STARDUST∮FLAMEHAZE 【完全版】 作:沙波羅 或珂
【1】
瀟洒なホテルの一室に漏れる、 麗らかな陽光と爽涼な海風。
ソレをその至高の芸術品のような美貌に感じながら、
無頼の貴公子は黎明の浅い眠りに微睡んでいた。
口から漏れる、 微かな吐息。
凄艶なる男の色気を、 ゾッとする程に感じさせるその姿態。
躯から仄かに立ち上る、 力強くもしなやかな
その彼の脳裡に、 いつもと明らかに違う異質な
(生……?)
脳がまだ未覚醒状態の、 意識に靄が揺蕩う状態では在るが
それでも明確に感じる、 確かな熱。
(生、 なま、 ナマ暖ったけぇモンが、 腕ン中、 に……
何だ? こりゃ? 妙に、 フニャフニャして、 柔らけぇ……)
手と腕と首筋と胸と、 いちいち数えるのが煩わしいと想える程
その不可思議な感覚は甘美で抗い難い。
本能的に、 そのまま己の躯を包む甘い匂いに抱かれながら
心地よい微睡みの中にいつまでも浸っていたいという誘惑に駆られる。
(マジで……何、 だ……コレ……コ、 レ……?)
だがしかし、 ソレとは対極に位置する意志が、 即座に脳髄を直撃した。
(まさかッ! 新手の 『スタンド攻撃』 かッ!?)
認識した刹那、 彼は無理矢理意識を覚醒させその怜悧な両眼を見開く。
『スタンド』 は、 人間の 「精神」 を原動力として発動する超常の 『能力』
ならば 『夢の中に現れる』 或いは 『死の幻惑へと誘う』
スタンド能力が在ったとしても不思議はない。
冷静に考えれば至極当然なコト、
自分の祖先の肉体を奪って現代に甦った
卑劣なる “アノ男” が、 相手の寝込みを
白いシーツの上に
即座に臨戦態勢を整え己の超至近距離で感じる気配に承太郎が向き直った刹那。
ソコに在ったのは、 殺戮の
……ではなく、 無垢な表情で安らかな眠りにつく天使の姿。
「……」
その天使、 否、 シャナが布地の薄い清楚な下着のみという
限りなく無防備に近い状態で自分の寝間着の胸元をしっかと掴み、
寄り添うような状態で静かな寝息を立てていた。
普段の凛々しい風貌など視る陰も無い、 純然極まりないソノ
全身に感じる大きな安息に包まれ、 淡く揺れる眠気。
そのスタンドが一巡の世界を通り越して逆から戻ってきたような、
まだ幻覚から醒めたら己の肉体が溶かされていたという現実の方が
納得いくという光景に、 さしもの無頼の貴公子も茫然自失となる。
そし、 て。
( 『
勇壮な声で反射的にそう念じ、 空間を歪めるような音と共に
彼のスタンドがその雄々しい黒髪を揺らして出現する。
(ヤれッッ!!)
現れる前から既に下していた 「命令」 を厳正に執行するように、
彼は己の守護者へと呼び掛ける。
本来の自分の使命とは矛盾する行為だが、
主の命令には逆らえずその勇猛なる拳士のスタンド、
スタープラチナは殴った己の方が痛いといった
悲壮な表情で拳を撃ち出す。
(オッッッッッッラアアアアアアアアアァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!)
キツク硬められたスタンドの右拳が、 歯を食い縛って心を決める
承太郎の額に高速で撃ち込まれる。
ドグォッ! という想わず眼も耳も背けたくなるような衝撃音が、
瀟洒な室内に響き渡った。
「……死ぬほど、 痛ェ……
どうやら…… “夢” じゃあねぇようだな……」
額から、 静かに滴る鮮血。
夢なら夢でソレはまた大問題なのだが。
せめてもの救いはテーブル上のグラスと煙草、
カードキー等で 「自分の部屋」 だとは確認出来るコト。
そんな彼の困惑など平行世界の出来事で在るかのように、
少女は一人傍らで幸福そうな寝息を立て続けていた。
「……で? 一体ェどーゆーコトだ? アラストール」
胸元を掴む手を苦労して外し、 シルクの掛け布団を(スタープラチナが)
少女に掛け直した後、 ベッドの縁に腰を下ろした承太郎は
一日の一番始めなのにもうどっと疲れたような口調で
炎の魔神へと問い
「……」
「オメーが寝てるワケねーだろーが。 小細工すんな」
己の当然の問いに無言で返す紅世の王を難じ、
承太郎は殊更にキツイ視線を少女の胸元へ送る。
まぁ同じ “男” として説明し難い事象ではあるだろうが、
してもらわないコトには
「……咄嗟の事態だったため、 我も
気がつけばもう夜笠を纏い、 露台 (ベランダ) 沿いにこの部屋へと飛び移っていたのでな。
貴様と出逢って以来、 この子にはあらゆる意味で驚かされるばかりよ」
背後で響く(妙に不機嫌そうな)荘厳な男の声に、
無頼の貴公子は耳を傾ける。
何気なく向けた視線の先、 無造作に脱ぎ捨てられた黒衣が
クルミ材の床に転がっていた。
「貴様の部屋の窓が開いていなければ、 この子も想い止まったのであろうがな」
(……なるほど、 ね)
鋭い視線のまま、 無頼の貴公子は開け放しておいたバルコニーを見る。
機械の造り出す空調よりも自然が生み出す風の方が好きなので開けて於いたのだが、
まさかソコから侵入する者がいるとは誤算だった。
というか、 第一ここは地上十二階だ。
「……」
何だってこんな真似を、 と承太郎は考えようとして止める。
何だか、 思考すればするほどドツボに嵌っていくような気がしたし、
『そうした』 少女にも明確な理由が在るかどうかは甚だ疑問だ。
加えてソレを深く追求するコトが、
どう考えても良い結果に繋がっていくとは想えない。
なのでこの一件は 「流して」 しまうのが得策だと判断した承太郎は、
淡い嘆息と共にベッドから腰を浮かせる。
「朝っぱらから頭が痛ぇ。 眠気覚ましにシャワーでも浴びてくンぜ。
“ソイツ” が起きても騒がねーようにしとけ」
「むう……」
深遠なる紅世の王に対し有無を云わさぬ口調でそう命じた承太郎は、
不承不承の面持ち(?)で応じるアラストールの声を聞きながら
バスルームの扉を開く。
しばしの沈黙の後、 聴こえてくる静かな水音の許、
少女は小さく寝返りを打ちながら天使の囁きのように誰かの名前を呟いた。
【2】
「ン……ンンぅ……」
件の、 未曾有なる
その事象を引き起こした張本人で在りながら
ソレとは全く無関係と云った清澄な表情で眠りから覚めた少女は、
部屋に降り注ぐ陽光と早朝の空気の中、
躰を
その小さな耳元に青天の霹靂の如く伝わる、 聞き慣れた青年の声。
「ようやくお目覚めか? お姫サマ……」
(!!)
手入れの行き届いた清潔なベッドの上から咄嗟に視線を向けた先、
絶対にそこにいない筈の人物が革張りのソファーの上で長い脚を組み、
学生服姿のクールな佇まいで目覚めの一服を燻らせていた。
「ふぇ? 承……太郎……? あれ、 え?
なん、 で? 私、 わた、 し、 あ……ッ!」
気怠い眠気が残らず消し飛び刹那に覚醒した少女は、
昨夜自分があやふやな意識と勢いのままに行ってしまったコトを
いま明確に認識し、 その事態の大きさに慄然となった。
そし、 て。
(……だ、 だって、 だって、 全然、 眠れなかったから。
だから、 安心できる人の傍なら、 ちゃんと眠れると想ったから。
だって、 体調を万全に保つのも使命の一つだし、
またアノ女と戦わなきゃいけないし、
それにこんなコト、 承太郎じゃないとできな)
ほんの僅か数秒の合間に、 言い訳とも釈明ともつかない言葉の羅列を
一息もつかず次々と心中で溢れさせる少女。
だが実際に口頭でなければその意味をなさず、
しかしそんなコトは口が裂けても言えないという心情の許
シャナは完全にしどろもどろとなる。
そんな狼狽と錯綜の渦中にある彼女へ届く、 天啓のような一言。
「 “寝惚ける” のも、 大概にしとけよ。
次は 「墜ちて」 も知らねーぞ」
「ふぇッ!?」
身を護るようにシルクのシーツを胸元に手繰り寄せていたシャナは、
承太郎の想定外の言葉に頓狂な声をあげる。
「夢ン中で、 グゼノトモガラとヤり合ってて、
更にはDIOのヤローまで出てきやがったからエスカレートして、
そのままオレの部屋まで飛んで来ちまった、
そう剣呑な流し目で胸元のペンダントを見る承太郎に対し、
「うむ。 昨日の戦いはこれまでに類を視ぬ程壮絶だった故、
シャナも疲れが溜まっていたのだろう。 気を遣わせたな? 空条 承太郎」
まるで予め打ち合わせていたように、 アラストールが淀みなく答える。
「別に構わねーよ。 だだっ広ぇ部屋だから客が一人二人増えよーがよ。
それに良いコトじゃあねーか?
オレらン中で直接DIOのヤローと戦ってんのはシャナだけだから、
そっからヤローの弱点なりなんなり掴めるかもしれねーしよ」
「うむ。 潜在の中で眠っている意識は顕在に映るモノとはまた違う心象故にな。
彼の者の存在に対し、
しかし夢境の中でも尚戦うとは、 我がフレイムヘイズながら」
「……」
二人とも、 一体何を言っているのか?
夢は確かに見ていたが、 承太郎、 アラストール両名が話しているような
凄惨なものではない(無論その詳細など決して誰にも話せないが)
ソレに自分が眠りについた場所は、
宛われた部屋ではなく紛れもなくこの……
(!!)
そこまで考えて初めてシャナは、
目の前で妙に長い論議を繰り広げる二人の意図を覚った。
しかしだからといって、 否定も肯定も出来はしない。
まるで己の言動を封じる
何れを選んだとしても自分が
なので少女は次第次第に小さくなり、
たくさんの冷や汗と共にシルクのシーツへ
紅潮した頬を押し付けるしか出来なくなる。
その様子を静かに眺めていた無頼の貴公子は、
事前にソレを予期していたように平然と告げる。
「おら、 目ェ覚めたンならとっとと飯いくぞ。
制服はスタープラチナに持ってこさせたからクローゼット開けな。
オレァ外にいるからよ」
そう言ってこの件はコレで手打ちだといわんばかりに
くるりとシャナに背を向ける。
やがて静かに閉じるドアの音を聞きながら、
「バカ……」
とシャナは、 立腹と恥ずかしさと嬉しさが当分に入り混じったような表情で、
下着姿のまま不平を零した。
【3】
「でよ、 そのチョウシノヨミテとかいう女が、 今どこにいるか解ンのか?」
「今はちょっと、 難しいわね。 多分眠ってるんじゃないかしら?
一番無防備な状態で己の気配を晒したら、
ソレだけで殺してくれって言ってるようなものだし」
「って事ァ、 そいつがラミーに向かって動き出すまで
こっちは “待ち” ってコトか。 後手に回ンのは性に合わねーがよ」
「でも、 その間に色々と対策は立てられる。
向こうも昨日の今日で再戦挑んでくるとは想ってないだろうし」
「やれやれ、 ジジイのスタンドはDIOのヤロー以外、
ったく使えるんだか使えねーんだかよく解らねー能力だぜ」
「……ジョセフは、 ゆっくり休ませてあげましょう。
顔には出してないけど、 色々と無理してると想うし」
「……まぁ、 オメーがそう言うんなら、 そーしてやっても良いけどよ……」
早朝のフロアを特徴的なデザインの学制服姿で共に歩きながら、
無頼の貴公子と清洌の美少女は昨日朝食を取ったカフェに足を踏み入れた。
前もってジョセフが予約を入れておいてくれたのか、
昨日と同じ若いウェイターが丁寧な物腰で二人を席へと案内する。
「……」
「!」
そこに、 優雅な仕草で食後の紅茶を嗜む先客の姿があった。
「やぁ」
承太郎とシャナの姿を認めると、 その声の主、花京院 典明は
衒いの無い穏やかな笑顔で手をあげる。
「おまえ、 昨日どこ行ってたのよ?」
彼の真向かいの席に座ったシャナが、
約24時間振りに姿を見せた翡翠の美男子に問い質す。
「え? あぁ、 まぁ、 ちょっと、 ね」
心なしか困ったような表情で、 彼は笑顔のまま口を籠もらせる。
いつもよりその風貌が細く見え(若干ではあるが)香水の匂いも濃いように想えた。
「享楽に
若気の至りという
自律を怠るでないぞ、 花京院」
シャナの胸元で、 美香に混じったほんの微かな酒気を感じ取ったアラストールは
威厳のある声でそう進言する。
「え、 あぁ、 そうですね、 アラストール。
久しぶりの香港の街が楽しくて、 つい」
そう穏やかに返しながら花京院は、
どことなくほっとしたような表情で彼を見る。
「まぁ、 いいけどよ。 それよりオメー今日暇か? ならちょいオレらと」
「ゴメン、 暇じゃないんだ。 ちょっと、「先約」 があって、ね」
「先約?」
承太郎とシャナが声を重ねると同時に
「まぁ、 人助けのようなもの、 かな?」
と端的に花京院は告げる。
「昨日この街でボクらと同じ旅行者の人と知り合ってね。 人捜しを手伝ってる。
色々と調査をしてその手懸かりも幾つか見つけられたから、
今日辺りにはもう探し出せると想うんだ」
隣同士の席で承太郎とシャナは無言のまま顔を見合わせる。
「……なら、 しょうがねぇか」
「お人好しも大概にしておかないと、 後で自分が損する事になるわよ。 花京院」
特に懸念を抱いた様子もなくさらりとそう告げる両者。
「それじゃ、 もう行かないと、 こっちの調査が早く終わったら後で合流するよ」
爽やかな果実の微香を残して、 中性系の美男子はエントランスの方向へと退出する。
「……」
「……」
二人の間に降りた妙な沈黙を掻き消すように、
承太郎は煙草に火を点け、 シャナはメニューを手に取って開いた。
「さて、 完全に手持ち無沙汰だな。
どうする? 飯喰ったら海岸で訓練でもするか?
フーゼツ張ってよ」
「え!?」
想わぬ承太郎の申し出に、 シャナは喫驚な声をあげる。
その拍子でグラスの水が少し零れた。
「く、 訓練って、 おまえと私、 で?」
そう言って自分を指差すシャナに、
「他に誰がいンだよ。 第一オレはその “女” の
この待ちの一手ってのも、 オメーがいなきゃあ成立しねーだろーが」
紫煙を彼女とは逆方向に細く吹きながら、 承太郎は剣呑な瞳で言う。
「……」
告げられた事は全くの正論、 しかし少女の心中ではソレとは全く別の事象が
鼓動を高鳴らせていた。
色々あって、 最近はめっきり二人だけになれる時間はなかった。
特に意識してはいなかったけれど、 失いかけて初めて解るその大切さ。
そしてソレが、 今再び当たり前のように自分の元へ戻ってきた事を深く実感した。
断る理由なんて、 何もない。
邪魔する者は、 誰もいない。
「そ、 そうね、 じゃあ、 久しぶりに」
微かに上擦った声と高揚した意識。
コイツと戦うのは、 本当に楽しい。
討滅の時とは全く違う、 全身を隈無く満たす充実感。
共に成長した事を実感出来る、 光り輝くようなその瞬間。
今まで、 自分のスベテを全力でブツけてもたじろかず、
受け止めてくれる人なんて、 一人もいなかったから。
その、 嬉々として瞳を瞬かせる少女の耳元へ届く、 予期せぬ来訪者の声。
「ここ、 よろしいかな?」
(!)
気配を微塵も感じさせぬまま、 いつのまにか己の脇にいた老紳士が
黒い天然素材の帽子を外しながら自分に会釈をしていた。
唖然とした表情でその老紳士を見据える少女とは裏腹に、
驚愕で瞳を見開く二人の男。
「ラミー……」
本来そこにいる筈のない者の名を、 承太郎が静かに呟いた。
←To Be Continued……
『後書き』
まぁ、当初“こんなシーン”入れる予定無かったんですがね、
『キャラが勝手に動く』というヤツで
またヤらかしやがりましたこの小娘が……('A`)
一応『荒木先生方式』で描いているので、
サンドマンが【敵】になったのも、
東方 憲助が『味方』になったのも
つまりはこーゆー事でしょう(LIVE感)
まぁジョジョ『原作』じゃ承太郎のこんなシーンも見られないので、
そーゆー意味では稀少だったと解釈しときます。
そうでも想わんとヤってられん……('A`)