 

「くっ……!」

 

 即座に追撃に移ろうと、 少女が再び足裏へ炎気を集めようとした瞬間。

 

(!?)

 

 美女の足下で群青の光が放射状に弾け、

ソコから多量の不可思議な紋章と紋字が

具現化した音響のようにコンクリートの石面を滑ってきた。

 やがて、 規定された位置でそれぞれ正確半径3メートルの円周(サークル)

組んだその紋章群は、 一度強く発光した後内部から巨大な火柱を噴き

ソコから在るモノを現世に 『召喚』 する。

 石の焦げる匂いと灼けた空間が生み出す水蒸気と共に現れたモノ。

 ソレは、 群青の炎で形創られた異形の獣。

 (ヒグマ) を横に圧し拡げたような、

大形な体躯にダラリと垂れ下がった長い腕、

刻み目のような両眼に鋸のような牙。

 総数十二体の巨大な獣の群が、

口元に狂暴な、 或いは嘲弄するような笑みを浮かべて

少女の前に立ちふさがった。

 

「……ッ!」

 

 紅世の徒複数に囲まれた時より、 余程生きた心地がしない焦燥に

少女が息を呑むと同時に胸元のアラストールが告げる。

 

「むう…… “蹂躙の爪牙” が存在の証 憑(しょうひょう)。 炎獣 『トーガ』 か。

しかしコレだけの数を一度に召喚するとは、 戦闘に長けた恐るべき 『自在師(じざいし)

気を引き締めてかかれ。 間違っても “燐子” 等と同一には考えるな」

 

 過剰な挑発を受けたとはいえ感情のままに戦いに挑んでしまったコトを、

アラストールは咎めずいつも通りに接してくれている。

 その敬愛する己が王に一度深く頷いたシャナは、

炎獣の群より遙か後方に位置する美女に向き直る。

 

「おまえも……“ゾディアック” の遣い手……!」

 

 心中の動揺を気取られぬよう握った刀身を前へと突き出し、

可能な限り平静を装って少女は問う。

 

「フッ……宝具や神器に頼り切ってる、 ソコらの三下と一緒にするんじゃないわよ。

己に宿る王の威力(チカラ)を自在に引き出すコトが出来なくて、

一体何の “フレイムヘイズ” なの?」

 

 美女はその不敵な笑みを崩さずに応じる。

【|紅 堂 伽 藍 拾 弐 魔 殿 極 絶 無 限 神 苑 熾 祇《ゾディアック・アビスティア・アヴソリュート・エクストリーム》】

 かつて幾多の紅世の王とフレイムヘイズにより、

幾千もの淘汰と研磨の果てに創り出された

フレイムヘイズ専用、 究極の戦闘焔術自在法大系。

 しかしその修得が至難なコトと遍く宝具の蔓延によって、

実際に 『遣える者』 は思いのほか少ない。

 アノ “狩人” フリアグネですら、

宝具や燐子を “触媒” として焔儀を繰り出していたのにも関わらず、

目の前の美女は己の能力(チカラ)のみで自在法を行使している。

 余計な策や小細工を一切使わない、 否、 必要としない純粋なフレイムヘイズ、

ソレが自在師 “弔詞の詠み手” マージョリー・ドー。

 

(“蓮華(れんか)” じゃ駄目だ。

アノ大きさじゃ当たっても針が刺すようなもの。

なら……!)

 

 焦って挑み懸かっても勝機はない。

 まずは目の前の炎獣(トーガ)を各個撃破し確実に数を減らすコトを選択した

少女が繰り出す(ワザ)は、 炎気を刀身に込めカマイタチ状に射出する斬撃術

“贄殿遮那・炎 妙(えんみょう)ノ太刀”

 

「りゃああああああああああぁぁぁぁぁ―――――――――!!!!!」

 

 渾身の叫びと同時に大刀から飛び出した紅蓮の闘刃が、

コンクリートに火走りを残しながら炎獣の群へと襲い掛かる。

 前方に位置する二体の脇を擦り抜け、

他のモノと姿が被っていない中間の一体に狙いに定めた炎の刃。

 ソレはそのトーガが前に伸ばした長い腕で真正面から受け止められ、

両手を半分以上斬り込みながらもそこで前突の動きを停止する。

 そして掴んだ闘刃をゆっくりと見据えた群青の獣は、

 

「――ッ!」

 

意外。 その鋸のような牙を剥き出しにする口を大きく開き、

刃の表面に喰らいついた。

 数回の咬撃で跡形もなくシャナの撃ち放った紅蓮の闘刃を咀嚼したトーガは、

そのまま体表を何度か点滅させて一回り大きくなる。

 

「な……ッ!」

 

 驚愕に言葉を漏らす少女に、 遠間に位置する美女が説明する。

 

「言い忘れたけど。 私の可愛いこの子達は、 ()()()()()()特殊な能力(チカラ)が在るの。

それに喰ったら喰った分だけより強力に 『成長』 するから、 半端な攻撃は逆効果よ。

「ごちそうさま」 も言えないくらい強烈なヤツで一気に消し飛ばさないと。

最終的には私にも手が負えなくなるわ」

 

 己の焔儀を完全に識る者は、 その 「弱点」 までも正確に知り尽くしている。

 故にソレを逆手に取り、 駆け引きの材料にも用いる。

 己に降りかかるリスクを怖れず相手を討ち滅ぼすコトのみに特化された、

自虐的とも言える自在法を行使するマージョリーに、 シャナは嫌悪にも似た寒気を覚えた。 

 

「さぁ~て、 今度はこっちからいかせてもらいましょうか。

おまえ達、 遊んであげなさいッ!」

 

 美女がそう言って手にしたグリモアを前に差し出すと同時に、

開いたページの古代文字が蒼く発光し、 ソレを合図とするように炎獣の群が一斉に、

屍肉へ飛びつく餓鬼のように襲い掛かってきた。

 

(速い……ッ!)

 

星 の 白 金(スター・プラチナ)』 には及ばないが、 しかし相手は一体ではない。

 しかもビルの屋上という限定された空間の為、 地の利は最悪と言えた。

 即座に()びてきた二本の巨大な腕をシャナは身を低く、 前のめりに躱す。

 頭上を通り過ぎる巨大な腕の先端で突き立つ鋭利な爪が黒衣の裾を切り裂く。

 まるで花京院の操る幽波紋(スタンド)だが、

スピードはソレよりも速く破壊力は比較にならない程強い。

 しかし少女がその事実を認識する間もなく、 攻撃を潜り抜けた先、

既に5体の炎獣(トーガ)がその巨腕を振りあげ、

それぞれ違う方向から爪撃を繰り出していた。

 

(前のは囮!? “統率” が執れてるッ!)

 

「だぁッッ!!」

 

 想うのと駆け声をあげたのはほぼ同時。

 足下を踏み割り上空へと飛んだ少女の足跡に群青の爪撃が殺到し、

階下に突き抜ける程の陥没痕を開ける。

 間一髪空中へと逃れた少女だったが、 ソコでも一呼吸する程の暇すら与えられない。

 先刻己の放った斬撃を吸収した一匹が、 頬まで裂けた口を開き逸らした(おとがい)

をこちらに向けていた。

 

「ヴァハァァァァ――――――――――――ッッッッ!!!!」

 

 危局に口元を軋らせた少女に襲いかかる、 群青の激浪。

 羽根の生えた鳥でもない限り、 一度飛び上がった物体は重力の魔に縛られ

そのままの軌道で落ちるしかない。 つまり少女はこの激浪を避けられない。

 だが、 意外。

 窮地に於ける一瞬の閃きか、 少女は己の愛刀を背面に据えるとその腹を足場に、

集めた炎気を(しのぎ) 部分で爆散させた。

 慣性の法則を無視し、 直線軌道を斜角軌道へと強引に切り換えたシャナは

そのまま獲物を狩る鷹のように高速で急降下する。

 

「でやああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――!!!!!!!」

 

 そしてその勢いを一切殺さず、 背面の膂力も合わせ後方で己を見る

トーガを一閃の元に斬り捨てる。

 裂空刹刃(れっくうせつじん)天翔(てんしょう)閃舞(せんぶ)

『贄殿遮那・炎牙ノ太刀・犀咬(サイク)

遣い手-空条 シャナ

破壊力-A スピード-A+ 射程距離-B(最大半径25メートル)

持続力-E 精密動作性-A 成長性-B

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 片膝立ち大刀を袈裟に振り抜いた体勢で着地した少女の背後で、

斜めに両断された炎獣(トーガ)の上半身が滑り落ち

その巨大な体躯が跡形もなく霧散する。

 触れたスベテの自在法を無に還す、

紅世の宝具 “贄殿遮那” の特殊能力。

その練度と効果範囲は剣撃の威力に比例して増大する。

 退路を断たれた危難が、 偶発的に生み出した新手。

 自身も想いもよらぬ速度で疾走(はし)った一閃に少女は身を震わせる。

 

「ふぅん。 なかなか……」

 

「ヤるもんだな。小娘にしちゃあよ」

 

 トーガを一体消滅させられたが、

遠間で傍観者に徹するマージョリーとマルコシアスは

余裕盤石の表情でそう呟いた。

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

『後書き』

 

 はいどうもこんにちは。

 マルコシアスの『挿絵』は創ってて楽しかったですね、

ワタシと気性が似てる所為かも知れませんが……('A`)

 アラストールの象徴が『翼』なら、

じゃあ彼はやはり『牙(武器)』だろうと云う事で

このような表現となりました。

 多分“どんな武器でも具現化出来る能力”

とか持ってるんでしょう、作中には出てこないネタですが

荒木先生は常にキャラクターの『履歴書』を作っているので

ソレに沿った形です。

(吉良 吉影は幼い時に母親から虐待を受けていた、

承太郎が最初牢屋にいたのは「自殺」するためetc)

ソレでは(≧▽≦)ノシ

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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