STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】   作:沙波羅 或珂

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『DARK BLUE MOONⅩⅢ ~In My Dream~ 』

 

【1】

 

 

「消え、た……!?」

 

 大形な龍を模したオブジェが見下ろす美術館前で

花京院と合流したマージョリーは、

告げられた報告に困惑の表情を隠さず問い返す。

 館内はもう閉館時間のため至る所の照明が落とされている。

 前衛的なデザインの街灯が淡く照らすエントランスで、

暗闇と静寂の中を流れる夜風がそっと互いの髪を揺らした。

 

「ええ、 突然 “写真の中の” 姿も地図の印も」

 

 そう言って花京院は、 ジョセフの 『念写』 した写真を美女に手渡す。

 

「……」

 

 その中に確かに映っていた筈の忌むべき徒も、

右斜め位置に記載されていた地図も

ミエナイピンセットで取り去ったかのように、

今はきれいさっぱり掻き消えていた。

 

「オメーが探してる間に、 どっかから逃げちまったんじゃねーのか?」

 

「在り得ません。 ボクのスタンド 『法 皇 の 緑(ハイエロファント・グリーン)』を美術館内に潜行させ、

地下やスタッフルームに至るまで隈無く徹底的に探し尽くしました。

ソレに前以て細く延ばしたハイエロファントの触手を “結界” にして、

この敷地内に張り巡らせて於いたので件の人物が掛かれば認識出来た筈です」

 

 他に一つ、 妙に気にかかったコトと言えばスタッフルームのソファーの上で、

薄紫色の髪を携えた幻想的な雰囲気の美少女が仔猫のように眠っていたコトだが、

まぁコレは関係ないだろう。

 

「もう、 この街からは、 逃げてしまったんでしょうか……」

 

 無言の美女に対し遺憾な表情で、 花京院は呟く。

 もしそうだとするなら、 完全に自分のミスだ。

 万全の態勢で監視を行っていたとは言え、

相手が自分の想像だにし得ない『能力』 を遣って

逃走を試みた可能性は否定出来ない。

ソレならばその責任は自分に在ると翡翠の美男子が歯噛みする中、

 

「ま、 ソレは無いわね」

 

写真を胸ポケットにしまった眼前の美女が、

端然と両腕を腰の位置で組みながら告げた。

 

「“結界” なら、 ()()()()()()()()()()()()()()()

此処に来てすぐ、 この街半径数キロ以内をグルリと取り囲むようにね。

まぁ、 簡単な封絶の応用ってトコ。

ソレには “ヤツ(ラミー)の存在にのみに反応する” 特殊な自在法が編み込んである。

他の徒は素通り出来るが故にその効力は絶大よ。

だからヤツがこの私に気づかれず 「領域」 を突破するコトはまず不可能。

間違いなく、 ヤツはまだこの街のどこかにいるわ」

 

 流石に同じ 「標的」 をずっと追跡してきた歴戦の巧者。

 その事前事後への 「対策」 は万全のようだ。

 

「そうですか。 では、 次はどうします?」

 

 マージョリーがそう言うのなら、 その事柄に異論の無い花京院は再び問い返す。

 

「アンタ、 見掛けによらずタフねぇ」

 

【挿絵表示】

 

 

 中性的な外見とは裏腹に、 大の男でも音を上げるような 『仕事』 を

尚も精力的に続行しようとする美男子に、 美女はグラスの奥を丸くする。

 そし、 て。

 

「今日は立て続けに、 二度も戦ったから流石に少し疲れたわ。

完璧を期す為に、 続きはまた明日にしましょう」

 

「そうですか」

 

 翡翠の美男子は、 別段拍子抜けした様子もなくそう告げる。

 

「もう随分、 暗くなってしまいましたしね。

今日のホテルは、 もうどこかに決まっているのですか?

良ろしかったらそこまでお送りしますが」

 

 何気のない、 しかし男であるなら当然の花京院の申し出に

マージョリーは今日何度目か解らなくなった紅潮を覚える。

 

「ま、 まだ、 ね。 ま、 適当に見つけるわ」

 

「そうですか。 では、 明日の待ち合わせ場所はアノ海岸沿いで良いでしょうか?

もっと別の場所が良いというのならそれに従いますが」

 

「そ、 そうね、 良いんじゃないかしら。 それで」

 

 まるで己の秘書であるかのように、

てきぱきとした花京院の受け答えとは裏腹に、

マージョリーはただ応じているだけなのにしどろもどろとなる。

 

「では、 ソコに明日の9時と言うコトで。 お疲れさまでした。

ミス・マージョリー。 今日はよく休んでくださいね。 さようなら」

 

 そう言って自分を労う爽やかな笑顔の後、

深く一礼して背を向ける翡翠の美男子。

 

「……」 

 

 そして夜の闇の中、 徐々に遠くなっていく、 その後ろ姿。

 今日は、 コレで終わり。

 そう、 おわり。

 オワリ。

 

 

 

 

“また、 あした”

 

 

 

 

(――ッ!)

 

 突如心の裡で噴き出した、 激しい情動。

 その 「理由」 を認識するより速く、 マージョリーは声を発していた。

 

「ま、 まちなさいッ! ノリアキ!」

 

(?)

 

 想いの外大きくなってしまった呼び止めに、

花京院は静かに振り返り自分の傍へと駆け寄る。 

 

「どうかなさいましたか? ミス・マージョリー」

 

「べ、 別に、 どうってコトも、 ない、 けど、 けど」

 

 再び眼前に現れた、 夜の中より色濃く映る琥珀色の瞳から

逃れるようにしながら、 マージョリーは妙に高い声を絞り出す。

 

「き、 今日は、 アンタ、 も、 よ、 良く、 頑張った、 から。

だから、 だから、 食事、 くらい、 御馳走、 して、 あげるわ」

 

「はぁ……」

 

 相変わらず脈絡のない美女の申し出に、

花京院はキョトンとした表情で応じる。

 

「さ、 さぁ、 行くわよ、 ノリアキ。 急がないと、 混んじゃうから」

 

 そう言って花京院の腕を強く掴み、

マージョリーはネオンとイリュミネーションで

華麗に彩られる夜の街へと彼を連れ出す。

 白く粧われた頬を微かに染めて

花京院の腕を引くマージョリーの顔は、

実際の年齢以上にあどけなく視えた。

 

 

 

 

 

 

【2】

 

 

「“屍拾い” ラミーに会っただと?」

 

「おう。 たまたま入った美術館の中で、 偶然な」

 

 シャナとアラストール(主に後者)が協力して周辺区域の修復を行い、

戦闘で灼け破れた互いの制服も肉体のダメージも自在法で治した為、

承太郎とシャナは今( 一応) 異国の学生同士として周囲の眼には映っている。

 最も両者の疵痕は、 治すというより 「埋める」 に近かった為

完治というにはほど遠いが取りあえず街並みを移動しつつ

情報交換をする位には回復出来ていた。

 

「それで、 貴様が彼奴(きやつ)を追う “戦闘狂” の討伐役を買って出たわけか」

 

 その荘厳なる口調に裏打ちされた深い洞察力で、

アラストールは告げられた事実と前後の状況から

背後の因果関係を明察する。

 

「ンな御大層なもんじゃあねぇよ。 ただの成り行きさ」

 

 承太郎はそう言って視線を遠くに向ける。

 何故か無性に煙草が欲しくなったが今は我慢した。

 

「ふむ。 しかし結果的には彼奴に借りを作った形になる。

いずれ返礼をせねばならぬな」

 

「そーしてやれよ。 大事な知り合いなんだろ」

 

「……」

 

 承太郎の言葉には応じず、 代わりにアラストールは先刻の強敵、

“蹂躙の爪牙” マルコシアスと “弔詞の詠み手” マージョリー・ドー

についての詳細を彼に述べた。

 

「……想像以上にヤベェ連中みてぇだな。 目的の為には手段を選ばねぇ。

DIOのヤローと繋がってねぇのが、 せめてもの救いか……」

 

「だが、 楽観は出来ぬと考えた方が良い。

彼の者 『幽血の統世王』 の配下には、

既に承知の通りかなりの数の紅世の徒が集結しつつある。

彼奴らにとっては正に垂涎を欠く事の無き蝟 集(いしゅう)

この先、 その存在を放置するとは到底想えぬ」

 

「“裏切る為に” 配下に降って、

その間に他の人間も襲い出す可能性があるってコトか。

肉の芽で下僕にされるにしろ、 他の 『スタンド使い』 と組むにしろ、

確かにぞっとしねぇな」

 

「だからそうなる前に徹底的に叩き潰す!

向こう100年はもう、 二度私達に楯突こうなんて想わない位

完膚無きまでに!!」

 

 唐突に背後から、 スタンドよりも近い場所であがる少女の声。

 青年が美貌を向けたその超至近距離に、 シャナの可憐な風貌があった。

 

「ンなカッコで言っても、 いまいち締まらねー台詞だがな」

 

「うるさいうるさいうるさい。 黙って歩く」

 

 先刻、 修復を終えて元通りになった廃ビルの屋上から立ち去ろうとした時、

少女が自分に向けた言葉はただ一言、 「疲れた」

 躰の傷が痛むのか、 ならもう少し休んでいくかという自分の問いに

彼女は駄々をこねるように同様の台詞を語気を強めて何度も言い放つのみ。

 その後ワケの解らぬ数回の問答を経て、 結局現在のような形に落ち着いた。

 己の背にシャナをおぶって、 宿泊先のホテルにまで帰るというモノである。

 海岸沿いの、 繁華街からはやや逸れた道だが

それでも人通りはそれなりに有り只でさえ目立つ二人は

周囲の注目を一身に浴びるコトとなる。

 好奇の視線と無分別な言葉、 その意味が解らないのがせめてもの救いだった。

 

「……」

 

 背から感じる、 少女の鼓動と体温。

 長い髪がサラサラと首筋にかかるのが妙にこそばゆい。

 自分でもらしくないコトをしているとは想ったが

でも疲れたというのならソレは本当だろうし

何より肝心な時にはいてやれなかった自分だから、

コレ位のワガママを聞いてやるのは別段苦ではなかった。

 それに、 不調なら不調なりに、 この少女はよく頑張ったと想うし、

今までこうして誰かに “甘える” コトなど一度もなかったのかもしれない。

 なら、 甘えるだけ甘えれば良い。

 背や胸くらいなら、 貸してやれる。

 

「あ、 あの、 もしかして、 重い、 かな? 私」

 

 己を背負ったまま無言で歩を進める承太郎に憂慮したのか、

シャナが気を揉んだような口調で問いかける。

 

「……」

 

 何を言うかと想えば、 こんな小さな躰の一体どこに

身の丈に匹敵する大太刀を縦横無尽に(ふる)う力が在るのかと承太郎は返す。

 

「軽過ぎるくれーさ。 もっときっちりメシ喰わねーと、

いつまで経ってもデカくなんねーぞ」

 

「う、 うるさいうるさい。 ヴィルヘルミナみたいなコト言うな」

 

 目の前にある承太郎の帽子をポカスカやりながら、

シャナはその白い頬を真っ赤にして言った。

 

「前にオメーが言ってた、 スッゲー強ぇっていうあのメイドサンか?

今どこにいるか解らねーんだったよな?」

 

「うん……」

 

 シャナは手を止め、 再び承太郎の肩に顔を置く。

 大海に沈んだ 『天道宮』 で、 不器用に生真面目に、

そして深情に自分に接してくれた、 一人の優艶なフレイムヘイズ。

 逢いたい。

 ただ純粋に、 そう想った。

 こんな気持ちで逢うコトは、 向こうは望まない筈だけど。

 でも、 逢いたい。

 最初にする事は、 一番始めに伝える事は、 もう、 決まっているから。

 

【挿絵表示】

 

 

「逢えるさ」

 

「!!」

 

 その自分の心中を見透かしたように、 承太郎がそう言った。

 

「生きてりゃあ、 いつかきっと。

オメーにとって大事な相手なら、

向こうにとってもそうだろうからな」

 

「う、 うん!」

 

 何の確信も根拠もない言葉だけど、 承太郎がそう言うのなら、 本当のように想えてくる。

 首筋に絡める腕に力を込め、 麝香の残り香が立ち昇る首筋に少女は再び顔を埋めた。

 天には、 無数の星々と眼の冴えるような満面の月。

 耳元で間断なくさざめく波の音、 潮の匂い。

 そびえ立つビル群や水面を走るクルーザーのネオンサインにライトアップされ、

たくさんの宝石を()かしたように煌めく異国の大海原。

 

(キレイ……)

 

 以前、 紅世の徒を討滅しに来た時には何も感じなかった風景を、

今はその漆黒の双眸へ鮮やかに映しながら少女は呟く。

 それと同時に。

 

「海は、 いいよな……」

 

 いつのまにか立ち止まり、 同じ方向を見ていた承太郎が独り言のように呟く。

 

「海、 好きなの? おまえ」

 

 青年に背負われ、 同じ方向を見つめている少女が澄んだ声で訊く。

 

「まぁ、 な。 この、 どこまでも続いてるンじゃあねぇかっていう海原を見てると、

『運命』 だの 『宿命』 だのと考えるのが、

何だか取るに足らないちっぽけなモンに想えるようでよ……」

 

「……」

 

 潮風と波音に委ねるように一度その瞳を閉じた青年は、

やがて独白のように純然たる意志を込めて告げる。

 

「いつか、 この大海原を、 自由に駆けてみたい。

誰に邪魔されるコトもなく、 自分の想うがまま、 その遙か彼方まで――」

 

「承太郎……」

 

「 『海洋冒険家』 ってヤツか。 ソレに、 なってみたい。

きっとこの世界には、 オレの想像もつかねぇような物凄ェモンが、

まだまだ眠っている筈だから」

 

「それが、 おまえの 『夢』 ……?」

 

「あぁ」

 

 緩やかな表情でそう問うシャナに、 承太郎も同じような口調で返す。

 そして、 波間にたゆたうしばしの沈黙の後。

 

「……不思議だな」

 

「え?」

 

「こんなことを話したのは、 おまえが初めてだぜ……」

 

(――ッッ!!)

 

 月明かりに照らされながら、 そう言って淡い微笑を浮かべる青年の風貌は、

美しく気高く、 そして何よりも絶対的な存在として少女の瞳に映った。

 

【挿絵表示】

 

 

←To Be Continued……

 

 

 

 

 

 

『後書き』

 

はいどうもこんにちは。

今回は承太郎が『エグイ』ですね。

彼にあんなコト云われて堕ちない女はいないでしょう。

(ましてや「原作」の【残】イヤこれは止めておこう……('A`))

ともあれ、【空条 承太郎】みたいなキャラがいないのが

「ライトノベル」の弱点だと想いますね。

コレは純粋にそう想います……('A`)

 

 

PS

明日は「お休み」戴きます。

『他にも』色々とヤるコトがあるので。

多分これからは、『一週間に一回』くらいの

休載ペースになると想います。

まぁワ〇ピースよりは少ないと云う事で……('A`)ノシ

 

 

 

 

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