STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『DARK BLUE MOONⅫ ~If Only You…~ 』

 

 

 

【1】

 

 

 燃え盛る蒼炎の波濤。

 

「……」

 

 その青年の背後で、 放心するように佇んでいたシャナの躰を支える力が抜け、

剥き出しの両膝がコンクリートの上につく。

 先刻まで心中で何よりも烈しく燃え盛っていた戦意は

存在すらしなかったように沈静し、 

代わりにきつく胸を締め付けるような感情が己の裡を充たしていった。

 嬉しさ、 悔しさ、 切なさ、 哀しさ、 愛しさ。

 そのスベテが感情の奔流となって少女の全身を駆け巡る。

 

(頼りたく……なかった……だから電話にも……出なかった……

何かがあればきっと……助けてくれるから……

いつでも……どんなときでも……必ず傍に来てくれるから……)

 

 でもそれじゃ、 何も変わらない。

 他の人間と何も、 変わりはしない。

 ソレとは違う眼で、 自分を見て欲しかった。

でもソレ以上に、 もう自分の為に傷ついて欲しくなかった。

 

(おまえが傷つくと……辛いの……おまえが血を流すと……苦しいの……

自分が……殴られたり蹴られたりするよりずっと……ずっと……!)

 

 そう言って見上げる、 彼の姿。

 大きく、 広く、 そして寂しい背中。

 感謝など、 求めない。

 何の利害も打算も、 存在しない。

 ただ、 当たり前のコトのように、 他者の為に平気で己の身を危険に晒す。

 無尽の荊にまみれた 『苦難の道』 を歩み続ける。

 ソレが余計に、 少女の心を締めつけるとは知らず。

 

(ごめん、 ね……何も、出来なくて……)

 

 潤んだ瞳と共に紡ぎ出された、 少女の言葉。

 ソレが伝わったのか否か、 周囲の空間全域に響き渡るスター・プラチナの咆吼。

 

 

 

 

 

「オッッッッッッッラアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ

ァァァァァ―――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 ただ護るだけではない、 白金の防御膜を構成すると同時に

スタンドの両腕にパワーを集束させていた承太郎は、

そのリミットの針が限界点に触れた瞬間、

押し固めていた腕部を音速で振り解き発生した衝撃波と共に溜め込んだ

スタンドパワーを解放し、 屋上全域に渦巻く群青の狂濤をスベテ吹き飛ばした。

 

 

 

 

 ヴァオンンンンンンンンンンンンッッッッッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 空間を拉ぐような衝撃音と共に、 高速発生した莫大な量の気流が

周囲ビル群の強化ガラスを亀裂と共にビリビリと揺らしたのは()()()

「炎」 と 「風」 という “属性” の「相性」を利用したとはいえ、

ともあれ承太郎とスタープラチナは現代最強のフレイムヘイズが放った

凄絶焔儀を完全に撃ち破った。 

 降り注ぐ余波の為、 屋上の至る処で延焼する群青の残り火。

 十字受けの構えのまま屹立するスタープラチナと、

その全身から焼煙を上げ佇む承太郎。

 限界を超えるスタンドパワーを、 精神の力で無理矢理引き絞った為か

その口唇からは荒い吐息が断続的に漏れている。

 

(逃がした、 か……)

 

 誰もいない開けた視界。

 そして。

 

(無事……か……)

 

 背後のソレを認識した刹那、 突如承太郎の膝の力が抜ける。

 傍に立つスタープラチナも、 ソレと同時に掻き消えた。

 

「う……ぉ……」

 

 自分でも意外だったのか少し驚いた表情でコンクリートの上に片膝をついた

無頼の貴公子は、 その後興味なさげに自分の制服を抓む。

 

「やれやれ、 しこたまブチ込んでくれやがって。 大事な制服が焼け焦げちまったぜ……」

 

 そう言って学ランの内側から煙草のパッケージを取りだし、

一本引き抜いて口に銜えようとするが、 痙攣する指先では叶わず地面に落ちる。

 それを面倒そうに拾って銜え直すと、

近くで燃えていた炎に先端を翳して火を点け細く紫煙を吹き出しながら、

そこで初めて彼は少女の方へと向き直った。

 自分以上にズタボロの、 惨憺足る有様で両膝をついている少女に。

 

「よう……らしくねーんじゃねぇのか? 昨日といい今日といいよ」

 

「……」

 

 誰に言うでもなく、 空を仰ぐようにして紡いだ彼の言葉に

俯く少女の反応はない。

 まぁ予想通りの反 応(リアクション) だと鼻を鳴らした承太郎は、

銜え煙草のまま焼け付く躯をおもむろに引き起こす。

 そして。

 

「後は、 任せても構わねーか? アラストール」

 

 件の剣呑な瞳で少女の胸元にそう問う。

 

「うむ。 しかし、 貴様の治療は良いのか?」

 

 過程はどうあれ結果的には少女の絶体絶命の窮地を救った男に、

特別待遇の自在法を施そうと定めていた深遠なる紅世の王はそう問い返す。

 

「オレなんかより、 すぐにでも治さなきゃならねーのがいるだろ。

オレァジジイのヤツにでも頼むさ。 その前に行かなきゃならねー所もあるしよ」

 

「むう? そう言えば貴様、 一体どのようにして 『この場』 を()った?

トーチを視るコトは出来ても、

封絶や紅世の徒の存在を感知する能力(チカラ)は、 貴様には無い筈」

 

「後で話すさ。 色々と入り組んでるンでな。

じゃ、 後は頼んだぜ、 炎の魔神サンよ」

 

 戦いが終わった以上、 もう自分に出来るコトは此処にない。

 何より 「敵」 がもうラミーの元へと向かった可能性が有る。

 なので端的にそう告げ、 襟元の鎖を揺らしながら承太郎は

先刻スタンドでブチ抜いた出口へと足を向ける。

 

「じゃあ、 な」

 

 そう言って、 少女の(かたわら) を通り過ぎようとした刹那。

 

「ッッ!?」

 

 気流に靡く長い学ランの裾が凄まじい力で引っ掴まれ、

先刻受けたダメージの所為かバランスを大きく崩した無頼の貴公子は、

そのまま落下するリンゴのように後頭部をコンクリートに強打した。

 鋼鉄のクラッカーが真後ろから高速でブツかったような激痛に、

さしもの承太郎からも呻き声が漏れる。

 

「……ぐ……ぉぉ……! テメー、 いきなり何しやが」

 

「うるさいうるさいうるさい!! 行くなバカッッ!!」

 

 石造りの地面に仰向けの状態で、 ぼやける視界一面に映ったモノは、

その紅い瞳に涙を浮かべた少女の顔。

 その瞳に映った感情に、 他の何よりも強いその気持ちに、 戸惑いは隠せない。

 

「痛く……ないわけない……」

 

(?)

 

 やがて、 呻くように少女の口唇から漏れた言葉。

 

「大したコトないなんて……在るわけない……ッ!」

 

(!)

 

 そう言って少女は、 自分の包帯が巻かれた左手を取り、 制服の(そで)を捲り上げる。

 剥き出しになった、 己の左前腕。

 ソコはスタンドが受けたダメージと同様、

炎傷でケロイド状に焼け爛れ部分部分が高熱を持ち、

痛みで満足に動かすコトも叶わない程だった。

 

「こんなにズタボロのくせにッ! 何が舐めときゃ治るよ!!

デタラメなコト言わないでよ!! 大体こんな(からだ)で一体どこ行く気よ!!

だったら私と一緒にいてよッッ!!」

 

【挿絵表示】

 

 

 論理も道理もそして前後の繋がりもないまま、

少女はただ感情のままに言葉を吐きだし続ける。

 ソレに比例して疵痕に落ちる、 透明で温かな雫。

 

(やれやれ……()()()()()()か……)

 

 心中でそう呟き、 無頼の貴公子は仰向けに寝っ転がったまま学帽の鍔を抓む。

 どうやら、 上で己を組み如く少女は、

果てしなく不器用でブッきらぼうながらも

自分のコトを 『気遣って』 くれているようだ。

 昨日の気が抜けたような戦い振りも、 今朝の不自然な態度も、

スベテは “コレ” が原因だったらしい。

 

(もしかして、 “オレの所為” か? そうかもな……)

 

 少女を庇って傷を負ったコトに、 微塵の後悔もない。 間違っていたとも想わない。

しかし、 ()()()()()彼女の気持ちを、

もう少し()んでやるべきだったのかもしれない。

 気丈で、 とことん自分の気持ちに素直じゃないが、

その心の裡は他の誰よりも温かく、

そして優しい心を持った少女だというコトは、

もうとっくの昔に()っていた筈だから。

 

(……)

 

 こーゆー時、 どんな事を言えば良いのか解らない。

 一体どうすれば、 目の前で泣く少女の涙を止めてやれるのか?

 己に流れる血統も、 背後のスタンドも、 何も教えてはくれない。

 だから承太郎は、 自分の一番正直な気持ちを口にする事にした。

 何の偽りもない、 自分だけの、 少女に対する気持ち。

 そして定められた運命で在るかの如く、

肌と肌が触れる程の近距離で交錯する、

淡いライトグリーンの瞳と深い真紅の灼眼。 

 ソレと同時に口唇へ刻まれる高潔な微笑と共に、

透き通った表情でシャナへと伝えられる言葉。

 

「何度も言っただろ? 大したコトねーよ。 この程度」

 

 そう言って少女の前に、 剥き出しの左腕を翳してみせる。

 

(そんな……!)

 

 解ってくれないの? と少女がその紅い双眸をより潤ませるより速く、

再び承太郎の口唇が動く。

 

「 “オメーの代わりと想えば、 大したこたァねー” 」

 

「――ッッ!!」

 

 瞬間。

 脳裡を、 否、 己の存在全体を充たす、 緩やかで温かな光。

 言葉等ではとても表現出来ない、 余りにも激しく強烈な感情に、 息が、 出来ない。

 でも、 不思議と全然不快じゃない。

胸の中が無くなってしまうかのように

狂おしく締め付けられてはいるけど。

 その眼前で、 自分の一番好きな微笑を浮かべて瞳を見つめている青年。

 やっぱり、 この人は、 ホリィの息子なんだ。

 どれだけ悪ぶっていても、 この世の誰よりも温かく優しい精神(こころ)を持っている。

 そして、 少女が思考出来るのは、 ソコまで。

 次の瞬間、 シャナの意志は、 霧散した。

 継いで躰はまるでミエナイ引力に惹かれるが如く、 眼前の存在へと降りていく。

 抵抗出来ない、 拒否する気も微塵もない。

今在る感情のスベテを、 ただ在るがままに受け止めたかった。

 その結果どうなろうと、 もうどうでも良かった。

 星形の痣が刻まれた細い首筋に、 そっと絡められる少女の腕。

 素肌に感じる、 小さな吐息。

 

「……ッ!」

 

 嫌ではないが、 若干困ったような表情で少女の抱擁を受け止める承太郎。

 

(どうしてオメーはこう、 いっつも、 “いきなり” なんだ……)

 

 己を包み込む、 火の匂いと種々の花々が入り交じった芳香。

 頭の中が気怠く痺れ、 心の表面をそっと撫ぜるような甘い感覚に、

何故か気が遠くなりかける。

 

(なんかした方が、 良いのか?)

 

 蒼く染まる天を仰ぎ、 誰に言うでもなく心中で呟いたその言葉に、

無論応える者は誰もいない。

 なので仕方なしに、 己に覆い被さる少女の頭に右手を向け、

しかし想い直してその小さな肩にそっと置く。

 

「もっと……強く……」

 

 その瞬間、 待ち焦がれていたかのように、

少女の消え去るように澄んだ声がピアスで彩られた耳元に届いた。

 戦いで傷ついた躰にそれ以上力を込めるのは気が引けたが、

彼女がそう望むのなら、 仕方無しに承太郎は背を抱えた右手に力を込める。

 少女の肩口に刻まれた炎架の紋章と、

青年の襟元から下がった黄金の長鎖が互いに折り重なった。

 

「もっと……もっと強く……!」

 

(おいおい、 もう随分力入れてるぜ。 アラストール潰れンぞ)

 

 少女の可憐な、 更なる要請に無頼の貴公子は自棄(ヤケ)になったように応じる。

 

「ッ!」

 

 開いた制服の、 極薄のインナー越しに、 破れたセーラー服から露出した

少女の素肌が感じられた。

 そしてその傍に刻まれた、 戦いの疵痕も。

 

「……」

 

 自分と同じ、 傷を持つ者。

 少女への謝罪代わりにコトへ応じていると想っていた自分だったが、

どうもそうではないらしい。

 よく解らないが、 おそらくソレとは違う、 もっと別のナニカだ。

 それは一体何だと考えようとして、 承太郎は止めた。

 胸元から伝わってくる、 少女の鼓動、 そして体温。

 散々なメに在ったようだが、 この少女は生きている。

 今はただ、 その無事を喜んでやるのが、 何よりも大事なコトに想えた。

 やがて、 少女の躰が惜しむようにそっと離れ、 真紅の双眸が真っ直ぐ己を見つめる。

 

「ッ!」

 

 その表情の変化を、 承太郎は見逃さなかった。

 

(コイツ、 ()()()()だったか?)

 

 外貌が美しいとかそういう次元ではなく、

まるで心の中の不純物がスベテ流れ去ったかのような、

澄み切った表情。

 初めて視る筈なのに、 以前から知っていたような既視感。

 ソレが己の 『分身』 を視るような感覚だったコトに、

この時彼はまだ気づいていない。

 困惑する彼を余所に、 少女の口唇が静かに開く。

 己の裡で生まれた新たな誓いを、 そして祈りを、 そっと分け与えるかのように。

 

【挿絵表示】

 

 

「もっと、 強くなる。 おまえを護れる位、 大切な誰かを護れる位、 強く」

 

「……」

 

 静かに告げられた少女の決意を、 承太郎はただ黙って受け止める。

 そして。

 

「ま、 がんばんな……」

 

 件の剣呑な瞳でその長い炎髪を撫でるように、 そっと彼女の頭に手を置く。

 

「やれやれ、 よね」

 

 そう言って微笑むシャナの顔は、 封絶に降り注ぐ斜陽の所為か、

今まで見たどの表情よりも眩しく輝いて見えた。

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

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